ストロング石島:LP4000
手札:1枚
場:≪バーバリアン・キング≫、≪バトルフェーダー≫
伏せ:2枚
榊遊矢:LP4000
手札:2枚
場:≪オッドアイズ・ファントム・ドラゴン≫、≪EMユニ≫、≪EMコン≫
伏せ:2枚
Pゾーン:≪オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン≫、≪オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン≫
舞網スタジアムは騒然としていた。
≪儀式≫とも違う、≪ユニオン≫でもない、最近になって普及し出したEXデッキを用いる三つのどれにも当てはまらない。
未知なる召喚法、ペンデュラム召喚を前に、理解が追い付いていないのだ。
「説明しよう! ペンデュラム召喚について!」
いつの間に準備したのか。
遊矢は眼鏡を、≪ユニ≫と≪コン≫がホワイトボードを設置し、それをスクリーンへ投影。
「ペンデュラム召喚とは、
スパッと片付け、ゴミ一つだって残さない。
観客は未だに混乱しているが、新たな召喚法を目の当たりにした興奮の方が勝るのだろう。
細かいことは気にするなと、デュエルの行く末を見守りだした。
「律儀な男だ、俺にペンデュラム召喚の仕組みを教えるなど。自分が不利になるとは考えなかったのか?」
「負けた時の言い訳にされたくないだけさ。それに、教えたのは基礎の基礎。応用編の代金はこの後払ってもらおうじゃないの。王座の座り心地、あんたを跳ね除けてから直に確かめてみるのも一興かもよ、チャンピオンさん?」
「抜かせ、挑戦者!」
遥かなる高みから見下ろす挑戦者を、遊矢は人を喰った笑みとともに見上げた。
「まだオレのメインフェイズは終わってない! 装備魔法、≪魔導師の力≫を≪ファントム≫に!」
≪オッドアイズ・ファントム・ドラゴン≫
攻2500→5000
「なに!? お前の魔法、罠ゾーンにあるのは≪魔導師の力≫を含め3枚の筈! にも拘らず、この上昇値……まさか、Pゾーンに置かれたPカードとは!?」
「あんたの考えてる通り! PモンスターはPゾーンにある時、魔法カードとして扱うのさ! そしてバトルフェイズ! ≪ファントム≫で≪バーバリアン・キング≫を攻撃! 夢幻のストライクフレイム!」
初めてPカードを見た時の疑問が氷解する。
しかし、ストロング石島のデュエリストの決闘勘は、遊矢の一歩上をいく。
「甘い! 俺は伏せカードを発動させる! 永続罠≪バーバリアン・レイジ≫! 戦士族である≪バーバリアン・キング≫の攻撃力を1000上昇させ、戦闘破壊したモンスターをバウンスさせる!」
≪バーバリアン・キング≫
攻3000→4000
「だが、それでも攻撃力は≪ファントム≫の方が上だ!」
「だから甘いと言った! 更に伏せカードを発動! 速攻魔法≪サイクロン≫! ≪魔導師の力≫を破壊だ!」
「なんですとぉ!?」
「迎撃しろ! ≪バーバリアン・キング≫!」
「予定通りにいかないのは世の常か……オレも伏せカードをオープン! 速攻魔法≪ハーフ・シャット≫! ≪バーバリアン・キング≫の攻撃力をターン終了時まで半分にし、戦闘破壊耐性を付ける! 押し切れ、≪ファントム≫!」
≪オッドアイズ・ファントム・ドラゴン≫
攻5000→2500
≪バーバリアン・キング≫
攻4000→2000
ストロング石島LP4000→3500
豪炎と豪腕、二つの力がぶつかり合う。
≪ファントム≫の炎が僅かに勝るが、あと一歩のところで及ばず、≪キング≫の皮膚を焼く程度のダメージしか負わすことは叶わなかった。
だが、≪ファントム≫の攻撃はまだ終わってはいない。
「この瞬間、≪ファントム≫の効果発動!」
「なに!?」
その言葉を合図に、≪ファントム≫の前に飛び出す二つの影。
≪ペルソナ≫と≪ミラージュ≫がストロング石島の前に躍り出て、その咢を開いた。
「≪ファントム≫がペンデュラム召喚したターン、このカードが戦闘ダメージを与えた時、Pゾーンの≪ペルソナ≫と≪ミラージュ≫の攻撃力のダメージを与える!」
