それは偶然に偶然が重なったために起きた運の出来事であった。
当初は機械国ジーマンに行き、そこで連絡をする予定であったが真一達のFu2は有効通信距離が16kmしかない。真一達がいる地点からジーマンの首都までは100kmはある。ゆえにとうてい通信ができないため、引き返すことにした。
そのさい偶然何か多くの兵士が移動するのが見え確認すると魔王軍であったということだ。真一達の情報の杜撰さと認識の甘さが生み出した幸運であった。
「で、どうするんだい?」
司馬懿が真一に声を掛ける。
「敵の兵力やここまでの到達時間など情報が足りない。それを待つべきだ」
「なら、敵の攻撃の仕方などは?」
「そんなの知らん。説明などを受け…」
「そんなの知らんとは何だ、知らんとは!」
司馬懿が大声をあげた。尋常ではない怒り方をしている。
「真一達、貴様達の肩には1万の兵の命が掛かっているのだぞ!それを知らんとは何だ!知らんで1万の将兵の命を危険にさらす気か?もっと指揮官としての自覚を持たんか、貴様ら!しかも今回の装備品の選び間違いは結果としてよい方向に転んだが、もしかしたら全軍を危機的状態に陥れたことかもしれないことだぞ!」
それは軍師として祖国の勝利のため、やむを得ず多くの将兵を殺してきた身だからこそ言う言葉であった。
真一達は改めて自分たちの犯した罪の重さを認識した。
その時、城内がにわかに騒がしくなった。
「王国側も気づいたらしいな。となるといよいよ出撃かもしれん」
そう司馬懿がつぶやいた。
すると突然ドアが開き、兵が転がり込んできた。
「非常呼集、非常呼集!勇者諸君は直ちに王の間に参られたし。勇者諸君は直ちに王の間に参られたし!」
「そうら来なすった。行きますぞ、主達よ」
司馬懿はそう言い、真一達を見た。
そこにはいつ着替えたのであろうか、既に某軍師の格好をした真一達が待っていた。
「何だ、その格好は?その服装は私のような知恵があるものにこそふさわしいもの。主達のように情報を粗末にする者の格好ではない。私に渡しなさい」
「ほうつまり俺たちの汗が染みこんだこの服を着たいと。そこまで言うなら仕方ない。この服を渡しましょう。全く、モテる男はつら…」
「その服をもう一着召喚してくださる?」
「良いですよ、お嬢様」
守がもう一着用意して、司馬懿 守 幸一 譲の四人が部屋は部屋を出た。
(これから始まる戦は今まで以上に大変なものとなる、なんとしても勝たねば)
司馬懿は改めて決意を固め、恐怖や怒りと言った感情を外へ追いやった、
「みんな、俺を忘れるなんてひどい」
呟く真一の存在と共に。
真一は半泣きになりながら、司馬懿達と合流して王の間に向かった。
王の間に着くと他のクラスメイトは既にほとんどが到着していた。
「まもなく国王陛下が到着されます」
そんな声が掛かり、皆が頭を下げた。
すると慌ただしく、コットン王が入ってきて
「堅苦しい挨拶は抜きだ。事は一刻を争う」
そう言うや否や部屋の中央に置かれていた地図を開き
「魔王軍が攻めてきた。敵は真っ直ぐこの城に向かってきておる。見張りからの報告では後4日で到達する。時間が無いため詳しい話はこのカイゼル将軍から聞いてくれ」
そう言い放ち部屋を出ていった。
「では、詳しい話をしよう。敵は騎兵6千 歩兵16000 弓兵4500 魔法兵3500の総数3万である。こちらは騎兵6千 歩兵1万 弓兵3千 魔法兵千の総数2万。こちらのほうが兵力は少ない。故に野戦は不利であるから籠城戦をやる。なお勇者様方には…」
「お待ちください!」
そんな声を挙げるものがいた。
「誰だ、貴様は?」
「私は真一様配下の司馬懿でございます。発言をお許しください」
「何だ?」
「私が愚考するに籠城戦は危険であると判断致します」
「何故だ?援軍は他の都市から4万の兵士が来るのだ。何も危険な事はあるまい」
「では、向かっている部隊に補給は有りますか?」
「しっかり有るに決まっておろう!」
「8日分ですね?」
「貴様、それをどこで…」
「ここに到達するまでに5日、決戦用に3日といった所でしょう。それくらいは予測が付きます。敵の兵力は少なすぎます。敵は間違いなく伏兵を使って補給線を攻撃してきます。4万の将兵を8日食わせる食糧ともなれば、長大な補給線になります。故に簡単に補給線を寸断できます。援軍を呼ぶのは危険です。ここは籠城をやめ、撤退すべきです」
「うるさい!作戦変更は既にできん!今の状態で作戦変更を伝えれば、全軍は大
混乱に陥る。更に言えば、今、敵を叩かねば後はない!それこそ敵が来るのが分かっているなら、お前らが補給線の防御を担当すれば良かろう!しかも、武器や将兵を召喚できるのだろう?まさか、そこまで予測していて敵の攻撃を許すことはあるまいな」
「そ、それは…」
「ならば、貴様は嘘を言ったのか?となれば、お主の主も只ではすまんぞ」
「…分かりました」
「宜しい。では、頼むぞ!」
そう言うとカイゼルは他の人に籠城のやり方を伝えた。
しかし、そんなことよりもどう補給線を守るかで司馬懿たちの頭のなかは一杯になっていた。
「我々は輸送隊の護衛ですか。」
李典はそう呟き、輸送隊の通るルートを確認した。
「明日から護衛に入るのだが、何か怪しくないか?」
司馬懿は地図を見ながら聞いた。
