...投稿遅れてほんとごめんなさい。これで投稿遅いんじゃぼけぇっ!!て気持ちが、ぽかぽかしますように...。
コリコリと、コーヒー豆を挽く音が店内に響く。店内に充満する香ばしい香りは、彼女が注ぐコーヒーからだ。甘く、それでいて鼻を引く苦味。すっぱいというか、苦くないこの香りはマンデリンと呼ばれる豆だ。...多分。
「...薫さん、これマンデリンですか?」
「お、速水君正解。マンデリンだよー」
おっとりした、のんびりほんわかな声を上げて、にっこり笑う薫さん。彼女はこの喫茶店"ヨーソロー"のマスター、佐藤 薫さんだ。砂糖香るとは良い名前だ。
「良い香りですねー...」
「よーし、正解できた速水君にご褒美を上げよう」
そう言って、薫さんはカウンターから可愛いラッピングがされたクッキーを出してくれた。チョコや苺等でコーティングされたハートや星型のクッキーがとてもコーヒーに合いそうだ。
「どうぞー。代金は取らないからねー」
「え、どうも...あ、美味しい」
「ほんと? 良かったー、初めて作ったから上手く作れてるか心配だったんだよー」
...なん...だと? 手づ、くり...? 薫さんの手で捏ねて、焼いた...手作りクッキー...?
「め、めちゃくちゃ美味しいです!! お店で出せるくらい!! いやもう出して良い!!」
「あらあらー、嬉しいなー」
...でもそれだと、このクッキーが他の人にも食べられる事に...でも、それでも美味しいから仕方ない。もう一つ摘まみ、その美味しさを噛み締める。サクサクとした食感の中に、パサつきが無い絶妙な水分量の加減。余程繊細な手つきじゃないと作れない。
「...でも、お店には出しません」
「え? 何で、ですか?」
「それはねー...速水君にご褒美が上げられないからだよ」
少し頬を染めながら、パーマがかかった毛先を弄る。その仕草が、何とも可愛いらしくて...美しくて。俺は言葉を失ってしまった。
「...そ、その、何か言ってよー...」
「...へっ!? そ、その...嬉しい、です」
うああああ...可愛いなぁもう!!! 好き!! 好き!! 大好き!!
「あ、あの!! マンデリン、貰えますか...?」
あっぶねぇ...勢いで告白するところだった...。
「え? うん! はい、どーぞー...」
白い陶器のカップを出して、そこに黒茶色の液体を注ぐ。それだけで香ばしい香りが店内に広がる。俺はこの瞬間が好きだ。目の前で薫さんがコーヒーを注いで、その香りが広がって、その目の前に俺がいる。その瞬間が、大好きだ。
「...ふぅ。美味しいです」
「良かったー...もう、ほとんど速水君しか来ないからね」
「...」
そう、ここの商店街には新しく某有名チェーン店が出来た。高校や大学の帰りで賑わっていたこの店は、今は静寂に包まれてしまっている。ほとんどの客はそちらへ流れてしまい、来るのはご年配の方や主婦ぐらいで、その人達もほとんど来ない。
「どうしようねー...」
「...そうですねー」
言えないよ。二人きりが良い、だなんて。
その言葉を、心の奥底に沈めるかのように、俺はコーヒーを煽った。
「なー凛人ー。頼むよー...」
「嫌だ。駄目だ。行かないぞ俺は」
次の日の昼過ぎ。弁当を食べ終わり、机に突っ伏してぼーっとカフェオレのストローをくわえていると、後ろの席の藤本がまたもやあの話をしてくる。
「良いじゃんかよー、せっかく出来たスタマだぜ? それに...ほれほれ」
藤本は、教室の端っこで談笑している女子グループをちょいちょいと指差す。そこには、クラスでも人気のある女子グループが、キャーキャーと騒いでいた。正直言ってうるさい。あのように騒いだりはしゃいだりするのは全く問題ない。逆に目の保養になったりもする。
だがしかし。俺の好みではない。俺の好みは、薫さんみたいな...
「あいつらも一緒に行くんだぜ!? このチャンスを逃すとか馬鹿だろお前」
「...一人で行けば良いのに」
「お前俺を死地に追いやる気か」
「何でその死地に俺を連れ込もうとするんだ...」
何処まで行ってもヘタレでチキンな友人に、ため息をつきながら、カフェオレのパックをゴミ箱へ放り込んだ。お、ホールインワン。
「...ってな事がありましてね...」
「...そうなんだ。良いねぇ青春で」
その日の放課後、コーヒー香るこの店の、俺の特等席。丁度マスターである薫さんの前に座れるこの席は、今では俺の専用席になっている。...何より、薫さんがこの席に座るのは俺だと決めているようで、前にこの店の外から中を見ていたら、薫さんがさりげなくこの席に座らせないよう他の客を誘導していて、そりゃもう嬉しさで踊りたかったくらいだ。
そんな薫さんが、今絶賛不機嫌中なのである。
「えと、薫、さん? 何で...ブラックなんでしょうか? 俺、カフェオレ頼んだはずなんですけど...」
「...あれれー、おかしいですね...私ちゃんとカフェオレを淹れたと思ってたのになー」
マグカップを拭きながら、目を瞑りながら棒読みで応対してくる薫さん。ふぇぇ...何今の薫さん...尋常じゃないぐらい怖いんだけど。黒いオーラが可視化されそうなくらい。
「...うっ、しかもこれ、苦い...」
「あら、速水君の好きなマンデリンだよー? ...苦いとこしか淹れてないけど」
「もはや完全な嫌がらせ!? 声に出してるし!!」
うぅ...何でこんなことに...。何か怒らせるような事したか、俺...?
