将吾と加奈が理科室から出た後、二人は音を立てないように気をつけながら職員室に向かっていた。
「先輩は…凄いですね…」
「何がだ?」
「こんな状態になっても…冷静で…慌てないんなんて…」
「…こんな状態だからこそ冷静じゃなきゃダメなんだよ…慌てた奴から死んじまうんだから。……それに…俺は生き残んなきゃいけねえんだ…アイツと約…」
最後に何かを言おうとしたのと同時に、
「っ来るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
誰かの叫び声が聞こえた。
「先輩!?」
「今の声は職員室の方からか!チッ!新田急ぐぞ!!」
将吾は急に走り始めた。
「え!せ、先輩!!」
加奈は急に走り始めた将吾についていく為にバックを肩にかけながら走り始めた。
「右は任せろ!」
職員室前に居合わせた4人の一人『毒島冴子』が言うと、
「麗!」
「一番左は私が押さえるわ!」
ドコ!ドコ!
『小室孝』と『宮本麗』はその言葉に合わせて動き〈奴ら〉を倒した。
だが…
「ああ…」
目の前の角から更に〈奴ら〉が2体出てきた。
「チッ!」
誰よりも先にそれを見た冴子は小さく舌打ちをして〈奴ら〉に向かって動こうとしたが、
ゴツ!
「なっ!?」
角から出てきた〈奴ら〉の一体の頭に何かがあたり毒島は動きを止めた。
ユックリと倒れていく〈奴ら〉を見ていると、何かが飛んできた方からか誰かが走ってきて、
バァ!
着ていた制服の上着を脱いでもう一体の頭に向かって投げた。
投げられた上着は〈奴ら〉の頭に掛かり顔を包んでいき、
「ウオォォォラァァ!」
男が飛びながら上着に包まれた〈奴ら〉の頭を掴み、右膝を上着越しから頭に叩きつけ、右膝を付けたまま地面に頭を叩きつけて頭を潰した。
「さて!残りは後…」
男は直ぐに〈奴ら〉から手を離してと立ち上がりながら先程投げたものを手にとって構えながら周りを見て動きを止めた。
「毒島…それに宮本…」
そこにいたのは毒島と同じクラスの村田将吾だった。
「毒島…それに宮本…生きてたのか…」
将吾は周りを見て少し驚いた。
職員室の前には6人の生存者がいて、しかもそのうちの2人は自分が知っている奴らだった。
「村田君も…」
毒島は将吾だと分かり声を掛けようとしたが、
「先輩!」
角から誰かの声が聞こえ冴子は声を止めると、
「ハァハァ…先輩…私荷物…ハァ…持ってるんですよ…もう少しユックリ…」
角から息を上げながらショルダーバッグを持つ新田が出てきた。
「あ…わりい…」
将吾は思い出したように新田の方を見て小さく頭を下げた。
新田はそれを見て小さく息を吐きかけたが、
「!?沙耶お姉ちゃん!」
血塗れになった『高城沙耶』を見て直ぐに高城の元に行き、バックからタオルを出して高城の顔を拭き始めた。
「あ…あ…うぁ………」
高城は新田の行動で張り詰めていた緊張が切れて、新田の胸の中で泣き始めた。
ガッ!ドサッ!
「フゥ…こんなもんでいいかな…」
「やはり君は凄いな…」
「?何がだ?」
「…棚とか机とか…かなり重いものを軽々持ち上げて一人で動かしたじゃないですか…」
「ああ…力には自身があるからな。ここら辺にある棚なら中身を出せば持ち上げることは可能だな…さて…」
カチッ!
タンクトップ姿の将吾は毒島に応えながら、スボンのポケットに手を入れタバコを取り出し口に加え火を付けて一服し始めながら、
「ああ…やっぱコレは着れねえよな…アイツラの血の匂いが染み付いてやがる…」
頭を潰した時に使った上着を手で掴みながら確認し、
ザッ!
