魔法の世界で、砲が轟く   作:spring snow

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第一三話

 新庄が原因究明のため、動いているとき真一達は次の作戦や兵器の開発のために軍の統合本部に入り浸っていた。

 

 統合本部とは、ジーマン陸海軍の統帥機関である。

 旧日本帝国で言えば、大本営に近い存在だ。

 

 現在、統合本部では最高戦争指導会議を開いており、陸海軍の将軍による今後の魔王軍との戦争の見通しを行っていた。

 

「今回の戦争は魔国から起こしたものだ。戦争を終結させるには敵の抵抗力つまり、戦闘能力を完全に奪うか、敵の首脳部を殺すか。もしくはそれぞれで譲歩し合って講和を結ぶしかありませんな」

 

 ジーマンの将軍の一人であるクラウスが言った。

 

「しかし、敵の兵力は総数50万にも上ると言われております。それに対し、こちらの兵力は20万ほど。ただでさえ、兵力は少ないのに敵の戦力の完全に損失させるなど夢のまた夢……。うまくやっても互角でしょうな」

 

 そういうのは将軍の別の一人であるロメスだ。

 

 

 ジーマンには、将軍を務められるのは6人のみ。

 その下に大将 中将 少将 准将以下佐官、尉官と並ぶ。

 

 将軍というのは階級と言うより、統合司令官に近い立ち位置に当たる。海軍、陸軍から3人ずつ選出される。選出条件などは機会があれば追々語っていこう。

 

 今、この場に参加できているのは海軍からの選出であるロメス、デーナッツ。

 陸軍からの選出のクラウスのみである。

 将軍は常に一人は前線の方におり、二人が後方で待機するという形を取っている。

 陸軍からの参加が少ないのは、魔王軍との戦闘中だからだ。

 残りの二人は、前線の方で指揮を執っている。

 

 

「確かに敵の兵力は多い上、練度も高い。敵の戦力を完全に奪うなどできません。故に狙うのは敵の上層部を殺害するか、講和に持ち込むのどちらかですな」

 

 デーナッツは、顔をしかめつつ言った。

 

 ジーマンは元々、兵力は多くない。

 人口は3国の中で一番多いのだが、兵の数は一番少ないのだ。

 昔は魔法も使えない軍であり、その不利を兵の数で補う必要があったために兵数で考えれば3国一であった。

 その後、平和な時代が続いたゆえに時を経る毎に軍に対する突き上げが激しくなり、軍を縮小していった。

 最終的には機械化が進んだことが決定打となり、その完全な機甲化を目指し人員が大幅縮小の結果、兵の数がこの状態になってしまったのだ。

 

 将軍達は仮想敵である魔王軍との戦いを考えると決して人数を減らすべきでないと唱えていたが、時の政権はその声を聞こうとはしなかった。

 

(戦争の目的とは政治が決めれば良いのではないか?)

 

 デーナッツは心の中でそう呟いた。

 デーナッツは、軍人は政治に口出しをすべきでないと考えている将軍の一人だ。

 

 これは、戦争は政治的な目的を遂行すべく行なわれる物であり、それは軍人が関与してしまえば本末転倒である。

 その考えの元、動いているために多少の文句があっても黙って動いていた。

 

 

「戦争とは政治の延長である」

 

 突然格言的なことを言った人間がいる。

 

「何?」

 

デーナッツはその人物を睨んだ。

 

 彼は今回、魔王軍を壊滅させた張本人であり、その卓越した戦車戦の指揮能力、そして実戦を経験した数少ない人間の一人として呼ばれた人物であった。

 

 そう。

 ハインツ・グデーリアンである。

 

「我が国の昔の将軍にその言葉を言った人物がいます。その人物は、軍人は政治に参加すべきではないと言っています」

 

「だから、何だ!」

 

 自分の心を見透かされているような気がしたデーナッツは怒鳴りつけた。

 その不気味さに若干恐怖を抱いていた。

 年は2,30ほどにしか見えないのに、まるで、数多の戦場を駆け抜けてきた歴戦の将軍のように見えることも恐怖に拍車を掛けていた。

 

