「パターン1に従って、退避ルートを示せ」
牛乳瓶の底のような、分厚い眼鏡越しに、今時珍しい黒いモニターを睨みつける。
普段使っているPCとは違うMS-DOSのような画面には、めまぐるしく円や直線、数式や曲線が踊り狂う。
その意味する所を読み取り、打ち込んだコマンド通りにプログラムが起動しているかをチェックする。
肉眼と、機械によるダブルチェック。何か異常があればコンピューターのほうがエラーを検出してくれるが、自分の目で見ても機械の方でも異常は認められなかった。
「……ルート1における交戦確率、ならびに敵戦力を示せ」
ヘッドセットのマイクに指示を出せば、それに従って画面がまた動き出す。
見た目はレトロだが、機能は最新式。音声認識機能はちゃんと働いてくれている。
「敵戦力のバトルフィールド1における最大値を示せ」
今度は、囁くような声で話しかけてみる。
それでもマシンはちゃんと反応してくれた。
黒い画面に白線のみで描かれたバトルフィールドへと、数字とドットで予測される敵戦闘配置が打ち込まれ、その中を矢印が走り回る。矢印は自機の動きだ。澱みなく矢印は走り回り、想定される戦場で想定しうる最適解を示していた。
「……チェック終了」
画面には『 : exit 』の文字が現れると同時、カシュっと音がなってミッションディスクがリーダーから排出される。
「終わったよ、西住さん」
「ありがとう、猫田さん」
瓶底眼鏡の少女、猫田がミッションディスクを差し出せば、傍らのみほは笑顔でそれを受け取った。
「こっちもおわったっちゃ~」
「こっちでも出来たなり~」
猫田にみほの真向かい、コンピューターを挟んだ向こう側で、突き出した二本の手がそれぞれミッションディスクをひらひらと揺らしている。どこかおっとりとした様子の少女に、個性的な桃形の伊達眼帯の少女だ。
「みなさん。本当にありがとうございます。お陰で今日中には全部終わりそうですし」
「そんな……ボクはこんな形でしかお手伝いできないから……」
「ううん! ミッションディスクの調整は結構時間が掛かるし、今日は独りでやるしかないと思ってたから……」
腕の立つボトムズ乗りでも、いやむしろ一流の選手ほどミッションディスクは既成品で済ませてしまう者は多い。
最低限の動きだけオートで済ませて、後は自分の腕でなんとかしようという発想だ。
だが姉やエリカといった腕において自分を凌ぐボトムズ乗りたちを間近でみてきたみほは違う。自分には彼女たちほどの力量はない。ならば、それ以外の所で勝負するしか無い。
現状、大洗装甲騎兵道チームにおいて、ミッションディスクのプログラミングに長じているのはみほだけだ。
最近では独学で身につけた優花里や、みほに教わってみるみる上達した麻子がいる上に、沙織や華も自分たちのできる範囲で手助けをしてくれているが、対プラウダ戦を前にみほが気負ってしまったこともあって、気がつけば膨大な仕事を独りで抱え込んでしまっていた。
だからといってあんこうのメンバーに頼むのも気が引けた。
彼女らは彼女らで、みほの頑張る姿を見て自分たちの仕事に取り組んでいたからだ。
優花里はプラウダへと偵察へ向かったらしく今日は学校を休んでいるし、麻子はカエルさん分隊の面々に請われて操縦の手ほどきをしている。華と沙織は自動車部の仕事を手伝っていた。
そんな時だった。猫田が話しかけてきたのは。
「えへへ……ボク達のゲーマー道も捨てたもんじゃなかったね」
「そうだっちゃ~」
「やったなり~」
猫田はみほのクラスメートだが、その個性的な見た目――ちなみにメガネを外すと凄い美人だ――に反して、教室の中でも余り目立つ方ではない。みほ以上の引っ込み思案で、ぼそぼそと蚊の鳴くような声で話すためだが、そんな彼女が意を決して今朝、みほに言ったのだ。
――『ボクにも何か手伝えることないかな』
聞けば前から装甲騎兵道に是非参加したい、あるいは頑張ってるみほ達に協力したいと思っていたらしい。
合わせて色々と聞けば『ATには慣れてる』とのこと。……ただし装甲騎兵道ではなくて、それを題材にしたオンラインゲームに、の話だが、そこでふとみほは思ったのだ。コンピューターに詳しそうだし、ミッションディスクのプログラミングを手伝ってもらうことはできないものか、と。
