レミリア「私、何か悪い事しましたっけ?」   作:チャーシューメン

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マジお前、お前マジ。



咲夜が私の鼻クソほじるのをやめてくれない

 

 

 今年の冬はレティが仕事をサボったので、暖かだった。

 だから私は油断していたのだろう。

 例年よりそれがやって来るのは早く、加えて私の体内には五百年にも及ぶ長い年月の間、積み重なったそれらのカスが溜まっており、だからそれが今年になって爆発したのも、ある種の運命だったと言えなくもないのかもしれない。

 

 

「っくちゅん!」

 マジ花粉、マジこのヤロウ。

 許さねえ、テメーは私を怒らせた。産まれてきた事を後悔させてやる。私のパンチは地獄への超特急だぜ。あの世で私に詫び続けろ! でも太陽だけはカンベンな。

「何を窓に向かってシャドウボクシングしてるんですか、お嬢様。灰になりたいんですか?」

 振り返ると、おすまし顔の咲夜がいる。ミニスカメイド服なんて着やがって、誘ってやがんのかこのヤロウ。セクハラし放題ってか、お触り肛摩姦ってか。テメーのドロワを引っぺがして今夜のナイトキャップにしてやるぜ。

「なんですか、指をワキワキさせて。お嬢様、キモいですよ」

 銀のトレイに載せたティーポットを机の上に置き、咲夜は私の方へ向き直る。

「何処かお加減でも?」

「アイ・アム・カーフンショウ、イェア」

「……は?」

 咲夜はポカンとしていた。レミ語は人間にはまだ早かったようだ。気長に布教して行かねばならないな。愚民共には手を焼かされるよ、まったく。

「お顔が少し赤いですね」

「っくちゅん!」

「あらあら」

 咲夜が目を細めた。

 バカンスの帰省ラッシュの如く渋滞していた私のノーズ・ハイウェイィは、次の瞬間、轟音とともに駆け抜けるロケットスレッドに早変わりしていた。

 咲夜が時を止めたのだ。

 最強最悪の吸血鬼、レミリア・スカーレット(イッツミー)率いる悪魔の館、紅魔館。伝説に名を刻む化け物揃いのこの館の中で唯一の人間である十六夜咲夜は、しかしその中の誰よりも悪魔じみた能力を持っている。

 そう、それは「セクハラをする程度の能力」。

 私にセクハラをする為なら、咲夜は時空すら支配する事が出来る。今のはきっと、時を止めて私の鼻の穴に指を突っ込み、悪魔の膿を掻き出したのだろう。白いちり紙で手を拭いている事からして間違い無いと言える。

 マジお前、お前マジ。正直引くわー。主の鼻水に興奮するって、どんな性癖だよ、このヤロウ。

 下劣な煩悩を満たす為ならば美しきこの世界すら捻じ曲げてしまうその力に、人間の新たな可能性が垣間見える。文明の夜明けは近い。新しい朝が来たのだ。滅びろ。

「なるほど、花粉症でございますか」

「オッ、咲夜もレミ語が分かるようになったのか、お姉ちゃん嬉しいわ」

「はあ」

「貴女も大分慣れて来たじゃない。今度一緒にレミ教に入信しましょうね」

「あ、それはもう入ってるんで」

 あんのかよ、レミ教。それズェッテー、カルトだろ。マジお前、お前マジ。信者集めて革命とかやらかすのはカンベンだからな? お姉ちゃん領主なんだから、支配者側なんだから。領主って潰しがきかない職業なんだよ。領主かルンペンかって生き方しかできねーんだぞ私は、不器用だからな。そういう一本気な所が素敵って、よくみんなに言われてるんだ。

 ずびび。私は鼻をすすった。

「そう言えば、パチュリー様も花粉症であらせられましたね」

「あいつは花粉出す側だろ?」

 こくこくと咲夜が頷く。

「パチュリー様ならやりかねませんね」

「ズェッテー出してるって。私が辛いのはあいつのせいだな」

「割と否定出来ない部分もあります」

「マジお前、お前マジ。身内に花粉出す奴がいるって、どういう事なの。しかも屋敷内にっくちゅん!」

 くしゃみ。その一瞬後には、茶碗にこびり付いた餅みたいにあれだけしつこく私の鼻の穴にしがみ付いていた鼻水と鼻クソ共が、嘘の様に消え去った。今度はご丁寧にブリーズラ○トクールが貼り付けてありやがる。新鮮な空気が鼻を通り抜け、私の思考は少し回復した。

「咲夜」

「はい、お嬢様」

「私の鼻の穴ほじるの、やめてよね」

「はあ?」

 トボけてやがる。信じられん、なんだこいつ。マジありえねぇよ。バレバレだっつーのに。

 私は金色の光溢れる窓の外へ目をやった。

 外は太陽さんが暑っ苦しく自己主張していやがり、冬だってのに春みたいな陽気だ。クソ忌々しい。嗚呼、フラン、愛しの我が妹よ。早くあの太陽さんをキュっとしてドカンしてくれないかしら。お姉ちゃん待ってるのよ? のよ?

