『この女神にメイドが祝福を!「ずっと目覚めなければよかったのに」「やめてよね!?」』 作:ひきがやもとまち
お待ちしていた方にはお詫びのしようもございません。
今後は出来るだけ短期間での更新を目指すつもりです。
なお、今作は原作とは無関係に近いオリジナルストーリーで行くことにしました。
原作ファンの方には申し訳ありませんが、最近ではこういう作品しか書けないもので。
ご迷惑をおかけしてすみません。
「せ、千エリスぅ!?」
女神アクアの絶叫が、冒険者ギルド内に轟く。
受付担当の女性はうるさそうに顔をしかめながらも丁寧な態度と口調で説明する。まさに受付嬢の鏡だった。
「はい。冒険者ギルドでは冒険者として登録される際に、お一人様千エリスをお支払いいただくことを義務と定めております。これは、無法者などが冒険者を名乗って悪さをし、その風評被害が他の冒険者のみなさまに及ばないようにするために必要な措置ですので、どうかご理解下さい」
「・・・・・・・・・・・・・・・くっ」
悔しげに歯噛みしながらもアクアは反論を躊躇った。
枯れても腐っても、一応は女神。秩序の意味がまったく分からないと言うわけではない。
まして、これから自分自身がその冒険者になるのだ。風評被害とやらで他人の不手際を自分のせいにされるなんて真っ平ゴメンである。
そう考えると、今の説明は少しだけ彼女にも考えることを必要とさせるだけの効果があった。
少しだけしか与えられないのは、彼女が駄女神アクアだからである。他に理由はないし、必要もない。それこそが、アクアクオリティ。
だが、困った。
異世界にくる予定など無かったから当然お金など持ってきていない。だからこそ元手がかからない冒険者になろうと思ったのだが・・・。
いっそのこと、そこいらのプリーストから「女神アクア様へのお布施」として力づくで巻き上げようかしら・・・。
危険思想に染まりつつある女神を華麗に無視して、我らが頼れるドSメイドの九条さんが颯爽と登壇した。
「失礼。私の名はミユキ・クジョウと申します。首都にて、とあるお屋敷にメイドとして勤めていた者です。
少しお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です。なんでもお聞き下さいクジョウ様」
「有り難うございます。まずは、登録料の件なのですがーー」
あまりにも堂に入ったミユキの嘘を真に受けてしまった受付嬢は、聞かれるままにミユキの質問に答えていく。
やがて満足したのか、ミユキは一度、軽くうなずいて見せた。
「なるほど。では千エリスの支払いは分割もしくはローンでも良く、最悪、成功した依頼料からさっ引く形でも良いと言うことですね?」
「はい、その通りです。登録料はあくまで冒険者登録に関して国が定めた法律であり、ギルドとしては所得が少ない人こそ冒険者になっていただき、犯罪に走ることの無いように安定した収入を得てもらいたいと思っておりますので」
「大変に素晴らしい理念です。同時に国民の安全面を考慮しなければならない国の判断にもうなずけます」
「ご理解下さり有り難うございます。ですので、申し訳有りませんが登録料を成功報酬でお支払いいただく場合に限り、当ギルドの職員を目付役として同行させていただくことになりますがーー」
「問題有りません。むしろ、こちらの我が儘をお聞きとどけ頂けたことに対して感謝を述べなければならないのは私たちの方です。お手数をおかけしますが、どうかよろしくお願いいたします」
丁寧に感謝の言葉を述べるミユキは、どこから見ても深窓の令嬢にしか見えず、かえって受付嬢を困惑させた。
いったい、なぜ彼女のような身分の高そうな女性がメイドなどに・・・・・・。
困惑が顔に出たのか、彼女の表情をみたミユキが、ただでさえ低めの声をさらに低めて、
「ここだけの話ですが、アクアお嬢様は、さるやんごとない身分を持つ御方のご息女で在らせられるのです」
「・・・なっ!」
受付嬢は、驚愕すると同時に納得もした。
確かに彼女は美しい。女神エリスもかくやと言わんばかりの絶世の美貌の持ち主だ。旅人と言うよりも貴族の令嬢と言われる方がしっくりくる。
