魔法の世界で、砲が轟く   作:spring snow

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第一五話

 既に敵が侵攻してから二月が経った。

 

 この時にもなると将兵の間で、魔王軍に謎の部隊が大打撃を与えたらしいと言う噂が軍内部のみならずジーマン国内においても立ち始めた。

 ジーマン首脳部としては真一達の部隊の事は極力伏せておきたかったことから、一部の上層部の人間にしか伝えられていなかったのだが、二ヶ月の期間の間、一度も敵からの攻撃がないことから将兵の間で魔王軍に何かあったのを勘ずいたのであろう。

 

 そんなときにジーマン軍は次の作戦への準備が完了した。

 

 そこで、作戦の概要を説明すべくクラウスが前線にまで出ていた。

 

 会議は前線の陣の真ん中にこしらえられた天幕内で指揮官達を集めて行われる。

 

「それでは次回の作戦について説明を行う」

 

 クラウスが声を掛けた。

 先ほども書いたように、前回の戦闘(ドニエパル側の戦い)において、大ダメージを喰らった魔王軍はその被害のためか、進軍を中止している。ジーマン側も戦闘を仕掛けていないために、戦線は動いていない。

 この戦局を打開すべく、立案されたのが今回の作戦である。

 

「敵は今、我が軍の攻撃に備えて陣地の補強、兵員の増強を行っている。現在、2日前の偵察隊の報告により分かっている範囲のことを説明する」

 

「敵陣にはこちら側のに半円を描くように対戦車壕を張り巡らされている。壕は一重のみだ。また、敵陣内部にもトーチカを補強したり、塹壕を掘ったりして、こちらの攻撃に備えているそうだ」

 

 そこで、と言ってクラウスは話を続ける。 

 

「まず、グデーリアンが指揮する第1独立師団は敵の本隊の正面から攻撃を行う。第3,4師団は敵陣左右に展開し、待機せよ。なお、それぞれの兵力は戦車隊30両、重砲40門、野砲や重機関銃を多数装備したそれぞれ4万の部隊だ」

 

 そう言って部屋の中央に置かれた大きい地図に、青色の友軍を示す駒が3つ置かれた。

 その正面には魔王軍を示す赤色の駒が置かれている。

 

「そして、敵の戦線を徐々にジーマン国内側から押していく。その間にジーマン第5,6師団はこの混乱に乗じて敵の部隊を左右に迂回し、後方から奇襲を仕掛けろ」

 

 地図に新たに置かれた二つの駒が赤色の駒の左右を通り抜け後方に迂回した後、赤の駒にぶつかった。

 

「第5,6師団はそのまま前進を続け、グデーリアン隊との合流を目指せ。この二つが合流したら、部隊を二つに分け、一方は右へ。もう一方は左を目指し、敵を殲滅する。この攻撃開始時に敵の左右に展開する第3,4師団に信号弾で合図を送る。そうすれば、左右に展開している部隊が前進を開始し、敵の包囲殲滅ができる」

 

「これで敵は逃げ道をなくすことになる。今回の目的は国内にいる敵を殲滅することだ。一兵たりとも逃がすな!」

 

 そこで一拍おいてから、話を続けた。

 

「作戦を聞いて分かるように今回は早さが何よりも重要だ。ゆえに作戦の根幹は戦車が担う事となる」

 

 そういった直後、全体からザワザワとどよめきが起こった。

 なぜなら、今まではジーマンにとって一番重要なのは機関銃だったからである。

 

 魔法兵というのは昔から自らの防御魔法に絶対の自信を持っているために、無防備に突撃をしてくることが多かった。それ故、重砲のような大型の砲よりも機関銃の砲が速射性や生産性などの点において優れていたのだ(昔は機関銃の弾でさえ防御魔法は防げなかった)。

 その後、敵の防御魔法が強力になってからは敵の魔法を貫通しうる武器が登場しなくなったため(一部の重砲は除く)に敵との攻防は専ら近距離戦(50m以内の戦闘)と言うことになった。

 それ故、遠距離からの広範囲攻撃で敵を殲滅する重砲よりも近距離から敵を攻撃しやすい機関銃が最近まで好まれるようになる。

 

戦車の評価は機動力はあっても、どれも中途半端というものだ。

重砲のように威力がある砲弾を撃つには力不足だし、機関銃を撃つならわざわざ戦車に積まなくても歩兵が打てば良い。装甲はある程度の魔法は弾けるが、それほど厚くもないという散々な評価である。

