『この女神にメイドが祝福を!「ずっと目覚めなければよかったのに」「やめてよね!?」』   作:ひきがやもとまち

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更新です。ベルディアさん登場回。(ただし名前は出ない!)
今作にしては珍しくアクア様の出番がほとんどない回です。みゆきも出番は後半から。

主な主役はめぐみんとダクネス。二人のファンの方は…読んで楽しいのかどうかは自分でもよく分かりません。とにかくヒドイことしか保証できない。(クズだコイツ!)


6話「魔王軍幹部に、この爆破魔と雌豚を差し出して身の安全を!」

 ――それは突然やってきた。

 

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で正門の前に集まってください!』

 

 アクセルの街の冒険者たちが昼間からギルド内にある食堂で仕事もせずにウダウダやっていたところ、突然ルナからの悲鳴じみた緊急クエスト招集が発令された。

 

 訳が分からないながらも、荒事に慣れた荒事しかできない職業の冒険者たちは装備を整えて正門の前に集結。“其奴”を目にする。

 

 

「デュ、デュラハン……っ」

 

 

 誰かが呻くようにソレの名をつぶやく声が、飲み込む唾音と共に聞こえてきてしまった…。

 

 デュラハン。

 それは人に死の宣告を行い、絶望を与える首無し騎士のアンデッドモンスター。

 死して後に不死者となり、生前の其れを遙かに凌駕する肉体と特殊能力を手に入れた死霊系の上位モンスター、その一種。

 

 駆け出しばかりのアクセルの街冒険者たちには向かい合うだけでも相当な緊張と負担を強いてくる強大な異業種なのだが。―――疑問に感じる点がひとつだけある。

 

 

 ――なぜアンデッドなのに、そんな充血した寝不足みたいな眼で睨み付けてきてるんだ…?

 

 …そんな疑問を抱きながら街の冒険者たちが見守っている中央近くに、自分の首を差し出しながら首無し騎士のアンデッドはこう言った。

 

 

「……俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部のものだが……」

 

 やがて彼は小刻みに、プルプルと震え出し……

 

「ままままま、毎日毎日毎日毎日っっ!! おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる頭のおかしい大馬鹿者は、誰だあああああああー!!」

 

 絶叫した。

 乗っていた自分と同じ首無し軍馬に立ち上がらせて、頭も顔も口すら付いてないのに嘶きまで叫ばせて、誰もダメージ食らわされない稲光エフェクトを効果音まで追加して後光代わりに轟かさせるまでやって見せて。

 

 それはそれはお怒りの心情を、駆け出し冒険者――実質無職な日雇い何でも屋なプーども――だろうと理解できるよう懇切丁寧に丁重に、ある意味もの凄ーく親切なやり方で示してくれたのだった。

 

 …なんと言う気配り上手…さすがは騎士。元宮仕え生活で鍛えた公務員根性の成せる業。

 死して後も木っ端役人根性というものは不滅なのかもしれない……。

 

 

 

 ―――ま、それはさて置いておくとして閑話休題。

 

 

 駆けだし=初心者ばかりが集まる冒険者の街アクセルに上級魔法に類する爆裂魔法が使える魔法使いなどそうはいない。

 

 だが、しかし。

 新人冒険者チームのリーダー、アークプリーストのアクアに思い当たる人物は、一人しか該当しなかった。

 

「ちょ、ちょっとめぐみん? もしかしてアンタが……?」

「…いいえ、違います。私は犯人じゃありません。これは私を陥れるために、えーと……そう! あそこにいる巨乳の魔法使いが仕組んだ罠なのです!」

「ええっ!? あ、あたしぃぃっ!?」

 

 三度の飯より爆裂魔法が大好きなロリっ子が、青ざめた顔色で目を逸らした先に偶然立ってたから罪をなすりつけられた巨乳少女が悲鳴を上げる。

 

「わ、わたし爆裂魔法なんて使えないよ!?」

「嘘です! なぜなら彼女の言葉が偽りのものである事実を私は存じているからです!