早速、同校生のゲーマー仲間に声をかけて、みんなでやってみようとなった訳だ。
「あのゲームは本格派だから……MDも自分で組んで戦うんだ」
「できるだけ本物に近く作るってのがコンセプトのゲームなので」
「ゲームで鍛えた技がそのまま使えるなり!」
「……私もやってみようかな、そのゲーム」
ねこにゃー、ぴよたん、ももがー……というのがそれぞれのゲーム上でのハンドルネームであるらしい。
なら自分ならボコにしようかなぁ、などと、みほは考えるのだった。
第43話『冷獄』
「ホシノー! バリアブルコンプレッサーはどう~?」
「あー……まだダメだねコレ。バルブクリアランスが合ってないよ」
「要調整かぁ~。スズキー! マッスルコンプレッサーはぁ?」
「ちょっと待って……ツチヤ、右チャンバーのバルブを開いてみて」
「りょーかい! ……うーん、加圧ポンプかなぁ。ここが良くない感じだね」
いつも通りの黄色いツナギ姿で、マシンオイルとグリスに塗れながら作業に勤しむのは自動車部の面々だ。
彼女たちの前に広がるのは、一旦バラバラに分解されたストロングバックス、スコープドッグベースながらH級並の体格を誇るカスタム機だ。既に分解修理が終わった三機は横並びに列をなし、ホコリよけのビニールシートが上にかけられている。あとはツチヤ機になる予定のこの一機のみで修理は全て完了する。
「ターレットは……回転がちょっと遅いか」
「シャフトにしこりができてる。大昔の応急修理の跡みたいだね」
「ちょっとツチヤ、今は改造はお預けだって! 一通り直すことに集中集中!」
「えぇ~でも自動車だろうとATだろうドリフトこそが運転の醍醐味じゃんか~」
1回戦、2回戦と裏方に徹してきた彼女たちだが、このストロングバックス4機の修理が完了すれば、新チームとして晴れて試合参加する予定だ。船底に遺棄されていた4機のジャンクATを、偶然見つけた時は修理が上手い行くかどうかは50対50だと思っていたが、どうやら杞憂に終わりそうだった。完璧に修理して、新品同然の状態で試合場へと連れて行けそうだ。
「みんな~! 差し入れ作ってきたよ~!」
「こちらにはお茶もありますから、どうぞ召し上がって下さい」
声のする方に自動車部一同が目を向ければ、ランチボックスを抱えた沙織に、大型ジャグを左右一個ずつぶら下げた華が歩いてくる所だった。どうでも良いが、あの大型ジャグはかなり重いはずなのだが、華の様子だととてもそうは見えないのが色々と凄い。
「おぉ~三角おむすびだ!」
「漬物も三種類とは気が利いてる! ちょうど塩気のあるもの食べたかったんだぁ」
「具は鮭に昆布に辛子めんたい! あ、脇の列はワカメおにぎりになってるから」
「私、ワカメおにぎり頂き!」
「ツチヤ抜け駆けだぞ!」
「へへへ! 昼飯もレースも早い者勝ちってね!」
華が紙コップへとお茶を注いでいき、ナカジマ達はおむすび片手にそれを呷った。
程よい苦味が冷たさと唱和して実に喉越しが良い。一仕事終えて乾いた体には最高の贅沢だ。
「あ、そういえば武部さん。PR液の配合比率に関してなんだけど……」
「おっけー! 今チェックするから見せて~」
スズキからクリップボードを受け取った沙織は、メガネを取り出し、そこに書かれた数式と暫時にらめっこする。
しかし数字だけでは何か納得出来ないものがあったのか、クリップボードから顔をあげると言った。
「サンプルのほうってもうできてますか?」
「うん、さっき試しに調合したものがあるから……ツチヤ、その水筒取って!」
「はいよ~! それじゃ武部大先生! お願いしまぁ~す」
「やだもー、おだてないでよね!」
ツチヤから水筒を受け取り、続けて渡されたステンレス皿へと沙織は中身をゆっくりと注いだ。
青色に近い濁った緑色の、粘度の高い液体が皿の上に広がる。
適当な所で注ぐのを止めて、まず沙織はそれを華へと手渡した。
手で仰いで臭いを嗅ぎ、少し考えてから華は答えた。
「良い臭いだと思いますわ。よく調合されたPR液は決まって、こういう整った雑味のない臭いをしていますから」
「華チェックはOKね。それじゃ今度は私が」
華から戻された皿のPR液へと、沙織は指を突っ込んで絡ませた。
そのまま口へと持っていき、沙織はなんとそれを舐めた!
