BETAスレイヤー   作:葉川柚介

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マシン・オブ・ヴェンジェンス・ウィズ・カラテ

「敬礼!」

 

 リーダーを務める者の合図とともに、居並ぶ新人が一斉に敬礼をする。緊張感にあふれるその敬礼は、堅苦しさを嫌う夕呼の直属部隊A-01ではなかなか見られない物だ。そのことに初々しさを感じながらも、特殊任務部隊A-01、通称伊隅ヴァルキリーズの隊長を務める伊隅みちるは微笑ましく思う。

 

 今日はめでたい日である。なにせこの伊隅ヴァルキリーズに新任が配属となる。激戦に次ぐ激戦で人員を減らし、新しく着任することとなる彼女らにも辛い戦いばかりを経験させることになるだろうが、それでも仲間が増える喜びは筆舌に尽くしがたい。彼女らを守り抜き、いつか彼女らが自分たちを守ってくれるようになれば。今からそんな未来を望んでやまない。

 

「榊千鶴です。207B分隊では隊長を務めていました。よろしくお願いします!」

 

 キビキビとした言葉遣いからも几帳面な性格が伝わってくる、おさげとメガネの少女が率先して名乗った。分隊内の人格的な相性の面はもとより、政治的な思惑が複雑怪奇に絡み合って訓練が遅れに遅れていた207B分隊を最終的には何とかまとめあげ、総合技術演習を見事合格に導いた指揮能力はA-01の面々も聞き知っている。先んじて着任した207A分隊の涼宮茜とはライバル関係にあるとも聞き及んでおり、それらが良い刺激となって優秀な指揮官に成長してくれれば良いと期待が膨らむ。

 

「御剣冥夜と申します。剣術は得意としていますが、改めて実戦での戦いをご指導のほど、よろしくお願いいたします」

 

 凛とした雰囲気とは彼女のためにある言葉だろう。人知を越えてとんがっている髪型はどうやってセットしているのか同じ女性としてかなり気になるところであるが、ともあれ彼女もまた新任としてビシバシ鍛えていかねばなるまい。日本人としてはその顔付きにそこはかとなくデジャヴを感じずにはいられないのだが、その辺は勤めて気にしないようにすることが生き残るためのコツだ。

 

「彩峰慧。突撃前衛希望、です」

 

 前二人と打って変わって不遜な態度を示す慧に対し、千鶴がさっそく横目で鋭い視線を向ける。この二人は207B分隊のころから犬猿の仲であり隊の関係をぎくしゃくさせていたということだが、総合技術演習までには互いを認め合うようになったという。不敵な顔付きをどう料理してくれようかと、獰猛な笑みを浮かべているA-01の現突撃前衛筆頭たる速瀬水月が喜びのあまり可愛がりすぎないように注意しなければならないだろう。

 

「た、珠瀬壬姫です! えーとえーと……がんばりましゅっ!」

 

 噛んだ。微笑ましさにほっこりしてしまうが、A-01メンバーの顔に侮りと失望の色はない。ドのつくあがり性というのは聞きしにおよび、見てもわかることではあるが、彼女にはそれを補って余りある狙撃の才能がある。あがり性の気質は完全にはなくなっていないようだが、仲間とともにその弱点を克服した精神をこそ、みちる達は高く評価していた。

 

「鎧衣美琴です。精一杯がんばります!」

 

 元207B分隊は個性的な面々だが、この場において緊張の様子が全くないのはただ一人、美琴のみだ。マイペースな性格はあらゆる局面で発揮されるようだが、それは常に自分を見失わないという長所にもつながる。身に着けたサバイバル能力の高さも含め、部隊の生存力の向上に大いに貢献してくれることだろう。

 

 

 ……初々しくも頼もしい、新任達。これから苦楽を共にすることになる彼女らを受け入れる。受け入れているのだが。

 

 今回の新任は、この5人だけではなく。

 

 

 

 

「ドーモ、ヴァルキリーズ=サン。BETAスレイヤーです」

 

 

 

 

「アイエエエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

「アイエエエ!」

 

 新任があからさまにニンジャなのだ!

 

 国連軍の制服に身を包み、しかしなぜか「BETA」「殺」と書かれたメンポをつけたニンジャが、207B分隊のメンバーとしてA-01に着任したのだ! コワイ!

