けど特に気にしてはならない。
僕は恐らくは人生初の悲鳴を上げて後ろに駆け出した。手元の携帯を固く握りしめ全力で足を動かす。
目の前に広がるのは深い森だ。月明りが無ければ何も見えなくなるだろう。もし、足を止めてしまえば、逃げることはできなくなるだろう―――あの少女から。
「あははっ、鬼ごっこ? 人間相手にするのは久しぶりね!」
後ろから聞こえてくるのは高い声。幼さを残すその声に、どうしようもない狂喜の色を見出し冷汗が出る。小学生程の体躯だったはずだが、どうやら全力で走っている大学生の僕らに追従しているらしい。普段なら全力疾走していれば暑さを感じるはずだが、今はゾクゾクとした寒気しか感じられない。すぐ後ろからは荒い息遣いが聞こえるが友則のものだろう。ゲームの腕前とその知識量は彼の方が上手だが、どうやら身体能力では僕の方が上らしい。
「はぁっ、はぁっ、やばい、疲れが、乳酸が」
「友則急いで! 止まったらやばいよ」
「はぁっ、あぁ、
「このままじゃ追いつかれる!」
「げほっ、取り敢えず、もう少し先まで・・・うわっ!?」
「ッ友則!?」
後ろから聞こえた声に嫌な予感を覚えたが、まさしくその通りだった。振り返ると前のめりに倒れ込む我らが友人の姿が飛び込んできた。僕は慌てて引き返す事に・・・あぁもう流石友則大先生は肝心なところで外さないなっ!
友則の所まで戻り、体を引き起こすとその直後に目の前から甘い声が忍び寄る。
「あら、もう終わり? まぁどうでもいいけれど。さて、余興は十分だし、そろそろいただきましょうか」
途端、満面の笑みを浮かべる少女の周囲に無数の光が生まれた。その明かりは青白い残光を帯び、ともすれば美しささえ感じさせるものであった。数秒か、或いは時間なんて無かったのか。現れたいくつもの光弾は真っすぐに僕らの元に飛んでくる。暗闇を泳ぐその光に魅せられていた僕は、動くこともできずにただただ呆然と立ち尽くして―――「
呆然としてその人物を見ると、先程まで見当たらなかった僕らの友人、逆螺の姿が目に入る。いつになく真剣な表情で右腕を突き出し、その右腕の先から―夢でも見ているのか―青黒い光の壁のようなものが表れている。
「っつぁ、間に合ったぜ・・・!」
「逆螺君!?」
「逆螺!?」
逆螺の不敵な溜息とは対照的に、僕と友則の呆けた様な声は空に溶けて消えた。正直一度に色々な事が起こり過ぎて脳が目の前の情報を処理するのをやめたのかもしれない。なんだか、逆螺なら右手から壁を出してもおかしくないような気さえしてきた・・・いやいや、だめだろ。
「・・・まさか、能力者? 里の・・・いえ、服装を見るに
ハッとして少女の方を見ると何やら難しそうな顔で何かを呟いている。
ややすると僅かに困惑したような表情で、首をかしげて僕達に問いかけてきた。
「あなたたち、外の世界の人間? 里の方に関係してる?」
「外ってのがどーゆー意味だか分かんねーけど、少なくとも超能力者は身近には居なかったな。里帰りはしたといえばしてるな」
「ふぅん、そう・・・」
その問いに逆螺が答える。ってか逆螺よ、僕の友人は少なくとも右手からバリアみたいなのを出してはいなかったんだが。いや、どうでもいいんだけどさ。
周りの空気が弛緩したからか、或いは未知の状況にテンパっているのか、少しずつ周りを見る余裕が出てきた。僕の隣には転んだままの体勢の友則、目の前には僕らに背を向けて右手を構える逆螺。光の壁を挟んだ向こう側には金髪の少女。よく辺りを見回すと、先程よりも薄暗さが無くなっている気がする。そんな微妙に緩んだ空気を感じたか、女の子はふぅと息をついて言った。
「あーあ、せっかく久しぶりのお肉だったのにぃ・・・でも里に関係してたら協定違反で面倒だし・・・残念だなー」
直前までの喜悦はとうに失せ、そのあどけない顔にのっているのは年相応にむくれた表情。なんだか同情したくなる程残念そうな空気を身にまとった少女は興味が無くなったか後ろを向いて闇の中へと歩みを進める。そしてまるで何事もなかったかのように、辺りには静寂が蘇った。
「居なくなったか・・・
「あ、あぁ。いや、今のは一体? ちげぇ、その前に逆螺、今消したバリアみてぇのは何だ!? ってかさっきのあの子って
「ちょっ、友則どうしたの? 確かにシールドみたいなのも気になるけど、いったん落ち着こう」