この二人はどちらも曹操に仕えていたため、顔馴染みなのだ。
「このルート、あまりにも危険な所を通っている。こんなんでは、攻撃してくれと言わんばかりだ」
というのも、輸送隊のルートは街を出たあと、森を抜けて谷を通り、平原を越えて城に着くようになっている。これでは、伏兵を潜ませ放題だ。
「しかし、ここ以外では時間が掛かりすぎる。危険だが、このルート以外は無理だ」
「分かっております。しかし、森や谷となると騎馬兵は使えませんな。敵は魔法も使えるのに、こちらは盾隊と弓兵、歩兵のみで戦わねばならんとは…」
「敵は魔法でも遠距離からは命中率の問題で使えない。故に伏兵となると目視距離からの魔法などの攻撃か、弓の攻撃のはずだ」
カイゼルから魔法の遠距離攻撃は当たらないと聞いていたのだ。
「となると前世の頃と同じようにしていれば良いということですな」
「そうだが、何か引っ掛かる。一様警戒は怠るな!」
「御意!」
そう言うと李典は部屋を出ていった。
「何も起こらないと良いが…」
司馬懿は不安を書き消すように呟いた。
しかし、優秀な人間の勘というのは本人の希望の有無に関わらず、当たるものである。
既に四万の将兵は魔王軍を撃滅すべく出陣しており、その次の日の今日、補給隊が出陣する。
真一達、四人は司馬懿と共に輸送隊の護衛として城を出て四万の将兵のいる町にいた。なお、他のクラスメイトは籠城戦のために城に残っている。
李典率いる召喚された部隊は騎馬隊の一部を残し、8千の兵力で真一配下として輸送隊を守る任務についた。
「敵が来るとすれば森の中からの奇襲が一番可能性が高い。故に遠くからでも見えるよう各部隊長には狼煙を渡しておく。何か有ればすぐに上げるように」
李典はそう言って狼煙を渡した。
「なお、騎馬隊は最前列で警戒隊として動いてもらう。歩兵隊は輸送隊の周りを囲うように移動せよ。なお、5人で1つの部隊として動け。前のチームとは幅を開けて護衛せよ。弩兵、盾兵は各部隊に1人ずつ入れ。余った人間は半数は騎馬隊と共に、半数は後方を守りつつ行動にせよ」
訓示が終わると
「前進!」
の声と共に動き出した。
補給隊の前方には李典と守と幸一が、後方には真一と譲と司馬懿がいる。
「新庄様からの連絡では敵の伏兵はいないとのことですが」
司馬懿は真一に話しかける。
というのも、城からこの町に着くまでにあらかじめ、補給隊のルートを新庄に探らせていたのだ。報告は異常なしとのことであったが、魔法がある以上油断は出来ない。
「分かってる。そのために5人の歩兵と1人の弩兵、盾が1人の7人で1つの部隊を作ったのだ。これならば、応援が行くまでの暫くの間を耐えられる」
「しかし、兵力の分散に繋がるのでは?」
「これだけの補給隊を守るにはこれより部隊の人数は増やせない。」
因みに補給隊は総数2万の兵士がいる。これだけの人数を守るには8千の兵力では少ない。しかし、王国にも余裕がないためこれしかないのだ。
「どちらにせよ、もう後戻りはできんのだ。我々は全力を尽くすだけだ」
そう言い、真一は前を向いた。
警戒を強めながら入った森だが、特に妨害を受ける事は無く無事に通り終えた。
「何も無かったな」
「油断は出来ません。まだ最初の難関を通りすぎたに過ぎないのですから」
司馬懿は顔をしかめた。
谷も何もなく、出陣したその日のうちに平野で夜営することが出来た。
「敵の襲撃は有りませんでしたな。これならば、明後日には着けそうです」
「まだ分からんぞ、この時にも敵は来るやもしれん」
「こんな夜のしかも平野に敵はこんだろう」
「しかし、油断はいけま…」
「敵襲、敵襲だ!」
「来ましたな。返り討ちにしてやりましょう」
そう言うと李典は兵舎を出ていった。
「では、私たちも参りましょう」
そう言うと司馬懿と真一達四人も兵舎を出た。
司馬懿達が天幕を出ると一人の兵士が駆け寄ってきた。
「報告いたします!敵は大規模な攻勢にでている模様。敵の規模、および勢力などは視界不良のため不明」
「分かった。全軍に収集を掛け、戦闘地域に向かわせろ。それから、些細なことでも何か分かり次第報告せよ」
「了解です」
そう言うと、兵士は前線の方に向かった。
「先ほどからあちらこちらで狼煙が上がっておる。これは相当な規模の夜襲だぞ」
真一は厳しい声で呟く。
「どちらにせよ、前線に出てみましょう。前線の様子が気になります。李典はもう現地に向かっているはずです」
司馬懿はそう言い、歩を進めた。
前線に出るとそこには奥の将兵が戦闘を行っているところだった。
あちらこちらで剣がぶつかり合う音や敵の物とも味方の物ともつかない悲鳴が上がる。
ときたま、爆発音が聞こえそこら一帯を火の海に変える。まさしく地獄絵図そのものであった。
予想外なことに敵は思ったより奮戦しているらしく、最初に陣を敷いていた場所より50mほど下がっている。
司馬懿は近くにいた兵を呼び、指示を出した。
「至急全軍をさらに20mほど下がらせなさい。下がり次第、盾隊は前に移動し歩兵と騎馬兵は下がらせて。弓隊はさらに後方に配置し敵に攻撃を浴びせなさい。それから李典に私たちのところに来るように伝えて」
「了解しました」
(しかし、おかしいな。なぜ敵がこんなに接近するまで気づかなかったんだ?)