 見てください! あのオッパイを! 胸部に隠された二つの巨大爆弾を持ってしても、彼女の呪わしき貧乳への悪意を否定できる者がいるでしょうか!?」

『た、確かに!!!』

「いや、確かにじゃないでしょ男ども!? 変なところで納得すな!」

 

 思わず本能の赴くまま合法ロリ魂の叫びに同調してしまった男性冒険者の諸君ども。男なんて生き物は、みんなこんなもんさ。

 

「て言うか! そうじゃなくて、めぐみん! どう考えたってアンタでしょうが犯人は!?

 この街に毎日毎日爆裂魔法ぶっ放さないと頭おかしくなる、頭のおかしい魔法使いがアンタ以外にいるはずないでしょうが!!」

「失礼な! 私はただ、紅魔族は一日に一度爆裂魔法を撃たないと死んでしまう病にかかっている種族だから、仕方なく丘の上で見つけたボロっちい廃城に爆裂魔法を撃ちに行くのを日課にしていただけで、ボロッちい廃城に爆裂魔法を撃ちに行くのを日々の生き甲斐として愉しみながら過ごしていた頭のおかしい魔法使いではないのです!」

「語るに落ちすぎている!? アンタって一応、知力“だけ”は高いはずじゃなかったの!?」

 

 知力が低い水の女神、驚愕。

 魔法使い系上級職アークウィザードは、転職するのに高い知力が必要になる職業です。

 

「…って言うか、アンタが犯人だとして、どうやってたのよ? 確か、一発撃つ度にぶっ倒れるポンコツ仕様だったはずよねアンタって」

「重ね重ね失敬な!」

「まぁ、待てめぐみん。アクアには私から説明してやろう」

「え。ダクネス…?」

 

 チビの肩に手を置いて諫めながら、リーダーだけ知らされてなかった事実に呆然とするアクアの前で長身のクルセイダーが前に進み出ながら胸を張り、こう宣言するのだった。

 

「実はめぐみんが廃城まで行くのに付き合って、魔法を放ち終えて倒れた彼女を背中に背負い街まで連れ帰って来てたのは私なのだ。…チビの役立たずに扱き使われている屈辱が快感だったからな!」

『…………』

 

 

 途中から恍惚とした表情になり、叫んでしまってからしばらくして咳を一つ。「コホン」

 

 

「……と、言うような理由ではなくて、か弱い少女が魔法の修行中に山で倒れているのを介抱して街まで背負い運んでやるのは騎士として当然の務めだったからなのだ」

「今更言い直しても説得力0以下にしかならないわよ! むしろ落ちるわ! その余計な補足を追加したせいで!」

 

 水の女神、激高。珍しく正論の連発である。

 天界に養われてたニート女神の頃と違って部下の失敗が直接収入に響く当事者になったせいで、真剣さ補正により頭が良くなってでもいるのかな? 

 

「ああ…山道で倒れていた幼気な少女を背負って街へと送り届ける騎士道物語の主役的英雄譚でありながら、礼の一つも言ってもらえない無礼な態度が騎士道を貫く私の心を鷲掴みにし、うら若き乙女を背負っていながら背中に感じられるのは少女らしさをまるで感じさせない石の如く硬い胸板…思い出しただけでもゾクゾクするような苦行だった……」

「おいコラ、ちょっと待て変態マゾ騎士女。言いたい事があるなら聞いてやるから、街のトイレで話し合おうじゃないか。久しぶりに切れてしまう事に決めましたよ」

 

 魔王軍の幹部に襲われそうになってるアクセルの街正門前で、実質はともかくクラスだけなら主戦力に成り得る上級職二人が同士討ちを押っ始めそうなこの状況。ハッキリ言って詰んでます。

 

「くっ…こうなっては仕方がありませんね…。私のせいで他の冒険者たちまで巻き込むわけにはいきません。ここは一人で出て行って相手をするのが筋というものでしょう」

「「めぐみん…」」

「なぁに、心配はいりません。ちょっとみんなの見ている前で魔王軍の幹部に爆裂魔法を直接ぶち込んできてやるだけです。直ぐ済みますよ」

 

