「ほら、飲めよ。」
『ありがとう・・・。』
コトリと置かれたカップの中には真っ黒な液体。
一口飲み込めば口内に苦味が広がる。
『コーヒー、苦手なんだけど。』
「砂糖とミルクもあるから使え。」
『砂糖入れたコーヒーとか甘いのか苦いのか分からない感じになって嫌だ。』
「なら飲むな。」
無言で角砂糖を6個、カップに入れてスプーンで掻き混ぜるナツキ。
あれから30分程経って、漸くナツキの涙は治まった。
目元が痛々しく赤くはなっているが、
コーヒーに文句を言えるくらい元気ならとユウジは安心した様に深い溜息を吐いた。
「結論から言うと、異常だ。」
先程のNPCとのやり取り。
まるでこちらの動きも向こう側から見えている様で不気味だった。
自由過ぎる行動にナツキのキャラクターからしか見えない彼等。
イベントも疑ったが、何より名前を声に出して呼ばれるなんて聞いた事が無い。
このままでは、ナツキに危険が及ばないとも言い難い。
正直、未知過ぎるのだ。
本来ならば、たかがゲームなのだから。と言えるが。
そうも言って居られないナニカが、このPSO2にはある様な気がしてならない。
ユウジはコーヒーを一口飲み込んで、詰まった息を鼻からゆっくりと出す。
コーヒー独特な香りに、幾分か頭が考えようと動き出す。
「俺から言えるのは、あのゲームから、手を引いた方が良いって事だけだ。」
たかがゲーム。
それでも、今目の前に居る友人を危険に晒すくらいなら。
ユウジは今になって、ナツキにこのゲームを勧めた事を後悔する。
ナツキも今さっきの出来事を思い出し、
コクリと一つ頷き、コーヒーの入ったカップに口を付ける。
『バグ・・・だったのかな。』
「さあ、でも、可笑しいのは間違いない。」
『運営に連絡するか?』
運営。
ナツキの言う通り、その方が良いだろうか。
ユウジが頷こうとナツキを見た時だった。
机に置いてあったパソコンの画面が機械音と共に突然、光を帯びる。
『パソコンの画面が付いた・・・?』
それにしても違和感を感じる。
何かが可笑しい。
ナツキが腰を上げてパソコンに近付いた時、それにユウジが気が付いた。
「ナツキ!パソコンから離れろ!!」
突然の怒声に近いユウジの声。
ビクリと肩を飛び上がらせて固まるナツキにユウジは焦った様に立ち上がった。
「そのパソコン、電源コードも何も繋がって無いんだ!!」
そうだ。
先程、ユウジが抜いていたプラグ。
あれはパソコンを使う為の電気を通す為のコード。
それが繋がっていないのにも関わらず、パソコンは起動時の音を発てて画面を淡く光らせた。
あ。
ナツキは乾いた声を一言出し、乾いた筈の汗が頬を伝った。
それに反応したかの様にパソコンの画面が目を焦がす程の光を放った。
「ナツキっっ!!!!」
ユウジの手が、ナツキの肩に触れたその瞬間。
光は部屋中を包み込み、視界を完全に遮った。
シン、と静まった部屋の中。
光が消えたのを感じ、ユウジは瞼を上げる。
視界に広がる自然の緑、緑、緑。
そして目の前には人影。
「・・・ナツキ?」
ナツキの名前を呟けば、
目の前の人影がピクリと反応を見せ、ゆっくりとユウジを振り返る。
『ユウジ・・・?』
振り返った人物の顔を見て、思考が固まった。
友人そっくりな顔だが、明らかに違う。
「ナツキのキャラクリ?」
『え、ユウジのキャラ?』
二人の声が重なり、更に目を見開く。
まさか、え、うそ?まじで?
ナツキとユウジは二人同時に周りを見渡し、再度お互いの顔を見合わせる。
周りに広がるのは見覚えのある森林。
遠くに見えるのは見覚えのある雪が積もった山。
そして。
目の前に居るお互いそっくりのキャラクタークリエイト“PSO2でのキャラクター”
「ここは惑星ナベリウスで、」
『お前はユウジで、』
「お前はナツキ?」
サアー。
二人の顔から血の気が失われる。
いや、信じたくはないが、これは確実に。
『PSO2の、世界?』
【唐突】
.
漸く始まったというか、
本当はナツキだけをと思ってたけどいつの間にかユウジもいたというか。