悠久たる郷里にて   作:悠里(Jurli)

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Fafs F. sashimi


殺し損ねた蟻

ホテルの火災後、イェテザル・ポルトジャール某所――

 

「こいつか。奴等のホテルに侵入して襲撃しようとしたは良いものの火事を起こした馬鹿は。」

 

黒髪、白肌、モノクルに黒いベストの紳士のような風貌をした『彼』は、そういって目の前の男を蔑むように睨み付けた。

レロド・フォン・イェテザルの敵である『奴』を殺そうとするのは別に良い、しかし、足跡を嗅がれ、国際問題にされるとレロドの存続が関わる。

 

「しかし、ですなあ旦那ァ。あいつ等をどこかにやったのはレソルとかいう女ですぜェ。」

引きながらぜいぜいと息が漏れるような音を出しながら、その男は釈明し始めた。『彼』はそれが気に入らず、さらに男を睨みつける。

「何?レソルだと?お前はレソルと会ったのか?」

「え?レソルがどうかしたんです?」

男が少し驚いたような顔をして聞く。

「レソル・カルメレスドゥンはアルのレロドの人間だ。嗅ぎつけてきやがったな……。」

歯軋りする。イェテザルのシマは俺らのレロドのものだ。だが、イェテザルの始末はまだ関係を持っているアルのレロドにも関係を持つ。少しでも余計な事をやれば、レロドの構造自体が破壊されてしまう可能性がある。そうはしたくない。イェテザルは、テベリス人は懐柔しやすい比較的慣れてない移民だ。ここできちんとした秩序を挙げて、レロドを永遠に続かせる。それが、アルの離脱組でイェテザルのレロドを負う俺、ファリーア・ラヴュール・ダティヤの使命なのだ。

 

そんなことを考えていると男がダティヤに不思議そうに問う。

「しかし、何であんなセベリス人の……ウーウグラフダを追うんです?」

ダティヤは瞑目する。

「ウーウグラフダじゃない、テベリス文字をリパライン語読みするな、正確にはウルグラーダ。テベリス系人の姓の一つで、トルニア王国とかいうところの貴族姓らしい。お前はこの家にされたレロドへの屈辱行為を忘れたのか?」

男は首を傾けて疑問を表す。

「ウルグラーダは、俺らの秩序を破壊した。イェテザルのファークの売買はレロドが仕切ってることは分ってるな?」

男が頷く、ダティヤはそこまで喋って疲れたのかファーク入れから少量の粉を吸う。男はその様子を物欲しそうに見ていた。

「あぁ、ウルグラーダは、イェテザルのヤクのネットワークを根絶させる目的でうちのレロドを越える大金で警察を買収しようとした。事実上、警察の実権がレロドからウルグラーダ家に移るわけだから、最終的には奴等のやり放題ってわけだ。」

話を聞くのに疲れた男は冷蔵庫を開けて、中身を物色し始めた。もちろんのこと連邦諸国には酒等無いので、アチェアか水かリウスニータくらいしかない。

「おい、話は最後まで聞けよ。」

怒ったダティヤにリウスニータをグラスに注ぎながら、男は言葉を返す。

「あいあい、それで続きはなんです?」

「ウルグラーダはレロドを潰すつもりだ。でもなければ、警察を買収したりはしない。今のところ、台帳に載せてるテベリス人以外は拘留して、アルのレロドに送るか、殺してる。そいつらに聞くところ、ウルグラーダの関係者はウルグラーダがテベリス人を救うだののために警察を買収しようと手を回してるだとよ。」

リウスニータを一口で飲み干し、男はダティヤに向き合う。

「それじゃ、レスタとかいう女王を殺すとかいったのは割りに合わねェんじゃねえですかい?レロドが壊れちゃ堪ったもんじゃありゃせんですがねェ、さすがにやりすぎると」

ダティヤがビンを部屋の下から出す。黄金色の液体が入っていた。

「密造酒ですかい?旦那は一体何の宗教の教徒なんだい?」

密造酒はもちろん連邦では禁止であり、重罪だ。しかしながら、それはここでは通用しない。

「俺はリパラオネ教徒だよ。それより、コップを渡してくれ。」

コップを渡す男は怪訝にダティヤを見つめる。

「旦那、人の信仰にゃとやかく口出さないようしとるけどよ。さすがに、フィアンシャンに書いてある事を守らないのはどうかと思いますぜ。」

「あれはフィシャ小僧が勝手に書いたことだ。本当の教徒は、スキュリオーティエやレチ記から神の真意を学ぶものだ。」

ビンからこぽこぽとグラスに黄金色の液体を注ぐ。男はダティヤがファークに悪酔いしているものだと思ったので気を紛らわすためにリウスニータをもう一杯グラスに注いだ。

「それで、レスタの女王の件はどうなんです?脅しなんですかね。それともマジで殺すんですか?」

「見せしめに殺す。今はPMCFに居るらしいが、このまま殺せなくてもトルニア州に送ったレロドの工作員がその他の王侯貴族を殺す。これでもウルグラーダが引かなければ、レロド・フォン・アルから助けを呼んで一緒にトルニアの奴等と全面抗争になるな。」

話を聞いていた男はリウスニータをもう一杯飲むと、深刻な顔でダティヤを見た。

「そうならないといいですがね。」

「ああ、こちとら、死傷者は最小限に抑えたいしな。」

 

ダティヤはそういうとグラスの中の黄金色の液体を一気に飲み込んだ。

 

 

「死傷者を抑えるプロ。」

男はそう言うと拍手しながら部屋を出ていった。




※ファーク(fhark)……サームカールト(tharmkarlt)から向精神作用のある物質を抽出し、作用を強化したもの。デュイン・マフィアが密造、売買を行っている。乱用によって向精神剤成分による依存、統合失調症様症状、身体の機能障害が起こる。また、精製が十分であっても、不十分であってもウェールフープ可能化剤成分が残るため、不適合による反応が乱用で成分が蓄積された場合、発現する可能性がある。所謂ヤク、不法薬物たるもの。

いかがでしたでしょうか、Fafs F. sashimiです。
今回はレロド・フォン・イェテザルが何を考えているのかについてでしたね。これでヴァイユたちが目的にすべきことも決まりますが、ヴァイユたちは依然どうするべきか方向があやふやなままです。
さて、次回はどうなるやら、らいしゅさんの次話をお楽しみに。

あ、ちなみにまだキャラ募集は受け付けてますよ。
活動報告を見に行ってね(威圧)

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