≪キング≫は≪ファントム≫との攻防で体力を消耗し動けない。
デュエリストの盾であるディスクを構え、ストロング石島は衝撃に備えた。
「幻視の力! アトミック・フォース!」
「ぐぅ……!!」
≪オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン≫
星5/攻1200/守2400
≪オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン≫
星3/攻1200/守 600
ストロング石島LP3500→1100
「ちぇ、このターンで決めるつもりだったのに」
一見呑気な物言いだが、遊矢の内心は冷や汗ものだ。
ペンデュラム召喚の時に≪サイクロン≫を発動されていたら、色々とヤバかった。
とはいえ、チャンピオンはデュエリストだが、それ以前に人間だ、動揺もする。
Pカードが魔法カードも兼ねることは初見ゆえに知らなかったのだから、安易にプレイングミスと断ずることも出来ない。
「オレはこのままターンエンド」
瞬間、≪ハーフ・シャット≫の効果で減少していた≪キング≫の攻撃力が元通りに。
手札と伏せカードは共に1枚、頼みの≪ファントム≫の攻撃力は≪キング≫より下。
チャンスから一転、遊矢はピンチに追い込まれていた。
「最初に言っておこう。見事だ、榊遊矢。そして、これも言わねばなるまい。すまなかった」
息を尽かせぬカードの応酬に興奮が冷めやらず、湧き上がる観客とは裏腹に、問い掛けるストロング石島の声は穏やかだった。
「この勝負、俺は最初から乗り気ではなかった。3年前の決着は、あの時の渇きは榊遊勝が相手でなければ癒せない。榊遊勝とお前は、例え血を分けた肉親と言えど、他人にしか過ぎないからな」
だが、とストロング石島は言葉を続ける。
握った拳を開き、獲物を前にした肉食獣のような眼光で。
「だがこのデュエル、今この瞬間も! 俺の渇きは満たされている! 俺は心から満足しているんだ! これほど心躍るデュエルをしたのは久しく覚えがない!」
「オレも! あんたとデュエルできて嬉しいよ! あんた最高だぜ、チャンピオン!」
「当然だ! そしてこのデュエル、俺が強いと証明する! チャンピオンは一人、この俺だ!」
轟! と一陣の風が舞網スタジアムを駆け巡る。
ストロング石島の起こしたドローの風圧は、まさにチャンピオンに相応しい風格だった。
「ふっ、無神論者だが俺も神を信じたくなったよ。俺がドローしたのは≪運命の宝札≫! さぁ、俺と榊遊矢の運命を決めるダイスロールだ!」
出現した巨大なダイスが示す数字は3。
良いとも言えず、かといって悪いとも言えない、そんな数値。
≪運命の宝札≫の効果により、1枚だったストロング石島の手札は4枚へ。
運命が誰に味方したのか、それはこのターンをストロング石島の猛攻次第ともいえる。
「墓地の≪アマリリース≫の効果発動! 自身を除外することでこのターン、モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくする事ができる! 更に、手札から速攻魔法カード≪帝王の烈旋≫! このターン、EXデッキの使用を封じる代わりに、アドバンス召喚に必要なリリース1体を相手フィールドから代用する! 俺が選択するのは≪オッドアイズ・ファントム・ドラゴン≫だ!」
渦巻く烈風が≪ファントム≫を襲い、ストロング石島は手札の最上級モンスターを召喚しようとカードを握る。
だが、烈風が通り過ぎた後、何もないはずの場所に存在するのは、1つの巨大な箱だった。
「どういう……ことだ……!?」
「答えは箱の中さ! では、早速ご覧あれ!」
遊矢の合図の後、箱から飛び出してきたのはPゾーンにいる筈の≪ペルソナ≫。
そして、フィールドにいた筈の≪ファントム≫はPゾーンにいた。
「これは一体……」
「≪ペルソナ≫のP効果!」
「P効果だと!? PカードとはPゾーンでPスケールになるだけではないのか!?」
