魔法の世界で、砲が轟く   作:spring snow

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第九話

 その後、ベラリン郊外の森から機甲部隊は坑道に入り、トーチカ陣地の扉の前に来た。

 敵が扉の目の前にいる可能性が高いため、戦車 M3ハーフトラックの順に突入していく。

 しばらくの沈黙の後にグデーリアンから号令が無線越しに掛かる。

 

「Panzer Vor!」

 

 次の瞬間、全ての4号戦車のエンジンが猛り、扉を吹っ飛ばしながら、突撃しいく。

 この時、扉の前にいた哀れな魔王軍の兵士は突然現れた戦車に何が起きたのかも分からないまま押しつぶされた。

 トーチカ内に運良く、生き残った兵士も何が起きたのかを理解するまもなく、車載機関銃になぎ払われて朱に染まり、倒れていった。

 

「敵影無し!」

 

 各隊から2分たたずに報告が届く。

 

「無事、トーチカは確保しましたね」

 

 司馬懿がグデーリアンに向けて言う。

 

「だが、ここからが正念場だ。奴らが気付く前に敵の先遣隊を撃破し、その勢いで敵の撃滅を計るか、敵の撃破で敵の指揮を打ち砕き、撤退を狙うかどちらにする?」

 

「味方の撤退の支援も行うのですから、できるなら敵の撃滅でしょう。ただ、この部隊はジーマンにとって虎の子。被害が出ないためにも撃破でとどめるのも必要かと。現場の退却などの指示はグデーリアン様の判断でお願いします」

 

「分かった。ただ、俺が指示を出せないときなどもあるから、あんたがこの被害は大きいと判断したらすぐに撤退の指示を出してくれ」

 

「分かりました。では、さっそく行動を開始しましょう」

 

 そう頷きあって、二人はそれぞれ違う車両に乗り込んだ。

 

司馬懿と守は後方のトーチカに近い地点で、全体の戦況の把握及び、後方からの敵の攻撃に備える。また、いざというときの退避の経路のためのトーチカの死守も担っている。

 

グデーリアンは、本隊と共に前線に向かい先遣隊の撃破を目指す。なお、歩兵部隊は近くまではハーフトラックで行くが、敵陣の1キロ手前でトラックから降りて徒歩での行軍となる。

 

こうして、部隊を危険ながらも二部して攻撃するのであった。これが吉と出るか凶と出るか、それは誰にも分からない。

 

 

「前方に敵の先遣隊の陣を確認しました」

 

 時刻は既に午前2時を回っている。敵は完全に油断しているのか灯火を焚いて、寝ている。

 

「完全に我々に気付いていませんね」

 

 副官がグデーリアンに言う。

 グデーリアンは、それに黙ってうなずき、無線機を手に取った。

 そして車外に体を出し、大きく手を振りかぶって怒鳴った。

 

「Panzer Vor!」

 

 15両の戦車とそれに率いられる1500の兵士は敵陣めがけて突っ込んだ。

 

 まず、攻撃したのは戦車隊だ。4号戦車が一旦停止して主砲を一斉に撃つ。当然敵は1万近くいるので、どの砲撃も敵の兵士を数多く吹き飛ばす。

 すると、今度は上空から大口径弾特有の飛翔音が聞こえ始め、敵陣にいくつもの土煙を吹き上げた。これは後方に陣取っていた榴弾砲による攻撃だ。しばらく、敵陣は混乱しているらしく戦闘態勢に入っていない。第2、第3斉射を放ちつつ前進をしていく。

 その間にも何人もの敵兵を吹き飛ばしていく。

 

 そして、ついに戦車隊が敵の先鋒に突っ込んだ。

 敵は混乱の極に達し、全く戦闘を行おうとしない。そこで、後方から付いてきていた歩兵が敵陣に殴り込む。

 あちらこちらで悲鳴が上がる。

 味方の機関銃や小銃が唸り、敵の兵士を朱に染めていく。敵もここに来て散発的に反撃を開始する。

 ある魔法兵が影から電撃魔法を放ち、数人のドイツ兵を丸焦げにしていくが、それに気付いた別のドイツ兵がM1ガーランドを撃ち、魔法兵が朱に染まって倒れる。

 そこかしこで戦闘が起きていたが、完全に態勢が立て直せていない魔王軍を徐々に押していった。

 