「カオス」
なんだかトラブル続きな気がするが、一度情報を纏めたい。
ひとまず逆螺に話を聞いてみた。それによると、逆螺も僕らと同じように森の中で目が覚めたらしい。僕と友則が近くに居ないと分かると僕らを探しに周囲を散策し、その途中で悲鳴―僕のだろう。恥ずかしい―が聞こえ走って追いかけたところ、何かヤバそうな現場を目撃。ひとまず飛び込んでみたら、体の奥から
友則は何故か混乱していたようだったが、暫くすると落ち着いたようだ。
「ごめん、逆螺。話聞いても訳が分からなかったんだけど。そもそも何かが沸き起こる感覚ってどゆこと?」
「いや、何て言うか、あー表現し辛くてな・・・あぁそういや船酔いして吐いた時の感覚に似てるような似てないような」
「あ・・・? ってことは、あのシールドみたいなの、ゲロなん?」
「「「・・・」」」
微妙な雰囲気が周囲を覆う。友則、落ち着いたからってその表現はどうなの。
逆螺のことはひとまず置いておくことにして・・・・・・なんだよ友則。いや、言いたいことは分かる。なんで逆羅だけそんなことができるのかとか、もしかしたら僕たちもバリアが、とか思わなくもない。ちょっ、友則無理やり吐こうとするのはやめてヤバイヤバイって。逆羅も意味不明な応援しなくていいって。ともかく! このままここに居たらさっきの子が戻ってくるかもしれない。早いところここを離れた方が良い気がする。
「まぁ確かに。俺の盾ももう一度出せるか分からんしな」
「くっそ、なんで出ないんだ・・・っつか逆螺、お前さっきイージスとか技名みたいなの叫んでたろ。何だよアレ」
「え? 友則さんはイージスを知らない? 知らないとおっしゃる? 神話で超有名な防具を? 設定厨の君が? 勉強不足でちゅね~」
「はいはいストップストップ、友則どうどう。逆羅もいい加減にしなよ。早いとこどうするか決めないと」
「あー楽し。まぁ透のいう事も一理あるな。では全知全能たる超☆能力者である俺が汝らの道を定めてやろう。あーこっちにいけばいいんじゃね」
「・・・逆螺ぁ、てめぇ適当に指さすのやめろ」
「・・・それは僕も同感」
僕らのジト目に対し、ノンノンとドヤ顔を見せつける逆螺。話によると目覚めてから友則と僕を探す間に、湖とその畔に建つ洋館を見かけたらしい。更にその館は、中世ヨーロッパにでも出てくるような趣のある、趣味の悪い真っ赤な色をしているらしい。その言葉にまたしても友則が極端な反応を示した。
「み、湖の近くに立つ紅い洋館!? それはどこにある!?」
「お、おい、友則。俺は嘘は言ってねぇぞ・・・あっちの方だ」
逆羅は一つの方向を指さすと、友則は弾かれたようにその方向に走っていった。
「ちょっ、友則! せっかく落ち着いたと思ったら、あーもう、携帯戻してっと、逆螺、友則の荷物お願い! あと君の荷物重すぎっ」
「おやこんなところにマイバッグ、久しぶりだね」
「馬鹿やってないで早く追うよ」
「ラジャ」
急に走っていった友則を追って僕らも動き出す。幸いこの森は、木が多いが草は茂っておらず割と簡単に進むことができた。さっき逃げてる最中はそんなこと全く考えてなかったけど。それにしても友則はどうしたのだろうか、急に取り乱したり、落ち着いたと思ったらダッシュしだすし・・・もし病んでたらどうしよう。話だけはちゃんと聞いてあげよう。
くだらない事を考えながら数分駆け足で進むと、逆螺が見ただろう湖が見えてきた。その近くに友則の後ろ姿が見える。近づいてみると何やら呆然とした表情を浮かべていた。やっぱり相当病んでるのか、まさか鬱じゃないだろうな。
「はぁ、はぁ、友則、急に、走って、どうしたの?」
「・・・はは。おい、アレ見ろよ」
呆然とした表情を僅かに歪ませて、友則は目の前を指さした。その先に有ったのは、成る程さっき逆螺が言っていた通りの紅い洋館が目の前の湖から少し離れたところに建っていた。
「・・・いや、逆螺の言っていた通りの館が「違う、そういうことじゃねぇ」っ、何が言いたいの?」
「ヒトを食べようとする少女、打ち出される弾幕、湖の畔の紅い館。なぁ、透。何か思いつかないか?」
「いや、言ってることがイマイチ良く分からな・・・・・・・・・・・・あ、え?」
友則の三つの言葉。
脳裏にひらめく言葉の数々。
少女。
人を食べる。
化け物。
弾幕。
湖と館。
紅い、館。
―紅魔館?
