やはり俺が346プロのPになるのはまちがっている。 作:高海0o0
「突然ですが比企谷君、《 トライアドプリムス 》のデビュー曲が決まりました」
あれから二日が経った頃、出社すると千川さんにそう告げられる。つかまだ決まってなかったのかよ、もう既に曲あるんだと思ってたわ。
「どうします? 今聴きますか?」
……正直すごく聴きたい。あいつらが歌って踊る最初の曲だ、気にならないほうがおかしい。だが今俺一人で聴いてしまうのはもっとおかしいだろう。
「やめときます、あいつらが来てから一緒に聴くことにしますよ」
「そう言うと思ってました」
そう言って千川さんは親が子供に向けるような微笑みを返してくる。いや、俺記憶に残ってる限り親に微笑まれた事が無いから分かんないわ。
「そういえば比企谷君は《 トライアドプリムス 》以外のアイドル達とは会いましたか?」
「千川さん、ずっと一緒に仕事してたんだから分かるでしょう。」
俺はこの会社で働き出してから一度もアイドル達に会っていない。エンカウント率悪すぎだろ、二百人ほどのアイドルが所属してる事務所で三日間働いて一回も会わないとは。本当にここ芸能プロダクションなの?
それとも346プロのアイドルは実は誰かが見せた幻術だったのか!?……駄目だ。疲れてるな、俺。
「じゃあ今から会いに行きませんか? 挨拶や紹介も兼ねて」
「いや、いいです」
「なんでですか!?」
なんかここまで来ると逆に会いたくなくなってくる。むしろどこまで会わずにいけるか挑戦してみたい……いや、どこにやる気だしてんだよ。
「断っても無駄ですからね、これも仕事の一環なんですからっ」
「分かってますよ、冗談です」
「もう、比企谷君の冗談は分かりにくすぎます!」
そう言って千川さんは頬を膨らませる。リアルで見てもあざといだけだと思っていたが千川さんがやるとあざとさを感じない、一色、ここにお前の完成系がいるぞ。ただし未婚……未婚なのか?
「それでは早速行きましょうか」
「うす」
返事をして千川さんのあとに続く、そして流れで質問をぶつけてみる。
「そういえば346プロは結婚とかいいんですか?」
「そうですね、基本的にはそういったものを禁止していません。男女交際もOKです。ただし、スキャンダルになると困るので周囲には常に気を配るよう言いつけてありますね」
「へえ、ちなみに千川さんは結婚とかして…………すいません」
言ってる途中にすごい形相で睨んできたのでとりあえず謝る。やはりしてなかったか、なんだか平塚先生と同じ感じがしたからな、そんな気はしてた。
「私は仕事が恋人なんです、そもそもこんな忙しいのに恋人なんて作れませんよ。そうです、私は機会がないだけなんです。そもそも別に結婚したいとかそんな気持ちは全然ないし、まず……」
失敗した。千川さんの愚痴が止まらない、こうなると面倒臭いやつだと言う事を俺は高校時代に平塚先生から学んだ。だからこそ対処法も学んでいる。
こういう時は向こうの愚痴の間にあるこちらへの問いかけに対してだけ「はい」とか「そうですね」とか言っていればいいのだ。
こういう場合は同調を求めている場合が多い、だから肯定的な返事を返す事で相手の機嫌を損ねず、さらに話しの流れを理解せずに会話を成立させる事が可能となる。
「……もういっそ私達で結婚しちゃいますか? 比企谷君」
「はい、そうですね」
「え!」
急に千川さんが大声を出し、顔を赤くしながらこっちを見てくる……やばい、話の流れが掴めん。今千川さんはなんて言ったんだ?
「ほ、本気ですか?」
もじもじしながら上目遣いでこちらを見てくる……やべぇ、超可愛い。だがわざわざ本気なのかと聞いてくると言うことは普通ならいいえと答えるところだったのだろう、なぜなら「はい、そうですね」で通じたのなら「やっぱり比企谷君なら分かってくれると思いました!」なんて感じで返ってくるはずだ。ならば答えはこうだろう。
「すいません、冗談です」
ここで笑顔で言うのがポイントだ。高校生の時、だいたい葉山が「悪い、冗談だよ」って笑顔で言うとだいたい場が和んでいたから間違いない。
だが千川さんは顔を俯かせる。肩を震わせ、さらに強い殺気を感じる。
このパターンはあれだ……わりぃ、俺死んだ。
千川さんが顔を上げた瞬間、俺は意識を手放した。最後に見た彼女の表情は、笑っていた……般若の様な顔で。
気が付くと俺はさっきの床に転がっていた。前には笑顔の千川さんがいる。
「気が付きましたか、急に貧血で倒れたんですよ。無理はしないようにして下さい」
貧血で倒れたのか……倒れる直前の記憶がない。千川さんに結婚してるのか聞いて、それから千川さんの愚痴が始まって……話が長くて倒れたのかな。まあそれは置いといて貧血で倒れたやつを廊下に転がしておくなよ。
「ちなみに俺、どのくらい倒れてました?」
「三十分ほどですね。貧血には気を付けて下さい、どうぞ、スタミナドリンクです」
そう言ってスタミナドリンクを渡される、ビンには千川さんのマークが……自作かよ!
ちひろ印のスタミナドリンクは思ったより美味かった。そしてなんだか身体が軽いような気がする……天才かよこの人。
そう思いながら千川さんの方を見るとなんだか笑顔で片手を差し出し、もう片方の手の指を二本立てている……うわぁ、予想できたわ。
「汚ぇ」
「これが大人のやり口です。覚えておいた方がいいですよ」
こんなのが大人なら大人になんてなりたくねぇ。そう思いながら手のひらの上に二百円を乗せる。そんなやりとりをしていると後ろから声が聞こえてくる。
その声を聞いた瞬間、俺の心臓は飛び跳ねる。それはすごく聞き覚えのある声で、高校生の時に部室でさんざん聞いた声で……あの日、俺が泣き声へと変えてしまった声で。
嘘だろ、なんであいつが……あいつは大学生になったはずだ。そもそもアイドルになるなんて、そんな収入が不安定の仕事に就くなんてあいつの親が許すはずがない。
その声は段々と近づいてきて、俺の後ろで立ち止まる。鼓動がすごく速くなっているのが分かる。確かめたい、だけど怖くて振り返る事が出来ない。
そしてその声は言葉を紡ぐ。
「千川さん、おはようございます。そちらの方は?」
「あ、楓さん! ちょうど良かった。新人のプロデューサーさんなんですけど色んな方たちへあいさつに回っている途中なんです。比企谷君、こちら高垣楓さん、346プロに所属するアイドルの一人なんです! って比企谷君? どうかしましたか?」
雪ノ下じゃなかった。安堵した自分と、落胆した自分が俺の中にいる。俺は一体どう思っているのだろう。あいつに会いたいのか……それとももう二度と会いたくないのか。
「どうも、新人プロデューサーの比企谷八幡です。これからよろしくお願いします」
「高垣楓です。元々はモデル部門で活動させて頂いていました。こちらこそ、これからよろしくお願いしますね」
そう言って高垣さんは頭を下げてくる。彼女の事は知っている。恐らく346プロで、現状のトップアイドルは間違いなく彼女だろう。少し考えれば分かることだった。確かに雪ノ下と高垣さんは声が似ている。それでもここは346プロだ、間違えちゃいけなかった。雪ノ下がここに……いるはずがないんだから。
なんか話が重いような気がします。もっとキャッキャウフフって感じの話にしようとしてたのに……どこで間違えた。
おかしいところ、指摘お願いします。