ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第30話 『遭遇』

 

 空高く舞い上がる白球。

 ボールが自分の方へと飛んで来るのに、みほは構える。

 アンダーハンドパスでボールを直上に跳ね上げれば、優花里がすかさず飛び込んでオーバーでボールを回す。

 仕上げはバレー部(旧)切ってのアタッカー、河西忍だ。

 背部ノズルより吹き出す噴煙に、機体はふわりと浮かび上がる。

 換装したクローアームが弓のようにしなり、ぶわんと空気を質量が押しのける音と共に振り下ろされる。

 鋼鉄の手のひらによって加速したボールはネットを飛び越え、相手コートへと目掛けて向けて突き刺さる。

 その豪速球には、相手チーム、1年生ウサギさんチームも反応し得ない。かろうじて紗希の駆るトータスが僅かに前に出るも、反応が間に合わず、白球は地面を穿ち、土と砂を跳ね上げた。

 

「っしゃあ! 1点追加!」

「どんどんいくぞー!」

「バレー部半端ない!」

「全然玉が見えないよぉ!」

 

 みほ達はバレー部一同とタッチをしてまわり、ウサギさんチームは一様に悔しがる。

 勝負はみほ達の優勢だった。サーブ権が移り、次はみほ達の――。

 

「キサマら何やっとるかー!」

 

 と、いった所で盛り上がる一同に向けて、大声で叫んで喝を入れたのは河嶋桃だった。

 

「何って……ねぇ」

「バレーボールですけど」

 

 あゆみとあやが呑気な調子で返してきたので、桃は一層激昂した。

 

「そんなことは言われなくても解ってる! 私が言ってるのは何でATでバレーボールなんぞやってるのかということだ!」

 

 一体どこから持ってきたのやら。

 大型のネットに、ATでも使える大きさと耐久力を備えたボールに、校庭に石灰でひかれたコートと準備は万端。

 バレー部四人組にみほと優花里、ウサギさん分隊6人の2チームに分かれて対戦という訳だった。

 

「一体全体、誰の発案だ! 西住もしれっと混じってないで止めたらどうなんだ!」

「……」

「……ん? なんだ西住。なんで黙っている」

 

 桃が見ればうつむき加減のみほの頬は、若干赤らんでいるように見える。

 どうやら気恥ずかしいといった様子だが、それで桃も発案者が誰かを察した。

 

「あ、あの! 西住殿はバレーの練習時間が確保できないと、悩んでいた磯辺殿のためにと必死に考えた訳でして」

「そうです! 隊長はわざわざ私達のために色々と用意してくださったんです!」

 

 優花里はすかさずフォローに入り、典子も即座にそれに同意した。

 流石に装甲騎兵道の時間にバレーをさせてあげる訳にもいかないので、みほが色々と考えた結論がこれだった。ATの操縦練習に、特に細やかな機体制動の練習になるし、ストレス発散になって良いとみほは考えたのだが、どうやら桃はお気に召さなかったようだ。

 

「ATでバレーした所で何の意味がある! ふざけたことを言っていないで、とっとと真面目に練習しろ!」

 

 桃はこんな風に怒鳴った訳なのだが、しかし彼女の背後から待ったがかかる。

 

「良いじゃん楽しそうで。いつも真面目な練習だと飽きちゃうし、ちょうど良いよ」

「会長!?」

「よーし私らもやるから、かーしま、一緒に入るよ! 西住ちゃんに秋山ちゃんは選手こーたい!」

「かいちょぉっ!?」

 

 こんな、大洗の呑気な様子を窺う人影がふたつ。

 

「……何やってんだアイツら」

「良いっすねぇATでバレーボール! ウチも真似しないっすか! あ、サッカーとかどうです! ATでサッカーっすよ!」

「誰がするかアホォッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 第30話『遭遇』

 

 

 

 

 

 

 

 三日月のような切っ先が迫るのを、僅かに頭のみを動かして逸らす。

 こちらはと右足で踏み込みつつ、その勢いに合わせて逆袈裟。得物の湾曲した刀身を活かし、股の内側から払いあげようとするも、相手はそのまま正面へと跳んで、コチラの真横をすり抜ける形で攻撃を避けた。

 踏み込み足を軸に体を転回させれば、相手もさるもの、既にコチラに向き直って上段に構えている。

 切っ先はコチラに、右手で柄を握り、左手は石突きに添える。『バランシング』特有の上段の構えだった。

 

「流石は左衛門佐。長モノを使わせれば大洗一だな」

「いやいやおりょうも負けてないぞ。北辰一刀流薙刀術の応用技。実に見事だ」

 

