この素晴らしい古竜に祝福を 作:sil
私―――改めオレorボクがアクセルの町にやって来て一か月が経った。
初日の騒動には色々と驚いたが、ここでの生活も大分慣れた、と思う。
親切なこの町の人達のお蔭だな。皆には本当に色々とお世話になっている事だし。
特に、常識や言葉遣い等は、手が空いている人が代わる代わる教えてくれるお蔭で大分覚えてきたな。
曰く、言葉遣いが全然子供らしくなくて違和感がバリバリだったよう・・・みたい。達観し過ぎと言われたり、こめっこが一応と言ってた意味がようやく分かった。
一人称も私からオレorボクにする様に言われたけど、どちらがいいのかまだ悩み中だ。
女性陣はボク派で男性陣がオレ派ときっぱり別れてしまっているし。
何が違うかよくわからない。たぶん、子供が僕で大人が俺だと思うんだが・・・それだけじゃない気がするのは気のせいだろうか?じゃなくって、気のせいかな?
むぅ・・・やはり、いきなり口調を変える事に若干の違和感が付き纏うせいで、まだ完全に変える事が出来ていない。
せめて人と話す時は歳相応の話し方をするように心がけてはいるが、それでも少し気を抜けば元に戻ってしまう。
長い事染みついていたものを変えるというのは結構大変なのだな。その大変さも楽しくはあるのだが。
まぁ、それはともかく、目的の一つだった冒険者登録もちゃんと出来たんだし。
あの日はそれどころではなかったから、翌日になってからようやく登録出来たんだったけど。
裾からまだ真新しい光沢を放つ冒険者カードを取り出し、ざっとそこに記されている事を眺める。
《エンシェント》レベル──「1」
スキルポイント──「11739」
『性別』男
『年齢』14
『種族』人間・?
職業──【冒険者】
力 280()
体力 800()
魔力 =◆◇()
器用 88()
俊敏 647()
運 99()
知力 87()
耐久力&(★()
生命力###()
うむ、レベルは1だが、能力値の数値が色々と可笑しい。
後から調べてみたけど、登録をしてくれた受付嬢のルナさんやボートカスさんがあれだけ驚いてたのがよく分かる。
普通、レベル1だったらどんなに良くともどれか一つが100行ってるくらいの様だから。
この冒険者カードを見ると平均とは一体何だったのかって感じに思ってしまう。
平均?あぁ、あいつはいいやつだったよ、とはボートカスさんの言葉だ。
しかも3つほど値が可笑しくなっていて読むことも出来ない。こんな事も今までなかったそうだ。
まぁ、今の値でも十分規格外という枠組みに位置するけど、これでも抑えている方って言ったらどうなるだろう?
下の方に結構記されてるスキル・魔法欄の一つにある【封印】の文字をそっと指でなぞる。
人間の姿を維持するために編み出した魔法の一つのはずだったが、スキルになるとはね。
そのせいか、体に記されていた封印の魔法陣が一部を残して消えていた。
目には見えなくとも、ちゃんと力は抑えられている事から、見えなくなっているのか、右目にある魔法陣はそのままだったので1か所に絞られたとみていいだろう。
どちらにせよその原因は冒険者カードの不思議な力でまず間違いないだろう。ますます興味深いな。
あと、数値の後ろにある()だが、【封印】を外した時の値が出て来るのではないかな?
どうなるか分からないから流石にまだ試そうとは思わないけど。いつか折を見て調べてみるとしよう。
そうそう、他にも魔法でクリエイト・サンドイッチとかクリエイト・ステーキ等があるけど、それを見たボートカスさんの表情が凄いなんとも表現しにくい感じになっていたな。
私自身がそれを表現する言葉を知らない、という事もあるかもしれないが。
まぁ、実際に食してもらったらボートカスさんだけではなくて皆に凄い好評だったので、お世話になっているお礼として週に1度は御馳走する事になったんだけど、ギルドの食事処は大丈夫だろうか?