そもそもジーマン軍は、敵地への進行を考えられて運用されてはいない。基本、敵からの攻撃を受け、それを防御するというのが基本理念だ。

ジーマンは他の二国とは違い、食料や鉱山資源は自国領内で事足りている(それどころか、輸出すらしている)。

ゆえに、敵の陣地を突破するための物を熱心に作らずとも構わないのだ。

もちろん、自国領内に侵入してくる敵への対処をしなくてはならない。その時の塹壕突破時の歩兵護衛用、奇襲用の武器として戦車は定義されているため、主戦力ではなかった。

 

そんなジーマンにおいて戦車の有用性を話す人間はいても、それを実戦に生かそうという者はいなかった。

しかし、それを言った人物が出てきたのだ。

しかも、それがジーマン陸軍のトップの一人であるクラウスの言葉であったのは、将官達をどよめかせるには十分な内容であろう。

 

「ここまでで質問はあるか?」

 

「はい」

 

 一人が手を挙げた。

 

「何だ?」

 

「今回は機動力が大事であると言われましたが、歩兵は足が速くはありません。いかがするおつもりですか?」

 

「質問に答えよう。今回はそのために、国内中の輸送車両をかき集めて全員が乗せられるだけの数は確保してある。それを使って貰う」

 

 ジーマンは機械中心に発達した国であり、車などは一般家庭にもかなり普及してるほどである。

 それ故、ジーマンの陸軍は元々機械化の大部分に成功している軍隊ではあった。

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「他には?」

 

「今回の主役は戦車との事でしたが、誰が指揮官として動くのでしょうか?」

 

「各戦車には新型の無線機を積んで貰う。それで、後方から私が指揮を執る。なお、今回の出撃に際してある方に少し戦車の運用について指導して貰う」

 

「その方は?」

 

「こちらへ」

 

 読者の皆様にも予測は付いているだろう。

 その人物というのは当然、グデーリアンである。

 

「私はハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン。宜しく。諸君は何故戦車の専門家がいるのだとか、私が何者なのかなど気になる点は多いと思う。しかし、今は戦時下、私に関することを調べてる暇があるなら、少しでもこの戦車戦の技術を身につけ、魔王軍に勝ってもらいたい」

 

 いきなり挑戦状のような言葉を投げかけたグデーリアンは、皆が反論を始める前に言葉を続けた。

 

「なお、今後、私の指導を受けたくないというのであれば、出て行って貰っても構わない。ただし、その者には今回の作戦から外れて貰うがね」

 

 誰も文句や質問をする者がいないのを確認したグデーリアンは戦車戦の方法についての簡単な講義を始めた。

 

 

 グデーリアン達、将軍が作戦会議を行っているときハットラー総統は執務室でいつも通り予算に関する書類に目を通していた。

 

 今は戦時下であるため、国防費が異様なほど高くなっている。

 やはり、軍隊という物は金食い虫という言葉を無言で物語っていた。

 

 軍隊は維持するだけでも金が掛かる。

 人件費に兵器の維持費、新兵器開発の予算など金の掛かる項目はいくつもある。

 

 さらに言えば、現在は戦時下。

 

 兵士には通常の給料の他に、危険手当代などの特別報酬が付き、怪我をすればその分の治療費が掛かる。場合によっては兵員の補充もある。兵器が壊れれば、その修繕費や場合によっては補充費。兵器開発を加速するために平時より多くの技術者や資材を投入するために開発費の高騰。弾薬や食料などの購入費や運搬費用の増大。

 簡単に述べてもそれだけ、多くの金が平時よりも掛かる。

 

 ただでさえ、金食い虫の軍隊がさらに凄いことになるのだ。

 戦時に予算不足に陥るのは一定の国を除いたどの国にも共通の悩みであった。

 

「はあ……」

 

 ハットラーはため息をつく。

 このため息は先ほどの予算の悩みだけではなかった。

 

 現在、ジーマンはかなり追い詰められている。

 確かに初戦でこそ大勝利をしたが、その実態は真一達の手によってのものでありジーマン軍自らの手によるものではない。

 

 ゆえに、真一達が敗北したらその瞬間にジーマンはお終いなのだ。現在、強力な新型戦車を開発中とはいえ、完成は10ヶ月後である。

 さらに戦車戦の指揮ができる指揮官もジーマン国内には皆無である。

 決して油断は許されない状況であった。

 

「はぁ……」

 

 もう一度先ほどと同じようにため息を吐き、机に置かれたコーヒーを手に取った。

 先ほど女史が持ってきてくれた物だ。

 

(ん?)

