「……凄いね」
「ええ、壮観です」
沙織が感嘆し、ため息を漏らすのに華が相槌を打った。
彼女の方は彼女の方で、絢爛たる戦列を前にして瞳をキラキラと輝かせている。
普段見慣れた錆びた眼差しと比べていることもあるだろうが、チューンされたATを前にこうも感動しているのは、華がボトムズ乗り染みてきた何よりの証拠だろう。
「西住殿! 西住殿! スコープドッグが! スコープドッグが!」
「秋山さんは落ち着け」
優花里はというと鋼の脚に飛びついて頬ずりしそうなハイテンションなので、相変わらず落ち着いた様子の麻子がその肩を押さえて窘める。だが当の麻子のほうも頬が赤らんでいる辺り、珍しく興奮しているらしい。
「……揃いましたね」
「ようやく揃ったね」
「いやぁ、これならなんとかなりそうだねぇ~」
生徒会の面々も、桃は腕組み何度も頷き、柚子は手を合わせて感極まり、杏はカラカラと笑っている。
「なにこれぇ!」
「ピカピカ~!」
「逆の意味でありえなーい!」
一年生チームの皆も、夏休みを前にした小学生のようなはしゃぎっぷりだ。
普段使っているATが旧型のトータスなためか、感動は尚更な様子だった。
「黒いぜよ……」
「赤備えならぬ黒備え……」
「黒シャツ隊というわけだな」
「黒尽くめの精鋭部隊と言えば、オットー・スコルツェニーの『フリーデンタール』でしょ!」
「「「それだっ!」」」
歴女チーム始め、大洗装甲騎兵道チーム一同、搬入され整列させられたATたちへの印象は抜群だった。
「ありがとうございます」
並び立つ漆黒の騎群、元黒森峰のAT達を前に、みほはカンテレ爪弾く少女に礼をした。
対して少女、ミカはカンテレをかき鳴らしながら曖昧に微笑むのみ。
「別に感謝されるいわれはないよ。ただ風の流れに従ったまでさ」
そう言うと片目を瞑るのだった。
第57話 『改造』
大洗が新たに手にしたATは全部で十三機
聖グロリアーナから譲渡された三機のバウンティドッグ。
そして継続高校経由で入手した黒森峰女学園のカスタムスコープドッグが全部で十機。その内訳はタイプ20、もといターボカスタムタイプが七機に、バーグラリードッグが三機だ。継続高校が黒森峰から仕入れた中古ATの数は実際はもっと多いらしいのだが、大洗の予算等々を
「それでは、後日代金は指定の口座に振り込んでおく」
「まいどありー!」
「今後ともご贔屓にね!」
桃が言うのに、ミッコとアキが嬉しそうにお辞儀をしてからハイタッチした。
継続高校はお世辞にも懐事情が豊かな学校とは言えない。
こうした稼ぎは彼女たちには貴重な活動費となるのである。
「おや。これを忘れているんじゃないかな?」
そう言ってミカが胸元から取り出したのは、一通の茶封筒だった。
桃はそれをやや憮然とした表情でひったくるように受け取ると、「西住!」とみほを呼ぶ。
みほは封筒の中身を
「西住殿」
そこですかさず、どこから出したものだか優花里がクリップボードとボールペンを差し出してきた。
「ありがとう」と微笑みながら礼を言ってみほはそれらを受け取り、茶封筒の中身にサインした。
「確かに」
ミカはみほのサインを確認し、書類の入った茶封筒を懐へと戻した。
かくして契約は成立する。
「これでこの子たちは、晴れて君たちのものとなったわけだ」
「また何かご要望があったら言ってよね!」
「そうそう! それこそ対ATライフルからテルタイン級宇宙戦艦まで! ご要望とあらば揃えてみせるから!」
商魂たくましく追加の注文を促すアキとミッコの姿に、ミカはカンテレを奏でながら歌うように言うのだった。
「私たちは装甲騎兵道が産んだパンドラの箱さ。質さえ問わなきゃなんでもあるよ」
実際、その通りかも知れなかった。
――◆Girls und Armored trooper◆
「ナカジマさん、どうですか?」
みほに呼ばれて、ナカジマはコックピットからひょこっと顔を出した。
鼻の頭が機械油で黒く汚れているが、彼女の場合は不思議と様になっていた。
