ファミリーレストランを出て向かうは、友人の家。
道中、相談の内容を改めて整理しながら歩く。
NPCである彼等がこちらに意思を見せるなんて有り得ない。
彼等は設定され、作られた存在である訳なのだから。
運営に連絡を取るか?
いいや、何も証拠を掴めないままに言ったって、門前払いが良い所。
あんまりシツコク言って、職務妨害だなんだと警察を呼ばれたら溜まったものではない。
あーでもない、こーでもないと話をしている内に、
友人の家に付き、ナツキはPCを目の前に少しだけ背筋を伸ばす。
カタカタとIDとパスワードを入力する。
友人と頷き合いった所で、ログインボタンを押した。
キャラクター選択画面が映し出される。
愛用しているオミシズメ雪を着用した自分と同じ名前のブレイバーキャラクターにカーソルを合わせて、カチリ。
場面が変わり、画面にはPSO2のゲートエリアが映った。
ドクドクとナツキの心臓が動く。
自分の妄想かもしれない。
何も無かったら、きっと友人と一緒になって笑ってお終いだ。
ナツキはキャラクターを操作して、
ゲートエリアでよく話しかけてくるNPCに近づいた。
“「よう!」”
“「どうした?」”
NPC・・・アフィンの横を通り過ぎる。
「・・・なんだ、普通のオートワードじゃんか。」
『お・・・おお・・・。』
友人はおっかなびっくりに笑った。
何だ、そうだよな。
ナツキは笑いながら友人に顔を向けようとした瞬間だった。
“「なあ、お前の横に居るの、誰だ?」”
ナツキと、友人の笑顔が、固まる。
横に居る人?
画面を見てもナツキのキャラクターの横には誰も居ない。
『な、なあ、ユウジ。こんなセリフ、あった?』
「ねえよ、こんなホラーみたいなセリフ・・・。」
友人、ユウジとナツキは顔を合わせた後に、
引き攣った顔のまま、アフィンを見る。
いつもエリアを歩いているスピードのまま、
ナツキのキャラクターの前でピタリと彼は立ち止まった。
“「なあ、ナツキ、隣に居る男、そいつ誰だ?」”
『ひっ・・・!』
ナツキの背中にゾワリと悪寒が走る。
ほぼ無意識に、アフィンから離れて、ショップエリアに移った。
息を詰まらせながら息をするナツキの肩を掴むユウジに、
画面から目を離して、ナツキはユウジを見る。
言葉を発しようと口を開いた時、また画面から声が響いた。
“「ナツキじゃねーか!久しぶりだなあ。」”
バッと視線を変えた先には、
画面の向こうで笑顔を作ってこちらに歩いてくるNPC・・・ゼノの姿。
「イベント・・・?いや、違う・・・視点はそのままだ。」
『やっぱり、おかしいよな!?』
ユウジはナツキの肩を掴む手に力を入れる。
ナツキの言葉に返事をする事は無く、
ただジッと画面を見つめ「ナツキ、返事を、してみろ。」とだけ発した。
ユウジのその言葉に戸惑いながらもナツキは頷いてキーボードを叩く。
“『久しぶり。』”
“「なんだ、返事するなんて珍しいな。」”
ナツキが打った言葉に対して、
目の前のNPC、ゼノは嬉しそうにそう言った。
俄かに信じられない。
ユウジは小型のゲーム機を取り出し、自分もPSO2にログインした。
その間、ナツキにはゼノとの会話を指示して。
同じワールドに来たユウジは、
ショップエリアに居るナツキのキャラクターを見つけ、
パソコンの画面と小型ゲーム機の画面を見比べた。
「可笑しい・・・!俺の画面にゼノなんて居ないぞ!?」
『えっ、でも、ゲームアングルもストーリーモードと違うし・・・。』
「シオン的な感じなのか・・・?成り切りの線は消えたが・・・。」
『やめて!なんか凄いホラー!!』
ゼノとの会話所では無くなったナツキは、
キーボードから手を離して、ユウジのゲーム機を覗き込む。
ユウジの言った通り、その画面には自分のキャラクターとユウジのキャラクターしか居ない。
ドクリドクリと心臓が脈打つ。
いや、待て。まだだ。
もしかしたら、何か、イベント・・・。
そうだ、何か特別なイベントなのかもしれない。
ナツキはアフィンの事も忘れようと頭を振るう。
“「ナツキー?」”
『あ・・・。』
呼ばれて気付き、画面に視線を戻す。
ナツキの名前を呼んだ彼は、ナツキに向かって手をヒラヒラさせている。
そこでユウジは二つの違和感に気付いた。
「・・・可笑しい。やっぱり可笑しいぞ。」
『だから、可笑しいんだって!!そっちのゲーム画面には映ってないし!!』
「それもそうだが、気付いてないのか?」
ユウジのその言葉に苛立ったナツキは、声を荒げる。
しかしユウジは、画面を見たまま、震える唇を動かした。
「こいつ、このNPC、お前のキャラに向かってじゃなくて、
明らかにこっちに向かって手ェ振ってるじゃねーか・・・!
