『この女神にメイドが祝福を!「ずっと目覚めなければよかったのに」「やめてよね!?」』 作:ひきがやもとまち
活動報告にも書きましたが実のところ今話の内容自体は二話目が完成した時点で完全に思い付いてはいたのです。
ただ、原作と違いすぎる展開と、完全なるオリジナル回に近いので(一応カエルは出ますが・・・)どうしても「これで本当に大丈夫なのだろうか・・・?」と言う不安を払拭できずにマゴマゴし続けて出せないままに時だけが異常に過ぎて来たのです。
最近のゴタゴタで割り切って吹っ切れるようになった事と、純粋にいくら考えても他の話が思いつかないのダブルパンチを理由に諦める事に決めましたので投稿する事が叶いました。
これからはこんな感じのストーリーになると思いますが、どうかお見捨てなきようお願いしたいです。今更どの面下げてと自分でも解ってはいるんですけどね・・・。
虫が良すぎるにも程がありますが、何卒良しなに。
注:なお、最後ら辺で悪ノリし過ぎました。作品共設定とも関係のない一発ネタですのでお気になされないようお願い致します。
異世界の夜は早い。
なにぶんにも中世風ファンタジー異世界だ。
日本であればバイト代が通常の25%以上割り増しされる深夜労働に該当する時間帯とは言え、やはり未成年者で自宅外に出て行く者たちに堅気の人間が少なくなるのが実状である。中世ファンタジー風異世界に夢はない。
それは当然、初心者冒険者たちにとって《はじまりの地》となる、《かけだし冒険者の街アクセル》であろうとも例外ではない。
モンスターによる襲撃を警戒して夜になると街門は閉ざさしてしまうのは、夜目が利く魔物たちが実在している異世界を舞台にした冒険物語共通の常識だが、それと矛盾するように夜にしか営業しない外来の冒険者御用達の隠れ店舗も実在しているのが異世界の不思議。
それらを整合するため、街壁にある大門は一般向けに使われて夜には堅く閉ざされて、代わりに大門の直ぐ脇にある衛兵用の通用口が夜になると一般客にも利用できるよう制度で取り決められてはいるらしい。
無論、小さな街の入り口とはいえ、多少の危険がないわけでもない。そのため僅かばかりの通行量を使用料金として徴収されるのだが、魔物が活性化する夜中に出かけて帰ってくる冒険者というのは大半がギャンブラーな危険好きであり、ハイリスクハイリターンを求めて危険きわまる夜の冒険に出かけていくため実力は折り紙付き。
その上、成功すればウハウハな左団扇まちがいなしな高難度クエストばかりの時間帯なのもあって、たかだか500エリス程度のはした金の支払いを渋られる道理はない。
そう。ないのだ。通常の冒険者が夜中に高難度クエストを受注するには実力が伴わなければならず、ギルドに登録してきたばかりで実績もなければ経験も乏しい、戦闘力的には完全無欠なお荷物の支援職アークプリーストが単独で深夜の高難度クエストに挑戦するなどと言う事態は絶対にありえない。
ーーまぁ、つまり。
ありえない事態だから想定されておらず、法的保証がうけられるはずもなく、最低限度の夜間戦闘用装備だけを手渡されて討伐依頼先へと赴いた新人冒険者のアークプリーストがボロボロの身なりで深夜のアクセルにまで息咳ききって敗走してきたとしても、衛兵たちは彼女に対応するためのマナーとして礼儀正しく料金を徴収する以外に教えられてはいなかったのである。
「ご、500エリスになります・・・」
「・・・・・・・・・」
「し、深夜のご利用をありがとうございました。よろしければ、またご利用くださーーひぃっ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
飢えの余りギラついて血走った狼のごとき凶眼で人睨みされた衛兵たちは揃って萎縮し、彼らの脇をボロボロになった青い衣装と水色の髪をした絶世の美少女が、粘液で体をベトベトになりながら通り過ぎていくのを見送ることしかできなかった。
ちなみにだが、アクセルの街にある大衆浴場《テルマエ》は深夜の営業はしていない。薪代もバカにならないし、水道代だってタダではないのだから当然だ。営業時間外に沸かしてもらうためには、特別料金が発生してしまう。
世界の真理はどうであれ、万物は金によって動かされる割合が結構多い。
暗く絶望に染まった瞳で通用口を通り抜けた新米冒険者アークプリーストのアクアの前に、一人のメイドが待ちわびていたかのように立っていて、手に持ったタオルと冷めて不味くなった安物のコーヒーを手渡してくれる。
「・・・・・・・・・」
無言のままそれを受け取ったアクアは顔を拭き、コーヒーを飲み干し、一言だけ礼を述べ、目の前の相手から逃げるよう偽を向けて脱兎の如く走り去ろうとしたのだが。
