魔法の世界で、砲が轟く   作:spring snow

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第一一話

「今回は予想よりも大きい被害が出たな……」

 

 真一は腕を組み、難しそうな顔をしながら言う。

 今回の魔王軍との戦いでは完勝に近い成果を上げた。

 まず魔王軍の被害だが、推定では兵士3万(騎馬兵2万 攻略部隊の先鋒1万)の内、2万人近い兵士が戦死と思われる。

 これは、グデーリアン隊が直接被害を与えた戦果は多くとも7~8000と思われている。

 ほぼ大半は、最後の坑道を吹き飛ばしたときのものだ。

 これに対し、味方の被害は戦車20両の内、6両の損失。兵員は2000の内、155名が戦死。400名が負傷。重砲は損失無し。トラックは300両の内27両を損失という大きな被害が出た。

 確かに、有力な敵と戦ったから被害が出るのは必至であろうが兵器の質に関してはこちらが圧倒的に上回っている上、この部隊はまだまだ戦力が整っていない存在だ。そういった点で考えると今回の被害は大きすぎる。

 

「申し訳ありません。敵の予想外の反撃に手間取りました」

 

 司馬懿が、頭を下げた。

 

「いや、今回は初の実戦であるから仕方が無い。次は絶対にないぞ!」

 

「御意!」

 

 臣下の礼を取る司馬懿に真一は聞いた。

 

「で、その反撃とは何だ?」

 

 真一にとって予想外であったのは司馬懿とグデーリアンという二人の名将が率いながらもこれだけの被害が出ることはどうしても理解できなかった。

 

「敵の魔法とその士気です」

 

 司馬懿は簡潔に述べる。

 

「どういうことだ?」

 

 言葉の意味がよく理解できない真一は尋ね直した。

 

「私は三国志における蜀などとの戦いを、グデーリアンは独ソ戦を戦ってきました。当然そこには魔法なんてものは存在しませんでした。その今までに無い可能性を考えて戦いをしなくてはなりませんでした」

 

 そこまで、言われて真一は気付いた。

 本来自分たちの世界に無かったものを戦争に組み込まなくてはならない。故に、今までに経験のないものであればそれが大きな被害につながることも納得できる。むしろ、あの二人だから、ここまで被害を減らせたのだ。

 

「また、我々が戦ってきた敵にあそこまで統率がとれ、短時間に柔軟に対処していく敵はいませんでした。大概、相手が対処するのに数日から数年は掛かります。しかし。今回の敵は違う。士気は極めて高く、数分の間にこちらの弱点を見抜いてきました。我々は想像以上に厄介な敵と戦うことになるでしょう」

 

 そんな不吉な予言めいたことを話す司馬懿の顔は無表情で何の感情も読みとれ無かった。

 その表情を見て、これから立ち向かう敵の強大さに改めて恐怖する真一であった。

 

 

 

 新庄は、真一達からある任務を命令され、それを調査している。

 その任務は李典隊全滅の原因だ。

 この原因はよく分かっていないが、気になるのは後方の味方が攻撃してきたという証言だ。これは間違えようのない証言であるし、実際に戦場にも李典隊の兵士と相打ちになったらしいコットン兵の死体が存在していた。

 では、なぜ後方の味方が攻撃してきたのかと聞かれると思うが、そこが分からないのである。

 そこで、新庄はこの原因のヒントになりそうな場所に来ていた。

 それはコットン軍が消滅した地点である。

 ここは国王とカーゼル将軍の遺体があったのみで、後は血一滴すら存在していなかった。

 あまりにもおかしすぎる、この事件はジーマンのスパイも調査中とのことであった。

 新庄の勘は、この事件と李典隊全滅には何か関係があると言っていた。

 

 来てみたは良いがさっぱり分からん!