「えーぎょーぼうがい」にならないといいんだけど。
次に職業は、冒険者登録の翌日に落ち着いてからルナさんにしっかりと教えてもらった結果、「冒険者」にしたけど、この職業は凄い。改めてそう思わされる
例えば「アーク・ウィザード」や「クルセイダー」といったその職業でしか覚えられない様な魔法やスキルを目の前で実践してもらう事で、スキル・魔法欄にそれが表示され、習得が可能な状態になるのだから。
まぁ欠点として、習得する為のスキルポイントというものを普通の倍くらい消費する事や、威力が若干劣るといった事が挙げられるけど、これについては「確かに、冒険者を選択してもエンシェントさんのこの能力値なら問題ないですね。というかスキルポイントの数値も可笑しい事になってますけど!?本当にどうゆう事なんですかぁ!?」というルナさんのお言葉がある。
あと、質問については私も知りたい。
スキルポイントも普通はこんなにない、というかないのが普通なくらいと言われたけど、少ないよりは多い方が何かと良いと聞くし、ルナさんもあまり気にしないでいいと思う。ボク(オレ)は気にしない。
あ、そう言えばウチの子にならない?というお誘いもボートカスさんを含めた色んな人に言われてたあれ。結局、この町の皆が保護者っていう事で昨日決まったらしいんだけど。
今朝、ギルドの掲示板に張り紙であったのを見た時の心境は困惑の一言に尽きる。本人のあずかり知らない所でいつのまにそんな話が進んでたんだろう?まぁ、とても嬉しいんだけどね。
「んっと、そろそろ時間か」
さてさて、じゃぁそろそろお仕事に行くとしよう。まずは窓口嬢のルナさんのとこに行かなくては。
◇ ◆ ◇
さてさて、街から出て歩く事小半刻、やって来たぞ大草原。
生い茂る原っぱが続いてるこの場所は、天気が良い日にお昼寝するととても気持ちが良さそうだ。
まぁ、外にはモンスター達がちょろちょろしてるので、うっかりしてたら食べられてしまったりするのでそんな人はいないだろうが。
「にしても今日は本当に天気がいいな。心地よい風も吹いているし」
雲一つない快晴。個人的には雲がある方が好きだけれど。
色んな形があるし、時間と共に姿や色を変えるのを見ているだけで数百年は余裕で過ごせる。実際こめっこと話す前もそんな感じだったし。
下手をするとこめっこに話しかけられるまでずっとあそこで眺めていたかもしれない。いや、きっとそうだな。
「で・・・意気揚々とやって来たものの、案の定いつも通りか・・・はぁ」
自分以外誰もいない広大な大草原で肩を落とす。
少し前から冒険者としての仕事、所謂クエストを受注して来たけれど、その達成率は正直かなり微妙だ。
その中でも今回の様な討伐系はすこぶる悪い。というか今のところ0だ。
ルナさんの話では、この辺りにジャイアント・トードーという大きなカエルのモンスターが異常発生していると聞いてたのに、その姿が全く見えない。
彼等は繁殖期になると人里の周辺に現れ、家畜や子供を丸呑みにしてしまう為、ある程度討伐しなくてはいけないらしいんだが・・・これはどうすればいい?帰る?カエルにちなんで。
「・・・またルナさんに失敗の報告しなくてはな・・・はぁ」
最近また増えて来た溜息。ままならんなぁ。
◇ ◆ ◇
「───そうですか・・・報告では昨日まではかなりの数がいたと確認していたのですけど、誰かが討伐したという報告は受けていませんし、もしかしたらどこかへ移動したのかもしれませんね。それに関する情報をこちらで集めてみます。それで、その・・・今回のクエストなんですが・・・」
「・・・失敗、ですよね・・・?」
そう問いかけると金髪を後ろで束ねた女性、ルナさんは気まずそうに頷いた。まぁ、わかってたんだけど、なぁ・・・はぁ。
ルナさんに挨拶をして受付から離れ、ギルドの酒場の席に座る。すぐに赤みがかった茶髪ショートヘアーのウェイトレス、ミキさんが注文を取りにやって来た。
飲み物と軽い食事を頼むと、数分と待たずに持って来てくれた、のはいいんだけど・・・。