 帽子の縁を指先で握り、「クイ」と持ち上げらながら「ニヤリ」と笑ってみせるめぐみん。

 格好いいセリフと仕草ではあったが、今の世界だとその行動は死亡フラグと呼ばれている。

 

 そして、厨二病だけど現代日本のサブカルチャーについては知らない異世界のアークウィザードめぐみんは、ポ-ズを取りながら朗々と己の誇りとする種族の名と己が真名を敵に向かって高らかに名乗り上げようとする!

 

「我が名はめぐみん―――――」

 

 

 

 

「お待ちください」

 

 

 

 

 …静かな声が響いてきて、ギギィと重い音を立てながらアクセルの街の正門が開かれていく方に視線と意識が向いてしまったその場において名乗り途中だっためぐみんは、中途半端なポーズのまま一時停止して完全にフリーズしてしまっていた。

 

 格好良く言おうとしたセリフを途中で遮られると、めちゃくちゃ冷めてテンションも下がりまくってしまう。

 

「む! 何奴!?」

 

 ましてや、名乗ろうとしてた敵が自分よりも乱入者の方に格好良く反応してしまったら今更なにかを続ける事自体、不可能に近い状態にされてしまったのである。

 

「……」

「「めぐみん……」」

 

 先ほどとは別の意味での心配をされ、めぐみんは一人赤面しながら帽子を目深にかぶり直して顔を伏せ、沈黙の砦に立てこもってしまうのだった。

 

 

 ――デュラハンとアクセルの街との間に広がる空間に立ち籠めた微妙な沈黙。

 そんな状況下で開かれた門の奥から現れたのは、侍女服を纏った一人の使用人。

 黒髪おかっぱ頭で、怜悧な美貌と酷薄そうな無表情が何よりも印象的な美しい少女である。

 彼女は夜の闇より尚暗き髪色と、海の底より尚深き色の瞳に虚無と底知れ無さを潜ませながら、しっかりとした足取りで魔王軍幹部の前へと進み出る。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、しっかりと。

 

 

 やがて全ての冒険者たちの先頭に立ち、デュラハンと正面から向かい合う形で対面した次の瞬間。

 

 彼女は優美な仕草でスカートの両端をつまんで一礼し、深々とお辞儀をしてから名乗りを上げた。

 

 

 

 

「はじめまして、魔王軍の幹部デュラハン様。私は九条みゆき。アクセルの街冒険者ギルドに雇われているアルバイト職員でございます」

 

 

 

 

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

「……………え? アルバイ、ト?」

「はい。アルバイトです。

 ですが今回に限り、非常事態に対処するためという名目でアクセルの街冒険者ギルドの臨時代表代行兼全権代理人としてデュラハン様と交渉する権限を支部長様より与えられておりますので、よろしくお願い致します」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします…って、え? バイトに全権代理人って…」

「お疑いはご尤もですが、こちらに支部長様直々の捺印が押された委任状がありますので偽証では御座いません。どうぞ、お改めくださいませ」

「あ、はい。ご丁寧にどう…も…?」

 

 

 ――なんか色々とメチャクチャな流れになってしまい死んではいるけど腐ってはいない死神騎士の脳味噌が軽くパニック起こしながらも一応は書類が本物である事を確認して、透かし彫りとかの詐欺常套手段にたいする鑑定作業まで終えてから持ち主に返し、なんだか生きてた頃に同じこと何度もしてたなーとか思い出しながら現実逃避していたところに少女の方から声をかけて苦い現実に引き戻されてしまった。

 

 どんなに有り得ない可能性の事態に発展しようとも、目の前に交渉を求めてくる相手がいて、こちらは先に何かを求めて話し掛けてしまっていたら話だけでも聞かなければならなくなる。それが大人の社会人マナー。

 