その瞬間。最高に最悪なタイミングを見計らっていたかのように、冷徹な声で彼女に仕える従者がつぶやく声が耳まで届いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・穀潰し」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっん!!!!!!!!」
アクアは走る。アクセルの街を。
女神は吠える。闇夜に向かって。
それはまさにクトゥルフの再現であって、人類では太刀打ちできない絶対的な存在に翻弄される哀れな獲物の悲痛な呻き声にも似て人々の心に深く響いていくのであったが・・・この場合、翻弄されているのが女神で、弄んでいるのが人間の美少女メイドである。
ーー世の中、不思議なことが一杯だな~・・・。
「ーー早速ですが、アクア様の生活に必要なお金がなくなりました。稼いできてください」
「昨日もその前も一昨々日も、ずっとずっと毎日毎日稼ぎにいってる主に、従者が言う言葉がそれか!」
「失礼いたしました、アクア様。まさか収入をえるため主が駆けずり回っおられたとは露知らず、暴言を吐いてしまいましたことを心より謝罪いたします。申し訳のしようも御座いません」
「ま、まぁ、わかればいいのよ分かればね。次からは気を付けなさいよね?
でもアンタ、私が稼ぎに行ってるって思ってなかったら、毎日毎日なんで帰りを待っててくれてたのよ?」
「はい。てっきりアクア様は借金を増やすために《借金増額クエスト》を受注されておられるものだとばかり思いこんでおりましたので」
「そ・ん・な・ク・エ・ス・ト・が・あ・って・堪るかーーーーーっい!!!!!!
どこの世界に莫大な借金背負いながら、この上更に負債を増やすクエスト受けたがるドM冒険者が存在している!?」
「結果だけ見たらアクア様がそのドM冒険者に該当しておられますが?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん(>ュ<。)ビェェン!!!!!!!!!」
女神アクアは叫びながら真昼のアクセルの街へと駆けだした。
夜でも朝でも、貧乏人は働かなくてはならないと言う現実に変化はない。万物は流転し、金は循環し、貧乏人が手にできる金額はほとんどない。悲しい現実であった。
ーーが、しかし。捨てる神あれば、拾う神もまたあり。
しばらく前にメイドの九条ミユキが対応したギルドの受付嬢ルナは未だにアクアをどこぞの貴族令嬢で家出してきたドラ娘だと勘違いしたままであるため、彼女に可能な範囲で出来うる限りの便宜を計り続けてくれていたのだった。
これにはギルドの運営をミユキが補佐しているからと言う事情も考慮されており、中世風異世界よりも遙かに進んだ教育水準を誇る現代日本で高等教育を受けて育ったお嬢様のミユキにとって異世界の幼稚な計算式など小学生の宿題以下の難易度しかなく、片手間にいくつもの業務を併走させてこなすぐらいが丁度良い『手を抜いている事実への誤魔化し』として機能していた。
辺境の一支部に過ぎないとはいえ、世間知らずの初心者が大挙して訪れるアクセルの街の冒険者ギルドは世間が思っているほど暇していない。むしろ多忙である。
そんな中に現れた救世主を手放すなど、組織経営の基本から見てありえない選択肢だ。全力で便宜を図ることで彼女の繋ぎ止めを行いたいのだが、何分にも彼女の雇い主は名目上アクアという事になっている。支援したくとも同格の冒険者たちとの兼ね合いもあるので簡単にはいかないのだ。
そこで折衷案として提案されたのが今回の『助っ人派遣依頼クエスト』であった。
以前より、初心者たちの練度の低さが問題となっている冒険者ギルド・アクセルの街支部としては将来有望なのに経験不足で、訳の分からないスキル編成をしたがる変人冒険者たちに適当な難度の討伐クエストをこなしてもらい、冒険の難しさと戦闘のコツを覚え込んでもらいたがっていたのだが、それを実行に移すには口実が必要でもあった。
なにしろ所詮は根無し草の冒険者。嫌いな依頼は受けたがらないし、イヤだと感じたら合同パーティーのメンバー相手だろうと足を引っ張ったりもする。協調性の無さにおいて他の追随を許さない寄せ集めのゴロツキ集団を統率し、教育するのは至難の業なのである。
これら諸事情も重なり合ってミユキからの依頼という形式も整い、彼女の主である《やんごとない身分の生まれ》であるアクアとの兼ね合いから相応の家柄の者も探しだし、あろうことか自主志願までしてもらえるという幸運にも恵まれて今日の運びとなった訳だが。
果たして、出来合いの用心棒パーティーの実力や如何に・・・?