 

 見事な答えに真一達が聞いたらずっこけるであろう。

 しかし、この事件は謎が多すぎて本当に何から手をつけたら良いのか分からない。

 そこで、新庄は周辺の情報収集から始めることにした。

 

 周辺の情報収集と言っても誰かに聞くだけではなく、歩いて自分の目で現場を見て感じて些細な異変を発見するのだ。これは本来であれば探偵などの方ができるのだが、如何せん今は新庄しかいない。自分で全てやるしかなかった。特に今は、ジーマンは魔国と戦争中だ。主の真一は激務に追われているだろうから贅沢は言えない。

 そんな思いを胸に調査を開始した。

 

 

 まずは、周辺の村に聞き取り調査をする。

 と言っても、いきなり聞くのでは怪しまれるので酒場で旅人のふりをして聞くことにした。

 周辺の村で一番規模の大きい村に行くことにした。

 一番大きいと言っても人工は50人ほどだ。

その村の二件ある酒場の内、人気のある酒場で手頃な酒を一杯注文して手頃な客を探す。

まだ、昼間だというのに客足は、減らない。

 そんな客の中で中年の農家らしい5人ほどの親父軍団がいた。

 頭からさんさんと反射する後光のような日光の光に導かれるように新庄は、寄っていって話しかけた。

 

「お隣、よろしいですか?」

 

 そう聞くと、酒が入っているらしく上機嫌な5人は陽気に答えた。

 

「ああ、良いぜ。人数が多い方が酒もうまいしな!」

 

「せっかくだし、奢ってやろう!」

 

「そうだな。おい、マスター!酒、もう一杯!」

 

「ついでに何かおすすめのつまみも出してくれ!」

 

「それにしても、おっちゃん、ここらじゃ見かけねぇ顔だな。旅人かい?」

 

「ええ、実は私は噂話とかが好きでそういったものの調査に旅を続けているんです」

 

「へぇ!じゃ吟遊詩人みたいなもんか」

 

「まあ、そんなものですな」

 

「ほぉ、じゃあ、何か面白い話をしてくれよ!」

 

「そうじゃな、せっかくの酒の席だし、頼むぜ!」

 

「分かりました。では私の故郷に伝わる不思議な話をしましょう。ある武将の話です……」

 

 そうして、新庄は話し始めた。

 

 

 

小一時間ほど話しただろうか。

 

「こうして、その人物は謎に包まれた死を遂げたのです」

 

 いつの間にか酒場は静まりかえり、誰もが新庄の話に聞き入っていた。

 やがて、親父軍団の内の一人が話し出した。

 

「面白い話だった!すげぇな、あんた!」

 

 この言葉をきっかっけに皆が動き始めた。大半は新庄に寄ってきては感謝を述べ、おひねりを渡そうとしてくる。

 しかし、新庄はそれらを断っては聞いていた質問があった。

 

コットン軍消滅前後に不思議な現象はなかったかと。

 

 

 

新庄は今、森の中を歩いていた。

森は全体的にうっそうとしており、昼間にも関わらず薄暗い。

こんな森を歩くのにはある理由がある。

それは先ほどの酒場での数人の客から情報である。

何でも近くの村との取引をしている商人やその村の農家など不特定多数の人間が異口同音に詳しい話は知らないが、その情報を知っている人物がいるらしい村がこの森の中にあると言っていた。

本人達もその村の住人からの又聞きで詳しい話は知らないようだ。

道を教えて貰い入った道でこのざまである。

こんな所に本当に村があるのかと一瞬、疑ったが数人が証言している以上、信憑性は高い。

新庄は渋々入っていったのが、今から二時間前。

 

 デマを教えられたのではないか。

 

 そんな考えが頭をよぎる。

 

もうこれ以上、森を歩くのは危険だ。帰ろう。

 

 そう考えた矢先であった。

 森の向こうからかすかな人の声が聞こえたような気がした。

 一様確認のため、声が下方向に行ってみる。

 すると、森の中から見えてきたのは、一つの村であった。

 

「本当にあった」

 

 その一言だけぼそりと呟くと新庄は村へと足を踏み入れた。

 

次の日、新庄は情報収集のために聞き取り調査を始めた。

 昨日の時点で調査を始める予定であったのだが、あることがあってできなかったのであった。

 このことは、追々語っていくことにしよう。

 とりあえず、色々あって次の日になったのである。

 こうして、聞き取りを始める新庄であるのだ。

 

「え、王国軍に関しての噂だと?ああ、それなら、シム爺のことだろう」

 

「その噂なら、シム爺のところに行くと良いよ」

 

「その話を知っているのはシム爺だわ」

 

