森の中へと逃げ込んだ真一達はいつ来るともしれない敵の攻撃を恐れながら、機械国ジーマンに向けて馬を走らせていた。
なぜコットン国の城へ向かわないのか。
理由は簡単である。護衛隊の指揮官が理由はどうあれ、護衛の任務を破棄し、あろう事か逃げ出したのである。そのような人間がのうのうと生きて、城へとたどり着いたら何が起こるかは火を見るより明らかであろう。よくて、死刑。最悪、市中引き回しの上獄門である。故にコットン王国には逃げられない。
そうなると、機械国ジーマンに行くしかない。ジーマンはコットン王国とも仲が悪いため、勇者という存在を煙たがっている。その戦力がジーマンの物になる上、その戦力たる真一達は補給さえできれば武器や人員を召喚できるという強力なスキルがある。よっていきなり捕まえて返還と言うことはないであろう、という読みである。
いずれにせよ、彼らは魔王軍からもコットン王国からも逃げなければならないのである。
「新庄とは連絡がついているのか?」
「一様は、定時連絡は続いているので。ただ、芳しい報告は入ってきていません」
真一の質問に司馬懿が答えた。
情報収集は真一達に任せていては役に立たんと言うことで、彼女の仕事になっている。
「新庄にはジーマン国に向かうよう伝えろ。」
「了解しました。」
「それから李典達は?」
「特には何も…」
その質問をした瞬間、皆の顔が暗くなった。あれだけの兵力差があったのだ。
李典の生存確率はきわめて低いと言わざるを得ない。
どうか生きていてくれ、そう5人は心の中で祈った。だが、この時は既に李典は討ち死にしていた。
「今は、そのことよりも逃げることが最優先です。この森を抜けるとジーマンは目の前ですが、そこには関所があります。そこで発見されたら、お終いです。この関所を避けつつ、近くの山を越え、ジーマンに亡命します」
輸送隊の護衛任務で使っていた地図を広げながら、司馬懿は言った。
「そこに敵の監視がある確率は?」
「分かりません。ただ、脱出に時間が掛かれば掛かるほど敵の監視も厳しくなるでしょう」
「とにかく、急ぐしかないということだな。これでは、ロストフ攻防戦のドイツ軍の第1装甲軍だな。もちろんロストフを守る第4装甲軍や第11装甲師団などはいないが」
そう言いながら、五人は馬を急いで走らせた。
「森を抜けたぞ!」
逃げてから丸一日、不眠不休で逃げ続けた5人は森の出口にたどり着いた。
「問題はどう山を越えるかだ」
真一はそう呟いたとき、近くを馬の蹄が掛ける音が聞こえた。
「静かに!」
司馬懿がそう叫び5人は息を殺した。
やがて、馬は森を抜け、砦へと走り去った。
「おそらく、戦闘の結果を伝える早馬です。急ぎましょう!間に合わなくなります」
そう司馬懿は言い、5人は馬を急がせた。
どうにか山の中腹にまでたどり着いた5人であったが、幸運の女神はそこで5人を見捨てたのだろうか、警戒兵に発見されてしまう。
「急げ急げ!絶対に足を止めるな!」
必死で逃げる5人。
その後ろを追う30人ほどの騎馬兵達。
「怪しい者達が亡命しようとしている。何が何でも逃がすな!」
後ろから弓矢や魔法が飛んでくる中、5人は必死で逃げた。
しかし、一方は不眠不休で走り続けている馬。もう一方はたっぷり休んでいた馬。どちらが早いかはお分かりだろう。
徐々に追いつかれていく真一達。
(もう無理だ!)
誰もが思ったその時、
「王国兵に告ぐ! 貴官らはジーマン国の国境を越えている! 至急引き替えされたし! 繰り返す、至急引き替えされたし! 警告の聞かぬ、その時はやむを得ず貴官らを攻撃する!」
王国兵は大慌てでその場で急停止し、反転して引き返していった。
最後の最後で勝利の女神は真一達に微笑んだ。
数多くの犠牲を出しながらも、真一達は逃げ切ることに成功したのだ!
