ポケットモンスター ~0 RAdiant Story~ 作:ザパンギ
「ひっかく! ひっかく! ひっかく!」
ミオリとアチャモのコンビは飛び出してくる野生のポケモンたちを撃退しながら快進撃を続けついにコトキタウンに到着した。
ミシロを出る前にママから野生のポケモンに注意するように言われていたが、彼女は全部蹴散らしてしまえば問題ないと判断した。
さて、コトキタウンもミシロタウンと同じ若草の薫り漂う田舎なのだが、こちらにはポケモンセンターとフレンドリィショップが存在するためあちらより幾らか便利といえる。
しかしミオリは特にここに用はない。ポケモンセンターでアチャモを休ませて、すぐに103番どうろへと出発した。
「ちょっと待って!」
否、できなかった。
青い制服を着た男がミオリを呼び止めた。
「君、トレーナーでしょ?」
「一応そうですけど」
「やっぱり! それじゃあ是非ともフレンドリィショップを覚えて帰ってくれ」
制服の男はフレンドリィショップの店員だったようだ。
「あそこ。あの青い屋根の店がフレンドリィショップ。キズぐすりとかはどこでも使えるから場合によってはポケセンより頼りになるんだ」
「はぁ」
適当に相槌を打ちつつ立ち去るタイミングを見計らうミオリ。ショップ店員はその手に何かを握らせた。
「それが今話したキズぐすり。見本だけどちゃんと使えるから持っていってよ」
こういったものはいくつ持っていても多すぎるということはない。
「いいんですか?」
「もちろん! これからもフレンドリィショップをご贔屓に!」
最敬礼をして今度こそミオリはコトキタウンを抜けた。
「あっ、おとなりさんじゃん。どうしたん?」
103番どうろでユウキを見つけるのは難しい作業ではなかった。彼の方から話しかけてきたからだ。
「ミオリでいいよ」
草むらをかきわけてこちらへやって来るユウキに呼称の変更を要求するミオリ。
しかし困ってしまった。
ユウキは見たところサボっている様子もないし、そうなると何も言うことがない。
「博士に103番どうろに行ってみるといいよって勧められたんだけど」
「そっか」
来たはいいが話題がない。そう思っていたミオリだがユウキが彼女の変化に気がついた。
「それ、モンスターボール!? もうポケモンをもらったの?」
「うん」
ミオリは研究所に行ってアチャモを貰ったことを簡潔に伝えた。もちろん博士がポチエナに追われていたことはオフレコに。
「野生のポケモンも出てきたけどひっかくでなんとか切り抜けてきたんだよ」
ミオリは当然のことを自慢できるメンタルを持っている。
「あれ、アチャモなら『なきごえ』も使えるんじゃないか?」
「なきごえ?」
たしかによく鳴くけどとミオリ。
「ちがうちがう。鳴いて相手の攻撃力を下げる技だよ」
「へぇ。野生のポケモンとしか戦ってなかったから気にしてなかったよ」
草むらでの戦闘ではひっかくのみ。ワンパターンではあるが決着は早い。
途端にユウキが体を乗り出してきた。
「じゃあさじゃあさ。ポケモン勝負しようぜ。こっちの調査はもう終わってるし」
「えっいいの!?」
思ってもみなかった申し出に喜ぶミオリ。対人戦も彼女がやってみたかったことの一つだったのだ。
「もちろん。トレーナーってどんなものかオレが教えてやるよ!」
一面の草むらの中、二人は互いに距離をとった。
見物は上空を飛び交う鳥ポケモンのみ。心置きなくやれる。
「いくぞ!」
ユウキはミズゴロウを繰り出した!