 村の誰に聞いても皆、シム爺と異口同音に言っている。

 そのシム爺とはどのような人物なのだろうか。

 曰く、村の端に済む相当な変人らしい。ただ、面倒見が良く明るい性格であるため、子供達からは好かれている。

 新庄は、話を聞くべくシム爺の家へと歩を進めた。

 

 

 村の中心から歩いて、10分ほど。

 一面に畑が広がる村の外れに、蔓にまとわりつかれた家が一軒あった。

 しかし、汚らしい雰囲気ではなく、むしろそれが一種の神々しさを感じさせる家であった。

 新庄はその家の扉の前にまで行き、扉をノックしようとした。

 その時、新庄の耳に不思議な音が聞こえてきた。

 それは、この世界に来てから一度も聞いたことのないと言うか、聞くはずのない音であった。

 それは、新庄の頭上から聞こえてくる。

 ブーンという高速でプロペラが回る音だ。

 まるで、吸い寄せられるかのように上を向くとそれはいた。

 それは、開発当初はろくに活躍など期待されず、軍事目的の利用も際得て限定的なものであった。しかし、ある国の海軍が敵国の海軍の本拠地を、それで奇襲し大勝利を納めたことで注目を浴び始めた。それ以降、それは常に戦争を遂行する上で、極めて重要な一角を納めることとなる。

 この世界においてはジーマンが開発中であり、こんな片田舎などに存在しないはずである。

 しかし、それは確かに空を飛んでいた。

 人類に空を飛ぶための翼を与えたその機械は。

 航空機は。

 

 

 やがて、その機体は徐々に高度を下げていき、家の向こうに高度を下げていく。

 新庄が家の向こうをのぞき込むとそこには畑ではなく、飛行場が広がっていた。

 そこに向けて、機体は着陸態勢に入っていく。

 

新庄は信じられない気持ちでその機体を見つめていた

 

それは、しっかりとエンジンが着いている複葉機である。

 開発中のジーマンですら、エンジンの試作にようやく入ったばかりにも関わらずこの機体は完全に完成し、空を飛んでいるのだ。

 

通常、航空機と言うのは空を飛ぶまでかなりの時間を要する。

 機体を作り、エンジンをくっつければ飛ぶというものではない。

 まずスペックを決定し、それに会わせた機体を作成し(場合によってエンジンや武器も設計する)、他の部品を取り付けた後に飛行試験を行う。ここで分かった問題点を洗い出し、改善を図りようやく機体となる。

 こうしたものを作るには、優秀な人間が何人も関わり、数年がかりで作り出す。

 ということは、これを作り出した人物はとんでもない時間を掛けて作ったか、よっぽどの天才かのどちらかである。

 

 新庄はどのような人物かを見分けるために降りてくる空中勤務者に近づいていった。

 

 近づくと、その人物はかぶっていたヘルメットを脱いだ。その顔を見て、新庄はさらに驚愕した。

 

 それは、豊かなひげを蓄えた老人であった。

 

 パイロットは相当な体力を必要とするため、若者以外の飛行機乗りなど聞いたことがない。

 しかし、目の前の老人は飛行機乗りだ。

 

 しばらく、ポカンと老人を見つめていると、その人物は新庄に気付いた。

 

「おや、またも迷える子羊がやってきたか」

 

 そんなことを言いながら、新庄に近づいてきた。

 その目は何もかもを見透かしているような真っ黒な目をしている。

 

「こんな場所でも何だから、場所を移そうか」

 

 すぐに、蔓の家に向かっていく。

 新庄は、その後、急いでついて行った。

 

 

 蔓の中の家の中に入ると見た目より中は広かった。

 木の香りがふんわりとしてくる部屋で、ほとんどの家具が木彫りの高そうな家具ばかりだ。

 しかし、高いと言って緊張しそうなものではなく、むしろ心が落ち着くような雰囲気であった。

 

「そこの椅子にでも腰掛けて、のんびりしてください」

 

 新庄が、椅子に座ると老人はお茶を入れ始めた。

 緑茶よりは紅茶に近い香りを楽しむようなお茶であるが今まで見たことのないお茶である。

 老人の後ろ姿を見ながら、新庄は考える。

 