 いかに歴戦の衛士といえど、A-01の彼女らもまたモータルであることに変わりはない。これまで必死に視界に入れないようにしていたが、直接アイサツをされてしまえばニンジャアトモスフィアから逃れるすべはない。新兵として初陣を迎えた時でもこうはならなかったというほどの、ニンジャの恐怖に震えるA-01たち。むしろ失禁しなかったことをこそ彼女らの強靭な精神力として誉め讃えるべきだろう。

 

「懐かしい反応だな」

「私達も、最初はこうだった」

「大丈夫ですよ、BETAスレイヤー=サンはこう見えてBETA以外にはとっても優しいですから」

「BETAに対して慈悲はないけどね」

 

 

 BETAが地上を覆いつくし、人類の滅亡が極めて現実的な可能性となった未来。

そのマッポーの世に降り立ったニンジャ、BETAスレイヤー。

彼の戦いはまだ、始まったばかりだ!

 

 

◇◆◇

 

 

「戦術機のOS?」

「ウム」

 

 国連軍横浜基地の地下深く。かつてのヨコハマ・スゴイフカイハイブを改造したこの基地の最奥にて人類救済のために戦う女性こそ、ユウコセンセイである。執務室の机で横浜基地副指令としての執務をこなしながら、異様な風体の訪問者BETAスレイヤーとの会話を両立する。

 

「戦術機の動きが悪いって、そりゃあんたからすれば……い、いやなんでもないわ」

 

 ユウコセンセイは、書類から目を上げることがない。溜まった仕事が膨大であることと、いかにユウコセンセイとはいえニンジャをまともに直視すれば失禁は免れえないが故のことだ。初めて面と向かったときに晒してしまった醜態は、ユウコセンセイ自身のテンサイを駆使して記憶から抹消してある。

 

「確かに戦術機は強い。だがニンジャのカラテを引き出すには足りぬ」

「それで、あんたの記憶にあるXM3? を作れっていうわけね」

 

 ユウコセンセイはBETAスレイヤーの提案を吟味する。OSを作るということ自体は、対BETA戦への対応としてさほど的外れでもない。ニンジャソウルに由来するカラテなどと異なり、シロガネタケル自身の記憶に由来するというコンボやキャンセルといった戦術機の挙動自体は確かに現在の技術でも実現が可能で、なおかつ有用でもある。当然ユウコセンセイでもなければたやすく作るはできないが、だからこそ現状の戦力を増強することに加えて、政治的なカードとしても使える可能性を秘めている。なかなかに、悪くない手だ。

 

「……まあ、いいわ」

「手を貸してもらえるのか」

「私にとってもメリットがあるからよ。それに、この程度だったら難しいものでもないわ。私は知能指数が高いのよ。霞、さっそく取り掛かるわよ」

「ハイ、ヨロコンデー!」

 

 そしてユウコセンセイの命を受け、かつて社霞と呼ばれていたニンジャ、ヘイズシュラインがUNIXを操作する。BETAスレイヤーのニンジャソウルを自身の持つドクシン=ジツによって読み取った結果、自身の魂もまたニンジャソウルとなった少女だ。それ以来BETAスレイヤーからのインストラクションを受け、いまやそのカラテは熟練の衛士ですら遠く及ばぬものとなっている。ニンジャとモータルの間にある差は、それだけ大きい。

 だがそんな彼女の仕事は本来ユウコセンセイの補佐。彼女はニンジャとなってからより一層鍛えられたUNIX技術を、今日も人類のために駆使している。

 

「任せてくださいBETAスレイヤー=サン。さっそくOSの作成に取り掛かります」

「よろしく頼む、ヘイズシュライン=サン」

「……はあ」

 

 そして、ユウコセンセイを頭痛が襲う。人類を救おうと、そのためならどんな汚名でも被ろうと決意してはいたのだが、このニンジャ密度はさすがのユウコセンセイをして凄まじい精神疲労を避けられない環境だった。とりあえず引出にしまっておいたバリキドリンクを一本煽る。

 

「あー、イイ。遥かにイイわ」

 

 脳がすっきりと晴れる感覚と共に寿命が縮んでいる気もするが、今は背に腹は代えられなかった。このニンジャアトモスフィアに飲まれれば、どうなるか。天才の頭脳をしてすら想像したくないことというのは、存在する。

 

 

◇◆◇

 

 

 後日!

 佐渡島!

