あの図書館の日から数日。
私はいつもと何ら変わらない生活を送っていた。
ただひとつ変わったことは、あれから前以上に相澤先生が関わってくること。そして、何故だか他の先生方もことあるごとに構ってくることだ。
とはいっても、特に贔屓されたりとかそういうのじゃない。
廊下であったら挨拶をして、たまに呼び止められてとりとめのない話をしたり。前よりも用事を言いつけられることぐらいか。
「よぉ!女子リスナー!」
「おはようございます。マイク先生」
「最近どうだ!enjoyしてるか!?」
「昨日もそれ聞きましたよね」
これはあれだな。
この前相澤先生に話したことが関係しているな。
多分、私を極力一人にしないようにしているんだろう。
万が一何かあっても、その変化がすぐに分かるように。
マイク先生と別れ、教室に向かう。
「なぁ、あれ本当なのか?」
「間違いないよ。だって先生方が慌てて出ていったんだもん」
その途中、周りから聞こえてきた会話に、一瞬動きが止まった。
「一年A組が敵に襲われて、先生方が重症を負ったんだって」
一年A組。
確か相澤先生が担任だったはずだ。
恐らく、その場にもいたのだろう。そして重症。
いつもなら教室につく前に来るのに、今日は来なかったのはそのせいか。
ここまで考えて約一秒。
すぐに歩き出すが、いつもと違いどこか重い足取りだった。
「私には、関係ない」
どうして今、相澤先生の顔が浮かぶんだろうか。
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その日は、なんだか集中できなかった。
ふとしたときに相澤先生の顔が浮かんでくる。そんなときだ。
なんとミッドナイト先生に準備室へ届け物を頼まれた。
放課後と言うことで特に予定もないので引き受け、そのまま帰れるように荷物を持って指定された準備室に向かった。
しかし実際に前にして私は後悔した。
雄英高校の教師たちはそれぞれの準備室を持っている。そして指定された準備室は、相澤先生の部屋だ。
けれど昨日の今日。重症と聞いていたので、誰もいないだろうとノックをせずに開けたが、すぐに後悔した。
あらかじめ予想できたかもしれないのに、その考えに至らなかったなんて。
最近の私はどこかおかしい。
扉を開けた状態で数秒固まる。
その場で閉めて帰りたかったが、そうもいかない。
ゆっくりと何事もなかったかのように部屋の中に入り、私が来たことに驚いたのか、先程の私と同様に固まっている目の前の教師。
相澤先生とまっすぐに向き合う。
まさか今日に限って会うなんて。
いや、恐らくミッドナイト先生の策略だろう。
頭の中では若干の苛立ちがあったが、当然それが表にでることはない。
無言のまま見つめ合うこと数秒。
先に口を開いたのは暦だった。
「その傷は敵との交戦ですか?」
「あ、ああ」
「噂程度ですが、聞きました。お疲れさまです」
「ありがとう」
それきり、また無言になる。
「それ」
「え……?」
「資料。置きにきたのか」
「ええ。まぁ。ミッドナイト先生に頼まれまして」
「そうか」
無言で指差したところに置いとけばいいのか、暦もまた無言で相澤の前を通り資料をおく。
しかしそのまま出ていくかと思った暦がなかなか動こうとしないことに、相澤は疑問符を浮かぶ。
丁度、暦は相澤に背を向ける形になっておりその顔は見えない。
まあ見えていたとしても、無表情だろうが。
「………その傷」
ポツリ。暦が口を開く。
「………先生方が大勢向かったと聞きました。それほどの敵に、相澤先生は一人で向かったのですか?」
今度はきちんとこちらに問いかけるように言う。
「ああそうだ」
「何故」
「あの場ではそれが一番合理的だった」
「………」
暦も理解はしている。
救助訓練の最中に襲われたらしい。その場にいたのは13号と、生徒たち。そして相澤だけだ。その中で一番戦闘に秀でていたの相澤がでることが一番合理的だ。それに生徒を安心させるためにもそれが一番いい。
わかっている。頭では理解しているのだ。
いつもの自分ならそれで納得しているし、用がすんだのだからさっさと帰ればいい。
なのに暦はそれをしなかった。
自分の意思とは無関係に、口から勝手に言葉が出てくるのだ。
本当に今日の自分はおかしい。
「大丈夫なんですか」
「あ……?」
「怪我。後遺症とかはあるんですか」
いつも時間の無駄だといってまともに話すことなく去っていく暦が自分から、いつものことならきっと無駄だと切り捨てるだろう会話をしている。
それが驚きすぎて、反応が少し遅れた。
「まぁ、目になんらかの後遺症は残るだろうが、問題ない」
「………」
暦が歩み寄ってくれているようで、その事実に頬がかすかに緩みながら、なんともないふうに話す。
暦はまだこちらに背を向けている。
けれど、唐突にこちらを振り返り、一気に距離をつめるとすぐ目の前に移動する。
いきなりのことで驚く相澤を無視して右手を顔にかざした。
「『拒絶する』」
言葉と共に、先程まであった痛みがなくなった。
目もクリアに見えるようになった。
呆然とする相澤をそのままに、暦はその横を通りすぎドアにてをかける。
「待て」
開けようとした手が、相澤の言葉とともに止まる。
相澤は包帯をとり、傷が綺麗に消えているのを確認する。
そしてゆっくりとこちらに背を向けドアに手をかけている暦を見た。
「今、何をした」
「…………私の個性は先生もご存知でしょう。先生が負った傷そのすべてを『拒絶』しただけです」
「…………なぜ、」
暦は背を向けたまま。
「…………理解できない。なぜ他人のためにそこまで出来るんですか。生徒だから守る?ヒーローとして守る?守った人たちは、あなたがそこまでする価値があったんですか?
理解できない。………理解できません。
あなたも…………………………私も」
最後の一言は、本当に呟くほどのものだった。
けれど相澤の耳にはしっかりと聞こえており、どういうことなのか問おうとしたときには、既に暦は戸を開け放ち準備室を出ていった。