「いやぁ、凄いね。色々と」
なんとも要領を得ない答えが返って来た。
ナカジマに続いて、ATの下からひょこひょこと顔を出したホシノ、スズキ、ツチヤも何とも微妙な表情をしている。
「うん凄いね」
「凄い凄い」
「いやぁ~こりゃちょっと、迂闊に手がつけられないですわぁ~」
ホシノとスズキはウンウンと頷き合い、ツチヤは困った困ったと髪をくしゃくしゃと掻いた。
格納庫中央に横たえられた元黒森峰のスコープドッグ。その状態を確認するために、自動車部一同に簡単なチェックを頼んだのだ。装甲の一部を取り外し、その内に隠れた機械仕掛けの筋肉を調べてもらったのだが、吟味を終えた彼女たちの表情は実に複雑であった。
「凄い、と言いますと?」
優花里が問うのにナカジマは何と言ったものかとウンウン唸るので、代わって答えたのはツチヤだった。
「凄いも凄い。ものっっっっっっすごく尖った調整をしてくれちゃってさ~。いやぁこんなピーキーなATをよくもまぁ使いこなせるもんだなと」
「そんなにですかぁ?」
「うんそんなにそんなに……正直、これを普通に使えるように調整し直すとなると相当に時間を喰うかもねぇ」
ツチヤが「どーしたもんか」といった調子で、腰に両手を当てて言うのに、ナカジマもホシノもスズキも相槌を打つ。
隣でこのやりとりを聞いていたみほはと言えば、すでに予想はできていたのか「やっぱりか」と声に出さずとも表情で語っていた。みほもかつては同じようなATに乗っていたのだから、こういう事態が起こりうることはある程度理解していたつもりだった。だが彼女自身が一流ボトムズ乗りであったためか、ナカジマら自動車部をしてそこまで言わせるほどかつての母校チームのATがぶっ飛んだ仕様だったとは気がついていなかった。
それはミカ達も同じなのだろう。継続高校は変わり者揃いだが腕は立つ。彼女たちならば乗りこなせるだろうし、故に動作確認の時も気づくはずもなし。
しかし多少調整は必要かもとはみほも思っていたが、そこまで尖っていたとは――。
「ちょっといいか?」
誰かと思えば麻子であった。
スッと軽く掌を挙げて彼女は言った。声にはやや熱が入っている。
「それ、試しに乗ってみても良いか?」
――◆Girls und Armored trooper◆
今しがた装甲板を外したばかりのATに乗るのも何だったので、似たような仕様であろう別の黒森峰ターボカスタムに麻子は乗ることになった。念の為に耐圧服に着替えて、降着モードの黒い機体へとひょいと跳び乗る。
ヘルメットを被りゴーグルを下ろし、シートから伸びたケーブルと連結する。折りたたまれた二本のレバーを押し上げ、倒された操縦桿全体を引っ張り起こす。ハッチが降りて、冷泉の顔が黒く塗られた顕微鏡顔に覆われる。
ターレットレンズが何度か回転し、ブゥンと鈍い音と共にスコープに火が灯った。
曲がった脚が真っ直ぐに伸び、四メートルの巨体が立ち上がれば、その姿に見慣れた筈のみほですら、不意に圧倒される気分を覚えるのだ。ましてや目の前にそびえ立つ巨体はかつての母校のATで、相変わらずの黒い機体は光を受けてガンメタルブルーに鈍く輝き、重厚なる威厳を放っているのだから。
『道を開けてくれ』
スピーカーを通して響く麻子の声にみほや沙織、周囲に集まっていた観客が後退すると、ズシンズシンと重い鋼の足取りでスコープドッグが歩き出す。
二、三歩歩いた所でまたも麻子が言った。
『動くぞ』
言われてみほなどは即座にさらなる後退をしたが、意味を飲み込めなかった桃は下がるのが遅れた。
グライディングホイールが回転し、巻き上がった砂埃は桃に直撃する。
砂塵の臭いまとわりついて、むせる桃に鋼の背中でさよならを言ってスコープドッグは走り出す。
みほは麻子の操縦を注視した。
パっと見、麻子は見事に黒森峰印のスコープドッグを操っているようである。
だが、実はそうではないとみほは気づいた。
(動きにくそう……)
足首間接を動かし足先を揃え、その向きを変えて方向性を決める。