 戦車隊や砲兵隊は下手に撃つと味方を巻き込んでしまうため、攻めている反対側にいる敵を砲撃の目標にしている。

 魔王軍は負けじと魔法を4号戦車に放つが、射程が足りなかったり、当たってもその装甲で跳ね返されてしまう。ごくまれに、運良く爆発魔法がエンジン部に被弾したのか、エンジンが燃えて動かなくなる戦車もある。

 ここに来て、敵の切り札とも言える戦車を繰り出してきた。

 しかし、元々それを知っていたグデーリアンの部隊は歩兵がM160㎜バズーカを撃ち、あっという間に全車両を火だるまに変えた。

 残念ながら、味方の被害も無傷と言えず、20人ほどが魔法の攻撃に巻き込まれ、動かなくなった。

 

 

 やがて、魔王軍は体勢を整えるためか後退を始めた。

 しかし、そんなことはグデーリアンが許さない。持ち前の機動力で魔王軍との距離を離れさせず、攻めていく。

 もしかしたら、撃滅も夢ではないかもしれない。そう思ったとき、無線機で司馬懿から命令が来た。

 

「全軍撤退せよ。トーチカ陣地まで下がり、坑道へ逃げる」

 

 どう見ても、味方の被害が大きいようには見えない。

 疑問に思ったグデーリアンは司馬懿に問い合わせた。

 

「何故、今撤退する!たいした被害は出ていないぞ!」

 

 すると司馬懿は答えた。

 

「偵察隊より報告です。後方から敵が押し寄せてきます。魔王軍に救援です。どこかに伏兵が隠れていた物と思われます。その数、約2万。敵到達予測時刻まで後、2時間!」

 

 それは、念のため、出して置いた偵察隊からの報告だった。

 

 古今東西、どんなに精悍な軍隊でも偵察を怠ったために予想外の攻撃を食らい、部隊が壊滅した例は数多ある。

 太平洋戦争で言えば、ミッドウェー海戦が良い例である。

 それまで連戦連勝であった日本海軍がこの開戦を転換点とし、一気に戦力が衰えた戦いだ。山本五十六率いるミッドウェー攻略の本隊の戦力も含めると圧倒的な戦力差がありながらもこの戦いに負けた。

日本軍の敗因はいくつもあるが、大きな理由の一つに米軍の空母が発見できなかった点であることは有名な話だ。

 

 それほどまでに偵察は大事なのである。

 司馬懿は太平洋戦争など経験しているはずもないが、何十年と続いた三国志の時代を終わらせた人物である。偵察の大切さなど体に染みついている。

 その司馬懿が放った偵察の網に敵が引っかかったのである。

 

 

 第1独立師団の第4偵察小隊の隊長ミハエルは、ちょうど休憩を取っていた。

 ミハエル達が指示された偵察場所は、トーチカ陣地から魔国側に15km進んだ場所の右側である。

 小隊の人数は10人。

 皆、頼れる戦友ばかりだ。独ソ戦時には、この小隊で偵察によく行った物だった。

 そして、ある偵察任務を請け負っていた時に運悪く敵の本隊値鉢合わせになってしまい、そのまま全滅した。

 

(その時も、こんなうっそうとした森の中であったな)

 

 そんなことを考えながらミハエルが、ふと顔を上げると生い茂る木の向こうで何か物音がする。

 すぐに、休憩中の部隊に戦闘体制に入るよう無言で指示を出し、その音の正体を確かめるべく動き出した。

 

 しばらく歩くこと5分ほど。何かが森の中を移動するのが見えた。

 ミハエルが目をこらして見ると、魔王軍の旗を持った騎馬隊が水辺で休憩をしている。

 それもかなりの数だ。

 急いで、自分達が休憩をしていた場所まで戻り、無線機を引っつかみ言った。

 

「本部、こちら第4偵察小隊。魔王軍の騎馬隊らしき部隊を確認!敵の規模は2万ほど。敵の規模や、装備から判断するに本隊とは別な物と判断する!」

 

 この連絡を受け取った司馬懿はすぐに、グデーリアン隊に連絡、先ほどの会話になる。

 その後、敵の足止めをすべく残った戦車隊に敵の後ろに回り込ませると同時に、歩兵隊にトーチカを利用して安全な位置から敵に機関銃や砲撃を行い、敵の突撃を防ぐよう命令した。

 しかし、その兵力の差から長く持ちこたえるのは厳しいと思われていた。

 唯一、運が良いとすれば、森の中を抜けるため、敵の到着が大分遅れるということであった。

 

(しかし、本隊ではないとするとその敵は何を目的として進軍しているんだ。敵に報告が行くには早すぎる。となると別の何かの任務を帯びている部隊か。だとすると、その目的は何だ……)

