C分隊全滅!
そのニュースはキルログという形ですぐにみほ達のもとへと届けられた。
『嘘ぉっ!? なんで!? どうして!?』
『いやぁ……いくら強豪とは言え、ここまで読まれちゃオシマイだわ』
『まだだ! まだ負けてない! 根性で――うわぁっ!?』
『キャプテン! やっぱり無理ですぅ!』
『みなさん落ち着いて!』
『そうです! まだ試合は終わっていません!』
慌てるもの、
いずれにせよ、頼みのC分隊全滅のニュースが、大洗チームに与えた衝撃は大きかった。
これで戦力比は9対16。数字の上では挽回不能な数差ではない。だが問題はメンタルだ。
華や優花里、それにバレー部キャプテンの典子は頑張って激を飛ばしているが、心なしか彼女たちの声も震えて聞こえる。作戦の要が全滅したのだ。動揺して当たり前だった。
付け加えて言えば、敵も背後からの奇襲部隊を撃退し、意気が上がってきたのだろう、左右に戦列を延翼し、半包囲の形を作って攻め寄せてきている。このままでは不味い。
(だったら!)
不味い状況を不味くならないように足掻くしか無い。
動揺を吹き飛ばすにはどうするか。それは別のショックを与えて、心をそっちに向かせれば良い!
(角度は……30度から40度、いける!)
ターンピックを使った急速旋回で潜り込んだ岩の、その傾斜を目測する。
『充分な角度』があると解るや否や、みほがどこからか取り出したのはミッションディスクだった。
すでに入っていたものをイジェクトし、新しいものと取り替える。
読み込みが完了したことをランプの点滅で確認し、深呼吸のあと、みほは叫んだ。
「A分隊、援護してください! 吶喊します!」
『みぽりん!?』
『みほさん!?』
『西住殿!?』
ペダルを全力で踏む込み、フルスピードでATをローラーダッシュさせる。
例のギュィィィンという特徴的な駆動音と共に、砂が巻き上がり、パープルベアーは急加速する。
目の前の岩をジャンプ台に、みほの体はATごと宙へと跳んだ。
『凄いジャンプ!』
『うちの部員に欲しい!』
『キャプテン言ってる場合じゃないです!』
『とにかく今はアターック!』
みほは右レバーのバリアブルコントローラーを複雑な順番で押すと同時に、右ペダルを踏み込む。
中空にも関わらずATの手足はミッションディスクのプログラムパターン通りに動き、特徴的なフォームを作った。
右足をまっすぐ伸ばし、左膝を曲げる。そんな体勢のまま、パープルベアーは空中を駆け抜け――咄嗟に反応できなかった不幸なエルドスピーネの顔面目掛け『飛び蹴り』の一撃を叩き込んだ!
『ドロップキック!?』
『あんな動きがATで!?』
『「エアボーンキック」!? 実戦で使ってる所が見れるなんて……私感動です!』
超ハイテンションな優花里が言った通り、エルドスピーネを一機蹴り倒した技は『エアボーンキック』と呼ばれる技で、早い話がATによる飛び蹴り技だが、殆どのATは翔んだり跳ねたりするようには作られていないし、そもそもわざわざATに飛び蹴りをさせる必要性がない。これは本来バトリング用の、それもプロレスのような筋書きのある『ショー』用のアクロバット技で、ブロウバトルであっても『実戦』に使うようなものではないし、また操縦の難易度的にも選択肢に入ってこない。装甲騎兵道にあってはなおさらだ。
しかしみほはそんな技を実戦で使った。しかも単なるハッタリではなく!