「おねがい!」
対するミオリはもちろんアチャモだ。
(ミズゴロウは水タイプ。相性はこの際仕方ないか)
ミオリの手持ちはアチャモのみ。タイマンで分の悪い敵を相手取らなくてはいけない。
「先手必勝! アチャモ、ひっかく!」
「ミズゴロウ、たいあたり!」
素早さで勝るアチャモが先に攻撃を当てたが、受けきったミズゴロウの反撃をもらってしまった。
「もっかいひっかく!」
「たいあたり!」
再度の激突も両者のパワーは互角だったようだ。
「なきごえ!」
「こっちもなきごえ!」
攻撃力を下げることで戦いを有利に進めようとするユウキにミオリも便乗した。
「ひっかく!」
再び先手をとったアチャモがミズゴロウにとびかかる。
「草むらに飛び込むんだ!」
ユウキの指示でミズゴロウは草のなかに姿を隠した。
先ほどまでここでフィールドワークを行っていたユウキだからこそできる地の利を活かした作戦。ミズゴロウを見失ったアチャモはキョロキョロとあたりを見回している。
「アチャモ、どこから来るか分からないから注意して!」
「たいあたり!」
ミオリの忠告もむなしくミズゴロウのたいあたりが炸裂した。反撃を試みるもまた草むらの中に隠れられてしまった。
「もう一度たいあたり!」
「うまくよけて!」
残念ながらアバウトな指示ではかわせるものもかわせない。
その後もミズゴロウはじわじわとアチャモにダメージを蓄積させていった。ミオリはひっかくを連発させているのだが、的が定まらなくては当てようがない。
有利な展開にユウキは得意気。
「すごいだろ。ミズゴロウは頭のヒレがレーダーになっていて空気の流れから周りの様子を探ることができるんだ」
視界の悪い草むらからでも的確な攻撃ができるのはそのあたりの事情らしい。
ミオリは頭を抱えて考え込んでしまった。左手を頭に、右手の親指と人差し指を口許にもってくる独特の思案ポーズだ。
その間に敵はもう一発のたいあたりを狙っている。
「さーて、そろそろとどめを」
ここでミオリが顔をあげた。
「アチャモ、なきごえ! お腹から声を絞り出して!」
「ふぇっ!?」
ここで変化技を選んだミオリに対して驚くユウキ。
「そのまま草むらに突っ込んで!」
けたたましく鳴きながらアチャモは草むらに分け入り、ミズゴロウだけでなくアチャモもトレーナー二人から視認できなくなった。
聞こえるのはなきごえだけだ。
「ヤケでもおこしたか。ミズゴロウ、たいあたり!」
しかしミズゴロウは動かない。いや、動けないのだ。
「た、たいあたり!」
焦り出すユウキ。
ここでアチャモの鳴き声の移動が止まった。
「そこでひっかく!」
もともと素早さで勝っているアチャモの一撃がクリーンヒットした。
ミズゴロウはダメージとともに草むらから放り出されて戦闘不能。
「うわっ! ミズゴロウ、ごめん!」
ユウキはすぐさまボールに戻した。悔しさはあるが潔く負けを認めるのも先輩の矜持。にこにことミオリを褒め称える。
「ふうん、ミオリってつよいんだね」
「そんなことないよ。勝負なんてこれが初めてだし」
トレーナー歴という心の礎を砕かれてユウキは笑顔がひきつった。
「父さ、いや博士がミオリのことを注目するのも分かったような気がする。もらってすぐのポケモンとここまでやれるなんて。ハルカならどんなポケモンとでも仲良くなれるかもしれないな。じゃ、研究所に戻ろうか」
「うん!」
連れ立ってミシロへ帰る二人。ユウキはどうしても聞きたいことがあった。
「あのなきごえ、どういう作戦だったんだ?」
「ミズゴロウは頭のピラピラがレーダーになるって言ってたじゃない?」
エラ、な。とユウキが補足。
「空気をレーダーにするならうるさくすれば誤魔化せるんじゃないかと思ったんだ。それにユウキくんからの指示も聞こえにくくすることができるし」
「もし指示が通ってミズゴロウが反撃を決めてたらどうするつもりだったんだ?」
「なきごえで攻撃が下がっているはずだからね。ひっかくで押し返せてたと思うよ」
「……」
なんとレーダー封じ、指示封じ、攻撃力封じの三段構えの作戦だった。ユウキは言葉も出ない。
(なきごえもミズゴロウのヒレも俺が教えるまで知らなかったのをすぐに吸収して作戦に組み込んだ。ミオリ、もしかしてとんでもないヤツなんじゃ……?)
このユウキの予感はある意味的中することになる。