 

 そんな疑問を抱きながら、司馬懿はある秘策を準備すべく矢継ぎ早に指示を出した。

 

 グデーリアンの部隊は撤退の命令が出るなり、一斉に引き始めた。元々独ソ戦を戦い抜いてきた部隊である。撤退の仕方は実に見事な物であった。

 これに対して、未だ混乱の渦中にいる魔王軍は完全な追撃の態勢もとれずにいた。それでも混乱から立ち直った一部の部隊は追撃をしようと前進してきた。

 そこで、イタチの最後っ屁とばかりに戦車隊がその部隊に最後に一斉射をすると、エンジンを全力で吹かしながら元来た道を戻っていった。

 歩兵隊もそれに後れを取るなとばかりに駆け足で小銃を撃ちつつ、引いていきトラックに飛び乗って後退した。負傷兵は何人かで引きずりながら連れて行った。

 

 もし、残してしまったらこちらの戦力などがバレてまずいため、生存者は何があっても全員引き連れて帰ってこいと厳命されていた。

 

 戦場にはその引き際の早さに唖然としている魔王軍と両軍の死体のみが残された。

 

 

「師団長!司馬懿隊が敵と交戦を開始した物と思われます!」

 

 トーチカ陣地まで、後3kmと言うところで、その一報が入った。

 

「それは本当か!」

 

「はい、先ほどから通信回数が急激に増えております!」

 

「それはまずい!急いで追いつくぞ!」

 

 そう言いながら、一刻も早く司馬懿隊の救援に向かうべく戦車隊を走らせるグデーリアンであった。

 

 時は若干遡り、10分ほど前に戻る。

 

「敵の先鋒がまもなく接触します!」

 

 最前線のトーチカ陣地から司馬懿に連絡が入った。

 

「分かりました。絶対に指示があるまでは撃ってはいけませんよ」

 

 司馬懿は、そう返答した。

 しかし、撃ってはいけないとはどういうことなのであろうか。

 今回のような野戦で通常戦力が少なければ、敵の気付かないうちに先制攻撃を仕掛け、敵の戦力を極力削るのが常套手段である。

 司馬懿ほどの知恵者がそれを知らぬはずがない。

 しかし、司馬懿は撃つなと指示を出した。

 それは、今回のような場合だからこそ採れる博打に近い作戦であった。

 

 

「今回の初戦は大勝利だったらしいぜ」

 

 そんな話をしながら馬に乗るのは、魔王軍第2騎馬師団第1大隊のマックであった。

「ああ、何でも敵は攻撃を受けたらすぐに逃げ帰ったらしいな」

 

 横にいた別の騎馬兵がそう答えた。

 その騎馬兵は、マックと同期で同じ部隊に配属になった一番の戦友であった。

 

「今夜、そこで野営して明日の作戦に備えるらしい。森を抜けたからもうすぐだろう」

 

 その直後、前方の騎馬隊が止まった。

 

「お、着いたらしいな」

 

 そう言って、馬から下りて綱につないだ。

 他の兵士達も同じようにして野営の準備を始める。

 

「おい、ここなんか変じゃないか?」

 

 マックが問いかけた。

 トーチカ陣地を占領しているはずの味方の動きに何か違和感を感じる。

 

「気のせいだろう。ここ最近、本国からここまで走りっぱなしだったからな。疲れてるんだろう。今日はもう遅いし、さっさっと寝ちまおうぜ」

 

 眠そうにテントを立て終えた兵士は中に入っていき、寝始めた。

食事は先ほどの休憩時に済ませている。

 マックは、その違和感を疲れのせいかと一人納得し、テントに入って寝た。

 

 

 

 マックは、外でする大きな物音にたたき起こされた。

 直感で敵襲だと分かったマックは、跳ね起き近くに立てかけて置いた剣を取ろうとした。

 次の瞬間、テントに何か真っ赤に焼けた物体がすごいスピードでぶち抜いていくのが見えた。それを何かを認識する前にマックは気が遠のいていった。

 

 

「作戦は成功ですね」

 

 不敵に微笑む司馬懿は燃えさかる敵陣を見ながら、そう呟いた。

 彼女の前方にはグデーリアンの戦車隊が通り抜けていった。

 

 偵察隊の指揮を執っていたミハエルは、司馬懿から撤収するよう命じられていた。

代わりに来た別の偵察部隊と敵の監視の任務を交代して、後方に下がったミハエル達は別の任務を言い渡された。

 その任務は、敵の騎馬隊の馬たちを逃がすことが目標であった。

 接近中の敵は恐るべきことに騎馬隊のみであるらしい。普通であるならば、歩兵や弓兵などから編成される。

 