 エルヴィンとカエサルが観戦しつつ、相対する二人を批評した。

 左衛門佐とおりょう。左衛門佐は当世具足のレプリカを身にまとい、おりょうは胴着袴にボリュームのある癖っ毛を後ろで一つに纏めての白鉢巻姿だった。一見するとあからさまに左衛門佐の有利だが、これは別に殺し合いではないので防御力は無関係だ。むしろ甲冑の重みがあるぶん、身軽なおりょうのほうが有利かもしれない。

 さて、愛機達が見守る中、例のレンガ倉庫の真ん中で立会に勤しむ左衛門佐とおりょうであったが、二人の手に握られた得物は一風変わった見た目の品であった。

 ぱっと見、槍か薙刀の類と見えるが穂先の形状がいずれとも異なる。三日月状に湾曲した、まるで鎌のような奇妙な剣身がそこにはある。切っ先は細く尖り、安全用のカーボン加工がなければ人一人を死に至らしめるのに十分な鋭さを有していた。

 この奇妙なポールウェポンは『バランシング』と呼ばれる、さる国の伝統武術に用いる武器なのである。

 『バランシング』は装甲騎兵道のボトムズ乗りたちを始め、さまざまな界隈で今流行りのスポーツであり、歴女チーム間においても例外ではない。

 体を鍛え、反射神経を研ぎ澄まし、反応速度を養う……という名目のもと、小さなバランシング大会が開催された訳だ。まぁ校庭に出ている他の装甲騎兵道メンバーもATバレーなどしている訳で、文句を言われる筋合いはあるまい。

 

「エルヴィンはやらないのか?」

「私は銃剣術がもっぱらだからな。あれは他の長モノとは些か勝手が違う」

 

 カエサル、エルヴィンの二人が見守る中、左衛門佐とおりょうの勝負はいよいよ白熱していた。

 

「ちぇすとぉぉぉっ!」

 

 おりょうが雄叫びと共に上段から突くのを左衛門佐は足を引き半身となって避ければ、おりょうはそのまま腕の力で素早く三段に突く。沖田総司の三段突きの再現か、しかし左衛門佐もまた上体のみを動かすことで第一第二の突きを避け、第三の突きには敢えて己の頭を叩きつけた。会者剣術――戦国武者が使ったルール無用の喧嘩殺法には実際にある、兜の曲面で相手の刃を受け止める技。これにはおりょうも流石に驚き、衝撃に刃が跳ね上がって体勢も崩れる。そこを左衛門佐は見逃さない。

 

「せいやー!」

 

 横薙ぎからの巻き上げ技に、おりょうの手から得物は弾き飛ばされ宙を舞う。

 

「勝負あり! 左衛門佐の勝ち」

 

 審判役のエルヴィンが叫ぶと、弾き飛ばされたおりょうの得物が地面に落ちる――直前で何者かの手がそれを掴んだのは、ほぼ同時のことであった。

 

「なにやつ――って、ひなちゃん!?」

「やっほー、たかちゃん!」

 

 カエサルが乱入者に驚き見れば、その正体を知ってさらに驚いた。

 何の前触れもなく登場した昔なじみが、バランシング用の槍を片手に手を振っている。

 

「たかちゃん?」

「たかちゃん?」

「たかちゃん?」

 

 歴女チーム残りの3人はと言うと、乱入者そのものより乱入者の口から出た呼び名が気にかかっていた。

 カエサルとは魂の名前であって彼女の本名は『鈴木貴子』だが……。

 

「ひなちゃん何でここに? え? え? え?」

「まーいいじゃない、細かいことは。それよりも――」

「わ!?」

 

 乱入者――ひなちゃんことカルパッチョは得物をカエサルへと投げ渡すと、予備にと壁に立てかけてあったバランシング槍を掴んで、構えて言った。

 

「ひさびさに、一戦どう?」

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

「全く……カルパッチョはいったいどこに行ったんだ……」

「例の幼なじみにでも会いに行ってるんじゃないすかね?」

「遊びに来たんじゃないんだぞ! 私たちは!」

 

 小声でそんな掛け合いを交わしながら、こそこそ倉庫の裏手を歩きまわるのは、アンチョビとペパロニの二人組だ。たどり着いて早々にどこかに行ってしまったカルパッチョとは別に、ちゃんと当初の目的を果たすべく隠密行動に勤しんでいたのだった。大洗のAT編成やその練習風景への極秘調査……早い話がスパイ活動というわけだ。

 

「全く、あんなふうに遊んでてなんでサンダースに勝てたんだ? それとも普段は別の、もっとちゃんとした練習メニューをこなしているのかな……」

「でもアンチョビ姐さん。ATでスポーツやるってのは意外と悪くないアイデアかも知れませんよ? あれならATに細かい動きをさせるときの恰好の練習になりますし」

「毎回あんな風にATを酷使したら、うちのオンボロATだとすぐダメになるじゃないか! 前にもATグランプリとかやって一台足回りダメにしたばっかだろ!」

「あの程度で壊れるATのほうが悪いんスよ」

「反省しろよな!?」

 