 

 …有無を言わさず、頭のおかしい爆裂魔法の使い手もろとも集まった冒険者一同を皆殺しにしてしまえば余計な手間をかけずに済んだのに……このドジ。

 

 

「し、して、使者殿。私と交渉とはどういうことですかな? 私からの要求は先ほどお伝えしたばかりと思われますが?」

 

 生前は騎士だった魔王軍幹部デュラハン、交渉になったせいで思わず口調を改めちゃってます。三つ子の魂百までも。

 死んだぐらいじゃ垢のように染みついた、見栄えと飾りを気にしすぎる騎士の伝統を消しきれやしません。そう言うものですよ、生きるために働くってことはね。

 

「はい、存じております。ですので、その為に必要な最終確認をおこなわせていただきたく思い、この場に馳せ参じた次第に御座います。

 それで、確認なのですが……貴方様がお求めになっている人物は、貴方の引っ越し先である廃城に毎日毎日爆裂魔法を撃ち込んできていた頭のおかしい魔法使いを引き渡す事、それだけなのですね?」

「う、うむ。――あ、いや、ちょっと違っててだな? 俺はお前ら雑魚にちょっかいをかけるために来た訳じゃなくて、ある調査に来ただけだから、あの城に滞在している間だけでも爆裂魔法を撃ちに来ない事を約束してくれさえすれば、それだけで良い。どうだ? 寛大だろう?

 魔王軍の幹部はこれほどまでに度量が広くなければなれないのだよ、わっはっは!」

 

 相手が下手にでてきた所為か、途中から調子づいてきたらしい魔王軍の幹部が高らかに自慢話を初めだした。

 冒険者の一部から「うわ、中間管理職の苦労話と自慢話マジうぜぇ…」と言うつぶやきが発せられたけど、気分良くなり調子づいてる中間管理職の死神騎士(騎士隊長でも騎士団長でもない、つまり生前は下っ端騎士)の耳には届かない。

 

 いつの時代、どこの世界だろうと騎士は形にこだわり、権威と名誉に固執する職業なのは変わらないらしい。

 

「なるほど、よく分かりました。――では――――」

 

 デュラハンの口から自らの仕える主が大切にしている仲間の安全を保障させる言質を取ったミユキは、その蒼い瞳をギラリと光らせ―――たりなどは一切することなく、静かな態度特徴を微塵も変化させぬまま左手の平を上に向けて冒険者たちの一部を指し示してから、こう言った。

 

 

 

「では、どうぞ。あちらが今回の主犯である爆破魔のめぐみん様です。偉そうに格好付ける割に、やる事がショボいチキンでヘタレな見かけ倒し冒険者チームの一員に過ぎない雑魚ですから、どうぞご存分にお好きなだけ嬲ってイジメてひーひー泣かしまくって土下座しながらごめんなさいを連呼させてしまってください。全権代理人として私が許可しますので」

 

 

 

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇっっい!!!!!!!」

 

 

 めぐみん大激怒!

 全速力で駆け寄ってきて、主の冒険者仲間を腐ったミカンみたいに軽く敵に売り飛ばそうとする頭のおかしいメイドの胸ぐらを掴み上げて、ガックンガックン前後左右に揺さぶりながら涙交じりに大声で訴えかける。

 

 

「貴女は鬼ですか!? 誰もそこまで言ってませんでしたよね!? 言ってませんでしたよね!? そこまでの賠償と謝罪はこのアンデッドも求めていませんでしたよね!?

