“ナ、ツキ?”
メールを送信してから暫く。
ナツキの耳に電子音交じりの声が届いた。
『ん、』
「ナツキ、どうした?」
『いや、ウィスパーが来た。』
相手がお目当ての人物である事を伝えると、ユウジはナツキに話して来いと合図を送る。
そんなユウジにナツキも頷いて、一呼吸置いた後にほぼ感覚でウィスパーに答えた。
聞こえているのかの確認を取ると、
相手は小さく、うん。と返事をしてくれる。
それに安堵しつつ本題に入らなければとナツキは背筋を伸ばした。
『マトイ、だよね?』
“うん、ナツキ。”
『ごめん、何て言ったら良いのか、』
助けを求めなければ・・・。
しかし、今の状況をどう説明したら良いのか分からない。
自分も理解していないのに相手にそれを伝えるなんて難し過ぎる。
ナツキがマゴマゴしていると、
ウィスパーの相手、マトイが声を潜めて言葉を発する。
“事情は、知ってるよ。”
『え、』
どういう意味なのか、
それを問おうとすると、それよりも早くマトイの声が耳に届く。
“ごめんなさい、ここだと気付かれちゃう・・・。”
“今から、そっちに行くから、どこにいるの?”
マトイのその言葉に戸惑いながらも、ナツキは場所を教える。
ウィスパーを切る時、マトイから念の為に茂みか何かに隠れる事を勧められた。
その事をユウジに伝えれば、場所を教える事に関して少し疑いを持っている様ではあったが。
現状、他に出来る事が思いつかず、マトイを信じる事で収まった。
マトイの言った通り、物陰に身を潜める。
特に原生生物やアークスが来る気配はない。
『なんでこんな事に・・・。』
「俺達、どうなるんだろうな・・・。」
不意に空を見上げれば、
今まで見てきた空と、何ら変わりなく見える青が目に映る。
『戻れるのかな・・・。』
その言葉にユウジは返事が出来ず、
ナツキと一緒になって空を見つめた。
帰れるか帰れないか。
勿論帰りたいが、今現状で考えると。
あまりにファンタジー過ぎて返答に苦しむ。
暫くすると、遠くから微かに足音が聞こえ始める。
少しだけ物陰から顔を出して周囲を確認すると、
真っ白な髪を円状二つに纏め、白と赤を基調とした服を身に纏った少女の姿が確認できた。
間違いない。マトイだ。
ナツキがマトイを見つめていると、その視線に気付いたのかマトイと目が合う。
咄嗟にマトイに近付こうと物陰から出ようと体を動かす。
いや、動かそうとした。
その瞬間、“出てきちゃダメ”と耳の奥にマトイの声が響いた。
それはユウジにも聞こえていた様で、身を乗り出していたナツキをユウジが慌てながらも抱き締める形で身を隠す。
ウィスパーだと気付くまでに少しだけ呆然としてしまったが、マトイのその言葉の意味を直ぐに理解する事になった。
立ち止まるマトイを物陰から見ていると、
マトイが来た道から複数人のアークスが姿を現す。
ゼノ
イオ
リサ
アフィン
4人がマトイに近付き、声を掛けている。
ナツキ達の距離からでは何を話しているのかは分からないが・・・。
マトイが4人から離れ様とした時、リサがマトイに武器を向けた。
何かを頻りに叫んでいるリサに、マトイは首を振って口を動かしている。
イオが興奮状態のリサの肩を掴んで後ろに下がらせる。
ゼノとイオ、アフィンの微かな声と時々リサの叫び声が響く。
暫くして諦めた様に来た道を戻って行く4人。
その立ち去る姿が完全に消えるまで、マトイは視線も体も微動だにしなかった。
「お待たせ。ナツキ。」
4人が立ち去った後。
ナツキ達が居る物陰にマトイ自身もその陰に隠れる様にして近付く。
『マトイ・・・。』
「もう安心して、私がナツキを守るから。」
ナツキの両手を包み込んで優しく笑ったマトイに、またジワリと視界が緩みそうになる。
そんなナツキの横でユウジは「俺も居るんですがー・・・。」と蚊の鳴き声程にツッコミを入れた。
「あっ・・・ごめんなさい。えっと・・・。ユウジ、だよね?」
「俺の事も知ってるの?」
「その話は、ここを出てから。」
そう言ったマトイの手には、小さなボタンが付いたチップ。
それを地面に置いてボタンを押せば・・・。
「簡易的な転移ポートだけど、これに乗ってキャンプシップに戻ろう。」
マトイが転送装置なる物に足を踏み入れると、溶ける様にマトイの姿が消える。
それに倣って、ナツキとユウジも装置へ身を投げる様にして入った。
すると視界が電子的な何かで埋め尽くされ、咄嗟に目を閉じる。
次に目を開ければ、そこは画面越しではあるが見慣れた場所。キャンプシップだった。
「ここから、私のマイルームに行きたいんだけど・・・。」
『どうか、したの?』
「・・・ううん。もしかしたら監視があるかもって思って・・・。」
マトイがマイルームを持っている事にも驚いたが、
何故マイルームなのに監視?と疑問の方が大きくて首を傾げる。
マトイはそれについても後で教えると少しだけ考える素振りを見せる。
『僕のマイルームは?』
「それは駄目、ナツキのマイルームは確実に視られるから・・・。」
『え、監視カメラでもあるの・・・!?』
ゾワリと言い知れない悪寒を感じたナツキは、
無意識にユウジの服裾を掴む。
「俺の部屋はどうかな?」
「ユウジの・・・。うん。その方が良いかも。」
それではとキャンプシップを出ようとすると、
マトイが慌ててそれを止める。
「待って、そのままじゃ見つかっちゃう!」
【隠れて】
イツキ出したいね。