 スパイにしては無駄に賑やかな二人であるが、幸い校庭はATバレーで盛り上がっているので、それがうまい具合に目眩ましになって気付かれていない。難なく倉庫の裏口から中へと忍びこむことができていた。

 そして二人は発見する。

 

「あれは……」

「ライアットドッグじゃないスか」

 

 二人の視線の先にあったのは、青っぽい塗装のスコープドッグだった。

 単に青い色のスコープドッグというのではない。左手にはアームシールド、頭部には機動隊を思わせる強化プラスチックの透明なレンズガードが備わり、右肩にはサーチライトが、左腰には拡声器が装着され、臀部スカートアーマーや後頭部には追加装甲が取り付けてある。胸元には茨城県の県花、薔薇のマークをあしらったエンブレムが誇らしげに、しかし経年劣化にくすんだ輝きを放っていた。

 ――ATM-09-STR ライアットドッグ。

 数あるスコープドッグのカスタムタイプの一種で、警察機関向けに特殊な改造が施されている。

 エンブレムから察するに、茨城県警AT機動隊に所属していた機体のようだが、なぜそれが大洗女子学園にあるのか。

 アンチョビとペパロニが陰から見守る中、ハッチがやや軋んだ音を立てて開いた。

 

「んー……やっぱりくたびれた感はあるわねぇ」

「中古品だから仕方がないだろう、そど子」

「だからー! そど子って呼ばないでよね! 私には園みどり子って名前があるんだから!」

 

 中から出来たのは、まるでヘルメットのような特徴的なおかっぱ頭の少女だ。

 おかっぱ頭の少女に話しかけたのはというと、アンチョビ達からちょうど陰になる形で見えていなかった場所に立っていたらしい、背の低い黒い長髪の少女だった。やや眠たげな様子で、ぼそっと喋っているのが却って印象的だ。

 

「でも風紀委員の端くれとしちゃ、実際に治安の担い手として働いていたATに乗れるのは、何というか悪く無いわね」

 

 二人が話している言葉を要約するに、どうやらこのライアットドッグは茨城県警のAT機動隊で実際に使われていたATで、機種転換をするため旧式化した本機は廃棄される所を、たまたま茨城県警にいた大洗OBがどこからか話を聞きつけて手を回してくれたらしい。地域振興の一環ということで、大洗女子学園に『寄贈』されたそうだ。……なにそれズルい、というのがアンチョビの感想だった。

 

「ちゃんと次のアンツィオ戦までに乗りこなせるようにならなくちゃな、そど子」

「なによ! 冷泉さんの助けを借りなくたって、私たちはATの操縦法ぐらいとっくに習得済みよ!」

「じゃあ別に練習を手伝わなくてもいいわけだな」

「待ちなさい! 西住さんに頼まれてるんでしょ! だったら自分の仕事は万全に果たしなさい! ほら早く!」

「はいはい」

「ハイは一回!」

 

「……今の聞いたか?」

「バッチっすよ」

 

 大洗はアンツィオ戦に備えて戦力増強を図るらしい。これは実に有益な情報だ。増強される機種まで解ったのだから言うことなしだ。

 

「よし……移動するぞ。他にも増強用のATがあるかもしれないぞ」

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 物陰をこそこそと進めば、アンチョビ達はあらたなるATと出くわした。

 しかも既に稼動状態だったライアットドッグと異なり、こちらはたった今レストア中という様子だった。

 

「ホシノー! レーザートーチもう使い終わったー?」

「まだー! こっちは結構手こずってるから時間掛かりそう」

「グライディングホイールの消耗も激しいねぇ~……こりゃ車輪全部替えないと駄目かなぁ」

「なーに。すぐに目一杯走れるようにしてやるぞ!」

 

 黄色い揃いのつなぎの四人組が取り組んでいるのは、青みがかった灰色のATだった。

 手足を外され、ハッチを開かれ、頭部を覆うバイザーやカメラも一旦取り除いてバラバラにし、個別にパーツを交換したりと修理をしているようだった。バラされているので、パッと見では何のATかは解らないが、今修理中の一機と同型と思われるATが三機、横一列に並んでいるのにアンチョビ達は気づいた。

 サビだらけのくすんだ傷んだそのATのことを、アンチョビ達は知っていた。

 

「ストロングバックス」

 

 ATM-09-STC ストロングバックス。あるいはストロングバッカス。

 スコープドッグをベースに改造を施し、H級と変わらぬ体躯にまで拡張させたATがそこにはあった。

 

 





 狭苦しい鉄の棺桶
 その中に押し込まれる、アンツィオ乙女が3人
 カーボンに守られてなお、頼みのおけぬ薄い装甲
 決死の想いで3人は、見知らぬ大洗の地を走り抜ける

 次回『相乗り』 アンチョビは追い、そして追われる
 
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