そんな疑問を司馬懿が抱いた直後、後方がにわかに騒がしくなった。気になって振り返るとそこには、自分たちに向け剣を振るってくる王国軍の将兵がいる。
完全に不意を突かれた形となった李典隊は大混乱に陥った。ただでさえ、謎の敵の襲撃を受けて態勢を立て直す途中だったにも関わらず、そこに後方の味方からの攻撃。いくら歴戦の李典隊といえど軍として体を為さなくなるのは目に見えていた。
「もはや、我が軍は持ちこたえられません!どうか真一様方はお逃げください!」
鎧を血に染めた李典が真一達に駆け寄り、悲鳴のような声を上げた。
「しかし、貴様らを見捨てるわけにはいかん!それに輸送隊を護衛するという任務もある。」
「その輸送隊から攻撃を受けているのです!もはや護衛どころの話ではありません!我が軍に関しては心配などご無用!我が軍は真一様から二度目の生を与えられた身。むしろ、我が軍のために真一様方が命を落とされてはそれこそ面子をつぶす物。どうかお逃げください。軍としての機能は果たせませんが、お逃げになるための時間くらいは稼げるでしょう」
「…分かった。ただ、お前らも時間があれば逃げろよ!」
「分かっております。では、またお会いしましょう!」
真一達、5人は馬に乗り、すぐに逃げ出した。
(必ず、生きて帰れよ!)
そう心の中で、李典に呼びかけて。
真一達が逃げ出すことを確認した李典は近くの兵士をかき集め、臨時の突撃隊を編成した。その内訳は騎馬兵50 歩兵200 弩兵50 盾兵10という大変少ない編成であった。
「突貫!」
李典はそう叫び、敵に向かって突撃した。
(敵の大将はどこにいる?)
そのことのみを考えながら李典は敵を切り伏せ、なぎ払い、馬で引き倒していった。李典の率いる兵はまるで鬼神の如き迫力で敵をねじふせていった。しかし、いくら士気が高いとは言えど多勢に無勢。一人、また一人と倒れていく。しかし誰も足を止めたり怖じ気づいたりはしない。まるで狼の群れのごとく敵を食い破っていった。
「いた!」
ようやく李典は敵の旗印を見つけた。その下には敵の大将らしき人物が馬に乗っている。ここまで敵が来ることはないと見くびっているのか護衛の姿は少ない。
「敵将、覚悟!」
そう言いながら李典は一瞬で距離を詰め、斬りかかる。敵は間一髪、李典に気付いたのか、ぎりぎりで剣をいなした。李典は振り下ろした剣を切り上げた。しかし、体勢を立て直した敵将はその剣を柄で押さえ込みつつ、拳で殴りかかる。李典はその拳を躱して蹴り上げた。一瞬、敵がひるんだ。李典はその瞬間を見逃さない。
(貰った!)
心の中で確信し、その無防備な首に剣を振り下ろした。
(うん?)
しかし、まるで時間の止まったかのように、いつまでたっても首は飛ばない。
不思議に思った李典は改めて自分の体を見ると腹から槍がいくつも生えているのが見えた。
「ごっほ!」
血の塊がのど元を駆け抜け、吹き出した。
やられたのか。
痛みも苦しみも感じず、その無念さだけが胸を駆け巡った。
さっきまで背を守ってくれていた副官は、少し離れたところで朱に染まって事切れていた。最後まで戦ったのであろう。まるでこの先には行かせんとばかりに立ったままの姿であった。
敵将との斬り合いに夢中になっていた李典は味方が全滅したことに気付かず、 敵に背後を取られてあと一歩のところで敵将を逃したのだ。
しかし、不思議なことに後悔はなかった。
無事、主は逃げ切れた。
そう確信めいたことを思いながら李典は瞳を閉じた。
そして、意識は永久の闇に吸い込まれていった。