バーを舞台に始まる物語ですが誰が主人公か。何の話か。一つの物語かオムニバスのような話か。
書きたいものを書きます。
そんな身勝手な作品でもつきあっていただけると幸いです。
「おや久しぶりー。秋くん」
静かな空間に100本近くある酒のボトル。流れるBGMは古いファンク。壁はくすんだレンガ調で、アメリカンスタイルのバー。
店のオーナーである男は30代前半の彫りの深い顔で、髭面の髪はパーマをかけており、若々しい印象だ。
「どもです。」
秋と呼ばれた客はゆるく答えてカウンター席に着く。背丈は小さく、ブリーチされた髪は白に近い金髪。10代のような幼さがあり、バーという場所には少し似合わない。
「秋くんなにのむー?ビールにしとく?」
オーナーはおしぼりと、コースター、ガラスの灰皿を客の前に置きながら尋ねる。
秋と呼ばれた客は少し間を空けると頷く。
「ジャックもなんか飲んでください。」
「お、いーの?じゃー俺もビールもらおっかなー。」
そういうとオーナーのジャックは二人分のビールを造る。
冷えたビールグラスを取り出し、サーバーに近づける。グラスを斜めにするとレバーを手前に倒す。
グラスにビールを7割ほど入れると一旦止めグラスを置く。
その間もジャックは世間話をする。内容は当たり障りの無いこと。天気、ニュース、最近の身内話。
置いたグラスをまたサーバーに近づける。今度は泡をグラスの淵までいれる。バースプーンで表面の荒い泡を救って捨てる。
「はいおまちどうさま!」
ジャックは秋の前にあるコースターの上に出来上がったビールを置くともう一つビールを造る。さっきのビールよりずっと早く、少し適当に。
「秋くんおつかれ!」
そういうとジャックはグラスを秋の方に向ける。秋もにこりと笑って手元のグラスをジャックのグラスに近づける
「おつかれっす」
互いのグラスはチンッっと音をたてた。
「秋くんてさ、男なんでしょ?」
少し減ったビールグラスを置いてジャックは話しかける。
「唐突ですね。そうですよ。」
秋もビールグラスを置き、タバコとジッポライターを自分のバッグからカウンターテーブルに置く。
「いや今更聞くタイミング逃しちゃってさ。」
ジャックは申し訳なさそうに笑う。
「よく女と思われますよ。」
秋はタバコを1本取り出し、咥えながら答えるとジッポライターで火をつける。それを見てジャックも思い出したかのようにポケットからタバコを取り出し火をつける。
「最近は男なのか女なのかわからない子が多くなったねぇ。草食系というか、男でもスカート穿いたり、化粧したり。でも秋くんは素で女の子らしいじゃん。意識してないっていうかなんていうか。」
「女らしくは意識してませんよ。だからって男らしいとも思ったことはありませんけど。好きな風に生きてるだけです。」
「じゃあさ、男に告白されたこととかある?」
ジャックは食いつくようにつっこむ。自分が経験したことの無い世界に興味津々という顔に目がきらきらとする。その顔に秋は無関心、というか表情を変えずに答える。
「ありますよ。つきあったことも。」
「まじでー!?」
ジャックは大きくリアクションをする。秋はタバコを置き、ビールグラスを残りを飲み干す。
「あ、なんか飲むかい?ビール?」
会話を止めてジャックはドリンクを勧める。
「んー・・」
秋はタバコを吹かしながらジャックの後ろにある100本近い酒のボトルを見る。色んな種類の酒に目移りして中々決まらない。
「じゃあ・・ジャックダニエルをロックで。」
ジャックは嬉しそうな反応を見せる。
「渋いねー!いーねぇ。ちょっと待っててね。」
秋は自分のビールグラスをジャックに渡す。「ありがと。」とジャックは小さく答えて受け取ったグラスを流しに置くと、ボトルの方に背を向ける。
「お、秋くん。」
ジャックはジャックダニエルと書かれたボトルを手に取ると秋くんの前にそっと置く。
「まだ開けてない!新鮮だよー!」
ウイスキーに新鮮も何もあるのか?と秋は疑問を持ちながらも、未開封のボトルに少し笑みがこぼれる。
その顔を見たジャックは余計ににやつく。そして、クーラーボックスを開けると手のひらいっぱいの氷の固まりを取り出しアイスピックで削り始める。
秋は静かにタバコを吹かしながらそれを見つめる。
「うちさー、わりとこれ頼むお客さんがいるんだよね。」
ジャックは笑いながら話すが、氷は綺麗に丸く削れていく。
流石はバーテンダー。そう思いながら秋はジャックの手元を見つめる。
「オーナーがジャックだからじゃないですか?」
少し小馬鹿にした笑いをする秋に、ジャックも笑う。
「それネタにしてるからね!自家製です。って言ってだしてるもん!」
「ジャックって本名なんですか?」
「聞いちゃう?」
え?何その返答。と面倒くさそうな顔をする秋。
「よし。」
削り終えた氷をロックグラスにそっと入れるとバースプーンをつかいグラスの縁にそってまわし始める。グラスを冷やし終わると、少し解けて出た水分を捨てる。
ボトルを開けると。砂時計のような形のメジャーカップに注ぐ。そのまま、メジャーカップの中身をグラスに入れる。そして、気持ち程度にボトルから直接少し入れる。
「おまたせー!」
秋の目の前にロックグラスを置く。
「ありがとうございます。」
秋はちびっと口に含むと口の中いっぱいがウイスキーの風味と高いアルコールの味に染まる。
「ん・・おいしい。」
「ごめんね、途中で話しきって。なんでジャックなのかだっけ?」
それ以前の話も途中で切れてるような・・と思いながらも秋は小さく頷く。
「俺こんな顔で外人によく間違われるんだ。んで若い頃お世話になったバーのオーナーに、お前ジャックって感じだな!って言われたの。」
「へぇ。」
「何言ってんだこいつとおもったけどさ、いざ自分で店を持つってなったときにさ、これネタになるなーって思ってジャックでとおしてるんだ。」
「ジャックは日本人なんですか?」
「バリッバリの日本人!俺クォーターだからさ。」
「なるほど」
「そうそう、オススメはって聞かれるとジャックダニエルですっていうと笑ってもらえる訳よ。実際ウイスキー頼むお客さんはあんまりいないけど、飲む人はジャックダニエル頼む人多いかな。」
「看板メニューなんですね。」
「そうそう!ジャックダニエルなんてどこのバーでも置いてるのに!」
笑って答えるジャックに秋は微笑む。
「ボクは好きですよ。ジャックダニエル。味もだけど、ラベルが好きなんです。」
「かっこいいよね。俺も好きだなー。」
「ジャックが一番好きなお酒ってなんですか?」
「俺はねー、テキーラかな!」
その言葉に秋はビクッとする。
「冗談冗談!いや好きだけどねテキーラ。俺はねーこれ。」
ジャックはボトルを取り出す。ラベルには鳥の絵が描かれている。
「オールドクロウ。ってやつ。」
「ジャックじゃないんだ。」
笑う秋にジャックもつられる。
「あ、マジに答えちゃった!」
店内に静かな笑い声が響く。