「...あ、もしかして」
「...」
「俺がスタマに行こうとしてるから怒ってます?」
お店の客を減らした原因である商売敵だ。そんなとこに常連である俺が行こうとしているんなら、怒るのも当然か。これは悪い事をしたなぁ。
「...君って、コーヒーの味しか分からないんだねぇ...」
遂に君呼ばわりされてしまった。やっべぇ。
「全く...もう...。君なんて知らないんだからね」
「へ? え!?」
「...私、ね...いいや。やっぱりやめた」
「えぇ!? な、何ですか!? 気になるじゃないですかぁ!!」
「ふーんだ。薫さん今激おこぷんぷんなんだからね」
「それ結構古いんですけど...」
「...薫さん今キレたんだからね」
「ええええーー!?!?」
「...全く。速水君のバカ」
お店も閉じ、店内の掃除中。頭の中は速水君でいっぱいだ。彼の喜んだ顔、怒った顔、困った顔、悲しそうな顔...私のコーヒーを飲んで、美味しそうにしてる顔。その全てが、私の頭の中を埋めつくしてる。
「...何でここまでして、気づいてくれないかなぁ...」
もう20歳を越えて、22歳まで来てしまった私が、高校生の彼に告白するだなんて...恥ずかし過ぎる。その前に、彼の前ではお姉さんキャラで通しているのだ。そんな私が告白なんてしてしまったら、カッコ悪過ぎ。
本当は、好きって言いたいのに。子供っぽい私のプライドは、それを許そうとはしない。本当は、大好きで、可愛くて、抱きつきだくて、キス、したくて...手を繋ぎたくて、頭を撫でたくて...恋人になって欲しくて堪らないっていうのに。そんな事を考えていたら、顔が真っ赤になってしまう。
「...早く、掃除終わらせなくちゃ...」
明日も、来てくれるかな...でも、明日は、その女の子達と...一緒に行くのかな...やっぱり、速水君も恋とか、したりしてるのかな...。
何も始まっていなくて、何もしていないはずなのに。私の物が取られてしまうだなんて思うのは、何でなのかな。
教えてよ、凛人君...。
届いて欲しいと願うその言葉は、届くはずがなくて、私しかいない店内に、寂しく響いた。
何で、薫さんあんなに怒ったんだろう...。いつも温和で、優しい薫さんが、珍しく...まぁでも怒ってるところもかわいかったから眼福っちゃ眼福なんだけど。
「...凛人? どうした?」
「...怒らせちゃった人がいてさ」
窓辺に寄りかかって、ブラックを飲んでいると藤本が話しかけてくる。
「怒らせた人?」
「うん。今日、お前らと一緒にスタマ行くって話したら、急にな...」
「...どんな人なんだ?」
「喫茶店のマスターさん。女の人なんだけどな。やっぱ、スタマに行くって話したのが間違いだったかな...」
「...お前馬鹿か」
「...は?」
「はぁ...お前なんか連れてったら、何か白けそうだな...皆には話しておくから、お前、その人のとこ行ってやれ」
「いいの?」
「あぁ。んで、ちゃんと謝ってこい。そんで...そっからは自分で考えろ」
「考える?」
「おう。一つだけ言っとくぞ...気づけない男は最低だって事だ」
気づけない男は最低...か。じゃあ、俺は何か見落としてて、それに薫さんは怒ってるってこと、か。それに気づいてない俺に、怒ってるってこと...。
んだよ...そんなわけないじゃんか...そんなわけないって思ってるから、その可能性を排除したんだ。でも、もしかしたら、それに怒ってるのなら...。
俺は、気持ちを伝えなきゃいけない。
「...薫、さん?」
珈琲喫茶ヨーソローの前。外からは店内が見える。薫さんは、一人の男の人と、話していた。
...ざっっけんな...!!! そこは...俺の場所だろうが...!!!!
