しばらく秋とジャックの話は進む。
そこに「ガチャッ」とドアの開く音がする。
「大将やってる!?」
威勢のいい声の主は20代前半の若々しい男だった。髪は黒で長さはミディアム。緩いパーマでサイドはこめかみまで刈っている。
少したれ目でおっとりしており、
服装は白いインナーに青のカーディガンで実に女の子受けの良さそうな見た目である。
「お、しょうくん!仕事終わり?」
若い男ははジャックの出したおしぼりを受け取ると顔を拭きながら頷く。
「そうなんすよー今日糞忙しかったー!ってあれ?」
ふと男は秋の方を見つめる
「はじめましてですよね?」
「そうですね。秋と言います。」
秋なりの愛想笑いを浮かべ答えた。
「オレ、正平っていいます!正しい平って書いて正平!ここらへんで美容師やってます!まだアシスタントですけどね!」
正平は仕事終わりとは言えない満点の笑みで自己紹介をする。
流石は客商売、接客に慣れた顔だな・・。秋は不器用な愛想の裏でそう思う。
「しょうくん何飲む?」
「いつものでー!」
正平は慣れた口でジャックに注文する。「いつもの」の言葉にすぐにピンとくるジャック。
このやり取りはもう何度も行っているんだろう。
「ジントニックでいいんだね?」
「おねがいしまーす!」
さっきまでの店の雰囲気ががらりと変わるほどテンションの高い返事に少し竦む秋。
早速ドリンクを作り始めるジャックをよそに正平は秋の方を見る。
「秋さんってここら辺の人ですか?」
秋は少し間を置いて
「ここら辺ではないですね。歩いて帰れる距離ではありますけど。正平さんはちかいんですか?」
「オレはー近いっすね!チャリで10分くらいかなー。ていうか秋さん呼び捨てでいいですよ!」
あまりに高いテンションが少し耳障りに感じる秋を知ってかジャックが話の間に割り込む。
「秋くん、やばいでしょコイツ。元気だけが取り柄だから。」
氷だけがはいっているカクテルグラスをバースプーンで素早くまわす。ジャックに「ちょっとー!」と突っ込みを入れる正平。
その二人を肴にお酒をチビッと飲む秋。
「いえいえ、楽しいですよ。お酒の席なんだから楽しくないと。」
そういって愛想を振りまく秋に、正平は喜びの笑顔をみせる。
「いやーもうこれはテキーラいくしか無いでしょジャックさん!」
「テキ・・・」
一瞬顔が歪む秋にジャックは気づく。
「しょうくんだけでね。」
と正平に冗談めいて笑うと、正平のカットしたライムを少ししぼってグラスに刺す。
最後にバースプーンで作ったドリンクをすくうと味見する。少しまがいて「うん」と頷くと、できたジントニックを正平の前に置く。
「おまたせ!」
「あっ、ジャックさんもなんか飲んでくださいよ!」
「お?じゃ、いただきまーす。」
そういうと先ほど秋が頼んだように素早くビールを作り出すジャック。
それを待つように正平はジャックを見ていた。
「秋さんってよくここにくるんですか?」
正平はふと秋の方を向く。
「たまーに・・何ヶ月に1回とかね。だからまだそんなにきたことないかな・・。」
秋はタバコを一本取り出すと咥えながら返事をする。
「ほんとと久しぶりだよね。秋くん。もうね、寂しくて寂しくて。」
ジャックは出来たビールを持つと二人の方にちかよる。
「じゃーしょうくんおつかれさま!」
ジャックの言葉に3人ともグラスを近づけ、グラスを「チンッ」とならす。
正平は少し口に含むとピタッととまる。そして、ゆっくりとグラスをコースターの上に置いて少し難しい顔をする。
「さっきからさ、ジャックさんさ。」
「ん?」
難しい顔をしている正平に不思議な顔をするジャックと、それを横目で見る秋。
「秋「くん」っていってるじゃん?」
「そうだね」
先が見えた秋は「またか」と心でこたえ、正平から顔をそらし、煙草を吹かす。
「なんで君付け?」
「え?なんでって、前に秋くんと一緒に来てた連れの子が秋くんって呼んでたからかなー。」
「でもふつー「ちゃん」じゃない?」
「男だからですよ」
秋はめんどくさい顔をして答える。その回答に正平は一瞬固まる。秋は目を合わせずただタバコを吹かす。
「ま・・」
「まじでー!!?嘘でしょー!?」
まじまじと秋を見る正平にジャックは少しため息をつく。
「いーじゃない男でも女でも。あまりまじまじと人の顔を見るのは失礼でしょ。」
ジャックの声に正平はふと冷静になって顔を離す。
「あ、すいません。つい。」
「気にしないでください。よく聞かれますから。」
また不器用な愛想をふりまく秋。
「じゃーあれなんですか?男だけど、私は女だぞって感じですか?」
一瞬何を言ってるか秋は考えたが、何となく言いたいことがわかり
「特にそんな気持ちはないですよ。男らしくとか、女らしくとか意識はしてません。」
「へぇーでも綺麗な髪してるからてっきり女だと」
判断基準はそこなのか。流石は美容師。と秋は心で突っ込む。
この手の話は人と出会うたびに聞かれるので秋はうんざりしていた。シラフなら絶対に相手しないのだが、今日はまだ少し酔っている分空いてに出来る。それでも自分にとってはつまらない話なのだ。
男だから、女だから、それらしくしなければいけないのか?そんなのその人の勝手じゃないか。それで仕事や他人に迷惑をかけているなら考えるが、それで誰かをいやな思いさせたことは無い。自分にとって不快なことならいくらでもあったけど。
「軽蔑します?」
少し嫌味を入れた聞き方だった。
「いえいえ!人それぞれですから!」
正平は少し焦ったそぶりで答える。そりゃそこで「ええ、勿論。」と答えられると流石に少しへこむ。中々そうんな人も・・・たまにはいるけど。
正平は「まずいこときいちゃったかなー・・」と反省すると手元のジントニックをぐっと飲み干す。そしてジャッックの方をみて
「強いのください!」
「・・テキーラ?」
ジャックが少し困った顔で聞くと
「ジャックさんがつきあってくれるなら!」
「そりゃつき合うけど」
「・・秋くんつきあってくれます?」
「ボクは苦手なんだテキーラ。ほんと悪いんだけど・・。」
「じゃテキーラ却下!」
秋の返答に即答すると、正平は秋のグラスを見る
「秋くん何飲んでるんすか?」
「ん?ウイスキーだよ?」
「ジャックさん!秋くんと同じのください!」
またまた秋の返答に即答する正平
ジャックは少しあきれながらも笑みをこぼす。
「はーい。じゃまっててね。」