「我々は戦闘の勝利のみを考えて行動していれば良いのではと言うことですよ。戦争の終わらせ方など、政治の決める分野では?」

 

「そのようなことをしていては、何も決まらぬではないか!敵と戦争をする以上、目標を決めねばならん!それなくして軍事行動は取れん!」

 

 よそ者が余計な口出しをするなとでも言いたげにクラウスは、グデーリアンのことを怒鳴りつけた。

 

「ほう。ではお聞きしましょう。この戦争を終わらせる際に講和を行うのは、誰ですか?」

 

「そ、それは……」

 

「当然、この国の国家元首たる総統閣下ですよね。では、その方は軍人ですか、それとも政治家ですか?」

 

「……政治家だ」

 

「そうです。政治家がこの戦争の幕引きを行うのです。つまり、戦争の終わらし方は政治に任せなくてはいけない。そんなことよりも今は領地を侵犯している敵にどう対処するかが急務です。もたもたしていると、敵の本隊がやってきますよ」

 

「……」

 

 最早、クラウスは黙るしかなかった。

 グデーリアンの言うとおりである。

 完全にクラウスの負けであった。

 

「そ、それでは、やってくる敵にはどうする?」

 

 そのギスギスした嫌な空気を断ち切るべく、ロメスが話を切り替えた。

 

「敵の本隊は8万。こちらは正面に展開する第5師団の兵力が3万。脇を固める第3,4師団が共に2万ずつ。そしてグデーリアン殿の機甲隊が5000人ほどですか」

 

 デーニッツは両軍の兵士の数を挙げていく。

 

「こちらが数は少ないですが、絶望的な状態ではありません。作戦次第では勝てるでしょう」

 

 ロメスが明るい声で言った。

 

「では、どのような策を取るかは我が陸軍に持ち帰って、明日までに作戦を決めてこよう」

 

 そう言って、クラウスは立ち上がり、グデーリアンに向けていった。

 

「グデーリアン殿、あなたも来ていただけますか?機甲部隊の作戦についてご教授願いたい」

 

 クラウスは、先ほどのことは気になどせず、純粋に祖国を勝利に導くために教えて貰いたかった。

 その気持ちはグデーリアンにしっかり伝わっていた。

 

「分かりました。それでは参りましょう」

 

 そう言って、二人は会議の部屋を出た。

 

 グデーリアンが、クラウスに戦車の運用の仕方について話しているとき、真一達はジーマンの兵器廠にいた。

 彼らは元々、軍オタである。

 故に、武器の性能などに関して詳しかった。

 そのため、彼らは兵器廠で武器の性能に関しての意見を求められていたのである。

 

 兵器廠では最新の兵器に関する研究などが進められている。

 間違っても、真一達のようなこの国に亡命してきた人間達を通すような場所ではない。

 しかし、そんなわがままを言っていられないのが今のジーマンであった。

 

 使える物は親でも使え。

 

 今のジーマンに最も当てはまる物がそれであろう。

 何せ、この戦いに負ければ確実にジーマンという国が消滅するのだ。その上、敵より兵力、兵器の質が共に劣っている。そんな中、敵に被害を与えられる性能の兵器を持つ人間が現れたら、軍事機密など関係なく、その人間を利用せざるを得ないであろう。

 

 

「次期主力戦車(MBT)はこんな高性能な物が必要なのですか!」

 

 ジーマン兵器廠の技術者が悲鳴にも近い声挙げた。

 

 そこに記載された内容は以下の物であった。

 

主砲

 長砲身の75mm砲

速力

 整地において時速50km

 不整地において時速30km

装甲

 砲塔前面50mm

 砲塔側面後面20mm

 車体前面70mm

 車体側面40mm

 車体後面30mm

(傾斜装甲)

乗員

 5名

追記

 ターレットリングは1850mm以上の大きさを取っておくこと。

 