ローラーダッシュ時のATの動きはスキーヤーのそれに近い。
みほにはターン時のエッジが効きすぎているのが見て取れた。
余分に土埃が舞い上がるのは、余計な力が加わっているからだ。麻子には実に珍しい。
「わぁ!」
「ジェットローラーダッシュですねぇ!」
沙織からは驚きの声が、優花里からは喜びの声が飛び出した。
ジェットローラーダッシュ自体は既に自動車部がストロングバッカスに導入済みであるので、二人共どういうものかはよく知っている筈だ。しかし若干の趣は異なれど、優花里も沙織も揃って初見のように驚いている。それだけ、麻子が今駆るATの速度は彼女らの常識を隔絶していた。
ウサギさん分隊の面々などは、全神経を集中して、黒いATの素早い動きを追っている様子だった。
「まるで疾風の如き加速ですね」
「ウワバミさんチームのストロングバッカスと違って、機体の重量が軽いから」
黒森峰印のターボカスタムの動きには、華も感嘆のため息をついた。
みほが解説した通り、分厚い装甲のストロングバッカスと機動性重視にカスタマイズされたスコープドッグとでは同じジェットローラーダッシュ機構を使うにしても事情がまるで違う訳だ。
それにしても麻子が操る黒いATのスピードの凄まじさよ。
「そのぶん、機体の制御は至難ということです。実際、タイプ20はあまりの安定性と操作性の悪さに事故が頻発し、わずか半年で正規の生産は停止されてます。一部の熟練のボトムズ乗りが個人的にカスタマイズした機体は別ですけど」
「凄いじゃじゃ馬ってことだね。でも、激しければ激しいほど燃え上がるのが恋なんだよね!」
優花里の言うとおり、スコープドッグ・ターボカスタム、通称タイプ20の安定性と操作性の悪さは折り紙つきだ。
しかし熟練のボトムズ乗りであればあるほど、自機をカスタマイズするときはそれらを蔑ろにして火力と速力のみを追い求めた、乗り手の技量頼りのバランスの悪い機体になりがちなのだ。そしてそんな熟練ボトムズ乗り達の需要に完全にマッチしているのがタイプ20であった。
「あら、麻子さんにしては珍しい……」
「うん、珍しいね。麻子さんが操縦をミスするなんて……」
華とみほは不安げに麻子のATの動きを見つめていた。
ついさっきだが、ジェットを切って慣性に機体を委ねながらの、ターンピックを使ってのターンを麻子はしようとしていた。だが彼女には珍しく、機体のバランスを崩して転倒しそうになったのだ。だがそこで実際には転倒まで行かないところは流石は冷泉麻子だった。
「麻子、どうだった?」
「麻子さん、どうですか?」
「冷泉殿! タイプ20のご感想は?」
「麻子さん、操作感はどうかな? 使いにくそうだったけど」
一通りスコープドッグを乗り回して麻子が戻ってくるのに、沙織を皮切りにあんこう分隊一同で声をかけた。
ハッチを開き、ヘルメットを脱いだ麻子が顔を出した。その表情は……はっきり言って浮かないものであった。
「……ターンピックが冴えすぎている。それに制御系も体に張り付くみたいで気持ちが悪い」
「繊細過ぎるってことですか?」
「まぁ、そんな感じだな」
みほが要約して言うのに、麻子は頷いた。
「ただ、これは単純に慣れの問題もある。もう暫く乗り回してみるつもりだ」
「乗りこなせそうですか?」
「3時間あればな」
疲労を顔ににじませながらも、麻子はそう言って不敵に笑った。
――◆Girls und Armored trooper◆
麻子が慣らし運転に勤しんでいる傍らで、残りの12機のATの割当をどうするかで、みほは他の大洗装甲騎兵道チームを集めてミーティングに勤しむことにした。ミーティングと言っても、長話をしている余裕はない。決勝戦、対黒森峰戦まで残された時間は然程無い。速やかに割当を決めて、練習に取り掛からなくては。
「勝手知ったる黒森峰のATだろうし、ある程度は西住ちゃんが決めてもいいよ~」
とは杏会長から既にもらった言質だ。