「Pカードは、通常のモンスター効果に加えて、Pゾーンに置かれてた時に発動できるP効果を持っているのさ! ≪ペルソナ≫のP効果は、自身をフィールドにいる別の≪オッドアイズ≫モンスターと入れ替えることができる! よって、対象を失った≪帝王の烈旋≫は不発だ! ≪ペルソナ≫の効果はまだ続くよ! 1ターンに一度、フィールドのカード1枚の効果を無効にする! オレは≪バーバリアン・キング≫を選択! 2回攻撃は防がせてもらう!」
「甘いぞ遊矢! チャンピオンのデュエルとは、常に相手の一歩先を行く! 墓地より≪スキル・プリズナー≫の効果発動! このカードを除外し、≪バーバリアン・キング≫を対象として発動した効果を無効にする!」
「ちょっと待てぇ!? あんたが最初に≪クリバンデット≫で捨てたカードって……!?」
これまで墓地で確認できたのは≪バーバリアン1号≫、≪バーバリアン2号≫、≪アマリリース≫、そして≪スキル・プリズナー≫。
更に、手札に加えたのは≪蛮族の狂宴LV5≫。
なんという強運――否、運さえも味方につけるからこそ、彼はチャンピオンなのだ。
「そして、チャンピオンの中でも、俺のようなチャンピオンは二歩先を行く! 手札より速攻魔法≪魔法効果の矢≫を発動! これでお前のPゾーンは更地だ!」
「げげぇ!?」
遊矢LP4000→3000
「Pカードはフィールドから離れる時、墓地にはいかずEXデッキに行く!」
「それがどうした! 発動済みの≪アマリリース≫の効果を使い、≪バトルフェーダー≫をリリースして2枚目の≪バーバリアン・キング≫をアドバンス召喚! 更に魔法カード≪死者蘇生≫! 墓地にいる3体目の≪バーバリアン・キング≫を蘇生させる!」
壮観な光景だった。
ストロング石島を肩に乗せる≪キング≫の両隣に出現する、新たな2体の蛮族の王。
観客のテンションは最高潮に達し、鼓膜が破れんばかりの歓声が沸き起こる。
これがチャンピオン、ストロング石島の実力。
遊矢の体が震えるのは恐怖からか、それとも歓喜による武者震いか。
だが、まだ可能性は残されている。
フィールドに伏せられた1枚のセットカード、そして不安そうに寄り添って来る≪ユニ≫と≪コン≫が、遊矢に残された最後の希望だった。
「お前の伏せカードは最初のターンから使われる気配はない。よって攻撃反応系の罠である可能性は皆無! 俺は≪バーバリアン・レイジ≫を装備した≪バーバリアン・キング≫で≪ユニ≫と≪コン≫を攻撃だ!」
だが、その希望は淡く潰える。
直撃こそ避けられたが、天から降り注ぐ王の裁きの鉄槌の余波に、≪ユニ≫と≪コン≫は共に密林に乱立する樹に叩き付けられ気を失ってしまう。
≪バーバリアン・レイジ≫の効果で手札に戻るが、遊矢の顔色は悪かった。
「その顔、やはり小娘共は墓地で発動する効果を持ってるのだな」
「愛しのカードが無事に戻ってきてくれたから、喜んでるのかもよ?」
「ならば、そのカード達を後生大事に抱えて散るがいい! 残ったモンスターを攻撃だ!」
破壊された≪ペルソナ≫はEXデッキへ。
だが、ストロング石島の猛追はまだ残っている。
そして、遊矢のライフは残り3000。
攻撃力3000の≪キング≫の前では一瞬で消し飛んでしまう数値でしかない。
フィールドは伏せカードが1枚のみ、まさに背水の陣と言える状況だ。
「認めよう! 榊遊矢、お前は最強の挑戦者だったと! だが、これでお終いだ!」
「まだだ! まだオレは終わってない!」
「見苦しいぞ、榊遊矢! 敗者にも潔さは必要だ!」
「泥臭くたっていいさ! それでもオレは足掻く! 少しでも可能性が残されているのなら、最後まで、絶対に、何度だって!」
「ならば理想を抱いて圧死しろ! ≪バーバリアン・キング≫! 榊遊矢に引導を渡せ!」
迫り来る鉄槌に、遊矢は静かに目を閉じた。
恐怖からでもない、自暴自棄になった訳でも、諦観からでもない。
確かに、遊矢に可能性はない。
伏せカードはストロング石島の言う通り、攻撃反応系ではなく、手札誘発も墓地から発動する類のカードも存在しないのだから。
「確かに、
だけど、遊矢は一人ではないのだ。
「だがな!