考えこむ沙織の様子に、自動車部一同が生唾を飲み、固唾を呑んで見守った。
「……」
沙織は目をつむり、腕を組んだ後、数度黙して頷いて、Vサインを見せた。
「OK!」
「やったぁ!」
「武部大先生のお墨付きだぁ~!」
「武部さん、何度も何度も本当にありがとう!」
差し出されたナカジマの手を、握り返す沙織の顔は得意満面だった。
そんな沙織を見る華の顔も実に嬉しそうだ。
「それにしても武部さんは凄いよね。PR液取り扱い免許って結構取るの難しいって話なのに」
「私もPR液は既成品で済ましちゃうからなぁ。アレは機械をいじくるのとはまた別の知識が必要になってくるからねぇ」
「えへへ~コツを覚えればあとは料理と一緒だからね~。大体はひと舐めすれば味で区別はつくし~」
「普通はつかないと思うけどなぁ」
ツチヤがおもわず漏らした言葉に、沙織はさらに得意満面になるのだった。
頑張るみほを、彼女とは違った形で手伝うことができる。それが沙織には嬉しかった。
――◆Girls und Armored trooper◆
「秋山優花里! ただいま戻りました!」
大洗へと舞い戻った優花里は、埃まみれのプラウダ制服も着替えぬまま生徒会室へと直行した。
そこにはみほ以下分隊長一同に、生徒会の三羽烏も既に勢揃いしている。
対プラウダ作戦会議のためだ。
「お帰り優花里さん!」
「ただいまです西住殿!」
みほへと笑顔を返しつつ、優花里は懐からデータディスクを取り出し桃へと手渡した。
「良くやってくれたな秋山。それで、お前の目から見てプラウダはどうだった?」
「それなのですが……」
桃に問われて、優花里は掻い摘んでプラウダでのすったもんだについて皆へと話す。
「エリ……逸見さんが偵察?」
「はい。去年までの黒森峰ならまずしなかったことです。それだけ今年の黒森峰は焦っているのかもしれません」
黒森峰、そして西住の流儀を知るみほからすれば、それは驚くべき事実だ。
ましてやエリカは黒森峰や西住流に対し強い誇りを抱いている。
今年の公式戦に懸ける黒森峰女学園の、そして逸見エリカの心意気は並大抵のものではないらしい。
「……それにしてもウチをさしおいてプラウダに偵察か」
桃は舌打ちして顔を顰めた。
まだ大洗とプラウダの試合が始まってもいないにも関わらず、プラウダのほうへと偵察を仕掛ける……それが意味することはひとつしかない。
「つまりウチは必ず負けるだろうと黒森峰は踏んでる訳か。……馬鹿にして!」
桃があからさまに苛立った様子を見せたのに対しての、優花里の言葉は飽くまで冷静だった。
「お言葉ですが、客観的に見れば大洗とプラウダが戦えばプラウダが勝つ可能性のほうが遥かに高いです。今度の偵察で、プラウダも連覇に向けてかなり力を入れてきているのが解りました。無論、そこを戦術と腕で何とかしようと言うわけですけれど……何とかなるかは――」
「何とかするんだ何とか!」
「そうは言いましても……仮に負けても大洗はベスト4入りですよ! 初出場でこれは快挙です!」
「くだらん! ベスト4がなんだ! そんなもの、何の意味もない! わが校は優勝しなくちゃダメなんだ!」
この桃の物言いには今度は優花里がムッとした。
そのベスト4にも入れなかった高校はたくさんあるが、そのいずれもが各々に課せられた状況の中で全力で戦っているのだ。例えば聖グロリアーナは先の試合で惜しくも黒森峰に敗れたが、しかし彼女らの見せた勇戦っぷりは例え敗れたとしても賞賛に値するものだった。それを『くだらない』の一言で切り捨てる桃の物言いには、優花里は納得ができない。