ごく当たり前のことさえ知らない無知さも、箱入り娘であることを考慮すれば疑問は霧消する。
なにより、その身に纏っている羽衣。
あれは、そこらの仕立屋が一生涯かけても作り出せないほどの逸品だ。少なくとも、庶民に手が出せるような代物ではない。
しかも、いったいどこの貴族令嬢かと吐息を漏らしてしまうほどに完璧すぎるメイドを従えているとなれば、これで上級貴族以外の選択肢を考えるなど余程の愚か者ぐらいだろう。
状況についていけず、ポカンと口を開けっ放しで言葉を失っている女神を無視する形で話は進んでいく。
「見ての通りお嬢様は見目麗しく、幼き頃より蝶よ花よと称えられ、旦那様からも奥様からも絶大な愛情を受けてお育ちになられました。
しかしーーそれがいけなかったのかもしれません。いつからかお嬢様は貴族としての道を逸れ、教養を学ばず、お稽古をさぼり、礼儀作法を無視し、裏街にたむろする不定な輩と交流するようになっていき、ついには旦那様のお怒りを買い、出奔を命じられてしまったのです」
「なんてこと・・・・・・そんな事が・・・・・・」
「旦那様も断腸の思いだったのでしょう。貴族とは身分高き者。それ故に守らなければならない物もまた多い。全てを一度に持つなど、万能なる女神の力を持たない無力な人間の身ではとうてい不可能でした」
万能なる女神の力を持っているはずなのに無力な人間に拉致されてきた女神は、その言葉に思い切り顔を逸らす。
全てを一度に持つどころか、部下に反逆されて放逐された女神としてはここで何かを言うのはやぶ蛇以外の何者でもない。
沈黙は金なり。その格言で自分を正当化し、女神アクアは見ざる言わざる聞かざるを貫く事を決意した。
「とはいえ旦那様も人の子。愛する愛娘をたった一人で辺境に放り出して平然としていられるような情無き御方ではございません。
密かにお嬢様を守り世話するようにと私を派遣されたのですが・・・しかし私も所詮、下級とはいえ貴族の娘。慣れぬ世間の荒波にもまれ、お嬢様を守り抜くことに専念するあまり、お預かりした路銀を使い尽くし、文字通り身一つでこの街までやって参りました。
出来ますならば、この街を安住の地としてお嬢様に受け入れていただき、この地にて骨を埋めていただけることを切に願っていおります」
「ちょっ!?」
大いに慌てる女神アクア。
当然だろう。彼女の目的は魔王を倒した功績によって願いを叶えさせ、天界へと帰還して以前の地位と権力と特権を取り戻すこと。
間違っても平凡で慎ましい一生など送りたくなどない。
働きたくないでござる。ニート最高。ニート人生万歳。ニートこそ理想の職業である。死んでも社畜になんかなってたまるか。
ーー女神アクアは全国のサラリーマンに土下座するべきだろう。
「我が儘を言っているのは承知しておりますが、この件は上司の方以外にはご内密にしていただけますか? 二度と戻れないとはいえ、我が主は今でも旦那様であり奥様であり、当然お嬢様でもあります。あの方々にご迷惑をお掛けしてしまってはクジョウの先祖に申し訳が立ちません。何卒どうか・・・・・・」
お前が一番迷惑をかけてんでしょうが!
女神アクアは こころのなかで ぜんりょくで ののしった。
しかし ミユキにはきこえなかった。
ミユキは へいぜんとしている。
「・・・わかりました。本来ならば王都の本部に使いを出して知らせするべき案件ですが、特例で認めましょう。私も組織に仕える身として主を想う貴女の気持ちには心から共感できます。可能な限りの便宜は図らせていただきますので、ご用命の際は私を氏名して下さい」
「なにからなにまで有り難うございます。このご恩はクジョウの家が続く限り未来永劫受け継ぐ所存でおります」
「期待させていただきますね。
それで、同行させる職員なのですが・・・申し訳ありません。流石に事情を教えずに使うには職員は向いておりませんので、冒険者の方を雇うことになると思います。その分、代金がさらに千エリスほどかかってしまいますが・・・・・・」
「成功報酬で支払っても良いならば問題ありません。ただ、お手数をお掛けしますが、出来ますならば女性の方にお願いできますでしょうか?