騎馬隊は突進力はきわめて強いが、馬の育成などに金が掛かるなど、欠点も存在する。また、騎馬隊に対する戦法も存在するため、バランスよく編成するのだ。

 

しかし、今回の敵はそのようなことも気にせずにこのような部隊を編成した。つまり、戦闘とは別の任務を担っていることは間違いない。

 ならば、我々はその目標を頓挫させるために敵の馬を逃がすことは、一般将兵のミハエルですら考えることであった。

 この作戦を行うために、一時的に味方敵の変装をするため攻撃しないよう厳重に注意されていた。これらの見分け方は、敵の野営地にいるかいないかで見分けが付く。

 ミハエル達はトーチカの一つに身を潜めている。

 全ては、敵をだましきれるかの一点に掛かっていた。

 

 

 司馬懿は、今まで負けることなど考えたことはなかった。負けたとしても、致命的な負けは絶対にしないようにしていたし、しなかった。

 

 理由は簡単。

 

 自分は常に敵より優勢な兵力を使い、敵を上回る策を出していた。

 それは軍師として当然の行いである。

 軍師というのは、仕える国をどんな手を使ってでも勝たせるのが役目だ。

 その任務を遂行する上で、万が一という言葉は極力なくさなくてはならない。万が一があっては、国が滅びるのだ。

 そんな言葉を昔の自分なら言ってのけたであろう。

 しかし、今は敵より圧倒的に少ない兵力で、ここで負ければ自分の主達は滅びる。

 それは、今までに経験したことのない次元の戦いであった。

 

 しかも、この作戦は当たれば勝利間違い無しだが、外れれば負けが確定するという大博打な作戦であった。できることなら避けたい作戦だが、これ以上の策を司馬懿は見つけることができなかった。

 兵力の他にも司馬懿を心配させる要因がある。

 

 それは、魔法であった。

 

 前世の世界では魔法なんてものは存在していなかった。

 しかし、この世界には存在する。

我々の世界では飛び道具として弓や弩、攻城兵器の霹靂車ぐらいしか無かった。

 しかし、この世界には魔法による飛び道具も多く存在する。つまり、様々な戦術を行えると言うことだ。それがどこまで行えるのか検討が全く着かないために司馬懿は不安なのだ。

 その不安をバレないよう、感情を押し殺しながら司馬懿は森を抜けた敵の騎馬隊を見つめていた。

 

 そして、時は戻り、マック達が寝た頃の時間帯にまで進む。

 

 味方から相変わらず無線連絡が逐一入ってくる。

 ミハエルは作戦開始の一報を待っている。喉がひどく渇き、水筒が手放せない。

 これは、ミハエルに限った話ではなく、誰もが戦闘の直前というのは極度の緊張に達するために、洗面器の水ですら飲んでしまうそうだ。

 そんなミハエル達の無線機にさらなる一報が入った。

 

「熊は巣穴に入った。繰り返す、熊は巣穴に入った」

 

 これは作戦開始命令の暗号であった。

 ミハエル達は直ちに装備を担いで、トーチカを静かに出て行った。

 

 敵の陣地は全体的に丸く設置されており、味方がいると信じて疑っていないのか歩哨すら立っていない状況であった。

 司馬懿の策は見事に当たった。

 しかし、ミハエル達にとってここからが本番である。

 敵の兵士に見つからないよう草むらに隠れつつ、敵が馬を止めている場所にまで移動した。

 馬の場所はもともと、味方の偵察隊から連絡が入っており、敵の陣からそう離れていないそうだ。

 言われた地点まで行くと今までに見たことのないような数の敵の馬が並んでいた。

 そこで、ミハエル達は直ちに馬を繋いでいる縄の切り離しに掛かる。

 

 丁寧に馬に暴れられないよう静かに一頭一頭の縄を切り離していくミハエル達。

 この時、200人近い兵士が作業をしていた。

 敵の馬は兵士と同じ数。つまり2万頭いるため、想像以上に時間が掛かる。

 作業をしていた兵士達はバレた時に起こる最悪の事態を考えて、手を震わせながら切っていく。

 

 

 

 ようやく、作業を終えたとき、どこからか重々しくも頼りあるエンジン音が聞こえてきた。

 それは、敵にあの世への片道切符を渡しに来たグデーリアン戦車隊のエンジン音であった。

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