 

 

「イヤーッ! イヤーッ!」

「BETAスレイヤー=サン、私達のことは気にしないで、もう……」

「黙っていろ! イヤーッ!」

 

 日本国内に唯一残る佐渡島ハイブから、BETAがあふれ出した。定期的に間引きと呼ばれる数減らしをしているにも関わらず、どういうわけか大量のBETAがハイブから溢れだし、その対応のためにA-01にも呼び出しがかかったのだ。

 新人が配属されているとはいえ、A-01は歴戦の精鋭部隊。任された戦場は最前線以外の何物でもない。そのため全員が必死の奮闘をし、結果、BETAスレイヤーを含めた今日が初陣の衛士たちも、初陣の衛士が生き延びられる平均時間「死の8分」はとうに過ぎている。

 

「アイエエエエエ!」

「コワイ! アイエエエエアバーッ!?」

 

しかし他の全ての衛士もそうあるわけではない。目の前に迫りくるBETAの大群は既に戦術機部隊を包囲して、まさにミヤモトマサシのコトワザ「前門の虎、後門のバッファロー」のごとし。BETAリアリティショック状態に陥った者から順に屠られ、戦術機ごと爆発四散していく。

その中でなお旧207B分隊の隊員が生き残っていられるのは、熟練のA-01先任たちと、そしてイクサにおいてはA-01すら上回る経験を持つBETAスレイヤーの奮闘があればこそだ。

 だが状況は極めて悪い。長時間にわたる戦闘により一人が大破し、一人が跳躍ユニットを破壊され、と次々戦闘不能に陥っていく。既にして完全に五体満足の状態で動けているのは、先任を除けばBETAスレイヤーの一機のみ。他はみなどこかしらを損傷し、戦力の低下は著しい。

 しかもBETAスレイヤーの武装は既にアウト・オブ・アモー。卓越したニンジャ反射神経による機動によってBETAを翻弄し、辛うじて動けなくなった仲間達をかばっているに過ぎない。

 

(ヌウゥッ、カラテさえ、カラテさえあれば……!)

 

 BETAスレイヤーはメンポの中で唸る。

 戦術機は確かに強い。巨体とパワー、豊富な武装。それらを駆使すれば、BETAスレイヤーが生身で戦うよりも多くのBETAをネギトロにすることができる。しかし、しかしそれでもテックには限界がある。

 カラテパンチならば一撃で倒せたBETAがいた。ヤリめいたサイドキックを放てればまとめて数体のBETAを葬れた局面があった。BETAスレイヤーは脳裏に浮かんだそれら状況判断を必死に押し殺し、戦術機に見合った動きでBETAを屠り続けていた。

 それでも、BETAスレイヤーは強い。今日が初陣とは思えぬ落ち着きを持っているうえ、ニンジャ動体視力はあらゆるBETAの奇襲を許さず、ニンジャ耐久力がこれまでの長期戦を支え、ニンジャ腕力はいまだ衰えることなく操縦桿を握る。

 だが、それでも。

 

「IYAAA!」

「グワーッ!」

 

「BETAスレイヤー=サン!?」

 

 理由は何か。蓄積した疲労、戦術機の反応の遅れ、死角からの攻撃、回避してしまえば仲間が代わりに犠牲になるかもしれないという迷い。それらのいずれか、あるいはすべてがBETAスレイヤーの回避機動を鈍らせ、要撃級の格闘腕によるショートフックがBETAスレイヤーの乗る戦術機を殴り飛ばした。

 幸いウケミは間に合った。しかしダメージは深刻で、跳躍ユニットは全損。本体の動きにこそ支障はない物の、もはやBETAを翻弄していた機動力を発揮することはかなわないだろう。仲間達の悲痛な叫びが何よりその事実を証明している。

 だがそれでも、BETAスレイヤーは戦術機を立ち上がらせた。

 

「……スゥーッ、ハァーッ」

「……! だめです、BETAスレイヤー=サン! 逃げてください、私たちに構わず、早く……!」

「珠瀬の言う通りだ。せめてBETAスレイヤー=サンだけでも!」

「気に、しないで……」

「そうそう、覚悟はできてるしさ」

「ええ、そうね。それが一番正しいって、わかっているでしょう?」

 

 通信から漏れ聞こえてくるチャドー呼吸に、BETAスレイヤーの闘志がいまだ折れていないことを悟る仲間達。しかしそれはBETAスレイヤーを自分たちと同じ確実な死に追いやるアブナイであることもまた理解していた。