みほはまず自分のプランを出し、反対がなければそれで通すというやりかたで行くことにした。
「まず、生徒会のみなさんにはバーグラリードッグを使ってもらいます」
「かーしまも?」
「射撃の下手な桃ちゃんもですか?」
「柚子ちゃん!? 会長!?」
杏と柚子からコンマ1秒も間をおかずに飛び出した反論に、桃は心外だと叫び声を上げた。
無論、桃の抗議の声は一同華麗にスルーして、みほは割当の理由を説明する。
「河嶋先輩のATからはドロッパーズ・フォールディング・ガンを取り外して通信機能を強化、そして弾薬のキャリアを取り付けます。対黒森峰戦は長丁場になると思われます。特に砲撃戦は激しくなるものと予想されますので、手持ちの弾薬は多いにこしたことはありません」
「なるほどね~。それならかーしまに任せられるわけだ」
「桃ちゃんでもそれなら安心ですね」
「柚子ちゃん!? 会長!?」
これでまずは3機が決定した。
残りは9機。タイプ20が6機に、聖グロリアーナ印のバウンティドッグが3機だ。
「カメさん分隊の元のATは分解してパーツに転用します。ヒバリさんチームのライアットドッグも同様です」
「ううう……鋼のようなたくましさに、隠し切れない愛らしさ……私の、私のライアットドッグが……」
「泣いちゃってるよそど子」
「そんなに感情移入してるとは知りませんでした」
ノンナの狙撃用チャビィーに挑んだそど子達のATは、見た目が綺麗な割に内部の損傷が酷いため、やはり交換せざるを得ないという状況になっていた。しかし、装甲騎兵道に後から加わった彼女らは、操縦技術にまだ不安が残る。故にタイプ20は任せられない。
「ヒバリさんチームにはバウンティドッグを割り当てます。ライアットドッグ同様、ノーマルのドッグとは若干勝手が違いますが……」
「いいえ、やるわ!」
そど子は涙を拭って力強く断言する。
「風紀委員を舐めないでよね! 捕物用の鉤縄を備えたAT……気に入ったわ! 決勝戦までに使いこなしてみせるわよ!」
いささか権威主義的で融通が利かない所はあっても、生真面目で一生懸命なのが彼女の美徳だ。
ワイヤーウィンチがついているのも、そど子の眼鏡にかなったらしかった。
「して、残りのATは6機」
「話の流れ的には……次は私らぜよ」
「はい。ニワトリさん分隊のお二方には、ターボカスタムに乗ってもらいます」
左衛門佐とおりょうが言うのに、みほは頷いた。
エルヴィンとカエサルはともかく、二人のATは損傷がひどかった。
しかし幸いにも二人はドッグ乗りである。しかも大洗の中では操縦技術の腕は上から数えたほうが早い。
彼女らならば、タイプ20を任せることができる。
「お二方のATもまた解体してパーツにまわします。そしてやはりATの損傷が激しいカエルさん分隊ですが……やはり皆さんにもターボカスタムを使ってもらいます」
「全機入れ替え……」
「大丈夫でしょうかキャプテン……」
典子が俯き言うのに、傍らのあけびが不安そうな顔を見せた。
彼女らのATは分隊名の由来ともなったファッティーであり、スコープドッグとは随分と勝手が違う。
一応センサー系などはある程度共通規格であるため、例えばドッグ用のパイロットゴーグルをそのままファッティーでも使用することは出来るが、それでもコックピットの大きさも違えば各種計器、操縦桿の位置も異なる。
もしタイプ20が割当てられると、この短期間でその操縦を習得する必要があるが――。
「大丈夫です。皆さんならば」
「西住隊長……」
みほが微笑み、確信を持って言うのには、バレー部一同も思わず顔を見合わせた。
隊長の言うことを疑ったことはないが、しかしその確信の理由が彼女たちには解らない。
「皆さんの操縦技術は、この大洗チームのなかでも随一です。初めてATに乗った時も、皆さんは直ぐに乗りこなしてましたから。だから、このタイプ20も皆さんならば!」
バレー部の皆の実力はみほも認める所であった。
運動部らしいタフネスとチームワーク、そして飲み込みの良さ。