 ふと視線を下に向けると、チャイナ服に身を包んだ女が、燃えるような色をしたその髪を揺らしながら太極拳をやっていた。

 誰だあいつ。見た事ねーな。あれ、不審者じゃないのか。

「あ。美鈴がトレーニングしてますね」

 いつの間にか隣に立っていた(正直マジキモい)咲夜が楽しげに言う。

 メイリン? 誰それ、聞いた事ねぇな。ツパイの愛称だっけ?

「美鈴の演舞はいつ見ても美しいですわね、お嬢様」

「あー、大道芸人とかそういうのか」

「は?」

「んー、チチがデカ過ぎてジェラシーハイスクールだわ。二度と紅魔館の門をくぐるなと言っておきなさい」

「えっ」

 咲夜は眉をひそめ動揺したが、

「りょ、了解いたしました。伝えて参りますわ」

 踵を返し、小走りに部屋を出て行った。時止めて行けよ、とか思ってはならない。咲夜はセクハラにしかその力を使う事が出来ないのだから。

「っくちゅん!」

 ファ○ク! 流石のブリーズ○イトクールも溢れ出す悪魔の膿には勝てはしないという事か。私の鼻腔はまたもや人身事故の起こった環状線のようになってしまった。ってかこれ鼻水に対して意味あんのか? ちょっもう、これウザい。私は○リーズライトクールを外して床に叩きつけた。

 こうなれば、館内で花粉を撒き散らす悪魔の手先パチュリー・ノーレッジを討伐しに行かなければならん。勇者レミリア、いざ推参。

 そう決心した矢先、扉がノックされた。

 ヤベェ、パチェの助の奴、いつの間に読心能力なんて手に入れやがったんだ?

「中に誰もいませんよ」

 そう言ったにも関わらず、ドアは無造作に開け放たれた。

 無遠慮に入って来たのは、鮮血色の髪をした女だった。

「レミリアお嬢様、クッキィ焼いたんですよ。良かったらお一つどうです? です?」

 パチェの使い魔、小悪魔である。

 小悪魔は脳の快楽中枢に重大な欠陥を抱えており、主人であるパチェに視姦されることでしか性的快楽を得る事が出来ないのだ。パチェの目を惹くため、小悪魔はいつもコスプレをしている。今日はピンヒールにボンテージの女王様スタイルだ。おまけに鞭とロウソクまで抱えていやがる。割とマジで娼館だと誤解されかねんぞこれは。皆さん、紅魔館では性的サービス業は一切請け負っておりませんので、あしからず。

「クッキーなんぞいらん、まず服を着ろ」

「? 着てますけど」

 話にならん。駄目だこいつ、早く何とかしないと……!

