ポケットモンスター ~0 RAdiant Story~ 作:ザパンギ
本来ユウキが予定していた計画はこうだった。
「はじめまして! オレはユウキ。よろしく!」
からの。
「○○もポケモントレーナーなんだろ? 勝負しようぜ!」
そして。
「図鑑? いいよいいよ何でも聞いて!」
ユウキ曰く『完全で完璧な計画』。どんな男子でもこれで仲良くなれると確信していた。男子どうしのノリに任せればなんとかなるというのは万国共通の認識とみて間違いない。
しかし残念なことにおとなりさんは女の子。こうなるとユウキはどうしたらいいか分からなくなってしまう。
客観的にみれば普通にいけばいいのだが、難しい年頃の少年にそれを要求するのは酷というものだ。
「よし! そっちはあとまわし!」
仕方がないので気分転換に机のパソコンでどうぐを整理することで現実から逃避することにした。このあと父の手伝いで103番どうろのフィールドワークに行く予定なのだ。これはつまり、試験前に部屋の片付けをやりたくなるのと同じ現象と思われる。
「ユウキ~? おとなりさんが来てくれたわよ」
「ふぇっ!?」
後先考えずモタモタしていたのがまずかった。あろうことかおとなりさんに先手を許してしまったのだ。現実逃避の対価はいつだって高くつく。
やって来たおとなりさんは下でユウキの母と少々話したのち、階段を上がってきた。
「こんにちは。隣に引っ越してきたミオリです。よろしくお願いします」
温暖なホウエン地方に似つかわしい涼しげで軽い出で立ち。セミロングの黒髪。身長は女子にしては高めでスタイルもなかなかだ。
女子慣れしていないユウキは途端に目が個人メドレーを始めるのを感じた。
同い年だと聞いていたが、年頃からして女子のほうが成長が早いせいか自分より遥かに大人びて見えた。
整わない舌をなんとか宥めて名乗る。
「あっ、オレユウキ……」
「ユウキくんですね。これからお世話になります」
深々と頭を下げるミオリ。対して挙動不審のユウキだがおそらく人生初の女子とサシでの会話なのだ、無理もない。
パニックに陥るユウキに気づかずミオリは持っていた紙袋を手渡した。
「これ、ジョウトのお土産です。皆さんで食べてください」
テレビでも時々取り上げられるチョウジの名物だ。渡された箱入りのいかりまんじゅうだが、残念ながら包装にすら目をやる余裕がない。
さすがのユウキもここまできてやりづらさに耐えかねた。
「あー。母さんから聞いたけどオレら同い年なんだよな? そんな丁寧にならなくてもいいよ」
途端にミオリが豹変した。
「ホント? あらためてよろしく、ユウキくん! 私はミオリ。ミシロにはパパの仕事の都合で引っ越してきたの! これからオダマキ博士から図鑑とポケモンを貰って旅に出るつもりで、目標は物凄いトレーナーになること!」
「そうなんだ……」
彼女の言う物凄いトレーナーとは具体的にどういったものかよく分からなかったが、少なくともミオリはその時点で十二分に物凄かった。
息継ぎもなしに血管がブチ切れそうな勢いで捲し立てた。最初の清楚なイメージはどこへやら。ホットなのかクールなのかテンションがよく分からないタイプの人種のようだ。
(まるで父さんみたいだな)
妙に父と重ねてしまう。その間もミオリは話したり喚いたり叫んだりしていたがあまり入ってはこなかった。
ひとしきり楽しげに語ったミオリは聞き役に徹したユウキのおかげで満足したようだ。
「それじゃ、私は博士にポケモンと図鑑を貰ってくるから! じゃね!」
ユウキが何か言い返す前にミオリはあっという間に去っていった。こちらから何かを話す余裕はついになかった。
しばらくポカンと見つめ合うユウキとミズゴロウ。
沈黙の妖精が部屋を駆け抜けていった。
「なあミズゴロウ。あの娘はなんだったんだろう?」
分からんと言わんばかりにミズゴロウは短い首をすくめた。
もちろん男の子ではないしかといって女の子女の子しているわけでもない。不思議そのものだ。
「待てよ……?」
ユウキは閃いた。ミオリは彼の女子像から著しく外れている。ならば簡単なことではないか。
「あのノリの娘なら男子と同じようにいけばいいんじゃないか!? そうだよな!」
今度は頷くミズゴロウ。
「よし、そうと決まれば初勝負の相手はやっぱりおとなりさんだ! ミズゴロウ、絶対に勝とう」
ミズゴロウは前足で胸をポンと叩いた。おそらく任せなさいと言いたいのだろう。
もちろんトレーナー歴ではミオリに勝る彼だが、負けられない勝負となれば多少のウォーミングアップが必要になると判断した。このあたりは両親に似ずわりと几帳面なところがある。
「じゃ、オレたちも行こうか」
ユウキはフィールドワークついでに野生のポケモンと戦って勝負の勘を取り戻そうと103番どうろへと出かけていった。