 彼女たちは覚悟を決める。ここで自分達が死ぬことになろうとも、BETAスレイヤーが生き残れば、自分達が生き延びて殺す以上のBETAを殺してくれるだろうと。悲痛にして壮絶な覚悟を、乙女達は当たり前のこととして、既に胸の奥に受け入れている。

 

 ……その運命に抗う者は、この場においてただ一人。

 

「それはできぬ」

 

 BETAの大群を前にして、ジリー・プアー(徐々に不利)な状況を理解してなお否と叫ぶ、BETAスレイヤーのみである。

 

「なっ、何を言っている!?」

「私はBETAを殺す。全て、殺す。慈悲はない。……それだけだ」

 

 そう、BETAスレイヤーはBETAを殺す者。この地上に蔓延る全てのBETAを殺し尽くし、幾多の世界で失われた命の復讐を果たす者。しかし、世界そのものを相手取るに等しい怒りの源は、仲間を、人々を、誰一人死なせたくないと願った一人の青年の優しさから生まれたものだ。

 

 生き残れば、より多くのBETAを殺せる。そうするためには、仲間を見捨てることも時に必要となるだろう。

 しかしそれを良しとする道理は、BETAスレイヤーにはない。全ての仲間を守ること。全てのBETAを殺すこと。その双方を為すための力こそ、ニンジャソウルが授けたカラテであり、シロガネタケルの鍛えたテックを操る技術なのだから。

 

 

「IYAAA!」

「ヌゥッ!?」

 

 しかし、現実は非情である。

 正面から迫りくる突撃級BETAの、スモトリに匹敵するブチカマシを前にして、BETAスレイヤーの操る戦術機はもはや回避の術を持たないことにこのときはじめて気付かされる。

 

せめて跳躍ユニットが生きていれば。

あるいは、カラテを自在に使うことができたならば。この程度のチャージを回避することなどベイビー・サブミッションであったというのに……!

 

 BETAスレイヤーの胸中に湧き上がる怒り、悔恨、焦り……! 迫りくる突撃級が激突するまで、残る距離は畳30枚分!

 戦術機の脚力ではすでに避けられない! どうする、どうするBETAスレイヤー!

 

 

 ……そのとき!

 

 

『BETAスレイヤー=サン!』

 

 

 声が、UNIXから響き渡る!

 

「! Wasshoi!」

 

 その声に導かれ、BETAスレイヤーは操縦桿を力強く握り、カラテシャウトとともに戦術機を駆る!

 

「IYAAA!?」

『イヤーッ!』

 

 すると、おお、見よ。BETAスレイヤーの操る戦術機は先ほどまでのぎこちない動きから打って変わり、まさしく人間めいて跳躍。側転からの5連続バックフリップで見事突撃級の攻撃をかわしてのけた! さらにそのままパルクールめいて周囲の地形を最短距離で走り、体当たりを失敗して通り過ぎた突撃級BETAの背後に肉薄! 畳1枚分、すなわち人間サイズに換算してワンインチ間合いへと瞬く間にたどり着き……。

 

「イヤーッ!」

「ABAAAA!?」

 

 中腰姿勢の戦術機が放ったパンチ……あれは、ポン・パンチだ! 背後の弱点を突かれた突撃級BETAはそのまま地面と水平に吹き飛び、その先にいた戦車級や闘士級を引き潰し、要撃級や要塞級BETAの脚にぶつかるたびピンボールめいて跳ねまわり、周囲にBETAにとってのアビ・インフェルノを巻き起こす弾丸となった。

 

「こ、これは……」

『なんとか間に合ったようですね、BETAスレイヤー=サン』

「ヘイズシュライン=サン!?」

 

 咄嗟のことで、流れるようなカラテ・ムーブメントがなぜ実現できたのか、当人自身理解しきれていないBETAスレイヤーの目の前に、UNIXがヘイズシュラインの姿を映しだした。

 

『頼まれていたOSがようやく完成しました。戦闘中の直接転送は危険な賭けでしたが、成功したようです』

<新OS転送中ドスエ。最低限のモーションパターンは転送済。残り10%ドスエ>

 

 ヘイズシュラインの言葉に被さり、電子マイコ音声が新OSへの書き換えが行われていることを告げてくる。戦闘中の戦術機に直接OSを転送するなどというタツジンを成し遂げたヘイズシュラインは額の汗をぬぐい、垂れる鼻血をメンポで隠した。

