私の愛しい愛しい出来の悪い教え子   作:ジト民逆脚屋

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あれからとそれから

あれからが大変だった。

自分がした事とはいえ、まさかあれ程反響があるとは考えが足りなかった。

控え室に戻るまでに人に囲まれ、控え室に戻ってからも、千冬に叱られ、ダリルとフォルテ、楯無の三師匠にはからかわれ、国際電話で簪と本音に大笑いされた。

そこからも、帰国するまで人に会って話しての繰り返し。いつものインタビューよりも疲れる日々だった。

 

「あの様な場で、あんな真似をするからそうなるのだえ」

 

霧絵には煙管片手に呆れられ、職場に戻っても生徒からの質問責め。

落ち着けるのは、やっとかと安堵の雰囲気のある職員室だけだった。

まあ、山田から山の様な小言と榊原からバックドロップをいただきはしたが。

しかしそれでも、職員室すら安寧の場ではなくなりかけた。

世界各国からのスカウトだ。

例の四か国からは当然として、四連覇を果たした今、日本から栄光を奪い取ろうと世界が躍起になって仕掛けてきた。

無論、学園は独立機関であり、日本も一夏という英雄を手離す気は更々無い。

それに加えて、IS競技者の選手寿命は短い。肉体の加齢とそれに伴う集中力や反応速度の低下、そして高速機動時の負荷の蓄積。

大体の目安として、十代後半~二十代前半が全盛期であり、一夏はもう全盛期を過ぎている。

しかし今の状態を維持していれば、まだ頂点で君臨する事は出来る。

だが、一夏本人にその気が無い。

一夏としては選手は引退し、一教師として働き、霧絵と生きていく。

 

そして霧絵にも変化があった。

どうやら鼻の利く記者が霧絵の仕事について嗅ぎ付けたらしく、楯無の妨害を掻い潜り記事にして出してしまった。

話題を席巻する作家霧村夕狐の正体は、織斑一夏の師。

この情報化社会、一度でも社会に情報が出てしまえば消す事は不可能に近い。

故に霧絵にも取材や執筆依頼、果ては選手のコーチング依頼まで舞い込んできた。

これにより霧絵の機嫌は急激に悪くなり、資料を届けに来た峰岸が真っ青な顔をしていた。

まだ執筆依頼と取材だけなら、霧絵の怒りを買う事も無かっただろうが、どこぞの愚か者が自国選手を無理矢理コーチングさせようと、裏から手を回してきた。

当然、気付いていた楯無達により妨害された。

 

「おや、こんな真昼に縁側でどうしたんだえ?」

「いやぁ、思えば遠くまで来たなぁって」 

「ココ、これは異なことを」

 

それからも、霧絵や一夏にエッセイの執筆依頼やテレビの出演依頼が来たが、これらは全て断った。

理由は簡単だ。語る事も書く事も無いからだ。

ただ、出来の悪い男が仲が良かった相手に愛想を尽かれ、良い師匠達に巡り会えて栄光を掴むまで諦めなかっただけな話と、出来の悪い教え子を見離さず最後まで寄り添っただけな話。

こんな話、誰かに聞かせる事も書く事理由も無い。

誰だって、何処にだってある話に過ぎない。

それに、霧絵との話は誰にも語らない。そう決めた。

 

「しかし、あの教え子がこうなるとはのぅ」

「師匠の教えが良かったからね」

「コココ、当然よな」

 

霧絵はあの後、エッセイやテレビの出演依頼を持ってきた出版社とは完全に縁を切った。一夏も同じく、そう言った相手とは連絡を断っている。

今、霧絵の作品は全て峰岸の居る出版社のみから出されている。

というより、峰岸が問題無しと判断した仕事以外はやっていない。

霧村夕狐はただの作家、作品以外で語る事など無いし、織斑一夏もただの選手で教師、それ以外でもなんでもない。

 

「あ、〆切はいいの?」

「今の仕事は全て済ませておるぞえ。まったく、平安の頃の話は書くのが手間で仕方がない」

「平安かー。ちなみに題材は?」

「今も東京にて祀られる者ぞ」

 

そして、楯無も選手としては現役を引退し更識の当主として、忙しく駆け回っている。けど、今も時々二人の元に訪れては愚痴を吐いたり、酒を呑んだりしている。

あと、密かに春が来ていた様で、相手は霧絵の専属編集の峰岸だった。

何がどうしてそうなったのか。一夏は知る由も無いが、霧絵が笑っていたのでそういう事なのだろう。

更識の家でも有能らしく、編集者を辞めて家で働かないかと言われて参っていると愚痴っていた。

 

「平和だ。でも、落ち着かない」

「刀を置いたのだから、もう少し落ち着けばよかろうに」

「いやぁ、どうにもね」

 

