「・・・お前頭大丈夫? いや俺が言うのもなんだけどさ」
友則の声高らかな発言に逆螺は変な物を見るような目でそう言った。というかいつも妙な発言ばかりの逆螺に頭の心配をされるって・・・案の定友則は衝撃を受けたように硬直している。そんなにショックだったのか。いや、さっき僕も友則の頭の心配してたけどさ。
「ち、違ぇーよ。おい透からも説明してくれよ!」
スタン状態が切れた友則は僕に現状の説明を要求する。
ひとまず僕は友則と立てた予想―というより確信、或いは願いかも―を伝える。最初に遭った少女のこと、弾幕のこと、紅魔館のこと・・・暫く神妙な顔で聞いていた逆螺だったが少しすると溜息をついて言った。
「あー俺たちがいつもやってる東方のゲームに出てくるキャラクター"ルーミア"に似た少女が居て。で、そいつが弾幕を打ってきて。そして? 東方に出てくる建物、コウマカン? とやらによく似た場所があるからここは東方projectの世界だと。そういうことか?」
「そうだ! どうだ逆螺! 俺たち東方のキャラに会えるんだぜ!?」
「やっぱお前頭オーバードースだろ。ってかどうだって言われても、俺ゲームは好きだがキャラとか設定とかも知らんし興味ないんだが」
二次元の世界にホントに来たとか信じられるか?
そう逆螺が至極まっとうな事を言う。まぁ俄かに信じられることではないだろう。さっきからすると少しは冷静になってきたかもしれない。確かに状況がよく似ているとはいえ、創作物の世界に自分たちが来た、なんてそうそうありえることではないよな。
友則はすっかりここが東方の世界、つまり幻想郷であると信じ切っているようだけど、改めて考えると結論を急ぐことは無い気もしてきた。
僕等は話し合って、自分たちが置かれている状況を以下のように想定した。
①実は某モニタリング的壮大なドッキリ企画
②状況が超絶似ている長野県マジ聖地
③実は夢オチ、完!
④奇跡が起きて本当に幻想郷に来たよ
「選択肢が全部ヒドイよ・・・」
「④一択に決まってんだろjk」
「そんなことより、うどんが食べたい」
どんな事態であったとしても微妙な状況ではある。が、三人の話し合いの結果当面は④を想定して行動することになった。仮にそれ以外の事態に巻き込まれていたとしても、単に黒歴史が一つ増えるだけだからだ。そうすると、一番状況が複雑な④を想定していた方が良いだろう。それに黒歴史なんて、今更そんなのが増えたところで痛くもかゆくもない。いや、嘘だ、やっぱりイタイ。
さてと。行動の指針が決まったは良いが、いざ行動に移そうとしたときに新たな問題があることが判明した。それは・・・
「で、ここが幻想郷だとして。俺たちのファイナルデスティネーションはどこですかね?」
「・・・目的地って事ね。言いたいことは分かるけどピタゴラ死は嫌だよ」
そう、逆螺の言う通り目的地だ。
設定では幻想郷には様々な場所がある。人里、紅魔館、博麗神社、命蓮寺、永遠亭などなど・・・もちろん守矢神社も。で、それが何処にあるのかが分からない。理由は簡単だ、幻想郷の地図が公式に提示されていないからだ。やみくもに歩き回るとまたルーミアやそれ以外の人外に出会いかねない。
「なら目の前のコウマカンに行けば良いじゃねぇか」
「まぁ、逆螺のいう事も一理あるんだけど・・・紅魔館の中の人たちが僕らに対してどう反応するか分からないんだよなぁ」
まぁ、確かに目の前にある紅魔館に行けば宿を貸してもらえる可能性はある。場合によっては食事をもらったり、
「・・・あぁそうか、俺興奮しすぎてたわ。そうだよな、
さて、ここで簡単に紅魔館の住人について説明しておく。
住んでいるのは殆どが
友則の言う通り、原典準拠の世界なのか、二次創作準拠の世界なのか分からない以上気軽に紅魔館と言う選択肢は選び難い。
「透はどっちだと思う?」
「うーん、まぁルーミアは妖怪って感じだったし、シリアスな東方かなぁ」
