ただいま、僕は木陰で日向を見つめているのが似合ってるようです。
short.1[マッチ売りの少女]
寒い。今年も雪が降ってきた。暗い暗い街道を仄かに灯すガス灯に照らされて、黒に染まった街には不釣り合いな白い雪が降り注ぐ。最初は、あ、雪だ。くらいの降雪量だったが、今となっては深く被った帽子の鍔に積もってしまうくらいの量だ。降っては溶けるを繰り返していた道の雪も、段々と白く薄く積もっていく。このままだと、明日明後日には完全に積もってしまうだろう。あぁ嫌だ嫌だ。
大枚を叩いて買った黒いコートをよりいっそう強く抱き、巻いたマフラーに口元を埋める。家に帰れば温かいスープを飲める。蝋燭に火を灯し、薪をストーブに放り込めばすぐに身体は温まる。
...まぁそれを耐えられず途中の屋台で売られていたコンソメスープに口をつける。値は張るが具材やスープの量は山盛りで、思わずほぅ、と白い息が漏れでる。ジャガイモや玉ねぎ、更には薄くスライスされたベーコンと、寒い日にはぴったりな具合のスパイス。堪らない。
「...ませんか」
びく、と身体がこわばる。いつもなら、きっと気のせいだと見逃していた筈の小さな声。しかし、雪が降り人通りの少なくなった街道だからこそ聞こえた、か細く小さな声。
「マッチ、買いませんか?」
ぼろぼろになった小さな羽織、継ぎ接ぎだらけの安物の服。そして、震えて震えて止まらない細く真っ白な手。その手に握られた、シワだらけになった真っ赤なマッチ。
そこに立っていたのは、とても綺麗な金髪をした、小さな少女だった。
「あ...」
何をいいかけた。家にならマッチはある。このご時世無駄な金は使っていられない。近代化が進むこの国で、マッチなんていうのはじきに廃れる。こんな可哀想な子は他にいくらでもいる。この子だけに手を差しのべるのは、ただのエゴだ。
「え...と。無理して買わなくても大丈夫ですよ、ほんとです。はい」
少女は、少し無理をしたような弱々しい笑顔を浮かべる。
「売り切らないと困っちゃうんですけど、ね...あはは...」
「...すまんな。今手持ちがないんだ」
「そう...ですか...大丈夫ですよ、お気をつけて...」
マッチを籠に戻して、緩い羽織を優しく引っ張る。強く引き絞れば破れてしまいそうで...今ここを離れて立ち去れば、彼女は寒さに凍えて、ここで...ずっと...。
「...だから、これと交換してくれないか」
「え?」
持っていたスープの器を少女の手に持たせる。小さな手がびくっと震え、そして...収まっていく。手の先はだんだんと赤くなり、温かさが戻る。目はきらきら輝き、頬は紅潮していく。
「そ、そんな! こんな美味しそうな...私には...」
「いいんだ。その代わり...そうだな、6個貰おうか」
籠に残っていたマッチは、残り6個。その全てを引き取り、その内の一つを少女に渡す。
「そしてこれは君が使え。僕が買った物だから、遠慮せず使うといい」
「そ、そんな...何と、言ったらいいか...あ、ありがとうございます」
「...次はちゃんと手持ちを持ってくる。今日はそれで我慢してくれ」
そう言って被っていた帽子の雪を払い彼女の頭に被せる。中身は羽毛で出来てるし、少しは寒さを和らいでくれるだろう。ぽんぽんと叩き、その場を離れる。
...何をしているんだ僕は。馬鹿か。何で帽子被せたんだよそれはいらないだろうが。...マッチ使いきれるかな...。
少し心は温かく、歩く足取りは少し軽く。
手には仄かな温かさが宿っていた。
こんな感じで、定期的にちょこちょこ書けたらいいなぁと。
シリーズ化ですね。