丸めて近くにあったゴミ箱に捨て、
「何か着れるのあるかな〜」
職員室のロッカーを漁り始めた。
「スゴイな…村田先輩…」
「あの身体…日本人離れしすぎたよね…」
村田の腕を見ながら小室と平野は少し顔を引きつっていた。
タンクトップから見える将吾の身体は無駄が無く引き締まっていて、同年代の身体とは思えない程。
それを見た二人は自分達の体を見るが…
「「……」」
将吾との余りの差に二人は下を向いたが、
「村田君と比べても意味ないわよ」
宮本は下を向く二人に言い、
「彼はある意味規格外の塊…」
更に言おうとしたが、
「規格外言うなや。俺は普通の人間だ」
将吾はロッカーを漁りながら宮本に言った。
「授業でしか柔道をやったことない普通の生徒が柔道三段の腕前を持つ柔道部の顧問を授業中に投げて失神させないわよ」
「ありゃ偶々だ…俺のことナメてたし、それに、二日酔いだったからな。お!いいの見っけ!」
将吾はロッカーからパーカーを取り出して羽織って袖を捲り、近くにあった椅子に座って、
「それよりも…この二人誰?」
小室と平野を見ながら言った。
「そういえば自己紹介がまだだったな…鞠川校医は知っているな、私は毒島冴子3−Aだ」
「小室孝。2−Bです」
「去年剣道の全国大会で優勝した毒島さんですよね。私は同じ3年で槍術部の3−Cの宮本麗」
「2−Bの平野コウタ…」
「俺は毒島と同じ3−Aの村田将吾だ」
「よろしく」
将吾の自己紹介の後、皆に向かって毒島は笑顔を見せると、
「!?」
平野はその顔を見て表情を緩ませたが、
「何ニヤニヤしてんのよデブヲタ!!」
「眼鏡!」
直後、給湯室から出て来た高城を見て、ギャップの姿に興奮し更に表情を緩ませた。
「五月蝿いわね!やたらとコンタクトがズレるのよ!!」
高城は声を張りながら新田と出てくるが、
「嬢ちゃんそう声を張んな。その声でアイツ等が来ちまうぞ?」
「そうだよ沙耶お姉ちゃん…もう少し小さく…」
「ウッ…分ったわよ…」
将吾と新田の言葉を聞いて、高城は表情を少し歪めながら小さな声で応えた。
「なら…自己紹介の続きだ。と…言っても後は二人だけだがな」
村田はそう言って高城と新田を見ながら言うと、
「2−Bの高城沙耶よ…」
「1−Cの新田加奈です」
二人は小さな声で言った。
「これで自己紹介は終わったな。さて…これかオマエ等はどうすんだ?」
新田の自己紹介が終わった後、将吾は新田以外の者を見て言った。
「どうするというのは?」
「俺と新田はここにある車の鍵をパクって、車使って学園から逃げる気なんだが?」
「僕達も同じです。僕達は学園から出て家族と会おうと思っています」
「そうか…なら「嘘でしょ?」?」
村田が小室に答えようとしたが、宮本の声に反応して応えるのを止めて宮本の方を見た。
宮本は上の方を見て驚愕の表情をしながら何かを見ていた。村田は宮本が見ていたものを見ると、
「!?マジかよ…」
村田も表情を一変させた。
『…アメリカではホワイトハウスを放棄。ロシア、モスクワとの通信は途絶と……』
二人が視たのはテレビだった。
二人はそれが直ぐに同じことがここだけでなく、日本全土、世界中で起こっていることが分かった。
「……そんな…………でも…直ぐにいつも通りに戻るわよね?」
宮本は不安な表情を浮かべながら小室に言うが、
「なるわけないし」
その言葉を高城の言葉が両断した。
「そんな言い方するなよ!」
「パンデミックなのよ!仕方ないじゃない」
「…パンデミック!?」
「パンデミックが世界中にですか!?」
高城の言葉に鞠川、新田は表情を一変させた。
「パンデミック?」
「何だそりゃ?」
「感染爆発のことです。それが今世界中に起こっているんです」
「インフルエンザみたいなものか?」
「1918年のスペイン風邪がまさしくそう。感染者は6億以上、死者は5000万以上になったんだから、最近だと新型インフルエンザで大騒ぎになったでしょ」
「どちらかというと…14世紀の黒死病に近いかも」
「確か…その時はヨーロッパの人口の1/3が死んだんですよね?」
「ええ…そうよ」
「どうやって病気の流行は終わったんだ?」
「色々考えられるけど……人が死にすぎると、大抵は終わりよ…感染すべき人間が居なくなるから…」
「でも…死んだ人間が襲ってきてるよ」
「拡大が止まる理由は無いか…」
平野と毒島の言葉に、自分達が置かれた絶望的な状況に職員室には暗い空気が漂いかけたが、
「んな話をしてても仕方ねえだろ…」
将吾だけは表情を変えることなく全員を見た。
「俺達は医者じゃねえんだ。そんな話をしても何かできるわけでもねえ…今やることは生き残ってここから出ることだろ?」
「フ…確かにそうだな」
毒島は将吾を見ながら小さく笑い、
「今はここから出て家族の安全を確認した後、どこに逃げ込むかが重要だな」
ここにいる者達全員を見ながら、
「ともかく、好き勝手に動いては生き残れまい。チームだチームを組むのだ」
言った。
その言葉に反対するもは誰もおらず、全員が各々準備を始めた。