「あの、どうしてミキさんも座ってるんですか?」
「ん?まぁ、今はそんなに忙しい時間でもないですから。1人抜けても十分回せるんですよ」
確かにお昼にしてもまだ早い時間だからお客さんは片手で数えるくらいだった。でも、ちゃんと休憩の許可はもらって・・・ないみたいだ。他のウェイトレスの皆がジト目をミキさんに向けている。
「それで?その様子だと今日もダメだったっぽいですね」
そんな視線に気づいているのかどうかはわからない様子のミキさんにそう尋ねられ、頷くことしか出来なかった。思い出すとまた少しだけ気分が沈んだ感じがする。
「まぁ、そういう事もありますよ。大体駆け出しなんて失敗してなんぼって感じなんですから。だからそんなに気落ちする事ないですよー?」
野菜スティックを口にしながらミキさんはそう言ってくれた。
ボートカスさんの他に、ミキさんを含めたギルドにいる人達にはこの一月でとてもお世話になった。
失敗した時はこうした励ましや、相談、分からない事についての質問、言葉遣い等々教えてくれたし。
目の前の彼女を含めたこの町の人々にはとても足を向けて寝られない・・・というのに、立ったまま寝ると怒られるのはよくわからない。解せぬ、だ。
にしても・・・むぅ・・・相変わらずこの野菜スティックはすばしっこい。
鮮度がいい証拠なのだけど、毎度何故か上手く捕まえる事が出来ない。他の皆は簡単に捕まえているというのに。
机を逃げ回るにんじんスティックに悪戦苦闘していると、不意に横から伸びた手がそれを掴み上げた。
「む?・・・んむっ!?」
手を追って振り向くと同時に口に何かが突っ込まれた。
感触や味から察するにさっきのにんじんスティックのようだ。口に入ってしまえばにんじんスティックも観念して大人しくなった。
「ふふっ、相変わらずエンちゃんは可愛いねぇ~」
何かをつまんだような手でくすくすと笑みを浮かべているのは、ミキさんと同じ格好の女性。
ふわりとしたクリーム色の長髪と雰囲気の持ち主、シャーリーさんだった。
「むぐむぐむぐ・・・シャーリーさん、可愛いとは男に対しての言葉ではないのではないか?あ、いや、ないの?」
「んー?そんなことないよ?可愛いはすべてに対する褒め言葉なんだからぁ。私は純粋にエンちゃんの事を褒めてるだけよ~」
「そ、そうなのか?あ、いや、そうなんですか。えっと・・・ありがとう、ございます?」
「もぅっ、ホントに可愛いなぁエンちゃんは!」
「むぐっ?」
いきなりシャーリーさんに頭を抱きかかえられ撫でまわされる。ふむ、相変わらず柔らかい。
そんな時、少し離れたところから「あぁー!」という聞き覚えのある声が聞こえ、誰かが近づいてくる気配を感じた。というかこの状態だと何も見えないし。ついでに息も出来ない。
「もぅっ、シャーリーずるいよ!今日は私が最初のはずでしょ!」
「ありゃぁ~・・・えぇっと、可愛いエンちゃんを見たら、つい・・・てへ♪」
「シャーリー、それはそうとそれじゃぁエンちゃんが息出来ないよ?」
「ん?あらら、それは大変。大丈夫エンちゃん?」
名残惜しそうながらもシャーリーさんから解放された。まぁ、別に息は一時間くらいなら止めていられるから大丈夫ではあるけど。
周りを確認すると、シャーリーさんが頬を膨らませた金髪のウェイトレス、ミーナさんに詰め寄られていた。また何か怒られるような事でもしたのだろうか?
「というかシャーリー先輩、面白がってまた変な事教えないで下さいよー」
「えー、別に間違ってはないよ?」
「まぁ、確かにエンちゃんさんは可愛らしいですけれどね」
ミキさんの指摘を受けたシャーリーさんの言葉に、黒髪のマヤさんも頷く。というかここのウェイトレスさん大集合だ。仕事はもういいの?
「取り敢えず、さっき最後のお客さんも出て行ったからお昼まではお休み。っと、いう訳でエンちゃんにアターック!」
「むむっ?」
今度はミーナさんに後ろから抱き付かれた。毎度思うけれど、どうして抱き付くのだろうか?