その単語を思いついた瞬間心臓がドクンと音を立てた。いや、そんなまさか。だってアレは創作物であって現実じゃない。ならこれは明晰夢なのだろうか? でも、さっき感じた恐怖が幻想なんてありえるのか。あんなにもあの少女の出す気配は濃密で・・・いやまてよ、あの少女の容姿は・・・そう、見たことがある。あぁそうだ、
考えを深めれば深めるほど心拍数が上がっていく。体が熱い。これは夢だろうか、いや、夢じゃない。なら本当に来たというのだろうか。
憧れていた。
焦がれていた。
諦めていた。
幻想郷に?
「ふっ俺の言ったことは嘘じゃなかろう・・・おいどうした二人とも」
遅れて逆螺が歩いてくるが、正直反応する余裕がない。僕の体は、喜びか、或いは興奮で張り裂けそうだ。友則も同じだろう。上気した顔で紅い館を見ている。
「透、これは夢じゃないよな?」
「違うでしょ、だって弾幕みたじゃん」
「だよな。でさ、あの子・・・」
「ルーミア、かな」
「やっぱりそう思うよな!?」
「おーい二人で盛り上がられても困るというか私は寂しい兎さんなんだが」
震える声で会話する二人に逆螺はかなり困惑しているようだ。でもゴメン、正直それどころじゃないんだ。
「ってことはここは幻想郷・・・」
「レイムが居るのか!」
「ってことはミョウレンジもある事に・・・」
「モミジにも会えるのか!?」
「ユユコもいることに・・・!」
「いや、まてまて、これは壮大なドッキリかもしれねぇ。いったん落ち着こう。こんな時は深呼吸先生の出番だ。すーはー・・・」
「オーケー、先生お願いします。すーはー・・・よし、分かった。大丈夫、今の僕は正常だ」
嘘だ。正常でなんていられない。一応冷静になった振りはするが胸の鼓動は正直に心境を訴えてくる。正直チェストバスターが居たとしても不思議じゃないくらいだ・・・いや、なんか想像したら痛そう。よし、ビークールビークール。
「あのー、そろそろ俺ちゃんを仲間に入れてくれませんかね」
「あぁ、悪いさっきよりは落ち着いた。でもマジか・・・!」
「友則落ち着いてくれや。話が全く見えねぇ」
「あぁ、つまりな・・・」
友則が嬉しそうに―あぁその気持ちは分かる―本当にうれしそうに言葉を紡ぐ。
「俺たちは、今、聖地巡礼なんて空虚な物じゃない、夢でもない―――俺たちが求めていた、幻想郷そのものに来ているんだ!!!」
高らかに自分の立つ場所を、そう告げた。
Tips:data-x22
※handling warning.
<record start▶>
10:21「お前が、お前が居たから! この化け物め!!」
10:22「イタイッ!! パパ、やめてよ!!」
10:23「私をパパなどと呼ぶな汚らわしい! ・・・その
10:24「いやぁっ!」
10:25「・・・はぁ、はぁっ・・・おい、お前。この化け物を連れて私の前から失せろ。私は本国に戻る」
10:26「・・・お願いします、貴方、私達は」
10:27「失せろと言ったんだ!!! 我が×雲家に傷をつけた代償がこの程度で済んでいるのだぞ!?」
10:28「でも、この子は私たちが育てた―――」
10:wp「口を慎めハー×!! これ以上ふざけた事を・・・うぐっ!?」
sf:s0「・・・貴方? どうしたのあなた! まさか!? やめなさい!!! ×!!!」
1u:sm「八×は・・・嫌い・・・」
44:44「グギャアア・・・×ィィ!!!!!!」
oc:33「・・・」
10:34「・・・」
10:35「・・・」
<record stop■>
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