ボリックが暗殺されて3ヶ月が経過した。
遂に安寧道が帝国に対し武装蜂起したのだ。更に安寧道の信者や帝国に虐げられた多くの者が各地で呼応する形となった。
時を同じくして西の異民族が大軍で帝国に侵攻して来たのだ。
しかし、帝国も対応に乗り出す。西の異民族に対しエスデス軍を派遣し侵攻を防ぐ。
そして、人員不足を補う形でワイルドハントなる組織が結成されたのだった。
帝都市内
side シュウ
「帝都の中はまだまだ平和って感じだな」
「……そうだね」
「危機管理が無い…と言うか、エスデス将軍にブドー大将軍が居るから安全だと思ってるんじゃ無いかな?」
「でも、そのお陰で帝都に混乱が無くて良かったです」
「キュウ!」
俺たちはイェーガーズは適当な喫茶店でケーキを食べながら喋っていた。
「なぁ、いつまで気落ちしてんだよクロメ」
「…だって肝心な時に役に立てなかったから」
「確かに俺たちは任務に失敗しちまったよ。だからこそ隊長が居ない今、しっかり帝都の治安を守っていかないと」
「そうですよ!此処で名誉挽回すれば大丈夫です!」
「キュウ!キュウ!」
ウェイブとセリューさんとコロがクロメちゃんを元気つける。
「ほら、俺の分のケーキもやるから!」
「!……そうだね。2回も敵に吹き飛ばされたウェイブが切り替えてるんだから私も切り替えなとね!」
ドスッ!
「お…おう」
今何か刺さった音が聞こえた。
クロメちゃんも元気が戻ったみたいで良かった。
近くでピエロの大道芸がやっていた。ピエロ姿か……まだ仇は取れてないんだよな。
昔立ち寄った町で子供が殺される事件が起きた。しかも………その殺されるまでの過程がな。そして子供を殺された親から頼まれたのだ。仇を討って欲しいと。
何と無くピエロを見てるとランさんも近くでピエロを見ていた。ウェイブが話し掛けに行ったけど直ぐに此方に戻って来た。あ、そうだ。
「セリューさん、帝都に太っピエロ姿の男性を見た事ありますか?」
「ッ!!!」
「え?うーん……見た事は無いですね」
「そうですか……まぁ見つけたらイェーガーズ権限で確保して貰って良いですか?ちょっとそいつに用事が有りましてね」
そう言って俺はケーキを食べようとする。するとランさんが話し掛けて来た。
「シュウくん……その太ったピエロに何の用事があるんですか?」
「ん?………秘密」
再度食べようとしたが……腕を掴まれて止められた。
「シュウくん……答えて下さい」
ランさんの目が真剣だった。
「………敵討ちを頼まれたんだよ」
「ッ!……敵討ち……ですか。ありがとうございます」
そう言って腕を放すランさん。もしかして……ランさんも関係があるのか?
憶測で物事を考えてみるが……よく分からないので保留にする。そしてケーキを食べようとしたが………無くなってた。
「キュウ?」モグモグ
「お前が犯人か!」
俺はコロのホッペをプニプニしまくった。
…
……
それから数日が経ち色々情報が入って来た。悪い意味でだが。
新しく組織されたワイルドハントだが………帝都を荒らしまくってるらしい。この情報を聞いたセリューさんはワイルドハントに殴り込みに行こうとしたが皆んなで抑えた。
更に南の反乱軍も暴れており中々帝国にとって厳しい状況だろう。
俺は黒刀とククリナイフ以外の武器を武器屋に預けて簡易メンテナンスして貰った帰りだ。
そろそろ帝都から逃げないとな……でも、セリューさんに対して俺は如何する?一緒に逃げる?無理だ。セリューさんは帝都市民を守る為に残るだろう。それが彼女の信念だ。
暫く考えながら歩いていると……秘密警察ワイルドハントと出会った。うん…多分ワイルドハントだろう。顔合わせして無いからね。
「ようようよう!これは役立たずのイェーガーズじゃねえかよ。しかも…よりによってお前かよシュウ!」
「………?」
顔にバッテンマークが付いてる奴が話し掛けてきた。誰だ?
「ほう、あやつはイェーガーズなのかえ?」
「おう……。てな訳でだ……久しぶりだなシュウ。テメェに舐められた借りは返させてもら「お前誰?」……は?」
一陣の風が吹く。更にタンブル・ウィードが転がっていく。
タンブル・ウィード?アレって……西部劇とかにあるヤツじゃあ……。
「…ッ……ッ!て、テメェはよぉ……何処まで人を舐めりゃあ気がすむんだよ!シュラ様だ!思い出し「いや知らない」………ッ!」
一陣の風が吹く。更にタンブル・ウィードが2個転がっていく。
だからアレってこの帝都にある物じゃ無いからね!
「……シュラ殿。ヤツはお主と知り合いなのか?」
「知り合いじゃねえよ!彼奴はな!俺様をコケにしやがったんだよ!!」
何やらワイルドハントはギャーギャー騒いでいるが……帰って良いかな?