弾と虚も変化があった。

五反田食堂に企業からタイアップ企画が来て、五反田食堂監修の商品を出したところ、これが絶妙な具合でヒットしたらしく、連日大盛況となった。

チェーン化の話もあったらしいが、弾曰く

 

「慣れない事はするもんじゃないし、家はただの食堂で、俺は料理人だ」

 

と、断った様だ。

それに加えて、二人にも子供が生まれた。

赤ん坊を背負って中華鍋を振る弾の姿は、なかなかに様になっていた。

蘭も就職先でトラブルに巻き込まれて、今は五反田食堂の事務を一手に担いながら、Webデザイナーで稼いでいる。

現状の目標は店の設備をもっと良くする事らしい。

 

簪と本音も技術者として、まだまだ忙しく世界中を駆け回っている。

簪に至っては篠ノ之束の再来とまで言われているらしいが、本人はそれに辟易していた。

 

「新しい技術を産み出した訳じゃない。今ある技術を発展させただけ」

 

と、最新のプラモデルをカート一杯に積み上げながら言っていた。

そして、件の束だが、

 

「これ、何処なんだろ?」

「またあやつは、訳の判らぬ事を」

 

先日届いた手紙には、確実に地球ではない何処かで

 

「ロケットで来た」

 

と、ネットミームの真似事をしている写真が同封されていた。

一緒に写っている見覚えのある姿に似た者も気になるが、写真のロボットの側でポーズを取っている黄色いバイクの女は、あれ確か弾の所に転がり込んでいたバイトではなかったか。

 

「あやつはまだあの格好をしておるのか」

「アイデンティティとか言ってたけど」

「歳を考えぬのか……」

 

千冬もマドカが反抗期が始まったのか。手を焼いている。

この間も家出と称して転がり込んできた。

まあ、何処かに行かれるよりマシだと受け入れているが、その度に勝負を挑んでくるのはどうにかしてほしい。

 

「素直になれぬだけであろ。直に大人しくなるものよな」

「そんなもんかな」

「そんなものぞ」

 

皆、自分の道を歩み幸いを手にしている。

では、二人はどうか。

そんなもの決まっている。

 

「とと様かか様!」

「おぉ、〝霧夏(きりか)〟。帰ったか」

「霧夏や、今日はどうだったかえ?」

「友達が出来た!」

 

あの巣立ちの日、もう一つ驚いた事があった。

なんと霧絵は娘を身籠っていた。それが霧夏だ。

霧絵によく似た細い目と黒髪に、一夏に似た性格。

最近では霧絵の様になりたいと、あちこちの野山を駆け回っている様だが、それが何故霧絵に繋がるのか。

一夏は理解しているが、何も言わない。

それが娘の選んだ道ならただ見守り、そして何時かは見送るだけだ。

〝尾〟については霧絵と二人で話し、霧夏が望むならとしている。

 

「ほぅ? 流石よの」

「良かったな、霧夏。で、あの子達が?」

「うん! 皆、来ていいよ!」

 

霧夏が呼ぶと、五人の人影が門の方から近付いてきた。

 

「霧夏ちゃん家、おっきい」

「え? いや、それより、えぇ?」

「嘘だろ……」

「それより、挨拶が先でしてよ」

「マジ? 本物?」

 

二人はその五人を見て、少しばかり驚いた。

何時か何処かで袂を別った五人によく似ていた。

 

「やぁ、初めまして。霧夏がお世話になったみたいだね」

「ココ、まあゆるりとしていくがよい」

 

あの日、全てが終わった。

そして、またもう一度始めた。

なら、今日もまたもう一度始まる。

 

「ほれ、霧夏。上がってもらうがよい。ちょうど、峰岸の奴が持ってきた菓子があるぞえ」

「ああ、手洗いとうがいをしてからな」

「ホント?! やった! 皆行こ!」

 

六人は我先にと玄関へ駆け出し、二人はその背を見送り微笑み合う。

 

「さて、茶の準備をしないと」

「では、器を準備しようぞ」

「ねえ、霧絵」

「どうしたんだえ? 一夏」

「明日はどうしようか」

「決まっておろ。人も英雄も化生も、日々を生きるだけよの」

 

そんな事も分からぬとは

 

「誠に愛しい愛しい出来の悪い教え子ぞ」

「やっぱり、師匠には敵わないな」

「当然であろ」

 

二人は近付いてくる足音に微笑み、台所へ連れ立って向かった。




今回で拙作は終了となります。
2016年より始まりまして、約10年近くに渡りお付き合いいただきました皆様ならびに、原作IS〈インフィニット・ストラトス〉に多大なる感謝を申し上げます。
では、また別の作品で
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