「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者・・・! 我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費麿力もまた絶大。
・・・要約すると、限界を超える魔力を使うので一日一発しか撃てません。撃った後には身動き一つとれなくなるので、街まで背負って連れ帰ってきては貰えませんでしょうか?」
「私の名はダクネス。女神エリス様に仕えるクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用すぎて攻撃がほとんど当てられないのでな。
だが、壁になるのは大得意だ! 必要になったら何時でも遠慮なく私を囮や壁代わりに使い捨ててくれ」
「・・・・・・ぜんっぜん使えそうにないんですけど、この二人! こいつらパーティーに加えた私が勝てるビジョンが全くこれっぽっちも思い浮かばないんですけども!?」
「僭越ながら、アクア様のお好みに合いそうな方々を優先的に選別し、指定させて頂きました」
「う、ぐ・・・。た、確かに私好みなチョイスではあるけども!
非効率ながらもロマンを追い求める姿には感動すら覚えるほどに私好みな二人組なんだけども!」
「では、彼女たちを討伐メンバーに追加登録して、今回のクエストに挑むと言う流れでご納得いただきーー」
「ただぁーーし!!」
「・・・まだ、何か?」
収入もない穀潰しのくせに、注文の多い雇い主だな。一度痛めつけて身の程思い知らせてやろうか、ええおい? ーーと、言外にそう思っているのが丸分かりな視線と目つきと声音でありながら、口調だけは丁寧に聞き返してきたミユキにたいしてアクアは悲鳴混じりの苦情を並べ立て始めた。九条だけに。
「そういうエンジョイプレイは、私以外がパーティーのリーダーで、多額の借金を背負った私であっても見捨てずに養ってくれて甘やかしてくれもする全ての女性たちが理想とする都合の良い王子様を体現したかのような主人公属性の持ち主にヒロインとして見初められた場合に限ってのことであって、当事者が自分で借金の返済義務を負ってるのも自分でパーティーの指揮も編成も受注するクエスト選びに至るまで全部がぜんぶ自分でやらなきゃいけない主人公ポジションについてまで選びたいパーティー編成じゃ全然無いからね!?」
「その様に現実離れした殿方は、フィクションの世界の住人しかいないのでは?」
「分かってるわよ、そんなことくらい!
ーーて言うか、日本のマンガやアニメの主人公たちって完璧すぎない!? なによ、あの器のバカでかさは! 裸見られたぐらいで街ぶっ壊して平然と「私は悪くない!覗いたアンタが悪い!」とかなんとかアホみたいな事ほざいてる世間知らずな箱入りバカ娘ヒロインを、ただ「可愛いところもあるから。仲間だから。女の子だから」って理由だけで見捨てず、使い捨てることもなく、合体合成の生け贄すら用いないままラスボス戦まで一緒に旅して、最終回では結ばれて子供まで作るハッピーエンドまで迎えるのまであるのよ!?
メインヒロインより遙かに可愛くて献身的で器量もよくて、その上主人公への好意を隠すことなくダイレクトに伝えてきてるサブヒロインを振ってまでメインの元に走ってくるのよ!? 有り得ないでしょ、そんな奴は絶対に!