 なのになんで罪を過重しようとしてるんですか貴女はーーーーーーっ!?」

「?? 何を言っていらっしゃるのですかめぐみん様。どうせデュラハン様の要求を受け入れる気などないのでしょう?」

「う。そ、それはそうかもしれませんが…」

「なら結果は同じです。遅いか早いかの違いがあるだけならば、周りに被害が及ばぬうちに言質を取って犯人を差し出し、他に類が及ばぬよう切り捨てる。それが責任者として果たすべき義務であり責任ではありませんか。違いますか?」

「そ、それは理屈です! 犠牲精神を説きながら自らは痛みを負おうとはせずに、いつも切り捨てる側に立ちたがる権力者の言い分に過ぎません! 大を生かすために称を殺すという手法を私は断固否定します!!」

 

 なんだか社会問題とか色々と関わってきそうな会話を胸ぐら掴んで振り回しながら行うアークウィザードのロリっ子と、振り回されてるにも関わらず普段と何ら変わらない調子と表情で応じているメイド美少女のみゆき。…時々思うけど、この子本当に人間なんだよな? 

 

「金持ちな大人の都合で売られて堪るものですかーっ!」

「堪るもなにも冒険者は、自らの命と安全を売り物にして一時の端金を得る…そう言うご職業なのでは?」

「うぐ!? そ、それは…いいえ、違います! 冒険者は平凡な日常にはない夢と浪漫を追い求め、いずれは吟遊詩人に語られる大英雄になる事を目指して危険と困難に満ちあふれた苦難の道を生きる開拓者の別名です!

 摩訶不思議なアドベンチャーこそ、私たち全ての冒険者が平凡で半端に満ち足りた人生を捨てて選んだ生き方なのです!!」

 

 そうだ!その通りだ! ――と、後方でたむろしている冒険者たちの一部から賛成の声が上がった。…ただし、彼らのいる場所は全体の中でめぐみん達より一番遠かったけども。

 

 めぐみんは勝ち誇ったように「ふっ」と嗤い

 

「なるほど。つまり冒険者とはダメ人間であると」

「一言でまとめないで頂けませんか!? せめて『ダメ』の前に皮肉的文言だけでも追加してください! でなければ言い返せなくなっちゃいますから!!」

 

 次に言われた一言で涙と鼻水に濡れたグシャグシャな顔になる。――後方から声で援護射撃していた冒険者たちは黙り込み、空を見上げたり得物の確認をおこなう事で『自分たちは何も言ってない』アピールをはじめてる。

 

 所詮、辛く苦しい農家の後を継ぐのがイヤになったから都会に出てきて一攫千金話に乗っただけのロクデナシが味方してくれたところで風見鶏にしかなりはしない。そう言うものだよ、ニートなんて。

 

「え、えーと…俺は最初の要求以外なんも求めてないんだけども……」

「待ってくれミユキ!」

 

 死神騎士の中間管理職で事の発端な、今部外者が弱々しく声かけてきたのを大声かぶせて聞こえなくして、しゃしゃり出てきたのは美人聖騎士の変態クルセイダー・ダクネス。

 

 自分たちの安全を保障してもらうため二束三文で仲間を敵に売り払おうとする非人道的なおこないに待ったをかけたのだ。

 

「ミユキ! 私はお前を見損なったぞ! 貴様には敵の手から仲間を守るため立ち向かおうとする勇気は無いのか!? 身体を張って身代わりとなり、敵の攻撃から仲間を守り抜かんとする愛はないのか!? 友情は!? 絆は!?

 我々人類がモンスターではないという証…人と人が助け合い、愛し合おうとする尊き思いをお前は持っていないとでもいうのかぁぁぁぁっ!!!」

 

 悲しさと怒りに身を震わせながらミユキに駆け寄っていき、涙ながらに訴えかける!

 

「その様な騎士道に悖るやり方を私は断じて認めない! 絶対だ! 

 もしもお前が本当に私に仲間のめぐみんを卑劣な敵の手に渡すというなら、この私が彼女の代わりとなり敵の手に落ちようではないか! 其れで満足なのだろう!? 魔王軍の幹部デュラハンよ!」

 

「え、い、いや、だから俺は別にそんなもの頼んでな―――」

 

「うるさい、雌豚。豚が人間の代わりになるなどと思い上がりも甚だしい。貴女は人質を乗せて敵の城まで運んでいく馬代わりでもしていなさい」

 

 ぴっしぃぃぃぃぃぃぃぃっん!!!!!