ストロング石島を押していた風向きが、変化する、
背中から吹き抜ける風が、背中に下ろされたフードを巻き上げ、遊矢の髪を覆う。
僅かに覗いた髪は赤と緑ではなく、黄と青へと変わっていた。
「伏せカード、オープン! 速攻魔法≪リロード≫! 手札3枚をデッキに戻し、戻した枚数分ドローする!」
「無駄な足掻きを!」
「無駄かどうかはドローしてから決めればいいんだよ! 俺はデッキから3枚をドロー!」
デッキから引き抜かれた腕が描く軌跡。
はたして、浮かんでいたのは笑みだった。
「相手のダイレクトアタック時、手札の≪SRメンコート≫は特殊召喚できる!」
「馬鹿な!? この状況で手札誘発を引き当てただと!?」
遊矢の前に降ってきたのは、玩具のメンコを模した機械。
そのまま宙へと浮かび上がり、四方の排気口から煙を吐き出しながら高速回転。
密林を覆う排煙に、王達は攻撃する気力を削がれてしまう。
≪SRメンコート≫
星4/攻 100/守2000
「≪メンコート≫が特殊召喚した時、相手フィールドのモンスターは全て守備表示だ! さぁ、手札ゼロのおっさん! エンド宣言しな!」
「むぅ……ターンエンドだ」
攻守交替。
ストロング石島の猛攻を凌ぎ切った今、手札と伏せカードのないこのチャンスを逃す手はない。
「俺のターン! 俺はチューナーモンスター、≪SR三つ目のダイス≫を召喚!」
≪SR三つ目のダイス≫
星3/攻 300/守1500
「チューナーモンスターだと!? 何故お前がそのカードを!」
「悪ぃが答えられねぇな! 俺はレベル4の≪メンコート≫に、レベル3の≪三つ目のダイス≫をチューニング!」
ダイスを模した機械、≪三つ目のダイス≫が光りの輪に変わり、その間を≪メンコート≫が駆け抜ける。
「その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!」
それは、絆を司る力。
「シンクロ召喚!」
一人では小さな力でも、仲間との絆で奇跡を起こす、そんな力の結晶だった。
「現れろ! レベル7、≪クリア・ウィング・シンクロ・ドラゴン≫!」
現れたのは、機械然とした体と透明な緑の翼を携えたドラゴン。
舞網スタジアムの上空を悠然と泳ぎ、主である遊矢の前に浮遊する。
≪クリア・ウィング・シンクロ・ドラゴン≫
星7/攻2500/守2000
「チューナーモンスターに、シンクロ召喚だと……!?」
「驚くのはまだ早いぜ! 魔法カード≪手札抹殺≫! 手札を捨て、捨てた枚数だけドロー出来る! 更に、墓地に送った≪代償の宝札≫の効果も合わせて、3枚ドローだ!」
「俺の手札は0。よって≪手札抹殺≫の効果は適用されない……」
「悪ぃな、おっさん! 俺ばっかり得しちまってよ!」
「先程からおっさんおっさんと! 俺の名前はストロング石島だ!」
空気が、変わる。
フードから覗く髪色は、黄と青から黒と青へ。
「申し訳ありません、ストロング石島さん。先程の非礼、私の方から謝罪します」
無礼千万な態度から一転、礼儀正しい口調からの美しい謝罪だった。
面食らうストロング石島に、ですがと遊矢は続ける。
「勝負は別! 悪いがこのデュエル、勝たせてもらう! 私はカードを3枚ドロー!」
デッキトップに添えた指先に意識を集中を。
これまでと同じように、そのドローは可能性を引き寄せる。
引いたカードを横目で見遣り、ふっと静かに微笑んだ。
「手札より魔法カード≪流転の宝札≫を発動! 効果により2枚ドローし、ターン終了時に3000のダメージを受ける!」
「お前のライフも3000なのだぞ! 勝負を捨てるつもりか!」
「捨てるのではない! 掴み取りに行く! これはそのための布石だ!」