 おそらく、この突貫作業は彼女にとっても限界を越え、危険を伴うことだったのだろう。画面の隅に映るザゼンドリンクの空き瓶の数は、ヘイズシュラインがオーバードーズも恐れずこの瞬間のために持てる力の全てを賭してくれたことを雄弁に物語っている。

 

<新OS転送完了ドスエ>

 

 OS転送中というある種無防備な状態でありながら、BETAスレイヤーは周囲への警戒を怠らず、それを察してかBETAは遠巻きに様子を伺い、攻めては来ない。突然見違えるほどの動きをしたことを警戒しているのだろう。

 だがそれは、絶望的なまでに悪手だった。もしもBETAに未来を見通す能力があったのであれば、たとえ佐渡島ハイブの全BETAをこの瞬間のBETAスレイヤーにぶつけて、刺し違えてでも倒していたに違いない。

 

 OSが書き換わったのと同時、戦術機の全身に力が満ちたように感じたのは気のせいか、はたまたニンジャ第六感の為せる技か。

 

「おお、これが……XM3!」

『いいえ、違います。このOSの名は……』

 

 しかし真実、それは錯覚ではない。

 

『Karate Abnormal Reaction Against extra Terrestrial Enemy……KARATEです!』

 

「KARATE……カラテ!?」

 

 この瞬間、戦術機に、モーターシラヌイに、カラテが満ちた!

 

 

 ニンジャ。

 

 ニンジャとは、平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在である。しかし現代に生きるニンジャはそのほとんどが、突然宿ったニンジャソウルによって心身を変じたものに過ぎない。かつてのニンジャがキンカク・テンプルでハラキリ・リチュアルを行ったことで、時空を超えてディセンションしたニンジャソウルが宿った者が、インストラクションや己のトレーニングによってカラテを満たすことによってニンジャとなる。

 

 では、モーターシラヌイはどうか。

 戦術機のソウルともいうべきコクピットに座すパイロットはニンジャ、BETAスレイヤー。そしてその身に満ちるのは、ヘイズシュラインがBETAスレイヤーのカラテを十全に発揮するために作り上げた新OS、KARATEの力。

 ソウルにニンジャを、体にカラテを。それぞれ宿したモーターシラヌイはもはや、実際ニンジャである!

 

「……感謝する、ヘイズシュライン=サン。必ず朗報を持って帰る」

『はい。私ができることはここまで。……信じています、BETAスレイヤー=サン。カラダニキヲツケテネ!』

 

 力強い励ましの言葉とともに通信が切れる。これで戦場に残るのは、朽ちかけた戦術機たちとモーターシラヌイ、そして無数のBETAのみ。

 

 だがもはや、BETAスレイヤーに恐れも焦りもない。目の前の全ての敵は、元から変わらず殺すべき敵。そして不安は全て消え去った。ゆえに。

 

 

『ドーモ、BETA=サン。BETAスレイヤーです』

 

 

 モーターシラヌイは、アイサツを決めた! 礼節!

 

 決断的なアイサツは言葉を解さぬBETAにすらカラテを伝えたか、一瞬BETAの集団にざわめきが走る。しかしモーターシラヌイはそれを意に介さず顔を上げ……そこには、「BETA」「殺」と書かれたメンポが!

 いつの間に現れたのか、顔の下半分を覆うマスク装甲が焼き付き浮かぶ文字! そして、おお、なんと……全身の装甲が、赤黒く染まっていく! カメラアイにセンコめいた赤い光が灯る!

 ボディの内に膨れ上がったカラテの作用か、はたまたモーターシラヌイ自身がサイバネニンジャめいた存在へと変わったか。ただ一つモーターシラヌイにもはや敵はないということだけが確かだった。

 

『BETA殺すべし。……慈悲はない!』

 

 そして、モーターシラヌイがジュー・ジツを……構えた!

 

 

「IYAAA!」

『イヤーッ!』

「GUWAA!?」

 

 迫りくる要撃級の右ショートフック! それに対してBETAスレイヤーは避けず、防がず、逆らわず、受け流すことで得た回転力をカラテに変えて、懐に飛び込んでのショートフックを返した。胴体に突き刺さるモーターシラヌイの拳に、サソリの尾めいて反りかえっていた首のような器官がうつむき苦悶の様子。だが要撃級のジゴクはまだ終わっていない。

 

『イヤーッ!』

『あれは伝説のカラテ技、サマーソルトキック!』

 

 ゴウランガ!