ぐんぐん上昇する彼女らの技量にはみほも
「解りました。やってみせます!」
「キャプテン!」
「やりましょうキャプテン!」
「西住隊長が任せてくれたんです! 期待に応えましょう!」
そして何より彼女らはポジティブでノリと勢いがある。
困難な任務を委ねられても、折れるどころか燃え上がる。
機種転換という難題にも、彼女らならば――。
「バレー部ファイトォー!」
「「「おぉっ!」」」
典子が天に拳を突き上げ吼えれば、忍、妙子、あけびも続けて吼えた。
かくして割当は完了した。
みほは無事に終わったとホッとした様子だったが、優花里はその傍らで不安と意外さ入り混じったような顔をしていた。なぜなら、まだ解決していない問題もあったからだ。
まだ二機足りない。
すなわち、みほと、優花里のATの代わりが無かった。
「それでさ、肝心の西住ちゃんのATどうすんの? それに秋山ちゃんのも」
当然、他の皆もそれに気づいている。
会長が代表して、皆の当然の疑問を口にした。
みほは一瞬、ちらりと優花里の方を見た。
瞳に浮かんだ申し訳無さそうな想いを読み取った優花里は、みほが考えていることを察知した。
果たして、みほの口から出た答えは優花里の予想通りだった。
「私と優花里さんのATは……これから用意します。つまり、作るっていうことです」
――◆Girls und Armored trooper◆
みほと優花里、そして沙織に華、慣らし運転を終えた麻子は床に並べられたATのパーツの群れを前にしていた。元はヒバリさん分隊のライアットドッグや、左衛門佐のスコープドッグに、おりょうのホイールドッグ、カエルさん分隊のファッティーに、杏と柚子のトータス、桃のダイビングビートル、そして優花里のゴールデン・ハーフ・スペシャルだ。それら全てがバラバラに分解されて、使えるパーツだけが並べられている。
既に日は落ちているが、辺りにはまだ喧騒が木霊している。
他の大洗装甲騎兵道チームのメンバーたちも、機体の修理やカスタマイズ、慣らし練習や特訓に没頭している。校則にうるさいそど子たちですら規則を忘れて練習に明け暮れているのは、皆が必死になっている証だった。
ただの勝ち負けの問題ではない。この学校の存亡がかかっているのだから。
「……みんな、ごめんね。みんなの練習の時間を」
みほが申し訳無さそうに言いかけたのを、沙織が掌で口を塞いで制した。
「いいのいいの。だって私達がやりたくてやってるんだもん」
「みほさんたちだけに辛い思いはさせません。わたくしたち、仲間ですから」
「むしろ私は未だに西住さんがタイプ20を使うべきだと思っているんだがな」
皆が口々に言うのに、みほは
仲間か、なにやら照れくさい。今更ながら、そうハッキリと言われたことに胸が暖かくなる。
「わたくしは感激しっぱなしです! 西住殿がわたくしを作業のパートナーに選んでくれてたなんて!」
優花里はと言えば癖っ毛をもじゃもじゃと掻き回して、体いっぱいで感激を表現している所だった。
当初、みほは優花里と二人で協力して互いのATを
優花里もまた自機を失い、そしてかつてATを一人で組み上げた実績を有している。
みほにとって、今回の作業の相方として、これほど頼もしい相手もなかった。
「でもゆかりんだけがこっそりみぽりんとデートとかズルいもんねぇ~」
「みほさんはみんなのみほさんですから」
「抜け駆けはなしだな」
そんなみほ達を見るに見かねた沙織、華、麻子が自分たちの練習時間も投げ打って、みほ達に加勢を申し出たのだ。それを見て他の分隊からも私も私と手伝いを申し出てきたが、これは流石にみほが断った。
あんこう分隊の事情のために、他の分隊の都合を邪魔できる余裕は、今の大洗にはない。
沙織達に手伝ってもらうことすら、みほの心のなかには壮絶な妥協があったのだから。
「よっしゃ!」
沙織が、気合を入れるためか両手のひらで軽く、自身の頬を叩いた。
「それじゃあ始めちゃおうか!」
かくして、改造の時間が始まった。