更なるドロー。
手札とは、その枚数の分だけ可能性が存在する。
故に、遊矢が引き当てたのは、更なる可能性への道筋。
「魔法カード≪二重召喚≫! これにより、私は手札より≪幻影騎士団フラジャイルアーマー≫を召喚! 更に、私はカードを1枚伏せ、そして今伏せた罠カードを発動する!」
「罠カードは伏せたターンには発動できないのだぞ! まさか、その常識を覆すというのか!?」
「自分の墓地に罠カードがない時、≪幻影騎士団シェード・ブリガンダイン≫はセットしたターンに発動が可能! そして発動後、通常モンスターとしてフィールドに特殊召喚される!」
≪幻影騎士団フラジャイルアーマー≫
星4/攻1000/守2000
≪幻影騎士団シェード・ブリガンダイン≫
星4/攻0/守300
「私はレベル4の≪フラジャイルアーマー≫と≪シェード・ブリガンダイン≫でオーバーレイ!」
「この召喚方法は……!?」
フィールドの発生した渦へと、モンスターだった二つの光が吸い込まれていく。
直後、まるで小さな宇宙のような空間が瞬き、爆発を起こした。
「漆黒の闇より現れし反逆の牙!」
それは、希望を司る力。
「エクシーズ召喚!」
決して諦めない、なにかを信じ続ける、不屈の心が体現した力の結晶だった。
「降臨せよ! ランク4、≪ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン≫!」
現れたのは、強大な顎に雷の力を宿す漆黒のドラゴン。
雄々しき嘶きを迸らせ、主の敵を爛々と見詰める。
≪ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン≫
ランク4/攻2500/守2000
「シンクロの召喚に続き、エクシーズ召喚まで……!!」
「最後の1枚、魔法カード≪エクシーズの宝札≫は、自分フィールドにランク4以下のエクシーズモンスターが存在する時、そのランクの数値と同じ枚数のカードをデッキからドローする!」
「此処に来て更なる手札増強、だと……っ」
そして、三度空気は変化する。
覗く髪色は紫と黒から、濃淡な紫へ。
「僕は4枚のカードをドロー。申し訳ない、ストロング石島さん。ですが、僕はそれほど時間を掛けませんので、もう暫くの辛抱ですよ」
「辛抱……?」
「そうです。あなたの敗北、その瞬間までのな!」
慇懃無礼な仮面を取り外し、内なる本性が牙を剥く。
「僕が発動するのは、魔法カード≪融合≫!」
「まさか……まさか……!?」
一体、この短時間でどれだけ驚かされたのだろう。
言葉を失うストロング石島の視線の先で、神秘の渦が巻き起こる。
「手札の≪捕食植物フライ・ヘル≫と≪捕食植物モーレイ・ネペンテス≫を融合!」
2種類の食虫植物が渦を中心に混ざり合い、新たな生物が形作られていく。
「魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ! 今一つとなりて、その花弁の奥の地獄から新たな脅威を生み出せ!」
それは、結束を司る力。
「融合召喚!」
光と闇、本来な対極に位置する力も、異なる次元すらも束ねてしまう力の結晶だった。
「餓えた牙持つ毒龍! レベル8、≪スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン≫!」
現れたのは、体の各所に捕食器官を有する禍々しいドラゴン。
しかし、本来の凶暴性は、主人として認められた遊矢には発揮されることはなかった。
≪スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン≫
