「え、今吹いたの時津風?」
「うん」
剣のように構えたピッコロを口に当て、甲高い音色を響かせる。
「お前、吹けたのか?」
「なんとなく吹いてみたらできたー」
褒めて褒めてと言わんばかりに善吉に頭を押し付ける。それを撫でながら他の艦娘に目を配る。
今度は空気を震わせる低い音色が部屋に広まる。その音色を元に視線をやると、慣れた手つきでコントラバスを演奏する武蔵の姿があった。
「武蔵もか?」
「あぁ。どうやら軍艦だった頃の観艦式の記憶か、軍楽隊の記憶だか分からないが、弾けるみたいだ」
「私もバイオリンを握った時に、不思議なくらいしっくりと来ました」
大和も弓毛を弦に滑らせ、美しい音を披露する。善吉は驚いた顔をしたが、すぐにニヤリとする。楽器の吹き方を教えるのに二日はかかると考えていたが、これならギリギリではあるが、立派なオーケストラが作れると感じた。
「よし、それならみんなパートに分かれて――どうした秋月」
言いかけた善吉の視界に、暗い空気が漂う一角が映る。
秋月型の三人が身を寄せ合い不安な顔をしていた。
「実は……」
照月が言いにくそうな顔をしていたので、善吉は近づいて耳を傾けた。
「照月たち、あんまり楽器の記憶がなくて……。照月と初月は少しなら吹けるんだけど、特に秋月姉はほとんど覚えてないみたいで……」
「申し訳ないです……」
秋月はしょんぼりと肩を落とす。それを善吉は笑い飛ばし、なんてことないように振舞う。
「いや、言ってくれて助かった。元々一から教えるつもりだったんだ。気にするな。他に楽器について何も分からないやつはいるかー?」
善吉の掛け声に、誰も手を上げなかった、しかし、善吉の眼には明らかに汗をだらだらと流し目をキョロキョロとさせる艦娘の姿が映った。
「あーきーつーしーまー。お前できないだろ」
「うっ。なぜ分かったかも……」
秋津洲は苦しい顔を浮かべ、二本のバチを交差させ表情を隠す。その後ろではアイオワがニヤニヤと笑っている。
「……アイオワ、秋津洲のこと任せてもいいか」
「You'r welcome! A to Zで丁寧にTeachしてあげるわ」
「嫌かもぉぉぉ!」
絶叫する秋津洲のことをアイオワに任せるとして、秋月型の三人をどうするか善吉は考えた。三人だけ別で練習してもいいが、照月、初月の二人の楽器は金管楽器、秋月の楽器は木管楽器で、パートが異なるので同時に教えるのは難しい。雪風達にもパート練習に入ってもらいたいし、と頭を悩ませていると、大嵐が善吉に声をかけた。
「人吉君、僕は高校の頃吹奏楽部でチューバをやっていました。ホルンも初歩的なことなら教えられますよ」
「本当ですか!? 助かります! じゃあ照月と初月は大嵐さんに教えてもらって、吹けるようになったら即雪風と島風と一緒にパート練習に入ってくれ。秋月には俺が教えるぜ」
「「よろしくお願いします!」」
ペコリと頭を下げる秋月に頷き返し、改めて全体に目をやる。
「よし、じゃあこれからの流れを簡単に説明する。今日と明日はとりあえず個人練習だ。同じパートの中で弾けるものが出てきたらすぐ集まってパート練習に入ってくれ。四日目までにパート練習を完成させる。そして五日目から七日目まで全体で練習だ。そこでオーケストラを完成させる。かなり厳しいスケジュールだが、俺がなんとかするからついてきてくれ」
善吉の呼びかけに各艦娘が応えた。皆一様に目を輝かせ、己の楽器を愛でるように扱っている。
ここまでは意外なほどに順調だ、と善吉は考えていた。
一番の難所である吹き方、弾き方を教えるという工程が大幅に短縮できたのは有り難かった。しかし同様に、善吉の勘が嫌な雰囲気を感じ始めていた。
上手くいきすぎる時には、必ずしっぺ返しが来るものである。
「まぁそのしっぺ返しを乗り越えれば、万事解決なんだけどな」
しっぺ返しが長門とアイオワに関わることなのか、はたまたもっと別のことなのか、善吉には想像もつかない。
だが今は、この不思議な艦娘達と、オーケストラを作るという使命に集中する他ない。