 

「あっひ~~~~~~~っん♡♡♡

 ブッヒーーーーーーーッン♡♡♡

 ひっひーーーーーーーっん♡♡♡

 二束三文どころか添え物代わりに売り払われちゃった女騎士なんて、惨めすぎて最悪過ぎて、もうサイコー―――っ♪♪♪」

 

 

 ……アッサリと人間だった自分を捨てて馬に成り下がる道を選んだ女騎士の姿に、デュラハンは心底から恐怖させられていた。

 

(お、俺は不当な理由で処刑されたことを恨みに思って怨霊となり、こうしてモンスター化したことで強大な力を手にしたが、それでも生きていた頃は真っ当な騎士のつもりだった…。あの処刑さえなければアンデッドになる事はなく、人間のまま生きて死んで普通に成仏していた事だろう。

 ――だと言うのに、この女! 人間のまま人間である事を辞めて、自ら馬に成り下がるだとぅっ!? あ、有り得ん! そんな事をしていったい何の得があると言うんだ!? アンデッド化と違って完全にデメリットしか無いと思うのだが!?)

 

 はい、その通り。デメリットしかありません。普通の人間ならば。

 ですが極一部の人間達にとって、人間である事を自らの意思で辞める事は最高のご褒美になります。

 

 なぜなら、そんな事して気持ちよくなる時点で人間以下の豚になってるからです。豚にとっては人間としての矜持など、貶すと気持ちよくなるから大事にしているだけのもの。

 謂わば、自家発電用に自分の心の中に挿れてある○○ブです。だから捨てても問題なし♡ どうせ後から拾って次のために挿れ直しますから、一切問題なしなのです♪

 

 人としてのプライドないって、本当に楽なものですね~(*^o^*)

 

 

「さあ、めぐみん様。いつまでもワガママを言ってらっしゃらないで、輿入れ先に向かう馬にお乗りください。大丈夫です、痛いのも苦しいのも惨めなのも最初だけ…直ぐに気持ち良くなりますよ、たぶん」

「適当な理由で人を売り払わないでもらえませんか!? ちょ、やめっ…本当に縄で縛って敵の嫁に出そうとしないでください! ダクネスも四つん這いの姿勢で私が乗せられるを待ってないで、ミユキを止めるを手伝ってくださいよ!?」

「ハァ、ハァ…人質として差し出される幼女を乗せて敵の城まで連れていく馬になるよう強制された女騎士…。

 未だかつてここまで落ちぶれた聖騎士が存在したことがあるだろか…? いやない! 私は今、新たな世界へイクために乗る馬になる! 騎士に乗せられお馬(生理)の稽古など、どこかの国に伝わる童話のようで夢と浪漫が溢れているじゃないか、めぐみん! まさに冒険者の仕事として相応しい!! ブッヒヒ~~~~~~~ッン♡♡♡」

「ダメだこの人達はーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!

 アクア! アクア! もう貴女しかいません! 私を助けて! 助けてください!

 本当だったら絶対に頼りたくないし、頼っても絶対無駄だと分かってますけど、今だけは貴女を頼ります! 貴女だけが頼りなんです! アクア! アクア!

 私を助けてくださいアクア様ーーーーーーーーーーーーーーーっっ!?」

 

 

 

 コソコソコソ。

 

「…このぐらいの金額で如何でしょうかアクア様?」

「もう一声! あの子売ってアイツが満足したらクエスト再開できるんだし、ギルドも儲かるんでしょう? だったら先行投資という事でもう一声だけでもお願いします!

 私の仲間を、もう少しだけでも高い値段で買い取ってください!」

 

 

 

「えーと…もう俺、帰りたくなってきたから帰ってもいいかな……?

 これ以上ここにいると、頭がおかしくなりそうでイヤ過ぎる……」

 

 結局なんのためにやってきたのか分からなくなってしまった魔王軍幹部デュラハンでした。

 ちゃんちゃん。

 

 

つづく


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