星8/攻2800
「ねっ? それほど時間は掛からなかったでしょ?」
「…………」
「おや、驚きで言葉も出ませんか。そんなあなたに、チャンスを上げますよ。魔法カード、≪運命のクロス・ドロー≫という、最後のチャンスをね」
最初から返事は期待していないのか、淡々と説明は為されていく。
「互いのプレイヤーはカードを1枚ドローし、それがモンスターカードだった場合、相手の場に守備表示で特殊召喚され、自分は攻撃力分のライフを回復できる。素晴らしい、Win-Winな関係とはまさにこのことですね」
口元に手をやり、クスクスと微笑む遊矢には取り合わず、ストロング石島は力ない所作でカードを引く。
「俺が引いたのは、魔法カード≪天よりの宝札≫だ」
最強と呼び声高いドローカード。
だが、次のターンがくる可能性は限りなくゼロに近い。
このターンの終了時、≪流転の宝札≫の効果で3000のダメージを受ける遊矢には、そのような悠長な時間は残されていないのだ。
この場合、≪バトルフェーダー≫のような防御系カードが理想だが、ストロング石島のデッキにはその手の類のカードは残されていない。
長い時間、試行錯誤を重ねて完成させたデッキだからこそ、ドローカードに可能性がないことは、他ならぬストロング石島自身が誰よりも理解していた。
それこそ、デュエル中にカードを創造するなんて、荒唐無稽な現象でも起こりえない限り。
それでも≪天よりの宝札≫が、今できる最善のカードが引けたのは、デッキがストロング石島に力を尽くそうとした結果なのだから。
「さて、舞台は整えましたよ、遊矢。カーテンコールはあなたが行ってこそ栄えるのですから」
戦いは、終幕の時へと近付いていく。
「Ladies and Gentlemen! お楽しみは、これからだ!」
吹き荒ぶ風が、遊矢のフードを取り払う。
赤と緑の髪を揺らし、デッキトップに手を掛け、カードを引き抜き、一瞥すらくれず、そのままデュエルディスクへと差し込む。
最強デュエリストのデュエルは全て必然。
世界最高のエンタメデュエリストを目指すのなら、自分が望むカードくらい引けなくてどうするのだ。
「オレが引いたのは、魔法カード≪アメイジング・ペンデュラム≫!」
そして、望んだ通りのカードを、必然であるかのように引き当てた。
「Pゾーンにカードがない時、EXデッキからPカードを2枚手札に加えるよ! オレが加えるのは、≪ペルソナ≫と≪ミラージュ≫! そのまま左右のPゾーンへセッティングだ!」
最初の巻き戻しであるかのように。
左右の光の柱に、同じモンスターが、同じ数字が。
「揺れろ運命の振り子! 迫り来る時を刻み過去と未来を行き交え!」
それは、可能性を司る力。
「ペンデュラム召喚!」
勝利を掴み取るため、勇気をもって前へ出ようとする者へ授けられし、可能性の結晶だった。
「EXデッキより舞い戻れ! レベル7、≪オッドアイズ・ファントム・ドラゴン≫!」
シンクロ、エクシーズ、融合、ペンデュラム。
今ここに、四種類の召喚法により生み出されたドラゴン達が集結した。
≪クリア・ウィング≫が鳴く、≪ダーク・リベリオン≫が叫ぶ、≪スターヴ・ヴェノム≫が咆哮する、そして≪ファントム≫が拳を掲げる。
次の瞬間、示し合わせたように、残ったドラゴン達が拳を突き出し、ぶつけ合う。
再開を祝して、眼前に聳え立つ蛮族の王を共に討ち倒すために。
「≪クリア・ウィング≫! ≪ダーク・リベリオン≫! ≪スターヴ・ヴェノム≫!」
主人の声を合図に、彼等は攻勢に出る。
旋風、雷撃、猛毒。
守備表示の示すように、膝を屈する三体の蛮族の王達へ向け、最大攻撃を放とうと。