(この老人が噂のシム爺なのだろうか)

 

 おそらく8割方、シム爺に違いないのだが、もしかしたら違うかもしれない。

 何せ、自己紹介どころか挨拶すらまともに交わさずにここまで来たのだから無理はない。

 そんなことを考えていると老人がお茶を入れ終わり、静かに机の上に置いた。

 どこからか鳥の鳴き声が聞こえる。

 

「私の名前はシム爺と呼んでくれ。まあ、知っているだろうから今更な気もするがね」

 

 唐突に老人、いやシム爺はそう自己紹介をした。

 一瞬、何故このタイミングなのだろうかと新庄は気にはなったが、それほど大事なことでもないため聞かないことにした。

 ただ、名乗られたからには、こちらも名乗り返さなくてはならない。

 

「私は新庄健吉と申します」

 

 シム爺が席に着く。

 両者にしばしの沈黙が訪れる。

 先に口火を切ったのはシム爺の方であった。

 

「お前さん、何を聞きたくてここへ?」

 

「王国軍消滅の件に関して」

 

 シム爺の質問に簡潔に答える。

 シム爺はしばし、目を瞑り大きく息を吐いた。

 それは、まるでこれから試合のあるスポーツ選手のような動きであった。

 そして、目を開けて新庄を見つめるとゆっくり自分の言葉を一字一字噛みしめるように語り出す。

 

「あれは、王国軍の前日の夜のことだ。その日は今日、君が見たようにあの機械に乗っていつも通りの運転をしていた」

 

 そう言って、滑走路にある飛行機を指した。

 

「私が運転をするのはこの森の周辺をぐるっと一回りするようなコースだ。そのコースの一角で変なものを見た。最初に見えたのは、真っ白な旗だ。こんな場所に軍なんて来たことのないものだから、不思議に思って近づいた」

 

 お茶を一口飲む。

 

「そこにいたのは一見王国軍のようだった。鎧が同じだったのでな。しかし、その王国軍はここにいないどころか、この世界に存在しないはずのものであった」

 

 妙な言葉に新庄は、混乱しそうになった。

 そんな、混乱をしている新庄をよそに、シム爺は話を続ける。

 

「今は王国軍には大きく分けて二つの軍がいる。魔法軍と普通軍だ。魔法軍は魔法をメインで使う部隊。普通軍は魔法はあまり使わないが、剣術などで相手に打撃を当てる部隊。この二つはそれぞれの隷下に騎馬隊などの様々な部隊が存在する。しかし、昔、と言っても今から数年前まではもう一つの軍が存在した。」

 

 そこで、シム爺は一拍おいてからしゃべり出した。

 

「それは即応軍だ。こいつは他の二つより規模は圧倒的に小さいが、実力は両軍を束ねても全く太刀打ちできないほど強力なものであった。なぜなら、彼らはその読んで字の如く、どこにでも瞬間的に移動して攻撃を行うことが可能であったのだから」

 

 新庄は唖然とした。

 

どこにでも、瞬間的に移動が可能だと!

 

 そんなでたらめな軍隊は聞いたことがない。

 あのかつての盟友、ドイツですら進軍には時間が掛かるのに瞬間的にとはどういうことなのであろうか。

 

「なぜ、瞬間的に移動ができるのですか?」

 

「それは、そこの指揮官が魔法で瞬間的に任意の位置にまで軍隊を移動させることができるからだよ。と言っても、その移動させられる対象は誰でも良いわけじゃなくて、ごく少数の才能のある人間のみだけどね。普通の人は移動させるタイミングに起きる強力な魔力に耐えきれず、死んでしまう。」

 

「しかし、数百人に一人の確立でそれに耐えられる人物が出てくる。こうした人物がその軍に組みこまれる。さらに組み込まれた後は血反吐を吐くような極めて厳しい訓練が課せられる。その詳細は分からんが、噂だとこの世界で一番厳しい訓練らしい。また、指揮官の方はさらに限られて、王族直系の女性しかその魔法は使えない。だから、その軍は規模が極めて小さいが強力な軍なのだよ。いや、だったか……」

 

 思わせぶりな言い方に新庄は生唾を飲み込み、続きを待った。

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