今私は、応接室で校長先生と警察の人。塚内さんといったっけ?その二人を前にして座っていた。
私の発言のあとにすぐ連絡したそうだが、来るの早すぎないか?一体どうやって来たんだろうか?
「それで、狭間暦さんと言ったよね。ヴィランたちとどんな感じであって、一体何を話したのか詳しく聞かせてもらってもいいかい?」
「………黒霧と名乗る男が現れたのは下校途中の普通の路地です。私の個性が目当てで勧誘しに来たと言っていました。そのまま何かする隙もなく、黒いもやに包まれて気がついたら古びたバーのような場所に移動していました。
そこで死柄木と名乗る男が現れ、改めて私は勧誘されました。ですが、気になることを言っていたので、ついつい怒りで我を忘れてしまいまして。
『拒絶』しようとしたら元の場所に戻されていました」
そういい終えると、塚内と言った警察の人は眉を潜める。校長は表情が変わらない。
「確か、君の個性である『拒絶』は、あらゆる現象を否定し拒絶できるんだよね?でも人間は出来ないはずじゃなかったっけ?」
「確かに出来ませんが、その時は出来る気がしていたんです。どうなるか見てみたかったというのもありますし」
「万が一出来たとしても、それがどういう結果になるかは君ならばわかるはずだ。_____殺そうとしたのかい」
校長は疑問ではなく断定として言いきった。
何をそんなに怒っているのか。
「彼らはヴィランです。どうなろうと知ったことではありません。第一、私だって初めてだったんですよ。あんなにも感情がぶれるなんて」
校長の表情は変わらないが、何やら影ができている。
無言で睨みあっているといっていい見つめあいがつづくと、塚内が顔をひきつらせて話に入ってくる。
「気になることと言ったね。どういう内容のことか聞いても?」
「彼らが相澤先生を襲い、あんな風にした元凶だということです」
その言葉に、彼らは何故か驚いたような顔をする。
「君は、相澤くんのことをあまり好いてはいないものだと思っていたよ」
「確かに数日前まではそうでした。正確にはどちらでもなかったですが。けれどきっとあの日から、既に私の中であの人は大きな存在になっていたんでしょうね。嗚呼。だったら彼らには感謝しなければ。彼らのお陰で私は私の本心に気づけたのですから」
微かに微笑みながら私はいう。
不思議なものだ。
あれだけ表情が変わらなかったにも関わらず、あの人のことになるととたんに頬が緩まる。
「彼らはあの人をあんな目にあわせたんです。すでに怪我は私が『拒絶』しているので大事ではありませんが、彼らが相澤先生を傷つけたのは事実。そんな奴らが存在することすら忌まわしいのですから、勧誘の件は当然お断りさせていただきました」
校長は真剣な表情でこちらを見据える。
その黒い眼がまるで私のすべてを見透かそうとしているようだった。
「今日の放課後にある話したいことというのはそのことかい?」
「はい。今さら受け入れてくれるかどうかはわかりませんが、この気持ちだけでも知っていてほしいので」
「…………わかったよ。ありがとう。担当の先生には言っておくから、授業に参加しなさい」
何やらその態度に引っ掛かりを覚えるが、深く聞くほどのものではないと判断し、私はお言葉に甘えて部屋を出ていった。
「彼女は変わったよ」
「変わった?」
「数日前まではこの世のすべてがどうなろうと知ったことではないという態度だった。それはそれでとても危ういものだったけど、今の方がずっと危うい」
「………確かに、イレイザーヘッドの話をする彼女は、何やら狂気めいたものを感じましたが」
「相澤くんは、この短い時間の中で何をしたんだろうね。とりあえずはヴィランに堕ちることはないだろうし、例え一人だけだとしても関心を寄せるのはいい傾向なのかもしれない。ただねぇ………」
彼女の世界は、広いようでとても狭い。
今の状態ではきっと相澤くんただ一人で一杯なのだろう。だからこそ、彼以外はどうでもいいと考えている。
大切なものが出来たからこそ、その思考は前よりもさらに過激になっている。
彼女はきっと、相澤くんを傷つける者には容赦はしないだろう。
それがヴィランであろうと。ヒーローであろうとも。
例え、この世界そのものであろうともね。
「ちゃんと手を引いてやってよねー。」