お嬢様は見目麗しくてお若い、その上未婚の身です。殿方と一緒になって何か問題が起きたりすると・・・・・・」
「確かに危険ですね・・・。承知しました、ちょうど打って付けの人物に心当たりがあります。彼女は聖騎士ですのでアクアさんは支援職のいずれかに付くべきだと思うのですが、如何でしょう?」
「ふぇっ!?」
いきなり話を振られて慌てふためく女神。
そんな駄女神のことなど眼中にないと言った様子の、彼女に仕えていると自称するメイドは主を平然と無視して、話を纏めに入る。
メイドっていったい・・・・・・。
「では、このプリーストというクラスになっていただきましょう。お優しくて理知的なお嬢様には、回復職こそ相応しいと思われますので」
「え? そ、そう? そう思う?
・・・いやー、参っちゃったわねー! そんなに期待されるとやるしかなくなっちゃうじゃない! なってやるわよプリーストに!」
「御納得いただけたようですので、冒険者登録をお願いします。もちろん、ローンで」
こうして契約は成立。
書類に必要事項を記入し、渡された冒険者カードに触れる事で表示されるステータスが大幅に平均値を超えていた事に気を良くした女神アクアは、アークプリーストという上級回復職につき、即座にもっとも成功報酬の高いモンスター討伐の依頼を請け、意気揚々とギルドを後にしたのだった。
「流石です、アクア様。まさか“たったお一人”であれほど強力そうな魔物を討伐なさるおつもりとは」
「まぁねぇ♪ ほら~、私って才能の塊だから~、たかだか初心者殺しなんていうザコモンスターの一匹くらいどうってことーーって、え。ちょっと待って。
あの・・・聞き違いかもしれないけど、いま私一人って・・・」
「そうですが、それがなにか?」
戸惑うアクアに戸惑わないミユキ。
もうどっちが全知全能たる女神かわからない。
「もちろんアクア様お一人で戦うのです。
私はメイドであり、主人が帰ってきたときに美味しいお茶とお菓子をお出しする義務がございますので、準備に専念しなくてはなりません。
また、ギルドが雇ってくださる冒険者の方はあくまでもお目付役。けっしてアクア様のお手伝いをしていただくために雇われるわけではありません。
そう考えますと、やはり明日の依頼はアクア様お一人が総戦力の全てになるかと」
狐に化かされたような、狸に騙されたようなーーあるいはドSメイドに弄ばれたような、表情をなくしてポカンとしたアホっぽい顔をさらす主を笑うことなく、それどころかいっさい表情を動かさずにミユキは追い打ちをかける。
「そう言えばご存じでしたかアクア様。上級クエストは報酬が高い分期限が厳しく、守れなければ罰金が、キャンセルするにはキャンセル料が発生します。
どちらもクエストの難易度に応じて金額は変わりますが、今回の件では“最低1万エリス”だとのことです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「御武運をお祈りしております、アクア様。どうぞ、逝ってらっしゃいませ」
「今なんか漢字おかしくなかったぁぁぁぁぁっ!!??」
たまぎる絶叫が真っ昼間の『駆け出し冒険者の街アクセル』に響きわたる。
これが後に『借金僧侶』の二つ名を与えれる事となる、伝説の冒険者アクアが誕生した瞬間であった。
ちなみに、伝説には喜劇も多いのがファンタジーの基本である。
そして、喜劇は主人公が不幸になればなるほど笑えるものである。
不幸な駄女神様に哀悼の意を表し、総員、敬礼!
つづく
今回は久しぶりなので短いです。
次回はもう少し長くしますし、更新期間は短くします。
少なくとも数カ月お待たせする事はありません。
本当に世界観とかストーリーは出る時と出ない時の差が激しすぎる・・・。