5人はすぐに駆けつけてきたジーマンの兵士によって近くの基地らしきところに連行された。
基地には明らかに戦闘車両と思われる物や銃器の類が置いてあり、かなり前世に近い科学力を持ったと国と言うことが分かった。
その基地の建物の一角にある小さな部屋に通され待つように指示された。
「俺たち、どうなるのかな?」
「少なくとも、すぐに殺したり何だりってのはないだろう」
「ええ、彼らにしてみれば貴重な戦力です。できる限り手放したくないはずだと思いますよ。我々の時代でも亡命してきた将兵をいきなり殺すというのは少なかったですから。」
「あくまでも少なかった、だろ。あったことには変わりないじゃん」
「ですが、考えてみてください。何者かが敵に追われて逃げてきた。そしたら、その者は何かしら敵にとって都合の悪い情報を握っているかもしれない。もちろん敵による罠も考えられますが、話だけでも聞いていようと思いませんか?」
「む、確かに」
「今、我々はその存在なんですよ。ですからできる限り自分重要性をアピールするのですよ」
司馬懿がそう言った直後、部屋のドアが開き軍服姿の男が入ってきた。
「皆さん、こんにちは。私はカール少佐だ。この基地の副官をやっている。宜しく。」
そう笑顔で自己紹介をしてきた。
「私は秋山真一と申します」
「僕は近藤譲と申します」
「俺は加藤幸一と言う」
「自分は伊藤守と言います」
「私は真一様配下の司馬懿にございます」
「うむ、分かった。話を聞きたいところだけど、不眠不休で逃げてきたみたいだしまずは、食事でもいかがですか?」
「かたじけない」
そう言って、カールを含めた6人は食堂へと向かった。
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」
一気に料理を食べていく5人の姿を見て、カールは驚いていた。
元々、カールはこの基地の副官などではなく、情報局の人間である。ジーマンはコットン王国に対してスパイを送り込んでおり、それ故、カールもある程度情報をつかんでいた。
スパイの情報によると、コットン国は勇者を召喚したらしいがその中にステータスは致命的に悪いが、スキルが異常な4人の勇者がいるという情報が届いていた。最新の情報ではこの4人は護衛の任務中、魔王軍と交戦。途中で怖じけづき、逃げ出したためにコットン国の補給線は壊滅的となり、魔王軍との戦争は敗色濃厚となったという。なお、この4人は現在も逃亡中とのことだ。
だが、カールは目の前の4人が間違いなくその4人だという確信にもにた勘が働いていた。しかし、1つだけ疑問があった。それは彼らが連れている少女のことだ。彼女に関しては何の情報もない。勇者には副官がつくのが通例らしいが、彼らはその能力ゆえ、つけられていない。
にもかかわらず、配下がいるとはどういうことなのか。しかも、他の4人と違い、この少女だけは何かが違った。まるで歴戦の将軍を見ているような気になってくるのだ。自分の勘が彼女に対してだけは絶対に敵に回すなと盛大な警報を発してきている。こんなことはカールの人生で初めてのことだった。その異常さに震えそうな体を押さえ込みつつカールは切り出した。
「お疲れのところ悪いんだが、少し聞きたいことがある」
5人はここからが正念場だときを引き締めた。
「単刀直入に聞こう。どうしてここに逃げてきた?」
「我々はコットン王国で輸送隊の護衛中ある事情により配下の部隊が殲滅され、
任務の続行を困難だと判断し退避することに決めました。しかし、我々は王国内
でも煙たがられていた身、あのまま国にいては危険だと判断し、亡命を決めました」
あまりにも、あっさりと逃げたことを供述したことにカールは拍子抜けした。
ただ、よく考えてみるとここで供述した内容に嘘があれば、彼らのみの置き所は今度こそなくなる。故に本当のことを言っているのは当たり前のことかとカールは納得した。
「では、ある事情とは何が起きたのですか?」
「その情報を言う前に1つ条件がある」
「条件を出すとは良いご身分ですね。自分の立場をわきまえているのですか?」
「そちらこそお分かりなのか?ここで我々を王国に突き出せば、それこそあなた方にはカードがなくなる。王国はこのまま行けば間違いなく魔王軍に滅ぼされるでしょう。そうすれば、次の目標はどこになるかお分かりですね?その時に勇者を持たずして、どう戦うのですか?」
司馬懿がそう言うと今度こそ、カールは驚きを隠せなかった。第一に自分たちが彼らを勇者だと分かっていることを知っていること。第二にその勇者こそジーマン最大の切り札だと言うことだ。
というのも、魔王軍は攻撃関連にのみ特化させてきたため諜報活動などを苦手としてきたのだ。故に勇者の実力を測りかねる魔王軍はそう簡単に手出しできない。勇者とはそれだけ大きい存在あのである。
これらを一瞬で見抜ききった司馬懿はさすがである。
「分かりました。では条件とは何です?」
「我々をあなた方の国の兵士に加えて貰いたい。こちらの4人方は前の世界の兵器と軍人を召喚できる能力を持っている。補給さえしっかりできれば役に立つはずだ」
「兵器とはどのくらいの威力ですか?」