「そんな事よりお嬢様、クッキィ食べましょうよ」

「そんな事じゃねえよ、我が家の名誉の問題だよ」

「今日は良いバタァが手に入ってですね」

「その格好でバターとか、何に使うんだよ。マジ、ちょっとそういう卑猥な話やめろや」

「……はぁ?」

 首を捻る小悪魔、そのまま捻じ切ったろか。

 そこへ、ドカドカと足音を立ててやってくる人影。

 混沌と花粉をまき散らす者にして、這い寄る図書館、パチュリー・ノーレッジである。変態メイド咲夜のおまけ付き。

「レミィ、大丈夫?」

「パチェか」

「え、なんで脈絡なくデンプシーロールしてるのよ、ホント何してんの?」

 眉をひそめ、尊大にふんぞり返って喋くるパチェだが、

「パチェお前、自分の従者の躾くらいちゃんとしとけよ」

 ボンテージ姿の小悪魔の方をちらりと見やると、

「すいませんっしたー! マジご迷惑お掛けいたしましたー!」

 見事な九十度の直角最敬礼をキメた。流石は魔界にその名を轟かす七曜の魔女にして、我が親友。

「パチュリー様、そんな場合ではなくて」

 咲夜がパチュリーをたしなめている。常識人ぶりやがって、お前が一番の変態だろうに。

「おっと、咲夜、そうだったわね」

 パチェの助はそのアンニュイ顏を近づけ、私の顔をまじまじと覗き込んだ。パチェのカビ臭い体臭が鼻を突き、私は顔をしかめた。

「私にそんな趣味はないぞ、パチェっくちゅん!」

「私だってへちゃむくれのあんたの体に興味なんかないわ」

 へちゃむくれじゃなきゃあったのかよ、なにそれこわい。良かった、へちゃむくれで……。

 パチェは大袈裟にため息を吐くと、眉をくねらせて咲夜を睨んだ。

「咲夜あんた、なんでこれで気付かないのよ」

「パチュリー様が花粉をお出しになっておられるので、そのせいかな、と」

「あ? 花粉?」

 ハテナマークを浮かべるパチェだが、何やらおもむろに懐をゴソゴソとやり始めた。

「咲夜、押さえてなさい」

「喜んで」

 瞬時に私の後ろに回った咲夜が、私を羽交い締めにする。

 もちろん私は暴れた。

「な、なんだお前ら、何する気だ、やめろぉ!」

 マジお前、お前マジ。首に息を吹きかけるのはよせ。マジキモいだろうが。

「小悪魔も手伝って」

 私はジタバタともがく一方、パチェはキビキビとした調子で小悪魔に指示を出す。普段ノロノロしてるくせにこういう時だけ素早いんだコイツは。

「はい、パチュリィさまっ!」

 小悪魔も私にしがみついて邪魔をした。

「やめて! 私に乱暴する気でしょう! エロ同人みたいに!」

「ちょっと大人しくしてなさい、レミィ」

 アンニュイ魔女が取り出したのは、綿棒にも似た、細長い針金状の物体だった。先端に少し、白くてフサフサしたものが付いている。

 パチェはそれを見せつけるように、私の顔の前でゆっくりと左右に振った。

 くっそ、このエロもやし!

「マジお前ら、お前らマジ! 私を篭絡して紅魔館を娼館に変える気だな! 私は泡姫なんかにズェッテーならねーからな! スカーレット家の人間は気高いんだぞ、領主かルンペンかって生き方しかしねーんだからな!」

「気高いのかしら、それ……」

 パチェは私の顔を手で押さえつけ、その某を私の小さな鼻に当てがった。

「ま、マジで何する気だ、うおォ、やめろォ!」

 私は顔を左右に振って逃れようとするも、パチェに押さえつけられていてそれも出来ない。

「ちょっとツーンとするけど、我慢なさい」

 パチェはニヤニヤと下卑た笑いを浮かべると、その欲棒をゆっくりと私の秘穴に挿入した。鋭い痛みが私の中心を駆け巡り、私は喘いだ。

「バカ! 変態! レイプ魔! クラゲ! ナメクジ! 苗床! 海綿体! 鼻の穴フェチーッ!」

「暴れると血が出るわよ」

 体の中を直接突かれるような痛み(そりゃそうだ)が私を襲い、意図せずに涙が溢れた。さながら辛子を入れすぎた納豆をかっ込んだ時の如く。

「あいだだだだたマジ痛い痛い痛いってホントマジすいませんでした!」

 パチェは某で私の穴の中をタップリと弄ぶと、ようやくそれを引き抜いた。そしてその某を妖しげな溶液に浸し、小さな白いトレイの上に置いた。

「もういいわよ。咲夜、小悪魔」

 その言葉でようやく解放された私は、涙を拭い肩で息をした。

 マジこいつら、こいつらマジ。

 信じられん、紅魔館の主たるこの私の純潔(鼻の穴の)を、三人がかりで奪うなんて……。鬼畜だよ、鬼畜の所業だ。

「うう……し、親友に初めてを奪われるなんて……。酷い、酷いわパチェ! 私たちの友情は一時の下劣な欲望に負けるような、そんなちっぽけなものだったのねっ!」

「レミィ」

「こうなった以上仕方ないわ。私とて貴族の女です、覚悟は出来てる! さあ! 式の日取りはいつにするのっ!」

「レミィ」

「咲夜、森の人形遣いにウエディングドレスを発注しておきなさい。あと唐傘妖怪に指輪造りを依頼するのも忘れちゃダメよ。ああ、牧師が足りないわ、外の世界から連れて来なきゃねっ」

「レミィ、盛り上がってるトコ悪いんだけど」

 パチェは私の鼻先に、小さな白いトレイ状の物体を突き付けてきた。

 青いラインが一本、引かれている。

「陽性ね。インフルエンザよ、永遠亭に行ってきなさい」

 

 

 永遠亭で連座だか前座だか言う妖しげな薬品を吸入し、数日入院した事で、私はようやく正常な判断力を取り戻した。何でも、永遠亭で測った時には熱が四十度あったらしい。平熱の低い吸血鬼がそこまで発熱するというのはかなり危険な状態だったと、信号機みたいな服着た永遠亭の女が言っていた。