 参考までに現在のジーマンの主力戦車のZ4戦車のスペックを書いておこう。

 

主砲

 長砲身56mm砲

速力

 整地において時速45km

 不整地において時速10km

装甲

 砲塔前面30mm

 砲塔側面後面15mm

 車体前面50mm

 車体側面30mm

 車体後面10mm

乗員

 4名

 

 と言う物であり、今までから考えれば、かなり高性能な戦車を作ろうとしていたのである。

 

「この性能の物が作れなければ我が国は負ける。敵の装甲は75mmでもなければ貫けない。さらに機動力や防御力も足りない」

 

 守が淡々と述べた。

 これは事実である。敵の攻撃力や防御力は現在、飛躍的に向上している。

 戦争というのは多くの犠牲を出すと同時に科学力や技術力が大きく進歩するという面もあるのだ。

 ゆえに、今後敵が向上させうる軍事力のことを考えると、この性能の物は必要であるし、場合によってはこれ以上の物が必要であると思われていた。

 

「分かりました。ちなみに開発期間はどれほどでしょうか?」

 

「10ヶ月以内にお願いしたい」

 

「また、ずいぶんとギリギリですね。しかし、やらねばならぬのでしょう?」

 

 守は黙ってうなずいた。

 

「良いでしょう。我々の名にかけて完成させましょう」

 

「ありがとう」

 

 こうして、ジーマンにおいて新たな戦車開発が始まるのであった。

 

 

 真一は、統合本部の中にある人事課の方へと呼び出されていた。

 理由は真一の機甲部隊にジーマンの将官を入れろという物であった。

 

「我々といたしましては今後、ジーマンで飛躍的に向上して行くであろう戦車に関して詳しい者は我が国には存在しません。このままではあなた方しか戦車を扱える部隊がいないことになってしまう。しかし、私たちはジーマン国民の面子としてはその技術を体得、自分たちでも祖国を守れるようにしたいのです。」

 

 人事課の局長が真一にそうお願いをしてきた。

 

(実際はこちらが主導権を握りすぎると後で面倒だから、いざとあらば、我々を切り捨てても良いように予備の人間を自分たちの手駒にしておきたいのであろう)

 

 真一は今回のことをそう解釈していた。

 もしこのまま、真一達しか戦車戦の指揮が執れない場合、真一達が殺されれば、ジーマンは負ける。

 また、勝ったとしても真一達が調子に乗って無茶な要求をしてくれば、ジーマンはそれをのむ以外に選択肢はない。もしこの時に要求を呑まず見捨てられたら、やはりジーマンは負ける。

 こうしたリスク分散のためと言うことであろう。

 

(だが、指揮を執れるようになれば俺たちの負担も減るし、断る理由もない)

 

 そう考えた真一はこの話を受けることにした。

 どちらにせよ、真一達は今ジーマンの保護下にある。

 この国が負けて困るのは真一達も同じなのだ。

 こうして数人の若いジーマンの将校が真一達の部隊に組み込まれることとなった。

 

 用件が終わった二人は、宿舎に帰るために集まっていた。

 

「しかし、真一。このような戦車を作るよう指示を出さなくても俺が召喚すれば解決じゃないのか?」

 

 守は疑問に思っていたことを真一に聞いた。

 

「いや、それでは俺たちに力が集中することになり、余計な争いに巻き込まれることになる。古代の英雄達もそうして死んだ例は数多ある。そうしたことを回避することに加え、我々への負担が減ることとなる。我々に悪い話ではない」

 

「なるほど。確かに」

 

 守は納得したのかそれ以降、その話に触れることはなかった。

 しかし、その話には続きがあった。

 あえて、真一は言わなかったのだ。

 

(どちらにせよ、我々は戦果を多く稼ぐことになる。そうなれば、本国の連中は俺たちを煙たがって政争に巻き込むに違いない。その時、私たちは果たして切り抜けられるだろうか……)

 

 その時の空は真一の心の中を表すように、曇っていた。

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