「全国大会でベスト4ですよ! それも初出場校がです! 失礼ながら河嶋殿はその意味を――」
「無意味だ! 良いか、わが校には優勝以外無意味なんだ!」
「わたくし納得が――」
「無意味だと言ってるだろうがッ!」
桃は不意に、窓ガラスが震えるほどの怒声を発し、目の前の机へと拳を叩きつける。
分隊長勢もどちらかと言えば優花里の言うことに同調的な者が多かった為に、この桃のいきなりの怒号には優花里同様に驚き、言葉を失った。突然の緊迫した空気のなか、桃はまるで自分に言い聞かせるかのように言った。
「勝たなくちゃ駄目なんだ! 勝たなくちゃ……」
――気まずい雰囲気だ。
桃の尋常でない様子に、カエサルも梓も、典子やそど子ですら互いに顔を見合わせる。
優花里もたまらずみほのほうを見るが、みほも訳が解らず困惑した様子で、静かに首を横に振るばかり。
「……」
会長は相変わらず干し芋を齧るばかりで、何を考えているのかが解らないし、柚子は気が気がない様子で桃と会長とに向けた視線を交互にせわしなく動かした。
「……所でさぁ」
流れる嫌な空気を、最初に断ち切ったのは杏だ。
「次の試合場、北緯50度より上の凄い寒い所らしいんだよね。それこそ雪と氷ばっかのさ」
柚子がホッと胸をなでおろすのが優花里には見えた。
杏会長はつくづく不思議な少女で、彼女があの掴みどころのないゆるゆるとした声で話すと不思議と場が和む。
「だからウチの今のATだと色々と不味いよねって話になってねぇ……秋山ちゃん、当然プラウダはその辺り対策済みな訳だよね?」
「あ、はい。お渡ししたデータディスクにも入っていますが、プラウダの寒冷地対策は万全です」
「うんうん。だからさ、こっちはこっちで寒い所で戦うための対策ってのがいるわけじゃんか」
「まぁ、そうですね」
「そこでねぇ~」
杏が入ってきてぇ~と呼びかけると、敷居を跨いで意外な人々が姿を現したのだ。
「え!? ケイさん!?」
「HEY! ミホ、久しぶりねーっ!」
「ナオミ殿まで!?」
「よ、優花里。遊びに来た」
「私もいるわよ!」
「あなたは……ええと」
「確かアサリさん!」
「アリサよ! ア! リ! サ!」
果たしてそれは、サンダース大学付属の隊長三人組、ケイ、ナオミ、アリサだった。
「ほんじゃ、みんなにもアレをお披露目しよっか」
「OK! ウチでは暫く雪上戦はないから、心置きなく使ってね!」
杏へとケイがウィンクを添えてサムズアップする。
それにしても雪上戦で役に立つモノでサンダースが貸してくれるようなモノとはなんだろう。
「あ!」
「もしかして!」
みほと優花里が同じ答えに達したのは、ほぼ同時のことだった。
「「アイスブロウワー!」」
二人の答えに、ケイはウィンクで答えた。
――◆Girls und Armored trooper◆
北緯50度を超えれば、そこは極寒の地だ。
あるのは澄み切った大気と汚れなき氷のみ。
一面の銀世界。一片の曇もない雪原が広がる試合場。
静謐なる空間。だが、その凍てついた沈黙を破る異音が、その音色と段々と大きくする様が見える。
『イェエエエエエエエエエイ! ピーカンだぁ!』
『凄いよ~コレ! 雪の上を滑ってるみたい~』
『まるでレイヅナーのSPTだぁ~!』
『こんなの初めて!』
『……』
『ちょっと、みんなあんまトバさないで!』
雪煙を上げて銀世界を走り抜けるのは、ウサギさん分隊のトータス六機。
まるで昨日までのノロノロとした陸亀っぷりが嘘のように、一流のスキーヤーの如き走りっぷりだ。
雪の上を滑っているかと思うほどの軽快な動きは、後続のみほ達が付いて行くのがやっとな程だった。
