「あークソッ、本当に道ここで合ってんのか?」
「多分そのはずだけど・・・」
「あーあ、こいつはヤバいぜヤバいだろギャハハハハ!!!」
「うるせぇぞサガラ! 今何時だと思ってんだ!?」
「ピンポンパンポン。ただいまの時刻は夜九時でーす。良い子の皆はネズミの国でパーリータイムだヌハハハハ!!!」
「はぁ・・・もう疲れた・・・」
夜の山道に響くのは、騒がしい三人分の声。月明りでぼんやりと舗装された道が映し出されているが、もうそろそろ経つと何も見えなくなるだろう。懐中電灯という素晴らしき文明機器は持っておらず、所持している携帯のバッテリーも残り少ない。このままだと文字通り真っ暗な森を彷徨うことになり、そのまま山と一体化しかねない。
「・・・ねぇ、本当にこの道でいいんだよね?」
「知らん。そんなことは全能たるこの私の管轄外だ」
「まてまて。太古のアースパワーが俺に囁いてるからこっちだ、とか言ってたのはお前だろうが」
「知るか。そんなことは憶えとらんわ」
「・・・サガラ君、まさか若年性健忘症か何か?」
「どちらかというと若年性認知症だな」
「お前それ悪化してんじゃん!?」
何とも言えない気分になり。僕は思わずため息をついた。何故自分たちはこんな夜の山道を歩いているのか。切っ掛けは、そう、あの時。あのくだらない日常の一コマが起点になったんだ。僕の視界の裏にその情景が鮮明に映し出された。
✝
「うぐっ・・・ここを、こう抜けて、そしたら、この妖精地帯を・・・あっ」
「・・・あーあ。また同じところでミスしたね。通算13回目」
「うるせぇうるせぇ。大体こいつら滝の裏から出てくるタイミングが分かりづらいんだよ!」
「いや、シューティングはパターンだって言ってたの君でしょ」
そうだけどさぁ、とつぶやいて目の前の青年はゲームを中断する。
今までパソコンに向かってゲームコントローラーを握っていたのは僕の友人である橋田 友則(はしだ とものり)だ。
友則とは高校時代からの付き合いになる。切っ掛けは近くのゲームセンターで良く遊んでいた弾幕シューティングゲームだった。なじみの薄いジャンルのゲームだろうから一応補足しておくと、弾幕シューティングとは敵が画面いっぱいに攻撃してくる2次元型シューティングゲームだ。分かりにくければ、敵弾数が異常に多いインベーダーゲーム、とでも例えられるだろうか。まぁどちらにせよ、あまりプレイする人はいないジャンルだろう。そこで幾度となく出会った僕たちは顔見知りになり、時折意見交換をするようになり、奇遇にも同じ大学に進学していたこともあり今では自宅に招いて遊ぶ程度には仲良くなった。ちなみに此処は僕の家だ。
「まーだその面抜けられねぇのか? このフウジンロクはカンジュデンより楽だろ?(ゲス顔 」
「サガラ、お前は黙ってろ。つーかカンジュデンは難易度がおかしすぎるだけだろ」
「難易度のせいにするとか惰弱すぎ乙」
「はいはい、二人とも其処までにしときなよ」
友則と話していると、後ろから近づいて来る人影が一人。見ると僕らのもう一人の友達、神渡 逆螺(かみわたり さがら)だ。何故かいつもハイテンションで、どんなに追い込まれても皮肉を忘れない優等生の鏡である。割と変な名前である逆螺だが、性格も割と変だ。意外にも頭が良く、無駄知識を披露することも多い。ついさっきまでコントローラーを握っていたのは逆螺だったのだが、早々に全ステージをクリアしてしまい家主のごとく後ろでゴロゴロしていた。ちなみに此処は僕の家だ。
「ちくしょう、こうなりゃもう一回だ! 最初からっと・・・」
「あのー僕のプレイ時間は考慮とかしてるんだよね?」
「あきらめなされトオル殿。友則はどっちかと言えば設定厨なのでシューティングの腕はパターンに左右されるつまりマジ雑魚ワロタ」
「逆螺君・・・その煽り癖いつか死亡フラグに変わるよ」
「バーリヤー! 平気だよ~ん」
「・・・はぁ」
いそいそと14回目の挑戦に挑む友則を尻目に逆螺は平常運転だ。溜息をつきながら僕はボンヤリとパソコンの画面を眺める。
さて、先程から僕ら三人がプレイしているゲームは「東方Project」と呼ばれる弾幕シューティングゲームを中心とする作品群の総称だ。逆螺と友則の言っていた「風神録(フウジンロク)」「紺珠伝(カンジュデン)」とはシリーズタイトルの1つである。この作品は日本をモチーフにした架空の世界「幻想郷」を舞台とする世界観を持っていて、魅力的なキャラクター、裏設定の重厚さなどから、ストーリーやキャラクターへの人気も高く、二次創作が多いという特徴がある。友則は、さっき逆螺が言ったように「設定」が大好きなので直ぐにこの作品の虜になった。反対に逆螺はそのゲーム部分に惹かれているようだけど。ついでに言うと、僕は二人の中間と言ったところか。