「ご覧になりますか?我が世界の兵器を」
司馬懿はそう言って獰猛に笑った。
後にカールは手記にこう記している。
あのときの笑みから私は察するべきだった。その世界の兵器の恐ろしさを。
「で、その勇者達がこの砲弾を用意しろと言ってきているのか?」
そう聞いたのは機械国ジーマンの総統アデルフ ハットラーだ。
彼に渡された
「ええ、彼らにとってこのサイズの砲弾が標準サイズだそうで…」
答えるのは情報局長のレイトンだ。
「75㎜が標準だと…。まあ良い。とりあえず、用意はさせてみようじゃないか」
そう言ってハットラーは電話で兵器局に問い合わせた。
3日後
ジーマンの首脳部がこの日、ジーマンの首都ベラリンの郊外にある兵器試験場へと集められた。理由は言うまでもなく、真一達の兵器の威力を確かめるためである。
彼らがたどり着いて最初に目撃した物は未だ見たことのない戦車だった。
四号戦車F2型
旧ナチスドイツ軍の主力戦車(MBT)として各地の戦場を戦い抜いた四号戦車の43口径75㎜砲の長い砲身を搭載した戦車である。
四号戦車はその働きぶりから別名ワークホースとも言われ、時代を経るごとにそのニーズを満たす進化を遂げてきた。故に信頼性などは高い。
こうした理由からこの戦車を最初に召喚した。
ジーマンでは長年、魔王軍との戦に備えて多くの兵器を開発してきている。その兵器の戦車の中でもでも最高の火力は56㎜砲であった。もともと、魔国はそれほど好戦的な国ではなかったためにそれほど軍事力は持っていなかったため、これぐらいの砲でも十分に対応できた。
しかし、今の魔王クロノスに変わってから状況は一転した。クロノスは急激な軍拡を始め、防御魔法もより強力な物をあみだした。もちろんジーマンも対抗しようと新兵器の開発を急いでいたが、そう簡単に兵器開発というのは進む物ではない上、開発を怠っていたせいで兵器開発の経験者が少なくなってしまい、その技術を再構築するのに多くの時間が掛かり開発が遅れているのが現状であった。
故に完成品を見せてある程度その作りなどを理解させて独自の戦車を後に設計して貰おうと言うのが、真一達の考えである。
「それでは、これより射撃試験を行います。目標は800m地点に魔王軍の防御壁と同じ強度の鉄板を置かせていただいております」
守はそう説明をして全員に戦車から離れさせた。
「撃て!」
四号戦車から砲撃音がして、遠方に煙が上がった。
しばらくすると無線で
「鉄板の破壊を確認」
というアナウンスが聞こえてきた。
「まさか、本当に撃破できるとは…」
ジーマンの首脳部はしばし絶句した。
「これが、我々の召喚できる兵器の威力です」
するとハットラーは前に出て、真一達の手を握りつつ言った。
「どうか、我々に協力していただけないだろうか」
「そのために我々はここにいるのです」
真一達はそう言って、ハットラーの手を握り返した。
こうして無事、真一達はジーマンに認めて貰うことができた。
射撃試験の後片付けも終わり、後は召喚を明日に控えるのみとなった真一達は新庄からの連絡を待っていた。
新庄にはコットン国の状況と李典達の消息に関しての情報を集めるよう指示していた。前回の反省を踏まえ、今回は射撃試験までの空いた時間を使って無線の中継地点を作っている。
時間通りに連絡が来た。守が鉛筆で紙に書く音だけが部屋に響いている。
しばらくして守は鉛筆を机に置いた。
「どうだった?」
真一がそう聞くと守は黙って紙を渡した。
そこに書かれた内容を要約すると
・李典以下の将兵は殲滅されていたのを確認した。
・補給部隊も殲滅されており、増援の4万の将兵は撤退した。
・籠城をした勇者達は未だ戦闘を続けているが、落城するのは時間の問題である。
以上のことであった。
「やはり、李典はだめだったか…」
そう呟いた真一の目には涙が浮かんでいた。元々は、真一達の事情に巻き込んだ形であるにも関わらず、結局何もできぬまま死なせてしまったことに強い責任を感じていた。
そして、誓った。決してこのような犠牲は二度と出さぬと。
そんな真一達を見守るように星達が煌めいていた。
翌日
真一達は召喚を行うため、昨日と同じ場所に来ていた。
今回はジーマンの将校達が参列しており、戦車や将兵の召喚を今か今かと待っている。
「それでは、これより召喚を行います」
真一がそう告げ、守と真一は召喚を行った。
今回召喚したのは四号戦車F2型100両、およびそれを運用するドイツ戦車兵600名(内、100名は予備)、ドイツ歩兵1万(榴弾砲15cmsFH18の40門の運用を含む)である。これらは完全に機甲化しており、使う兵員輸送車はM3ハーフトラック1200両(内200両は補給物資輸送用)である。小銃はM1ガーランドとM1 60㎜バズーカを3本を装備している。
これらの弾薬や補給物資はジーマンで全て補給できることが確認されている。
これらの指揮官として選ばれたのは、ハインツ・グデーリアンである。
彼は第1次大戦から戦車の有効性を確信しており、ドイツ戦車隊の生みの親の一人である。数々の作戦の指揮を執り、あだ名は韋駄天ハインツであった。
こうして、ジーマンは着々と魔王軍との戦争に向け準備を整えていくのであった。