「俺ちゃんの唐突且つ横から関係ない話だが昔ラノベでシリアスレイジってあってな」
「ホントに関係ないぞ逆螺・・・そうか、透もそう思うか。どーすっかなぁ」
はぁ。ルーミアってややとぼけた描写がされる事が多くて、二次創作では「そーなのかー」とか「わふー」みたいなセリフを話す作品もあるのになぁ・・・
「じゃあどーすんですかね。ではここで専門家のお二人に聞いてみましょう透さん、友則さんお答えください」
「・・・透、博麗神社は?」
「・・・最終手段かな。レイムは居ても、
「あーそっちの問題があったか。幻想郷の外の世界と、俺たちの世界は別物の可能性もあるからな」
「うん。幻想郷の外の世界に行って、もしそこが僕たちの世界じゃ無ければ最悪だよ。幻想郷にすら戻れなくなる」
「んー幻想郷に住む・・・のは家族がなぁ。ってか俺たちが住めるほど優しい世界じゃないかもしれんし」
「「どーしよ」」
「あのーお二人さん、私を無視且つ訳の分からない会話をすると二匹目の兎さんが出現しますよ」
東方projectの知識について詳しいハズの友則とて、この状況に対する解決策を見出すのは難しいようだ。頭の中を堂々巡りと言う言葉がちらりと過ぎる。しばし無言の時間が流れたが、暫くして逆螺が口を開いた。
「・・・詳しい状況は分からないが、確実な安全地帯ってのはどこよ?」
「んー博麗神社? いや、命蓮寺・・・人里かな? たぶん人里が安全地帯だよ」
「OK。俺たちはここにビバークするのはマズイ。で、人里に行きたい。そして場所が分からず、目の前にはコウマカン。こんなところか、友則?」
「あぁ、その通りだ。ついでに紅魔館には人外がいっぱいだ」
「把握。なら紅魔館で一番人里に近しい奴っているか?」
「近しい・・・咲夜か? 確か人里に買い出しに行ってたな・・・でも最悪
ぶつぶつと独り言を言っていた友則だが、電球マークが頭に見えるほどハッとした表情を浮かべた。何やら良い案が浮かんだらしい。話によると、原作の美鈴は人里の人間に腕試しとして格闘戦を挑まれるらしい。もちろん人をはるかに超える力を持つ妖怪の美鈴は、挑んでくる人間に手加減をするらしいが―――いや、今は関係ないか。ともかく、そのような描写があるなら僕達にもある程度友好的だと予想できる。割と単純な発想だな・・・さっきまでは興奮しすぎてすぐに考えが浮かばなかったようだ。
ということは、なんだ。結局は最初の「紅魔館に向かう」という選択肢に変わりはないわけか。
「じゃあ皆、取り敢えず行こうか」
「おう。行くぞ逆螺」
「ふぅむ、俺って天才なんじゃね?」
三者三様の言葉を吐いて、僕たちはその場を後にした。
✝
紅魔館に行くためには、まずは目の前の湖を迂回する必要がある。森の中にいたときはかなり周囲が薄暗い印象だったが、一度開けた場所に出ると思っていたより明るい事に気が付いた。月の光も綺麗だが、プラネタリウムのように煌く星に目を奪われる。とても空気が澄んでいるようだ・・・少なくともこんなに綺麗な夜空を見るのは初めてかもしれない。辺りはやや肌寒いことに変わりは無いが、周辺から漂う深い森の匂いと合わさって息をするのが心地よく感じる。目の前の湖は静寂をたたえており、反射した月光があたり一面に散乱している。遠くには紅魔館が見えるが、窓には明かりが灯っているのが見えた・・・中の住人が夜行性だということは確定したな。そして、今になって館が微妙にライトアップされているのに気づいた。成る程、館の主が派手好きだというのも確定したなぁ。どおりで夜にも関わらず紅い外装だと分かったわけだ。
僕たちは無言で湖の周囲を歩いていたが、半周程した頃に水面に妙なものを見つけた。それは僕らのいる場所から5mもない程近い場所に浮かんでいた。透明な板、いや氷だろうか、ともかく透き通った何かの上に仰向けになった少女―――って、もしやチルノ?
