少女は何を見る   作:晏佳@12

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六話「もっと俺を、周りを頼れ」

翌日の昼休み。

暦は持ってきたご飯をさっさと食べ終わると、図書室へと向かった。

さすが雄英とでもいうのか、その蔵書数は他の高校やその辺の図書館とは比べ物にならないものだ。

なので大抵のものならここで調べられる。

暦が雄英を選んだ理由の一つでもあるのだ。

 

ここにはいろいろなジャンルの蔵書がある。

それは個性や人の心理に関しても例外ではない。

暦は入学してからほぼ毎日といっていいほど図書室に来ていた。

 

"個性"とは何なのか。

一体何が原因でこんなものが発現するようになったのか。

"個性"が人の人格にどれほどの影響を与えるのか。

敵になる人はどういった人格が多いのか。

 

最近はそんな本しか読んでいない。

 

 

そんなこんなで、暦は今日も図書室に籠る。

 

あらかためぼしい図書は見つけているので、その棚に直行する。

がしかし。

その本は結構上の方に置いてあった。

「……………」

背伸びをするが、届かない。

台を探すが、めぼしいのはどこにもなかった。

 

台くらい置いとけよ。こんなに高いところに置いてあるんだから届かないに決まってるだろ。

 

個性を使って上がってもいいが、使用は校舎内でも禁止されてる。

仕方がないので今回は諦めて違う本にしよう。そう思い踵を返すと、目の前が真っ黒になった。

「これでいいか?」

上から声が聞こえ、視線を上げるとそこには相澤先生が先程まで私が取ろうと苦戦していた本を持っていた。

「相澤先生」

今私は、後ろを本棚。前を相澤先生に挟まれているような状態だ。

「ほれ」

相澤先生が手に持った本を私に渡す。

「ありがとうございます。ですがなぜ取ってくださったのですか?」

「たまたまだ。お前がここでその本を取ろうと苦戦していたところを見たからとってやった。それだけだ」

「………ありがとうございます」

「それより、狭間は入試一位だったんだな」

「調べたんですか」

「目にはいったんだよ。……しかし、その個性と成績ならヒーロー科も余裕だったはずだ。なぜ最初から普通科だったんだ?」

「それを先生に話す必要がありません」

「まあそうだが」

ボサボサの髪をガシガシとかく相澤。

このまま去ってもよかった。目的のものは手に入ったのだから、話続けるのはただの時間の無駄のはずだ。

けれど暦はそれをしなかった。

「………私はヒーローになるつもりはありません」

それはただの興味。

父親であると知ったとたんに、何かとこちらを構うようになった目の前の先生は、私の本心を聞いて一体どうするのか。

ほんの少しだけ、興味がわいただけのことだった。

「なぜ赤の他人を助けなければいけないのでしょうか?なぜ助けられることを当然と考えている人のために貴重な時間を使って、労力を割かねばならないのでしょうか?

私はそれが時間の無駄に思えてならないんです。」

ジッと。

視線を逸らさずに言う暦に。相澤は頭にやっていた手を下げ、暦の目を見返す。

「私は、自分のためにしか動きたくありません。興味を引かれない事柄にはなんの関心もありません。たとえそれが、他人の命に関わることでも。

しかし、私は私の目的を達するためならばどんなことでもします。この思考は恐らく敵寄りなのでしょう。

私は、己がヒーローよりも敵に近い存在だと考えています」

静かな空気のなか、暦の声だけが響く。

「けれど一方で、敵になるつもりもないんです。

建物を壊すのも人を殺すのも。そんな労力を使いたくないしなによりも時間の無駄です。

では私は一体何なのか。

ただの一般市民というには明らかに異質な存在であることは理解しています」

暦は、相澤の目を真っ正面から見る。

その深い黒の目に、少しだけ背筋が凍り、逸らしたいという思いが出るが、まるで逃げることは許さないとでもいうように暦は見つめ続ける。

「私は、人の善悪を知りたい」

少しだけ、相澤の目が見開いた。

「ヒーローと敵は紙一重だと私は考えます。そもそもヒーローであるまえに、敵であるまえに一人の人間なのだから、その根本には必ず"悪"と"正義"があると思うのです。

ならば何をもって"それ"を"そうだと"示すのか。

他の誰でもない。私自身の目で。耳で。知りたいんです。

そうすれば、私は一体どこに立っているのか分かる気がするんです」

そういう暦は、いつもと変わらずの無表情。けれど相澤には、ただでさえ小さいその体がさらに小さくなったように見えた。

 

顔は、相変わらずの無表情。

けれども、目の前の少女の雰囲気は顔以上にその気持ちを物語っている。

恐らく、彼女は無意識なのだろう。

それでも、相澤には少女の姿が寂しがっているように見えたのだ。

「っ!?」

気がついたら、暦の頭に手をおいていた。

それに暦は肩を震わすが、特に何も抵抗をしない。それどころか先程までの深く黒い瞳が、どこかきょとんとしたように目になっていた。

初めて目の前の少女の年相応。いや若干幼いような様子を見た相澤は、微笑を浮かべながらゆっくりと撫でていく。

「大丈夫だ」

初めて少女の感情らしい感情を見ることができ、相澤の胸に暖かいものが満ちる。

「ここは、お前の足らないものを補う場所だ。そんなに焦らなくても、少なくとも卒業するまでの間は、俺達が導いてやれる」

徐々に見開いていく暦の目。

純粋に、目の前の少女が愛しいと、思った。

「お前が道を踏み外しそうになるんなら、俺が手を引いてやる。

もっと俺を、周りを頼れ」

本当は、__俺を頼れ__と。そう言いたかった。

けれどこの子にそんなことを言う資格など自分にはないのだと思い至り、咄嗟に言い換えたが、暦はそれには気がついていないようだ。

そのまま何も言われないことをいいことに頭をなでていると、唐突にその手が振り払われた。

「……………下らない」

一言。

聞こえるか聞こえないかギリギリの声で暦は発すると、元の無表情に戻っていた。

「失礼します」

相澤が何かを言う前に、暦は去っていく。

 

 

相澤は去っていった背中をしばらく見つめ続けた。

前のように引き止めることはできなかったが、前とは違って、少々苦笑して見送っていた。

 

 

 

 

(とりあえず、一歩前進、か?)

 

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