 四十度……そりゃ異常行動もしちゃうわな。

「すっかりお元気になられて、安心しました。良かったですね、お嬢様」

「迷惑かけたな、咲夜」

 傍で微笑む咲夜は、いつもの完璧で瀟洒なメイドだ。あの時の私は、何か恐ろしい妄想に取り憑かれていたのだ。咲夜が私の鼻水に興奮するような、そんな異常趣味の持ち主である訳がない。

「花粉症じゃなくてインフルエンザだなんてな。吸血鬼がインフルなんて、みっともなくて外を歩けやしない。永遠亭の奴らに口止料、弾んでおきなさい」

「もう里でも有名ですけど。天狗の新聞で知れ渡ってます」

「マジかい」

「永遠亭には口の軽い輩も居りますし」

「咲夜、今夜は兎鍋ね」

 その時。私の私室のドアが突然爆発した。

 響き渡る轟音と舞い上がる煙の中、疾る影。それは私に向かって飛び掛ると、全身でしがみついて来た。ジャンピングだいしゅきホールドだ。

「どうしたのよフラン」

 私の妹、フランドールである。

「お姉さま、助けて! パチェが私を手篭めにしようとしてるの! スカーレット家の財産を狙ってるのよ!」

 フランドールは私の胸に顔を埋め、ぐりぐりと頭をこすりつけてくる。

 彼女は少々思い込みが強い。私はフランドールの髪を優しく撫ぜ、絵本を読み聞かせるように優しく言った。

「嗚呼、フラン。愛しの我が妹よ。悪い夢でも見たのね、そんな事ある訳ないでしょう」

「ホントよ! 咲夜は私の服を脱がそうとしてくるし、小悪魔はマイクロビキニ姿で館中を練り歩いてるし! おまけに外では不審者が太極拳やってるのよぉっ!」

「お、おう」

「いやっ、嫌よう、お姉さま、助けて! みんなが寄ってたかって私をソープに沈めようとしてくるの! 私、泡姫になるくらいならルンペンになるもん!」

「フラン、貴女……なんか、あったかくない? まさか……」

「そうよ、レミィ!」

「パチェ!」

 いつの間にかドア口に現れたパチェが、例の小さな白いトレイを掲げている。

「陽性よ。フランは永遠亭送りね」

「ばっ、馬鹿な!」

 フランを引きずりながらパチェに駆け寄ってトレイをひったくると、そこには赤いラインがくっきりと表れていた。

 私は戦慄し、体を震えさせた。

「なんて事……! 一刻も早く処置しないと!」

「貴女もね、レミィ」

「な、何!」

 いつの間にか後ろに回ったパチェが、私を羽交い締めにする。

 訳のわからぬ私は、それを振りほどこうと体を揺すったが、びくともしなかった。

 何故だ。もやし魔女の癖に、妙に力が強い。

「何をするの、パチェ!」

 と言うより、何か、力が入らない……?

 パチェは私の耳に口を近づけ(キモい)、囁くように言う。

「貴女のかかったのはインフルエンザ・レミ型なのだけれど」

「なんだそりゃ、私専用かよ」

「フランがかかっているのは別の型。インフルエンザ・レミフラ型よ」

「何でだよ、スカーレット家はどんな呪いを受けてんだよ」

「という訳で、貴女も罹患していないか、検査する必要があるわ。咲夜!」

 コツリ。

 小気味良い靴音を立てて、私の前に立ち塞がる瀟洒なメイド、十六夜咲夜。その手には、先端に白いフサフサの付いた例の某が握られている。

「や、やめろ、咲夜……!」

「ウフフ……」

 目をトロンととろけさせ、恍惚の表情を浮かべる。時折、ブルンブルンと体を震わせながら。

 こいつ……私の鼻をほじる行為に、エクスタシィを感じていやがる! 正真正銘の変態だ! 私の幻覚じゃあなかったのか!

「は、放せっ! 変態共の言いなりになってたまるか!」

「お嬢様。これは医療行為ですのよ。つまりはお医者さんごっこ……ウフフ」

 よく切れるナイフのように端正なその美しい顔を、はぁはぁと荒い息遣いで歪ませながら。咲夜はその某を、私の秘穴に当てがった。

「マジお前! お前マジ! いやっ、お鼻ツーンとするの、いやぁーっ!」

 皆さん、助けてください。

 咲夜が私の鼻クソほじるの、やめてくれません。

 

 





 某コンペに出品した作品(の改訂版)です。
 某コンペではぶっちぎりの最下位でした。
 めっちゃ悔しいです。
 ……でもこんなひどいネタが上位に入ったら、それはそれで困る。
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