「・・・チルノだな」
「・・・チルノだね」
「あ、幼女だ幼女。チルドでお持ち帰りとは二人とも業が深っ・・・グハッ」
「逆螺、黙れ(無言の腹パン 」
チルノ、とは氷の妖精だ。子供のような外見をした青い髪、服をしており、公式で頭の悪いという設定が為されたキャラクターである。少しでも東方作品に触れた人ならば、「⑨」という言葉が頭に浮かぶだろう。作中ではあまり強い様子が描写されてはいないが、氷や冷気を操るという力を持っている。恐らく目の前の彼女は、湖の水を能力で凍らせて敷布団替わりにしているのだろう。とても気持ちよさそうに寝ている・・・なんだろう、見ていると愛くるしく感じるというかなんというか・・・あ、やばい何かに目覚めそ(ry
「やっぱり東方の世界に来たとしか思えんな! 色々と夢が広がるぞ!!」
「うぇっ!? そ、そうだね・・・あ、でもチルノ起きちゃうから静かにね」
「紳士はいつでも寡黙なのだよ。つまりこの俺の事だがな(ドヤ顔」
「おい、口を縫い合わせてやろうか?」
「サーセン、それだけは勘弁してください。着信ナシにしときますんで。もしやるなら最悪デップーも道連れに・・・あ、目からビームは出してみたいなぁ。何故なら英雄は目で殺すからなァ」
向う側の世界に行きかけた僕を友則が救い出してくれた。やっぱり持つべきものは友だよね友則だけに。
平常心平常心と心で呟きつつ、ひとまずチルノをそっとして先に進もうとした・・・その直後。
「寝ている女の子の寝顔を眺めるなんて、良い趣味してるじゃない?」
「!?」
すぐ後ろからそんな皮肉に満ちた声が聞こえてきた。
「ほぉ、この数時間で女性に遇うのは三人目だな。これはついてるに違いねぇな」
「こんな真夜中に元気ねぇ」
すぐにイレギュラーに対処できそうな逆螺が前に出て対応する。
呆れた様な声の主は、中学生か高校生くらいの女の子だった。金色の髪に、赤と白の巫女服を纏っている。こんな時間に起きているということは、それが人間であれ人外であれ何かしらの「能力」を持っている可能性が高い。ということは東方の作品の登場キャラクターの可能性が高いはずだが・・・全く見覚えが無い。一通りwin版と呼ばれる東方紅魔郷から東方紺珠伝までプレイしているはずだが、目の前の人物のような、金髪の巫女服なんて容姿をしたキャラは居ない気がする。ということは作品未登場のキャラか・・・?
そのような思考をよそに少女と逆螺の会話は続いていく。
「ほらアレだアレ、ランナーズハイって奴? 俺たち12時間以上歩いていて限界突破してるんだよ察せ」
「いやいや、あなたの様子見て限界突破してるなんて思えないんだけれど・・・それよりあなた達、こんな時間に何してるの?」
「何してるんだろうな?」
「え?」
「俺たち何してるんだろうな?」
「・・・」
なんか・・・このまま逆螺に会話をさせてたらマズイ気がしてきた。目の前の少女も変な物を見るような目で逆螺を見ている。お嬢さん、それは正しい反応ですよ。
ひとまずここは知識量が豊富な友則に任せた方が良いだろう。目で友則に視線を送る。友則は僕の視線を受けて、軽くうなずいた後会話を始めた。
「すみません、僕ら山登りしてたらいつの間にか迷ってしまって・・・携帯もつながらないし、取り敢えずあの屋敷に向かっていたところなんです」
「へぇ、気が付いたら迷っていた・・・それに
「えと、外来人、ですか?」
「えぇ。あなたたちが元居た場所と、この場所・・・幻想郷は違うところよ。偶然結界の隙間を通ってしまったのかしら」
「あー、幻想郷、ですか」
「まぁあまり信じられるような話ではないかもしれないわね。でもここはとても危険な場所よ。詳しいことは省くけれど・・・そうね、ひとまず安全な場所に案内するわ。着いてきて」
少女は何かに納得したのか、うんうんと頷いて歩いていこうとする。多分、僕らを外の世界から幻想郷にやって来たと思っているのだろう。あながち間違いではないか。
歩いていく背中に遅れないように僕等も慌てて着いていく。その背に向かって、思い出したように友則が少女に問いを投げかける。
「あの! すみません、あなたのお名前はなんて言うんですか?」
「あぁ、名前ね」
目の前の女の子は一瞬だけ遠い目をした。しかしそれも一瞬の事で、振り切るように自分の名を告げた。
「私は、さ・・・いえ、そうね。りん、そう、
Tips:何者かが落としたメモ
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はたてに記事の件で釘をさす
→もしかして盗作? 要調査
人間の魔法使い、最速?
太陽の花で妖怪暴走
→風見にインタビューすること!
御阿礼の子;大里で祭り(酒あり?
文々。新聞売り上げ伸ばす
河童に支払いを済ますこと
先日の巨大地震調査
→天人は無関係とのこと。まさか鬼か。「追跡調査」
人里に甘味処。外の世界の人間? 守矢神社へ
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