「1機撃破!」
パープルベアーがバトリング用のカスタム機で、機動性重視で装甲が削られているとは言えそれでも6トンはある。
そんな鋼の塊がローラーダッシュで加速し、重力でさらに加速しているのだ。
その衝撃はアームパンチの比ではない。不幸なエルドスピーネのカメラは一撃で破壊され、衝撃でそのままぶっ倒れ、頭部からは撃墜判定の白旗が揚がる。
「次!」
滑りこむように着地したみほは、即座に左右のレバー、備わったボタン、さらにペダルの動きを複雑に組みわせて、次の『コンバットプログラム』を発動させる。着地の勢いそのまま、直線上にあるエルドスピーネ向けて再度疾走、足首と膝の向きで微妙な蛇行機動を描き、相手のFCS――火器管制――を混乱させ突進する。ようやく相手がこちらに照準を合わせたタイミングを見計らって、プログラムされたアクションの最後のキーを入力する。ATはいきなり膝を折り前かがみになり、左右のグランディングホイールの回転数を変えることで旋回機動をつくる。その回る勢いに合わせて、相手の膝目掛けアームパンチを叩き込む。
『見ましたか!? 「リボルバースイープ」です! 凄い! 信じられない! 西住殿すごいです!』
『ちょちょちょゆかりん危ない! 身を乗り出したら撃たれちゃうよ!』
体勢を戻しながら銃口を倒れた相手に向け、その背中に容赦なくヘビィマシンガンを撃ちこむ。
これで2機。数差は9対14。
「!」
ターンピックを打ち込み機体を旋回、自分を狙ったザイルスパイドを回避する。
地面に打ち込んだザイルスパイドを巻き上げ、そのまま自分へと突進するエルドスピーネに合わせて、みほも迎え撃たんとパープルベアーを加速させる。すれ違いざま、相手がナックルガード付きのアームパンチを打ってくるのを、右膝を曲げてギリギリ回避する。頭部をナックルが掠める異音に背骨を悪寒が走るも、みほはヘビィマシンガンを投げ捨てながら、迎撃のアームパンチを相手の腹目掛け打ち込んだ。
「3!」
撃破判定は見ていないが、手応えで解った。これで累計撃破スコアは5になる。
(でも……そろそろ限界かな)
右のマニピュレータから火花と煙があがり始めたのを確認し、みほはそう冷静に現状を分析する。
コンバットプログラムは入力されたとおりに寸分違わずATを動かすことができる。それは決められた通りの動きでしかなく、ATの状態を考えての操作の機微などは存在しない。故に得てして機体を酷使しがちなのだ。
みほがさっきパープルベアーへと入れたミッションディスクの中身は、俗に『グラップルカスタム』と呼ばれるプログラムだった。これはATの格闘技のアクションに重点を絞ったコンバットプログラムで、本来はバトリング選手などが使うものだ。しかしみほはATの動きにバリエーションを与えるために、敢えてそんなプログラムも予め自分で組んでおいたのだ。みほは操縦技術で、姉や、同輩の逸見エリカに敵わないという自覚がある。だがその穴を埋めるための努力を怠ったことはない。多彩なミッションディスクのプログラムもそのひとつだった。
『西住ちゃんを援護するよー! 全員突撃ー!』
『みぽりん助けるよ! みさいる発射ー!』
『わたくしも、負けていられません!』
『ターゲットロック! 発射! って弾切れ!? こんな時に!』
みほの突撃に敵の注意がそれた隙を、会長は見逃さなかったようだ。
残存機はすべて岩陰を飛び出し、聖グロリアーナとの正面戦闘に打って出る。
動揺を突かれ、沙織のミサイルが命中したエルドスピーネが撃破された。
これで9対12だ!
「もう一度白兵戦に――っ!」
杏達の動きに合わせようと、前進する所をギリギリで後退。
ステレオスコープの真ん前を銃弾が通り抜けていく。
振り返るみほには見えた。迫ってくる2つの敵影。オーデルバックラーとその僚機!