「薫さん!!」
「っ、速水君!?」
ドアを乱暴に開けたのにびっくりしたのか、驚いたように俺を見る。つられて、男性も俺を見る。端正な顔立ちで、髪は染めている。ネックレスやら何やら色々と身につけていて...見てるだけで腹が立ってくる。
「え、えと...速水君...その...」
「...なるほどね。この子か」
慌てている薫さんを尻目に、男性は俺に近づいてくる。
「...俺の方がいけてると思うんだけどな...やっぱ付き合いの長さには勝てんか」
「...何の、話ですか」
「いや、ただ...ちゃんと、大事にしてやれよ。んじゃ、ごちそう様」
そう言うと、その男性は店を出ていった。
「えと、速水君!! これは、違うの!! その...」
...あーもう。馬鹿。俺の馬鹿。一足遅いじゃねぇか。何してんだ。あの人に一歩出遅れた。いくらでもチャンスはあったのに。でも
もう、迷わない。多分、だけど。あの人は...俺を認めてくれたんだ。
「好きです、薫さん。俺と付き合ってください」
「...えぇ!?」
「絶対俺、幸せにします。大好きです。お願いします」
「え、ちょ、そんないきなり...」
「...昨日、怒らせてしまって、ごめんなさい...でも、そんなわけないって、決めつけてたんです。まさかあの薫さんが...俺が女の子と一緒にスタマに行く事に怒ってただんなんて!」
「ギクゥ!?」
ギクゥって自分で言う人初めて見た。
「いやそりゃもうそれが真実だったら可愛い過ぎて1日中悶えてますけど、あの薫さんに限ってそんな筈ないって思ってたんです。あのお姉さんキャラである薫さんに限って!!」
「ギクギクゥ!?」
「...でも、そうだったら良いなって思ってたんです。俺に、他の娘といてほしくないって、嫉妬してほしかったんです...そういうの、可愛いって思うんです」
「...何で今になって、そんな事言うの...?」
薫さんは、困ったような、嬉しそうな、ぎこちない笑みを浮かべる。
「...そう、だよ。昨日、速水君が女の子と遊ぶって聞いて、私、みっともなく嫉妬したの。私の物を取られるって思った。でも、そんな事言えなくて...だから、怒っちゃったの。気づいてほしくて。でも速水君、気づいてくれないんだもん」
薫さんは、怒ったような顔をして、俺を抱き締める。薫さんは、俺より少し背が高いから、俺は薫さんの豊満な胸に埋もれてしまう。っては!?
「ちょ、薫さん!?」
「やだやだ!! 絶対離さない!! ずっとこうしたいって思ってたんだから...やっと、叶ったんだからぁ...!!」
声が少し震えて、俺の髪に顔を埋めてくる。肩が震えていて、とても脆そうで、すぐ崩れてしまいそうで....だから、抱きしめ返した。
「...そういえば、さっきの人は?」
「うぅ...何か、前から好きだったって告白されてね...でも、私には好きな人がいるって、断ったの」
「...それって...」
「...速水君、だよ。好き。大好き。好き好き...愛してるの...やっと、言えた」
「えと...俺も、です」
「...私、めんどくさいからね。また嫉妬するだろうし...ずっと傍にいたいの。いつも君の事考えてるし...その...そういう妄想して...お布団で悶えてるの」
何だこの可愛い生き物。
「...可愛いですよ、薫さん...俺も、好きです」
「...もう絶対、離さないから。離れない。やっと、抱きしめられたんだから...誰にも渡さないから。もう、私しか、見えなくするから...」
「...俺、ここに初めて来た時から、薫さんしか見てないんですけど」
「...じゃあ何でもっと早く告白してくれないの」
「えっと...恥ずかしくて...」
「...バカ。ん...」
「はい!? 薫さん!?」
「マーキングだよ!! 私の物だっていう、マーキング!!」
「マーキングって...犬じゃないんだから...」
「うー、うるさいうるさーい!! 速水君もマーキングしてよ!!」
「えええーー!?!?」
「それに、ずっと私の傍にいてもらうために...ね?」
ある街の。ある商店街に佇む、小さな喫茶店。そこでは、とても素敵な香りが店内を包んでいます。
そんな喫茶店に、少しぎこちなくて、まだ未熟だけれど、とても良い香りが、一つ増えたそうです。
その二つの香りは、仲良く、寄り添うように。今日も店内を漂っているんだそうです。
「あ、いらっしゃいませー」
「やぁ、見事に玉砕した男が来ましたよ...ん? 何か...違う香りがするね」
「うふ...分かります?」
「んー...新人でも...あぁ、そういうことか」
「はい♪ お弟子さんのコーヒーですよ」
「へぇ、弟子、か」
「えへへ...とっても、可愛い可愛い、お弟子さんです」
今日も、珈琲喫茶ヨーソローには、二つの香りが漂っています。
加えて、最近ほのぼのする漫画や小説を読む事が多いです。おすすめは...そうですね...八雲さんは餌付けしたい、ですかね。見てて心がぽかぽかしてきます。
...次回はそんなの書きたいな。