「おい、シュウ……この俺様を……シュラ様をよお!覚えてねえのか!」
俺は頷く。と言うか……後ろにいる太ったピエロ……彼奴仇じゃね?
「…ッ!……俺は!……大臣の息子だぞ!!!」
息子だぞ!!!
息子だぞ!
息子……
↑
エコー音
「……………あぁ、ファザコンか。今思い出したわ」
「「「「「ファザコン?」」」」」
ファザコンと言ったらワイルドハント全員がシュラを見た。
俺はそれを尻目に昔を思い出していた。
…
……
あれは西の国に居た時だっただろうか。首切りザンクと戦う3ヶ月前だったかな。
当時は確かに15歳。西の街中を歩いていたらカップルに絡んでる奴が居た。
「へえ……お前中々美人じゃねえかよ。決めたぜ。お前今から俺のオモチャにしてやるよ」
「ひっ!嫌!離して!」
「ウッ……グッ…………」
男性が倒されており、女性が拉致されかけていたのだ。
「いやー、普通はナンパするだろ?何で拉致しようとしてんだよ。て言うか、彼氏持ちの女性に手は出さねえだろ」
「あ?……何だテメェ」
「常識人ですけど何か?」
これがファザコンとの最初の会話になる。
「おい、俺様に舐めた態度取ってると如何なるか分かってんのか?ああ!」
「拉致しようとしてる犯罪者に偉そうに言われる筋合いはねえよ」
俺たちは睨み合う事になる。その間にカップルは何とか逃げようとするも男性が中々立ち上がれない。
「このシュラ様を前に良い度胸してるじゃねえかよ!俺様はオネスト大臣の息子だぞ!!お前が俺様に楯突いたからお前の家族、親族、全て皆殺し決定だよ!!!ギャハハハハハ!!!」
「…………居ねえよ」
「ハハハハハ……ハ?」
俺の台詞に笑いが止まるファザコン。
「だから居ないから……家族も、親族も……全部」
野次馬もそれを聞いて沈黙する。
「てな訳で……覚悟は良いか?」
「は?ふざけんじゃ「ドコォ!」ほぐあ!」
ドカ!バキ!ボグ!バシバシバシ!!!
確かに反撃も来たがアクセルブーストを使えばあら不思議!相手の動きが見えてしまうんです!便利でしょう?
「おい、聞こえてるか知らねえが言っとくわ。帝都に戻ってパパに泣きつけよ。パパ〜!僕一般人にのされたの〜だから助けて〜ってな!ハハハハ!かっこ悪(真顔)」
意識があるか分からんが一応言っておいた。
ファザコンをボコボコにした後、カップルの男性の方を介抱した。2人から「ありがとうございます!」と何度も言われたのは印象に残ってたな。
…
……
「てかさ、ファザコン……結局自分の切り札が通用しなかったんだろ?で、お父さんに泣きついたのか?」
「ウルセェ!!!お前!マジで殺す!」
ま、普通言えないよな。まさか一般人にのされました〜何て。俺でも恥ずかしくて言えないわ。
場の雰囲気が最悪な状況なのに更に追加が入って来た。
「ワイルドハント!貴様ら!よくも先生とその家族を…!我ら皇拳寺の門下生として、例え法で罰されても必ずお前達を討つ!!」
皇拳寺の門下生はワイルドハントと……俺を囲んだ。
……ん?ちょっと待て。
「俺はワイルドハントじゃねえよ!間違えんな!」
そう言って門下生側に入る。
「え?……えと……ええい!ワイルドハント!覚悟!」
「江雪……如何やら食事の時間になりそうだ」
「こいつら、おととい壊したオモチャの仲間か……いいねぇ、忠義の士だねぇ。お前ら手ェ出すな「ドゴォ!!」ほぐう!!」ドサアアァ
俺はファザコンを殴り飛ばした。周りが沈黙する。
「良し!一件落着!」
「いや、どこが一件落着じゃ!」
何やらロリっ子が言ってくる。
「おいおい、今ファザコンが命令しただろ?「手ェ出すな」てさ。なら、ファザコン連れて引き上げなよ。俺が……お前達を見逃してやるよ」
殺気を出しながら言う。それに反応するワイルドハント。辺りは一触触発状態だ。しかし…
「イェーガーズだ!何をやっている!」
その時ウェイブの声が聞こえた。
「お!ウェイブじゃん。ランさんも居るのね」
「シュウくん…またやらかしたんですか?」
「待て!その言い方だと毎回問題を起こしてるみたいじゃ無いか!」
そんな事言ったら何を今更みたいな顔された。
「なん……だと……?」
ば、バカな……俺の様な……模範的な人間が何処にいる?いや、居ない!
「シュウくんは模範的な人間では無いので」
「ランさん!心を読まないで!」
取り敢えず門下生は解散させ、ワイルドハントもいつの間にかファザコンを回収して消えていたのだった。
タンブル・ウィード
西部劇などで登場するコロコロ転がってる草。
日本語では「回転草」と呼ばれれるオカヒジキ属ヒユ科の植物。
また近年では大量発生しており、転がりすぎて子供達を喜ばせちゃうタンブルウィード。