 

 横に見知らぬ手紙が届いている。

 

「おい。ちょっと来てくれ」

 

 ハットラーは、すぐに副官を呼んだ。

 

「この手紙は何だ?」

 

「それは右院のガップルス様からの書状です」

 

 ここ、ジーマンは議会制であり、二院制を採用している。

 日本とほぼ同じ仕組みであり(天皇陛下のような議会の開始を宣言したり、法律の施行をしたりする人はいないが)右院が衆議院、左院が参議院の役職を担っている。

 ただ、細かい説明はここでは省かせてもらう。

 

 その右院の中でも比較的大きな派閥の長であるガップルスから手紙が来た。

 ハットラーとガップルスは古くからの友人ではあるが、こうして総統としてのハットラーに手紙を出すことは今まで無かったことだ。

 

 不思議に思って、手紙を読み出したハットラーの顔が読み進めるにつれ、険しくなっていく。

 

「どうされたのですか?」

 

 副官がハットラーに尋ねた。

 

「不味いことになった。議会が真一殿の事に勘づいた」

 

 手紙の内容は、先日の勝利はジーマン軍に非ず、別の軍との噂が挙がっていたという内容である。

 ここで、真一達の存在をバラしてしまうと議会のどこかの派閥が彼らを旗印に政争の場へ担ぎ上げられる可能性がある。

これは彼らの全く望まない結末であるし、そのようなことが起これば、政治に混乱が起きる。

 

 それ故、彼らの正体は秘匿する必要がある。

 いや、あった。

 

 しかし、今はもう後の祭りである。

 噂が流れ、ガップルスが動かざるを得ない状況になったのであれば、かなり真実味を帯びた噂であるのだろう。

 最早、隠すことも握り付すことも出来なくなった。

 無理に否定をすれば、彼らの兵装をバラされることになることもあり得る。

 

 ガップルスの手紙の後半は、個人的な内容が書かれており、ハットラーが隠す以上は何か理由があっての事であろうからガップルスの方からも噂は噂でしかないと冷静に判断するよう伝えており、今回は不問にしようと思うとの事であったが、機密がバレるまではそう時間は掛からないであろう。

 

(彼らには一度相談する必要があるな)

 

 そう思ったハットラーは、電話の内線を取り、真一達に繋がるのを待った。

 

 

 

「はい、分かりました。こちらの方でも検討させていただきます」

 

 司馬懿が電話を切ったのを見届けた真一が司馬懿に尋ねる。

 

「どうした?ハットラー総統からは何と?」

 

「何でも我々の存在が議会にバレたとかで。どうすべきか聞いてきました」

 

「仲達。君はどうすべきだと思う?」

 

 真一は最悪の事態が起きたと思った。何せ、一番恐れていたのはこの政治の舞台に引きずり出されることだ。

 ろくに政治の分からない人間が政治の世界に出れば、ただの道化だ。

 良いように利用され、使い潰されたら捨てられる。

 それだけは何としても避けたい事態であった。

 

 司馬懿はかつて、曹家の人間に反乱分子として危険視されたのを呆けたふりをして生き抜いてきた人間だ。

 政争などは、お手の物だろう。

 

「今回は呆けたふりをするのは難しいだろう。何せ、4人とも若いし馬鹿は戦には勝てない。だから、別の策で行くしかない」

 

「どうするんだ?」

 

 真一はすがる思いで聞いた。

 

「牛のようにのらりくらりと相手をいなすだけだ」

 

「………」

 

「………」

 

 二人の間に微妙な空気が流れた。

 

「それだけスか?」

 

「そうっす」

 

「そんなんで躱すことはできるの?」

 

「いや、無理だ」

 

 司馬懿は真一の言葉をばっさりと切り捨てた。

 

「だめじゃん!」

 

「だめではない。これで時間ならば稼げる。その間に次の手を打つんだ」

 

「どのような手?」

 

「それを今考えるときではない。直に次の作戦が始まる。君が指揮官としてやることは一つ。その作戦に備え、知恵を絞ることだ」

 

「そうだったな」

 

 そうは言ったものの真一は不安をぬぐいきれなかった。

 

(果たして俺はどうなるのだろうか)

 

 そんな不安が、いつまでも胸の中で気持ち悪くうねっていた。 

 

 

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