アフィンもこいつも、まるでこっちの様子が分かる様な態度だ!!」
ユウジのその言葉に、ナツキはピタリと画面を見たまま止まる。
そんなナツキにユウジは構わず続けた。
「それに、さっきから違和感を感じると思ってたら、こいつ、アフィンも、お前の名前を呼んでる。」
『、はあ?』
「可笑しいんだよ!文字でだけなら分かるが、
声に出してプレイヤーキャラクターの名前を言う何てありえねぇんだよ!」
『え、皆、僕以外のプレイヤーも呼ばれてるんじゃ・・・。』
「少なからず、俺は声に出して呼ばれた事は無い。
動画サイトで出回っている実況動画とかでもまず無い。」
今までの会話、NPCのコメントは全てフルボイスだった。
名前に至るまで、全て。
キーボードから離れたナツキの手が震えた。
通常では有り得ない現象に、恐怖がナツキを襲う。
ゼノとの会話が途切れて10分程。
画面の中のゼノは少し不機嫌そうに頭を掻いた。
“「つか、ずっと気になってたんだが。」”
無言になった部屋にゼノの声だけが響く。
自然とナツキとユウジの視線はゼノへ。
ゼノの視線もまた、ナツキのキャラクターではなく画面を隔ててこちらに向けられている。
ナツキの手のひらがジワリと汗ばむ。嫌な予感がする。
“「ナツキの隣のそいつ誰だ?」”
アフィンと同じ質問。
まるでこちらの事が見えているかの様な言葉。
整えられているゼノの顔が、暗い瞳が。
キャラクターでもなく、ユウジでもなく、ナツキをジッと見つめる。
“「それにその部屋、お前の部屋じゃないよな?」”
『・・・っ。』
ナツキは息を飲んだ。
明らかに、こちらに話しかけて来ている。
キャラクターではなく、画面越しのリアルに向かって。
“「ナツキ、もしかして」”
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!」
ゼノが言葉を発した瞬間。
ユウジが声を上げてパソコンの電源プラグを思い切り引っこ抜いた。
瞬間、画面は真っ暗になりナツキの固まった顔が鏡の様になって映る。
ドクドクと脈打つ心臓の速さに苦しくなりながら、ユウジと顔を見合わせる。
顔にびっしょりと汗を流し、電源プラグを掴んだまま固まるユウジの姿を見て、
ナツキは椅子から滑り落ちる様に床にへたり込み、その瞳を涙で潤ませた。
『なん、なんなんだよぉ・・・。』
しゃくり声を上げながら、
ナツキはユウジの服を掴んで涙をボロボロと流す。
そんなナツキに、ユウジは落ち着かせる様に背中を優しく叩く。
一定のリズムで響く優しい振動に、恐怖がだんだんと溶かされていった。
【認知された異常】
.
2話出来ました。
これ本当に完結するのかな。
とてもホラーになってますけど、違う。
なんだか予定と違う。
ちゃんとアレだから、ちゃんと会話出来るまでにはなる予定だから。