夢を見続けたいなら、理想を抱いて溺死しろ!」
日本のサブカルチャーに異常に明るい女神であったことを盛大に暴露しまくりながらも、女神アクアは従者ミユキに自分の要望の全てを伝えることには成功したと確信していた。
今の話から余計な愚痴を取っ払い、言いたいことだけ抽出したならば「もっとマシなの探してこい」この一文だけで事足りる要望だったのだから、伝わらない奴がいたら頭がおかしいだけかもしれないが・・・。
「つまり、この二人以外でギルドが用意してくれた候補者たちがお望みという事でよろしいですか?」
「その通りよ! よく分かったわね! さすがは私に仕えるメイド長だけあって優秀だわ! 特別に褒めてあげる!」
前言撤回。伝わらない奴の頭がではなくて、伝わらない可能性を考慮していた奴の頭がおかしかったらしい。
「では、早急にギルドへ問い合わせて確認してみましょう。参考までに私が記憶している候補者の中から特に際だっていた二人の情報を一部開示いたしますがーー。
一人目の候補者は、マッチポンプ詐欺と器物破損、窃盗、身分査証、経歴詐称、恐喝など刑事告訴されるギリギリの線でタイトロープする軽犯罪者生活を生き甲斐としている男性の方で、パーティーメンバーとともに同じ馬小屋で寝泊まりしていながらギルドには『住所:留置所』で登録されている十代後半の少年です。
もう一人は、非公式ながらもシュワシュワと言う通称をネロイドと呼ばれている謎の生き物を代価として支払い、盗賊が持つ窃盗スキル『スティール』を伝授してくれた相手の女性冒険者から「腕試しを持ちかけられたから」と、教えてもらったばかりのスティールを伝授してくれた相手自身に使用して下着を強奪し、「返して欲しければ有り金全部おいていけ。嫌ならおまえの下着を額縁に飾って我が家の家宝にしてやる」とカツアゲじみた脅迫で脅し取った金を元手に成り上がり今ではそれなりに大きな屋敷を所有している十代半ばの少年犯罪ha・・・失礼、間違えました。冒険者の方です。
通称は【過激にして変態なるパンツ泥棒】・・・・・・」
「ーーごめんなさい、この二人でいいです。無茶な注文ばかりして申し訳御座いませんでした。以後は気を付けさせていただきますから、許してください」
女神、土下座。
虫ケラでも見下すような目でアクアを見下ろすミユキの目に悪意はない。
ただただ無限に続く宇宙のごとき、虚無がある。
全てを飲み込む、全てのはじまり。そして全てを終わらせた後まで残り続ける無限の虚無。
ーーその瞬間、女神アクアは錯覚に襲われる。
目の前の美しい少女が、この世全ての生き物を娯楽として弄び、玩弄するおぞましいナニカのような錯覚を。
彼女が彼女本人ではなくて、彼女になりすまして自分を弄ぶために降臨した魔王の使者であるかのような錯覚をーー。
無限の宇宙の中心部、沸騰する混沌が渦巻く最奥に存在している忌まわしいナニカから見つめられているかのような原始的な恐怖におそわれ、女神アクアは思わず発狂したくなった。
まるで自分が退屈に悶える魔王によって無聊の慰めとするためだけに選ばれた、下劣でくぐもった音を出す太鼓の狂おしい連打と、呪われたフルートのか細くも単調な音色を奏でさせながら踊り狂う踊り子の群の一人に過ぎないような、そんな錯覚に襲われたからである。
ーーやがて、アクアにとっては長く、ミユキにとっては価値があるのか無いのか分かりようもない時間、沈黙が過ぎ。
「・・・左様ですか」
ミユキがいつも通りに平坦な声で納得の言葉を継げたことで空気は弛緩し、女神アクアはようやく安堵の吐息を付けた。
「では、このパーティーで討伐依頼を受注。成功報酬は皆様方で山分けという事でよろしいのですね?」
「ええ、頼んだわよ。これから私たちは直接カエルをぶっ倒しに言ってくるから。
デカい獲物を倒して大量の報酬と英雄としての名声を手にして凱旋してくる私を、楽しみに待っていなさいよねミユキ!」
ぴこーん。
女神アクアに、敗北フラグが立ちました。
「畏まりました。“逝って”らっしゃいませアクア様」
「ええ、行ってくるわ! 私たちはもう、カエルなんかに負けたりしない!」
ぴこーん。
女神アクアの敗北フラグが、敗北エンドに確定しました。
「みんな、行くわよ!
私たちの伝説は今ここから、0からじゃなくて1から始まるの!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」
どどどどどどどどどどどどどどどどどどっ!!!!!!!!!!!!
討伐対象【ジャイアント・トード】が繁殖期に入ったことを調べようともしないで全力出撃していく主を見送り、メイドのミユキは微かに微笑みを浮かべて独白する。
「さて・・・明日は何を使い、誰を玩具にして遊びましょうか・・・・・・?」
メイド長の抱える闇は暗く、深い・・・・・・・・・。
つづく