あまり人の手が入っていない森林を、2人の旅人の声が聞こえる。
2人は黄色で大柄なチョコボと呼ばれる鳥に跨がり、獣道を少しずつ進み、森林の出口を探していた。
格好は厚手の布の服にマント、足元は膝まである長めのブーツ。腰には一般的なロングソードをさしていた。
旅人と言われれば納得する格好である。
二人とも歳は30前後、1人は体格の良い男で、もう1人から『ウェッジ』と呼ばれている。頭に赤いバンダナを巻き、不快な顔をしている。
もう1人は少し長めの髪で切れ長の顔をしてウェッジからは『ビッグス』と呼ばれている。
ウェッジよりは線は細いが決してひょろっとしているわけではなく、筋肉質であり、日頃鍛えているのがわかる。
「まだかよビッグス!帝国を離れてもう1週間だぞ!」
「あのなウェッジ、飛空挺ならまだしも陸路で来てるんだ。それぐらいかかって当然だ。」
「船くらい使わしてくれてもいいじゃねーか。新兵でもあるまいし。」
「仕方ないだろ。帝国の領内じゃないんだ。ただでさえ反乱軍の動きが激しい今、どこに敵がいるかわからん。人のいるところはさけるべきだ。」
「はぁ・・。俺はよー、このチョコボの臭いがどうしても慣れないんだよ。身体中に染み込んだら最悪だぜ。」
「だったら走って行くか?それこそごめんだね。」
ウェッジの愚痴にビッグスはあきれ気味に返す。
「だいたい魔法なんて存在するかねぇ。おとぎ話じゃあるまいし。」
「おとぎ話で兵を動かすほど帝国は暇じゃないさ。なにか確証があるんだろ。それに魔導アーマーやジーナ大佐を見れば信じたくもある。」
「まーな。でもあれは科学の力ってやつだろ?人の手で創られたならまがい物だろ。」
「たとえまがい物でも、恐ろしい力さ。」
ビッグスは少し思い詰めた顔をした。
それはまだビッグスが帝国に入隊したばかりの新兵だった頃。
ある訓練所に小さな女の子が連れてこられた。
男しかいない泥臭い場所に似つかない、白いワンピースを着たブロンドの髪の女の子。
その子は横にいる40歳ほどの中年男性の袖をにぎっていた。まるで父と子のように。
周りの兵が少しざわめき始めた頃、重々しい足音がきこえてきた。
「見ろよビッグス、アレが魔導アーマーだ」
「あれが・・。」
人二人分ほどの高さに太い足、竜の口にみえるその鉄のかたまりはビッグスにとって恐ろしい魔物のようにおもえた。
その魔物の上には兵士が搭乗しており、手足のように動かしいてる。
「すげぇ・・これっぞ帝国の力だな。早く乗ってみてーな!」
魔導アーマーに興奮を隠しきれないウェッジをよそに、ビッグスはただ恐怖を感じていた。
急に数人の兵士が現れ、訓練場を囲む。
「下がれ!邪魔だ!」
「おい!おまえら、死にたいのか!?下がれ!」
その声にビッグスやウェッジ、さっきまでいた兵士はよそよそしく後ずさる。
「ドクターシド!準備の方ができました!」
一人の兵士が少女の隣にいる中年男性に声をかけた。
「そうか・・。」
シドは中腰になり、少女の頭をなでる。
「ジーナや。目の前に大きな怪獣がいるだろう?」
ジーナと呼ばれた少女は目の前の魔導アーマーをぼんやりと見つめ、小さく頷いた。
「あれはとっても危ない物だ。私もジーナも食べられてしまうかもしれん。」
少女の顔が少し歪む。そしてまっすぐ、目の前の「敵」を睨みつける。
「ビッグス・・何が始まるんだ?魔導アーマーの運用試験か?」
「あんな小さな子をつかって?ドクターシドが女の子のそばにいるってことは、女の子の方の実験なんじゃないかな・・。」
ビッグスとウェッジが小声で話してるその瞬間「バァンッ!!」と破裂音のような落雷のようなとても大きな音と、あたりが真っ白になるような閃光が走った。
突然のことにビッグスは視界と聴覚をやられ、何もわからないままただ慌てるしか無かった。
「なんだ!なにがおこった!
ウェッジも同じく何も見えず聞こえずうろたえていた。
ようやくぼんやりと視界がみえてきたビッグストウェッジの前には
「・・どうなってやがる」
魔導アーマーは原型無く崩れており、搭乗していた兵士は操縦席の上でぐったりと血だらけになっていた。
少女とシドは何も変わらず、落ち着いていた。違うと言えば、シドの表情が感悦であったことだ。
「すばらしい・・。」
シドは軽い拍手をする。
少女は魔導アーマーの方にゆっくりと歩いていく。それをシドは優しい顔をして見守る。
少女は瀕死の兵の目の前に立ち、じっと兵を見つめる。
兵士は満足に顔を上げることもできなかった。体中から肉がこげた匂いと生温い出血でどこが痛いかがわからない。
さっきの光と音で視覚も聴覚もやられてしまいなにがおきてるかもわからない。
ただ、何をされたのかはわかっている。
あの少女が不思議な力で殺しにきたのだ。
あの力を言葉にするなら・・そう
「魔法」
というのだろう。
兵士は必死に声を出す。そして力なき助けの手を伸ばす。
「ば・・け・・もの・・め・・」
もはや声はかすれ聞き取れないが周りの兵からは、あの兵士は少女に助けを請うているのか、それとも、つかみかかろうとしているのか。どちらにもみえた。
少女は表情一つ買えず、震えるその血だらけの焦げた手を握るとボソッと何かを言った。
その瞬間「ボンッ」と爆発音が聞こえ、兵士はあっという間に火だるまになった。
瀕死の兵士は声も出せず暴れることもなかった。
すぐに火はきえ、兵士は肺も残らず焼けた跡だけを残して消えた。
周りはとても静かだった。10人以上はいるだろう人が誰も声を発することを忘れ、ただ目の前の非現実的な現状を把握できないでいた。
少女はシドの方へ振り向き、シドに手を差し伸べた。
シドは優しく微笑むと少女の手をつなぎ頭をなでると、訓練場をあとにする。
少女の白いワンピースは血と泥で汚く染まっていた。