 バク宙を繰り出しながらの蹴りあげが要撃級の首めいた部分を捕え、一撃で刈り飛ばして天高く舞い上げた!

 

 この攻防を見てからも、明らかだ。既にBETAという巨大な生物は、モーターシラヌイと一体化したBETAスレイヤーにとっての獲物に過ぎない。ニンジャでない存在など、今のBETAスレイヤーの前では等しく有象無象の塵芥。すなわち、全てのBETAがネギトロになる未来を運命づけられたということだ。

 

『貴様たちは殺す。ハイクを詠め』

 

「……無理だと思うわよ?」

「気にするな速瀬。おそらく我々の理屈は通じない」

 

 

『イヤーッ!』

「GUWAA!」

 

 突撃級の背後にヤリめいたサイドキック!

 

『イヤーッ!』

「GUWAA!」

 

 要塞級の頭を掴み、下半身に伸びるトゲに向かってアラバマ落とし!

 

『イヤーッ!』

「GUWAA!」

 

 群がる戦車級の群れを、一発のポン・パンチが巻き起こした衝撃波がすべて吹き飛ばす!

 

『イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!』

「GUWAA!」

「GUWAA!」

「GUWAA!」

 

 足元の闘士級や兵士級に激しいストンピング!

 

 まさにマッポーの一側面。縦横無尽に戦場を駆け、その行く先々でBETAを屠る殺戮者が赤黒の風となる。周辺のBETAはただ為す術もなく、BETAスレイヤーとモーターシラヌイのカラテの前に次々と爆発四散する。

 

 しかし、BETAにもまだ一つだけ、反撃の手が残されていた!

 

『……ヌゥッ!?』

 

 BETAスレイヤーのニンジャ第六感が危機を告げる! はるか彼方より、自身を狙う者がいる!

 そのとき、BETAスレイヤーは知らなかった。戦闘が長引き濃度が下がってきた重金属雲の間隙をついて、はるか畳3000枚分の彼方から自身を狙う光線級BETAがいたことを。いかにモーターシラヌイといえど、レーザーの直撃を受ければ機体が焼けて死ぬ。ただでさえ正確な狙いを持つ光線級の狙撃が放たれてしまえば逃れる術はなく、BETAスレイヤー諸共爆発四散する運命は避けられない。

 

 ……先ほどまでの、モーターシラヌイであったならば!

 

「IYAAA!」

 

 チャージが完了した光線級BETAのレーザー! 光の速さで致死の熱線がモーターシラヌイに迫りくる。

 

 だが、既に!

 

『イヤーッ!』

 

 

 おお、ゴウランガ! なんとモーターシラヌイは間一髪、ニンジャ第六感によって察知したレーザー照射のコンマ1秒前に流麗なブリッジ回避を決めていたのだ! いかに絶対の命中精度を誇るレーザー級とはいえ、ニンジャの前ではゴジュッポ・ヒャッポ! モーターシラヌイを爆発四散せしめるはずだったレーザーは、ただの空を焼くだけだ。

 

『イヤーッ!』

 

 すぐさまバックフリップで狙われた位置から離れたBETAスレイヤーは、その時すでにこちらを狙った光線級の位置をニンジャ視力で特定している。着地と同時に光線級へと向き直り、体勢も整えた。

 

『……イイイィィ』

 

 そして、その手に……光が集う!

 その正体は、レーザーから戦術機を守る重金属粒子。レーザー級に迎撃させ、レーザーを減衰する役目を担っていた重金属雲。戦場に漂うその粒子を手の中で凝縮させ、モーターシラヌイが作り上げた物。それは……スリケンだ!

 

 カラテを込めて作り上げられたスリケンを放つのは、モーターシラヌイの腕。縄めいたスパークが走るその腕に込められた力は人知を超え……ついに! 放たれる!