「あと、少しで、ここを・・・抜けたー!!! ・・・・・・あっ」
考え事をしている間に画面はいつのまにか停止していた。どうやら友則は先程まで進められていなかった壁を越えることができたようだが、油断してやられたらしい。友則は反射神経が必要な状況が苦手だからなぁ。パターンを覚えるのは得意なのに。
「だーもう疲れた! あーあー幻想郷に行きたいなー」
「ざ ま ぁw」
「だから煽るの禁止だって! まぁ、幻想郷に行きたいって気持ちもわかるけどさぁ」
「だろぉ? あと、逆螺てめぇは許さん」
「えぇ? ワタシワケワカラナイヨ」
「逆螺―!」
友則と逆螺がじゃれ合い始める。逆螺が煽って友則がキレるいつものイチャイチャコースだ。それにしても・・・
「幻想郷ねぇ・・・」
「おう? どうしたトオル。中二病が再発したか?」
「いやあれは黒歴史だから。フォーマットしたから。じゃなくて、いかに架空とはいえ憧れみたいなのってあるじゃん。ほら、二次元のキャラに会いたい的な」
「ほぉう? まぁこの俺は二次元の化身みたいなものだがな(ドヤ顔」
「逆螺、お前は黙ってろ・・・。まぁ、所詮夢は夢だけどな」
夢。
幻想。
或いは、妄想。
小説やアニメの世界に行けたら、なんていう空虚な幻。
大人になったら黒歴史として忘れていくであろう「それ」を僕はまだ捨てられないでいる。
或いは現実逃避の1つなのだろうか。
いや、恐らく、大学生になった今でも捨てたくはないのかもしれない。
そう、現実は、世界は、僕の知る以上にもっともっと広がっていて欲しいという願いを―――
「いや、行けばいいじゃん。幻想郷」
「「・・・・・・は?」」
周囲に開いた、一瞬の間。そして僕と友則の頓狂な声が交差する。
「いや、まぁ幻想郷っていうか・・・この作品って現実をモチーフとしてるんだろ? だったらその参照先に行くことも幻想郷に行くって事じゃないか?」
「あぁ・・・もしかして聖地巡礼って事?」
「その疑問符を肯定しよう」
先程述べた通り、幻想郷というのは架空の土地だ。ただこの作品には事実をモチーフにした、いわば「元ネタ」が存在する。例えば「風神録」には「守矢神社」という架空の神社が登場するが、実は現実に存在する「諏訪大社」「洩矢神社」を参考にして描かれている。また、同様に作中に登場するキャラクターにも現存する伝承が取り入れられている。
「そこで中学生から先に進めない君たちに提案をしようではないか。折角夏休みが近いのだからサンシャin諏訪大社。おk?」
「まてまて、展開が速すぎだろぉ」
「善は急げ速さが足りないと言うだろ」
「いや、申し訳ないけどなんか混じってるよ」
「カオス」
逆羅に、行けばいいじゃん、なんて言われたときは一瞬身構えたけど。成る程、聖地巡礼っていうのは面白そうだ。最近アニメに出てきた実在の場所を巡る人が増えていると言うが、気持ちはわかる気がする。実際に架空の場所に行けるわけがない、でも行きたい。そういった矛盾する気持ちの妥協点が聖地巡礼、なんだろう。・・・とても虚しい行為な気もするけど。
「あーでも単に観光って点だけ見てもいい案なんじゃねぇの?」
「うーん、まぁ確かに。気軽にはいけないよね、ここからだと神社遠いし」
「ほぉう、いつの間にか諏訪大社に行く流れになってるが大丈夫か? いや、提案したのは私だが。つまりは全て私の掌の上ってことだが」
「逆螺君のいう事は無視するとして、実際どうやって行くの? ここからだと結構遠いよ?」
「予算もあるしな・・・」
「無視されてもめげずにコミュニケ、私です。実際青春18切符で行けば往復1万円で済むだろう。片道50時間くらいかかるが」
「「えー・・・」」
僕たち三人はああだこうだと計画を練る。
そう、そんな会話から僕らの旅は始まった。
何てことはない、良くある友達との馬鹿騒ぎ。
設定wiki辞書、友則。
脳内環境バグばかり、逆螺。
そして恐悦至極普通な僕―横山 透(よこやま とおる)。
日常的なとある日の出来事。
僕は思い出す。
僕らの旅はここから始まったんだ―――
Tips:手紙
※機関検閲済み※
××××へ
こんにちは、そちらはお元気でしょうか?
こちらでは貴方が居なくなってから既に3年の月日が経ちました。
皆はいつも通り元気です。いえ、能天気なのでしょうね。
そちらの××はどのようでしょうか? 会いたいという気持ちもありますが、怖い気持ちもあります。××××が楽しくやれていれば幸いです。
この手紙を書いたのは感謝の言葉を残すためです。
もしかしたら、貴方を忘れてしまうかもしれない、私に対して。
それでは短いですが、ここまでにしておきます。
また、いつか会いましょう。
東風× 早×より
※当該書類を
※処理済み※
※廃棄済み※