「……≪バーバリアン・キング≫?」
手札はゼロ、伏せカードもゼロ、墓地で使用できるカードもない。
打つ手を失い、目を伏せるストロング石島の前に、立ち上がった蛮族の王達は両手を広げた。
敗北を悟り、勝負を諦めた自分を守護するように。
その頼もしい後ろ姿に、ストロング石島を襲ったのは懐かしさ。
まだ幼かった頃、初めて目にしたソリッドビジョンで見た大きな背中が、彼等と重なる。
チャンピオンになり、≪L.C≫というスポンサーを持ち、彼等の進める最新鋭の強力なカード達を前に、それでも彼等を、時代遅れだと評される≪バーバリアン≫達を使い続けた理由。
強いカード、弱いカード、そんなの人の勝手だ。
本当に強いデュエリストなら、自分の好きなカードで強くなれるよう努力すればいい。
「三体の≪バーバリアン・キング≫を攻撃だ!」
一斉攻撃、直後に閃光。
膨大なエネルギーにより生じた爆風を背に、ストロング石島は走り出す。
見苦しかった、潔さなどなく、チャンピオンの栄光が霞んでしまうほどに泥臭い。
「嫌だ……俺は、負けたくないぃいいいい!!」
それでも、負けられない理由があるから。
それでも、勝たねばならない理由があるから。
「終わりだ! ≪ファントム≫でストロング石島にダイレクトアタック!」
ストロング石島は、チャンピオンだ。
だから、彼の使うカード達は評価される。
≪バーバリアン≫達は強くてカッコいいんだと、誰もが認めてくれるんだ。
ストロング石島が負けてしまえば、≪バーバリアン≫達は、だから――。
「俺はアクション魔法≪回避≫を発動!!」
飛び付き、拾い上げたカードは、攻撃を一度だけ無効にする起死回生の札。
≪ファントム≫が射出した熱線が横を過ぎ、上げた顔が希望に染まり、後ろへ振り返った顔が絶望に染まる。
「サンキュー、≪ユニ≫。≪コン≫も、やっぱりお前らはオレの勝利の女神だよ」
再び収束する、≪ファントム≫の口腔に光が。
その傍ら、≪ユニ≫と≪コン≫が叩き付けられた樹の前でしゃがみ込んだ遊矢が握るのは、フィールドに散らばっているアクション魔法のうちの一枚。
「カードは拾った! アクション魔法≪セカンド・アタック≫! これにより、≪ファントム≫は追加攻撃が可能になる!」
今度こそ、ストロング石島の心は折れてしまった。
「強かった! チャンピオンも、バーバリアン達も! 最高に強くてカッコよかったよ!」
それでも、ストロング石島は、笑って前を向いていた。
「お楽しみは、これまでだ! 夢幻のスパイラルフレイム!」
極光。
ストロング石島LP1100→0
アクションデュエル王座決定戦は終わり、新たなるチャンピオンが誕生した瞬間だった。
◆ ◇ ◆ ◇
「チャンピオンは一人、このオレだ!」
馬鹿と煙は高いところが好きである。
遊矢は巨大な紙飛行機に乗り、大空を滑空していた。
――遊矢はチャンピオンではない。
「うっ……」
――こちらは四人、チャンピオンは一人。どちらがデュエリストとして優れているが、言うまでもありませんね。
「うぐぅ……」
――どっちにしろ、辞退した遊矢はチャンピオンじゃねぇだろ。
「おう……」
容赦のない彼等の物言いに、崩れ落ちる遊矢の背中に漂うには哀愁だった。
アクションデュエル王座決定戦、チャンピオンのストロング石島に勝利した遊矢は直後、辞退を宣言しスタジアムからトンズラをかましたのだ。
理由は二つ、チャンピオンなど柄ではないと思ったから。
「……でも、これでもう一度ストロング石島とデュエル出来るだろ?」
そして、ストロング石島との再戦。