第18話『対決』
「ペコ。一時的にアッサムに指揮権を移すわ。一緒に大洗本隊を叩きなさい」
『了解です。ダージリン様、お気をつけて』
「心配ご無用……と言いたいところだけれど、どうかしらね」
走り去るペコを見送ることもなく、ダージリンの眼はATのセンサーを通して真っ直ぐ、対峙するパープルベアーへと向けられていた。
「まさか大洗にコレほどの選手がいるとは思わなかったわ。相手にとって不足なし……」
恐らくはバトリング用のカスタム機の流用だろう。
そんなATでここまで頑張った相手に、ダージリンは素直に賞賛を送りたい気持ちだった。
しかし勝負は勝負。試合を引っ掻き回し、予期せぬ苦戦をもたらした源こそは、自ら決着をつけねばなるまい。
「格闘を優先して、ヘビィマシンガンを捨てたのは悪手だったわね」
別に相手に聞こえているわけでもないが、ダージリンはATの装甲に隠れた相手のエースへの言葉がけを止められなかった。ダージリンの心は踊っていた。大いに引っ掻き回されはしたが、それこそが実に面白い。こんなに楽しい試合は久しぶりな気がする。
「でもイギリス人は『戦争と恋愛では手段を――……」
そんなダージリンの独白は不意に途切れた。途切れさせたのは相手のATの動きだった。
右手を、ちょうど正拳突きのような格好で前へ突き出したかと思えば、手のひらを返し、クイクイっと手招きするような仕草をみせたのだ。ダージリンにはその仕草の意味する所がすぐに解った。
「ブルース・リーの真似事かしら。そうね……」
ダージリンはちょっと
あの手招きの仕草は、古いカンフー映画の、伝説的俳優の仕草だった。意味は『かかってこい』。
「受けた勝負は逃げないのが、わたくしの流儀よ」
そう言い切り、ダージリンはATにファイティングポーズをとらせた。
装甲騎兵道の試合ではめったに見られない、まるでバトリングのようなAT同士の徒手格闘。
恐らく観客席は大いに湧いている所だろう。
(とは言え、私にはパイルバンカーの、それにH級AT故の体格差というアドバンテージがある)
当然、相手もそれは承知の筈。そこをどう埋めてくるつもりなのか。それを考えるのも実に楽しい。
(パイルバンカーを打った隙を狙うか。あるいは足払いか……さぁ、どう来るつもりかしら)
本隊同士のぶつかり合いをよそに、まるでそこだけが別の世界であるかのように、互いのエース機同士はにらみ合いを続けた。実際には30秒程度のことだったろう。しかしダージリンにはもっともっと長く感じる30秒だった。
――相手の動きには、何の前触れもなかった。
なんの前触れもなく、ダージリンめがけて突進を始める。蛇行機動もない、馬鹿正直に真っ直ぐな機動。
ダージリンも合わせてオーデルバックラーを走らせる。狙いはカウンター。相手が仕掛けてくるだろう技を見切り、それを躱してのパイルバンカーで仕留めるのが彼女の算段だった。
(距離40、距離30、距離20、距離10――!?)
しかしパープルベアーは何一つ小細工なく、まっすぐコッチへと突き進み続けた。
それが
「H級にパワーで挑むなんて――!」
ダージリンの目の前で、相手のATのハッチが跳ね上がるのが見えた。
相手のAT乗り、栗毛の短い髪の少女が手に構える代物に、ダージリンの背筋は凍りつく。
バハウザーM571アーマーマグナム。対AT用大型拳銃。オーデルバックラーの装甲を正面から抜くのは本来無理だが、この距離で、センサー系を狙えば!
「ッ!」
ダージリンは相手がトリッガーを弾く寸前に行動していた。
彼女がやったこと。それは自機のコックピットハッチを開くこと。
風を押しのけぶわんと開くハッチに驚き、相手の動きが一瞬止まる。
ダージリンは機内に備え付けの、対機甲猟兵用のウェブリー&スコットのリボルバーを抜き、撃った。
「わぁっ!?」
相手の制服の、白の布地に広がる蛍光色の染み。
装甲騎兵道のルールにはこうある。
――『操縦手を撃破した場合、ATが健在であっても撃破と同様に判定される』と。
「わたくしの勝ちですわ」
パシュンと、音を立てて、相手のパープルベアーから白旗が揚がる音が聞こえる。
相手の少女はため息ついて、がっくりとうなだれた。
「……負けちゃった」
「でも驚いたわ。こんな手を使ってくるとは思いも――」
落ち込んでいる様子の相手の少女に、ダージリンがねぎらいの言葉をかけようとした時だった。
パシュン、と新たに鳴ったのが聞こえた。でも、何処から?