「エンちゃんさん。抱きしめる、つまり抱擁とは親愛の情をもって愛撫することを指すのです。つまり、親しい者が行う愛情表現の一種ですね。挨拶で抱擁をする所もあるそうですよ」
「だからって誰彼構わず抱きしめたりしちゃダメですよ?そういうのが苦手っていう人や、やったら危ない人もいるんですからね」
マヤさんとミキさんの説明に相槌を打ちながら納得する。つまり、シャーリーさん達は私に親愛の情を抱いてくれてるのか・・・うむ、嬉しい、な。思わず頬が緩んでしまう。
「「「っ・・・!」」」
「ふふふっ♪って、あれ?どうしたの3人とも?」
ん?ご満悦から疑問に変わったミーナさんの声で現実に意識を向けると、固まっている3人が目に入った。
どうしたのか?と思っていると、ミキさんの手から零れ落ちた野菜スティックが元気を取り戻したように机を駆けまわる。
けれど、少しかじられたせいか少し遅めになっているから、これなら捕まえられそうだ。
だが、焦りは禁物。じっくりとタイミングを見極めて狙いに行こう。動きが一瞬でも止まった時がチャンスだな。
ふふっ、さながら狩人、ハンターと言った所か。さぁ、今度こそ捉えてみせるぞ・・・!
「・・・ねぇ、ミーナちゃん。ちょーっと、その場所変わってもらっていいかしら?今私、無性にエンちゃんを抱きしめたいの」
「・・・シャーリー先輩はさっきしたじゃないですか。今度は私にさせてくださいよー」
「・・・そういうミキさんは一番早く休憩に入ったではありませんか。ですので公平を期す為にも、ここは私が」
「「「・・・・・」」」
「え、え?な、なんで急にこんな空気になってるの?さっきまでの穏やかな空気は何処に行っちゃったの!?」
突如険悪な空気を醸し出して睨み合う三者に、戸惑いの声を上げるミーナ。その声に反応する様に三人の視線はミーナに注がれる。
「ね?ミーナちゃん♪」
「(え”!?な、なにが’ね’?なのシャーリー!?)」
いつものニコニコ笑顔のように見えて、纏うオーラが恐ろしすぎるシャーリー。
「ミーナせんぱぁーい★私ですよね?」
「(ミキちゃんっ、目が全然笑ってないよ!?)」
可愛らしく名を呼び小首を傾げる
「・・・(ニコリ)」
「(ひぃぃ!?)」
前の2人とは違い、言葉こそ発しなかったマヤだったが、それが逆に恐怖を誘った。
笑顔とは本来攻撃的なものであるとはよく言ったものである。
訳も分からず三者三様のプレッシャーを受けたミーナは顔を青くして身を竦ませ、涙目。
今彼女はまさに、ヒュドラに睨まれたジャイアント・トードー状態だ。
助けを求めようにも、まだ客はおらず、料理長も姿が見えない。
ならば窓口は、と思ったがいつの間にか休憩中の札が掛けられて誰もいなかった。
もしや、料理長も含めて逃げたのかもしれない。
ミーナは恐怖から抱きつく腕に力が入ってしまい、それを見た三人のプレッシャーが高まるという悪循環が出来上がってしまった。
「・・・っ、そこッ!」
そろそろ涙が零れ落ちてしまいそうになった時、この場にいたもう一人の声が響いた。
それは自らの腕の中に抱かれていたエンシェントだった。掲げられたその手には、少しかじられたきゅうりスティックが握られていた。
「ふふっ、見ていたか?その気になれば私だって捕まえられるのだぞ」
後ろから抱きついている形の為にその表情は窺えないが、きっとむふー(* ´ω`*)と自慢げな顔になっている事だろう。
その証拠に、目の前にいる3人の表情が段々と穏やかなものへと戻っていく。
妙に達観しているように見えたり、こうして年相応な態度を見せたりと、この大人と子供が混じった様などこかちぐはぐとした所が、エンシェントが街の者達に好かれる要因の一つなのだろう。
「た、助かったぁ~・・・」
ともあれ、危機が去った事を確認したミーナは大きく安堵の息を吐き、あの状況を打ち消してくれたエンシェントに女神エリス様並に心から感謝した。
まぁ、図らずともその原因を作ったのもエンシェントではあるのだが。
「ふふふっ、自分で捕まえた野菜スティックは格別だな」
「・・・あれ?そう言えばその野菜スティックって───」
「「「「!?」」」」