 

『イィィヤアァァァァーーーーーッ!!』

「GUWAA!」

「GUWAA!」

「GUWAA!」

 

 

 ツヨイ・スリケン! 音速を超えたスリケンは空気を斬り裂いてソニックブームを巻き起こし、周辺のBETAすらマグロめいて真っ二つに斬り裂きながら飛翔する。目指す先には当然、BETAスレイヤーを狙った光線級BETA。

 

「……ABAAA!」

 

 ブルズアイ! 畳3000枚分の距離の先にいた再チャージ中の光線級はレーザーを放つレンズを完璧に両断され、爆発四散した。

 

「す、すごい……」

「これが、BETAスレイヤー=サンの本当の実力……!」

 

「……いや、なんか違わない?」

『気にしちゃダメよ水月。BETAスレイヤー=サンのカラテに不可能はないみたいだから』

「遥!? あんたもそっち側に行くつもり!?」

 

 A-01のメンバーは唖然として事態を見守るよりほかにない。BETAスレイヤーの圧倒的なカラテと、それを完全に実現してのけるモーターシラヌイ。BETA達に等しく死を運ぶ赤黒の風となって戦場を駆けるその姿はまさしく死神であり、しかし紛れもなく、人類にとっての希望だった。

 

『イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!』

「ABAAA!」

「ABAAA!」

「ABAAA!」

 

 BETAの密集地点に飛び込み、回転しながら飛び上がって全方位へとスリケンを放つヒサツ=ワザ、ヘル・タツマキ! 一つの仕損じもなく、一つのスリケンが複数のBETAを貫くことすらある正確無比にして慈悲のないワザマエを見せつけられて生き残っていたBETAは、もはやない。

 モーターシラヌイはわずかに残ったBETAをすべて一つ所に誘導し、一網打尽に仕留めてのけたのだ。カラテ、テック、状況判断。全てを兼ね備え、もはや大地にBETAの影は一つとしてなく、BETAスレイヤーが、モーターシラヌイだけがそこに立つ。

 

 

「ハァ……ハァ……。スゥーッ! ハァーッ! スゥーッ! ハァーッ!」

『やりましたね、BETAスレイヤー=サン!』

『む……? どうした、返事がないが……BETAスレイヤー=サン!?』

 

 モーターシラヌイのコックピット内で、BETAスレイヤーはチャドー呼吸で息を整える。あまりにも激しい戦いは、BETAスレイヤー自身の体にも深い疲労となって蓄積されていた。モーターシラヌイの巨体と機械のパワーから繰り出されるカラテは強烈であるがゆえに、それを操るBETAスレイヤー自身の血中カラテもまた大量に消費してしまった。

 BETAスレイヤーがコックピットの中で気を張っていられたのはその時まで。UNIXから聞こえるIRC通信に応えることもできず、BETAスレイヤーは全身を包む疲労に逆らえない。

 

 

 ただ一つの心残りとして、ヘイズシュラインにスシを用意しておいてくれと頼むことを忘れたことに、自分の腹が鳴る音で初めて気が付きながら。

 

 

 

 

 ついにこの星に、BETAスレイヤーの真なる力が解き放たれた。

 しかし地上に蔓延るBETAはいまだ数限りなく、モータルを虫けらめいて殺している。その全てを滅ぼす日まで、戦え、BETAスレイヤー!

 

 

 

 

登場人物名鑑

 

 モーターシラヌイ

 日本の暗黒メガコーポ三社合同で開発された第三世代型戦術機<不知火>のBETAスレイヤー専用カスタム機。元々ハード自体の拡張性が低いため他の機体とほとんど違いがないが、搭載しているOS<KARATE>の力により、BETAスレイヤー自身が持つカラテの全てを戦術機のサイズとパワーで繰り出すことが可能となっている。

 KARATEのインストールは実戦の最中に行われ、完了と同時にマスク状のパーツが出現して「BETA」「殺」の文字が刻まれ、全身のカラーリングが赤黒く変色し、カメラアイにセンコめいた赤い光が灯るという謎のカラテ現象を示す。

 戦術機にとってのソウルともいうべきパイロットとしてニンジャを、そして体を動かすOSをカラテとすることで、実際ニンジャに等しい存在となった。そのため「BETAスレイヤーが動かす戦術機」というよりも「機械の体で巨大化したBETAスレイヤー」と言える。BETAに対する戦闘能力は極めて高く、単独でのハイヴ攻略すら可能ではないかと推測される。

 戦術機が使える武装をそのまま使える他、徒手空拳によるカラテの数々と、対レーザー弾頭が展開する重金属雲の粒子を集めてスリケンを作り出すことが可能。

 

 

 エターナル

 ユウコセンセイがNRSにやられてうっかり作ってしまった、BETAスレイヤーの身体能力を再現できるサイバネ義足をとりつけられたスズミヤハルカのこと。常人の三倍の脚力を持つ。

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