「……え?」
ダージリンの眼は点になった。
白旗が出ていたのは、自身のオーデルバックラーからだったから。
「え?」
辺りを見渡せば、原因はすぐに見つかった。やや離れた、小高い岩屋の上。
そこには撃破したと思っていた、しかし実は撃ち漏らしていた、大洗のダイビングビートルとスタンディングトータスの二機が悠然と立っていた。その得物の銃口は、確かにダージリンのオーデルバックラーに向けられていた。
「……おやりになるのね」
ダージリンには、そう返すのがやっとだった。
あまりにも馬鹿馬鹿しい勝負の幕切れに、次の言葉は出てこなかった。
なお余談ながら、撃破判定を出したのはスタンディングトータスのほうで、ビートルの銃口は実はてんで見当違いのほうを向いていたことだけは、記しておこう。
――◆Girls und Armored trooper◆
「ううう~頑張ったのに~」
「わたくしも二機は撃破したのですが……」
「弾切れさえなければ~」
「……もっと射撃の練習が必要だな」
「もっとチームワークを高める練習をしないと……」
「そうだ! バレーも装甲騎兵道もチームワークが全てだ!」
「そうですよキャプテン!」
「帰ったら猛練習です!」
「ローマ軍団兵の強さは訓練の強さだ!」
「巻狩じゃー!」
「伝習隊の結成ぜよ!」
「『1パイントの汗が、1ガロンの流血を防ぐ』。悔しいがパットンの言うとおりだな」
「……」
「くそう……絶好の位置に立ってたのに……」
「いやぁ残念だったね。河嶋もドンマイ」
結局の所、試合は大洗の敗北だった。
エースのみほが抜けた状態で、正面切って撃ち合いとなれば、やはり経験と数の差がものを言う。
普通に撃ち合って、普通に負けた。それがすべてだった。それでも聖グロリアーナが残り五機になるまで粘ったのだから、むしろ褒められてしかるべきと言えるだろう。
今は荒野のど真ん中、撃破されたAT達の真ん中で、大洗、聖グロリアーナの区別なく集まって、AT回収班が来るまでの、暇つぶしの雑談に興じていた。先に撃破された紗希以外の一年生チームや、柚子は待機場所に戻っているのでここにはいない。
「お名前を伺っても、よろしいかしら?」
ATの中に積んであったティーセット一式に、何処から持ってきたのか折りたたみ式の椅子と机を広げ、紅茶を楽しんでいるのはダージリンであり、向かい合って座っているのは誘われたみほだった。
「え、えと……西住みほ、です」
若干言いよどんだ後に、みほは小さな声でそう名乗った。
ダージリンはちょっと驚いたような顔をして言った。
「西住流の……お姉さんとは、随分と違うのね」
興味を惹かれた、といった眼でみほを見るダージリンが指をパチンと鳴らすと、オレンジペコがカップとポットを持って現れる。
「ぜひ召し上がって欲しいの。ペコの入れた紅茶は格別ですから」
ダージリンは、そう言って微笑むのだった。
籤が引かれ、組み合わせが決まる
公式戦。全国大会と言う名の巨大な行事が、唸りを上げて動き始めた
来るべき戦いに備え、みほ達もまた動き出す
大洗の、その覚束無い未来を占うために
だがその前哨とばかりに、捨ててきた過去が、忌まわしき過去が、みほの前に立ちふさがる
次回「再会」 糾弾するは、我にあり