『すごーい……今まではウチの学校で一番スピードが遅かったのに』
『水を得た魚とでも言うべきでしょうか』
『むしろ雪の上の白ウサギだな』
沙織も華も、予想を遥かに超えたウサギさんチームの姿に、殆ど呆気にとられているありさまだ。
ある程度予測はついていたみほですら、思わず驚いてしまう程の爽快な動きだった。
『わたくしも負けてはいられません! 西住殿、わたくしもひとっ走り行って参ります!』
優花里は独りATを駆けさせると、ウサギさん分隊をまるで同じ動き、同じ走りで雪上を滑るように進み始める。
『かーしまー、置いてくぞ~』
『桃ちゃん先に行くね~』
『会長、柚子ちゃん! 待って~』
杏や柚子、それを必死に追いかける桃ですら、ウサギさんチームや優花里と同じ走りっぷりを見せている。
そんな彼女たちのATの足元には、同じ装備品の姿が見えた。
「やっぱり『アイスブロウワー』は凄いなぁ……」
AT用スキー靴とでも例えるべき見た目の、雪上戦用装備の勇姿にみほは誰に向けてでもなくその名を呟いた。
――『アイスブロウワー』。
長靴というアダ名でも呼ばれるAT用装備の一種だ。
追加モーターと大型のスノーグライディングホイールのパワーでATを雪の上を滑るように駆けさせる。
次の試合場が雪の上と聞いたケイ達が、わざわざ大洗に貸し出すためにと、学園艦まで持ってきてくれたのだ。
――『ウチじゃ暫く用がないから、心置きなく使ってね!』
とはケイの言葉だが、決して安いモノでもないのにホイホイと他校に貸し出せるとは流石はサンダース、リッチなのが持ち味の学校というだけはある。
『ねぇ、私達もひとっぱしりしない?』
『試合前にはしゃいでどうするんだ。どうせ試合になったら嫌って言うほど走らされるんだぞ』
『それはそうだけど~』
『でも、わたくしも何だか体がウズウズしてきました』
アイスブロウワーは比較的汎用性の高い装備で、ドッグ系でもトータス系でも、著しく脚部の形状が特殊でもない限りは機種を問わず装備することができるのだ。一部、部品が干渉してうまく装備できないATもあったが、そこは自動車部が部分的に改修を施してクリアしている。
『わたくしも行きます!』
『あ、ちょっと華待ってよ!』
『……全く。子どもじゃあるまいし』
華や沙織も、優花里達の後を追って走り出す。
それを見ていたみほも、何だか知らないが無性に愛機を走らせたくなってくる。
「私も行きます!」
みほも華達に続いて、雪煙を挙げながら雪原を駆け抜ける。
『西住さんもか……』
見送る麻子の呆れ声だけが、虚しく雪に吸い込まれるのだった。
――◆Girls und Armored trooper◆
大洗女子学園対プラウダ高校。
全国高校生装甲騎兵道大会、準決勝の試合である。
大洗一同が試合前の待機場所に辿り着く頃には、晴天だった空は一転曇り始め、まるで夜のように辺りは暗くなりだしていた。
まるで試合の行末が良くないとでも言うかのような天の有様に、みほ達は何とも不吉な予感に包まれていた。
そこへ――。
「あれは……」
やって来たのは、二機のAT。
黒く巨大なエクルビスに、真紅に塗られたチャビィーのコンビ。
それを見て優花里は叫ぶ。
「地吹雪のカチューシャに、ブリザードのノンナ!」
無能、怯懦、虚偽、杜撰
どれ一つとっても勝負では命取りとなる
張り巡らされた罠、仕組まれた退路
雪と氷の覆い尽くされた戦場
その中に見え隠れするプラウダの影
気づけば、みほ達は敵の策のド真ん中に墜ちていた
次回『包囲』 暗雲が、大洗を覆う