≪サイクロン≫に≪魔法効果の矢≫、これらの発動タイミングが後手に回ってしまったのはストロング石島にPカードの知識が不足していたのが大きい。
今回は勝ちを拾えたが、次も勝利できると断言できないほどに、ストロング石島は強かった。
「それに、ストロング石島とのデュエル、すっごく楽しかったしさ」
かの忌まわしき過去、弾けた連中との間にあったのは生きるか死ぬかの緊張感だけ。
それと比べ、ストロング石島とのデュエルは、まるで初心に帰るような気持ちになれた。
デュエルは楽しく、楽しむなら皆で最高に盛り上がろう。
勝ち負けのみに固執した、かの連中とのデュエルで忘れかけていた、遊矢がエンタメデュエリストになろうと決心した、その始まりの記憶を。
「そうと決まれば、アジトに戻って情報収集だ!」
――この世界のアクションデュエルは、私達の世界とは勝手が違うようだからな。
――フィールドに散らばるアクションカードの数は膨大。1ターンに1枚という使用制限もなし。
――その上、アクション罠だっけ? 完全なハズレ札までありやがるんだからな。
この世界は、遊矢のいた世界とは異なる次元に位置している。
判断材料は幾つもあった。
柚子へ抱いた違和感、MAIAMI市とよく似た、しかし違う景観を有する舞網市。
極め付けが自分達が根城にしていたアジトの消失だ。
近場に合ったPCで情報収集をする中で、今いる此処、舞網市はかつていた世界とは別次元に位置し、そこへ自分達は迷い込んだのだという推論に辿り着くのは、然したる時間が必要なかった。
遊矢がこの次元のアクションデュエルに順応できたのも、前情報として調べたから。
同姓同名で、かつ容姿まで瓜二つの榊遊矢が存在していることから、パラレルワールドという線もあり得るだろう。
――遊矢は、恐ろしくはないのか? 此処は、私達にとって未開の地なのだぞ。
だからこそのユートの疑問。
だけど、遊矢の答えは決まっていた。
宙を滑空する紙飛行機の上で胡坐を搔き、背中に浮遊する三人の人格達へ振り返る。
「全然、これっぽっちも。だって、お前らがいるし」
オカン気質の世話焼きに、喧嘩っ早いヤンキーに、表裏の激しい慇懃無礼野郎。
喧嘩など日常茶飯事、罵り合い、殴り合い、それでも絆は不変だ。
一つの体を共有し、互いが互いを助け合う、絶対無敵の四重人格。
だからこそ、遊矢は不安や恐怖など感じることなく、彼等に笑顔を見せることが出来るのだ。
――ははっ、だったら問題ねぇや!
――これまでも、そしてこれからも。僕達は何処までも一緒ですよ、遊矢。
――全く、心配をして損をしたぞ。
眼下に広がる、舞網市の街並み。
降り注ぐ太陽が反射し、まるで祝福をするかのように遊矢達を照らし出す。
彼等の行く先は全く見通すことのできない暗闇。
だけど、遊矢達四人の表情に、不安など欠片だって存在していなかった。
「心配かけてごめんね、ユートママ」
――ユートお母さんにはいつも気苦労を掛けてばかりですね。
――ユートオカン! デュエルしたから腹減っちまってよ! 早くメシ作ってくれよ!
――貴様らの母親役など! 私は! 絶対に! 引き受けたりなどはしないからなぁ!
今この瞬間、四人の目には未来は確かに明るく、輝いて見えていたから。
≪トマトとナスとバナナと紫キャベツ≫だけど、本作を執筆しようと思った最大の理由が、各人格のエースドラゴンを全召喚することなんですよね。
作者的には書きたいこと書いたですし、もう一作の方の執筆もやらなきゃなので、次の話を楽しみにしてくれていた読者の方々には悪いけど、本作は一応完結という形にさせてもらうっす。
また書きたくなったら続きを書くかもですが、期待せずに待ってくだされば幸い。
では、また何時か何処かで。