少女は何を見る   作:晏佳@12

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編入(1)

「体育祭?」

 

 

暦と一緒に住むようになってからまだ二日しか経っていない。

けれど既に家の家事は全て暦がやるようになっていた。

 

いや、最初は俺もやろうとしたんだが、なにしろ暦の行動は無駄がいっさいなく俺が入る隙がなかった。

食事も最初に来た日に冷蔵庫の中に何もなかったことにキレられ(静かだったが確かに怒ってて少し恐かった……)それから食材を買ってきて暦が作るようになった。

俺の食生活は一変した。

朝は勿論。昼は弁当を作ってくれる。夕飯は帰れないときもあるし、遅くなるからいいとは言っているがいつも俺の分も作っておいてくれている。

この年でもう主婦なみ。俺の娘マジで凄すぎる。

 

今日は珍しく早くに帰ってこれたので、暦と一緒に夕飯を食べながら俺が言った言葉を暦がおうむ返しのように言った。

 

「そうだ。あと数日で体育祭だ」

「それは知っていますが」

「頑張れよ」

「!………はい」

 

俺の言葉に照れたように返事をする暦。

外では完全に表情筋が死んでいるが、俺の前では結構感情豊かだ。

まあ、それが俺の前だけというのは結構嬉しい。

 

「上位は狙うのか?」

「いえ、私の他にヒーロー科を目指している普通科の生徒は多くいますし、その人たちに恨みを抱かれるのも面倒なので予選で落ちようかと思ってます」

「……………そうか」

 

絶対に体育祭自体が面倒だという気持ちもあるだろ。

 

暦はこういうことが多い。

ここ二三日過ごしただけでも、自分が興味を示したこと以外は全くといって無関心。力はあるはずなのに、それを発揮することは全くない。俗にいうめんどくさがりだということが理解できた。

 

 

「あー……その、だな」

「はい」

 

俺は頭をかきながらどうやって例のことを暦に話そうか迷った。

 

 

それは数時間前のこと。

 

 

「狭間さんをヒーロー科に転入させようと思うんだ!」

 

職員室でいきなり校長にそんなことを言われた俺は、少しの間何を言われたのか分からず硬直した。

 

「………………は?」

 

やっと頭が追い付いたと同時に出たのは自分でも分かるほど機嫌の悪い低い声。

 

「Aー。校長先生、それはまた突然どうされたのですか?」

 

俺が話すとややこしくなると思ったのか、オールマイトが代わりに聞く。

他のやつらも、校長のいきなりの言葉に興味があるのか全員こちらを見ていた。

 

「狭間さんの個性は強力だろう?この前のようにヴィランに目をつけられ拐われるかもしれない。そのために!己の身を最低限守れるようにヒーロー科で経験を積んでもらおうと思ったのさ!」

「あいつにはむやみやたらと個性を使わないように言ってあります。それに、あいつの個性の性質上普通よりも身体は鍛えてあるみたいなので、そこらへんのチンピラ風情なら問題ありません」

「でもヴィランはチンピラだけじゃない。むしろそれよりも凶悪だ」

 

隣で聞いていたオールマイトが静かに言う。

 

「なら俺が守ります」

 

驚いたように目を見開かれるが、嫌なのだ。

ヒーロー科は厳しい。怪我をするし、ヴィランと接触することだってある。リカバリーガールがいるとはいえ、暦に怪我をしてほしくないのだ。

それに、今はなるきがなくともヒーロー科に在籍しているうちにヒーローになるなどと言い出したら最悪だ。いや、暦に限ってそれはあり得ないが、もしもがある。

あいつには、出来うるかぎり危ない目にはあってほしくない。

 

「でも、それにも限りがあるじゃない」

「鍛えているとはいえ、経験の差はどうしようもない」

「いつでも先輩が側にいられる訳じゃないでしょう」

 

ついには聞いていただけのミッドナイトとセメントス。そして13号までもが敵に回ってしまった。

 

「狭間に聞いてみるだけ聞いてみたらどうだ?ヒーロー科に入れたくないってのはお前の意思で、狭間の意思じゃねぇだろ」

 

マイクにまでそう言われてしまい少し怯むが、それでも絶対に頷かないという姿勢でいる。

まるで俺が駄々っ子のようだ。

 

「何も強制じゃない。けれど、この先ずっと個性を隠して生きていくわけにもいかないし、万が一狙われたときの為の自衛の術。ヒーロー仮免許は取得したほうがいいんじゃないかな?」

 

校長に言われた言葉に、考えさせられる。

 

確かにずっと俺が側にいられる訳じゃない。今は学校で守っていられるが、卒業してしまえばずっと難しくなる。それにいつかはあいつも自立するんだ。

ならば、せめてヒーロー仮免許ぐらいならば………。

 

「…………………………………………………分かりました」

「イエイ!それじゃあ早速編入の話なんだけどね!」

 

やっとの思いで答えると、それを予期していたのかすぐに編入の話へと切り替える校長をジト目で睨む。

 

「何もなくすぐに編入させるというのも周りが納得しない。だから体育祭を利用しようと思うんだ!」

「確かに。体育祭で好成績を出せば編入しても自然でしょうしね」

 

うんうんと周りが頷くなか。俺は苦い顔をする。

 

「あー……それは無理ですよ」

「何故だい!?」

「あの子なら余裕だと思うけど……」

「実力だけならトップクラスです。でも暦自身にその意思がないので、多分予選落ち狙ってますよ」

 

その言葉に一斉に驚かれる。

 

「狙ってって。わざとかい!?」

「あいつは基本的にめんどくさがりなんで、十中八九不自然じゃない程度に手を抜きますね」

「マジかよ!!??」

「そんなことができるなら優勝するのだってできるでしょうに………」

「まあその辺はさ!相澤くんが説得してよ!頼んだよ!」

 

 

 

 

と、いうわけだ。

 

 

「あー………暦」

「なんでしょう」

「体育祭、本気出してみないか?」

「?」

「実はお前のヒーロー科への転入の話が出ている」

 

その言葉だけで全てを理解してしまうのだから本当に凄い。

 

「分かりました。面倒ですけど確かに仮免許は持っていて損はしないですしね。ヒーローになるきは一切ないのですが大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ」

 

 

あとあれだ。

マイクが言っていたこともついでに言っておくか。

もうやる気にはなってくれているから必要はないだろうが。

 

「暦」

「はい?」

「ヒーロー科に来れば、俺とほとんど一緒に過ごせるな」

「!頑張ります!」

 

 

目に見えてやる気が上がった。

それはいいんだが、マイクの方が俺より暦のことを知っているようで腹立つな。とりあえずあいつは明日殴っておこう。

 

 

 

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