少女は何を見る   作:晏佳@12

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十話『少女の分岐点』

黒い靄に覆われて。

次に目を開けたときは既に見知らぬ場所に飛ばされていた。

 

「………」

 

ここはどこだ。

 

古びた店のようにも見えるが。いかんせん空気が悪すぎる。

そしてなにより先程私を襲ってきた黒い靄がカウンターでコップを拭いているがどういうことなのか問いただしたい。

 

顔は一ミリも動かないが。それでも暦の脳内はパニックぎみになっていた。

 

「そんなところに立っていないで、どうぞお座りください」

 

黒い靄。黒霧と名乗った男は自分の目の前の椅子を示す。

特に異論もなかったので素直に座ると、すぐに飲み物が出された。

 

「オレンジジュースで大丈夫ですか?」

「………ありがとうございます」

 

なんだこいつ。

なんでこんな紳士的なんだ?

本当に敵なのか?

それとも。やっぱり敵でも悪に染まりきっているけではないのか?

いいな。こいつ。

知りたいな。もっと。

どんな活動をしているのか。

目の前の紳士的な男も残虐なのか。

なんで敵になどなったのか。

嗚呼知りたいな。気になるな。

 

黒いものがどんどん胸に渦巻いていくのが感じる。

 

ジッと男を見ていると、奥のドアが開いた。

 

「あ………?誰?そいつ」

「狭間暦さんです。ほら、例の」

「ああ………」

 

顔に手を張り付けてる男が出てくると。席をひとつ開けて座った。

 

「あー…………なんて名前だっけ?」

「狭間暦です。あなたは?」

「死柄木弔」

「ヴィランなんですか?」

「そうだよ」

 

話ながら出された食事を食べ始める弔。

そんな彼を私はジッと見ていた。

 

「………なに」

「どうしてヴィランになったんですか?」

「は……?」

「どんなことを普段しているんですか?その手はなんですか?どういう理由でヴィランになったんですか?ヴィランとしているのに何か信念というものはあるんですか?」

 

たてつづけに言いつのる私に、彼は奇妙なものを見るような目で見る。

 

「………お前さ。なんでそんなもの着てんの?」

「………雄英の制服ですか?なぜと言われても学校の制服で帰りがけに襲われたのでそのまま。としか言えないのですが」

「そういう意味じゃなくて。なんでそんなとこにいんだよ」

「………?」

「お前は、こっちだろ?なんでそっちに平然と立ってんの?」

 

こっち。そっちと。自分と私を指差し言う彼の言葉が、何故か胸に刺さった。

 

「………こっち?」

「そう。お前はヴィランであるべきだ。自分でもわかってんだろ?」

 

 

自分ではいつも。考えがヴィラン寄りだとは思っていた。

けれど、他人から言われたのは初めてだった。

初めて言われた。

初めて、その事実を突きつけられた。

だからなのか。

今まで言っていたことが、初めて。実感したのだ。

 

 

固まる私を、死柄木は一瞥すると前の食事に視線を戻した。

 

「狭間暦さん。先程も言いました通り、我々はあなたを引き入れたいのです。どうですか?共に進みませんか?」

「………」

「それに、こちらに来ていただければ、ヴィランもヒーロー。総じて観察することができますよ」

「それは確かに……魅力的ですね」

「でしょう?そちら側ではヒーローしかみれない。けれどこちらに来れば、どちらも見ることができる。それになにより、こちらにはあなたを否定するものもありません。調査した通りの人物ならば、断る理由はないと思うのですが」

 

こいつは私をよく分かっている。

そうだよ。いつもの私ならそんな魅力的な話。飛び付いているはずだ。

でも。

 

 

なんで、こんなときに相澤先生の顔が浮かぶんだろうか。

 

 

 

__お前が道を踏み外しそうになるんなら、俺が手を引いてやる。__

 

 

 

ああそうだ。

 

あの人は。初めて私を拒絶しないでくれた人。

例え父娘という理由であっても。

私の考えを聞いても拒絶しないでくれた人。

 

初めて。

 

初めて、私の手を引いてくれた人だ。

 

 

 

その思いに気づいたとき。私は不覚にも泣きそうになった。

顔には勿論出ないが、それでも、どうしようもなく泣きたくなった。

 

 

 

もう私の頭のなかにヴィランという選択肢は存在していなかった。

 

 

今はただ。あの人に会いたい。

 

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