「なぜ敵艦と共にオーケストラを組まねばならんのだ」
一通りの個人練習を終え、最後に少し合わせようということになった弦楽器組の大和型と長門型の四人。
その合わせも滞りなく進み、一度休憩をとることになった時、長門の口から今日何度目になるか分からない文言が漏れた。
「またその話なの?」
陸奥もまた、今日何度目になるか分からない溜息をつく。
「お前も飽きないなぁ。長門よ」
苦笑いを浮かべる武蔵に、長門は強く食い掛かる。
「武蔵、貴様はいいのか。日本艦として、米艦と共闘するなど」
「米国の艦ではない。普通の艦娘だ。そしてあの時とは状況が違う」
武蔵の冷静な返答にも長門は納得せず、憎しみに満ちた目で部屋の壁を睨む。その向こうにはアイオワと秋津洲が練習している部屋があるはずだ。
「それでも日本艦か!」
「長門さん、この話はここで止めです。かつては敵、今は仲間。それでいいじゃないですか」
大和は静かな敵意を向け長門を見つめる。
大人しい大和をここまで怒らせる程度には、長門はしつこい。流石の長門もそれ以上反論しなかったが、瞳には憎しみの影が消えることなく渦巻いている。そんな長門に、武蔵が詰め寄る。
「……あいつとお前の縁というか、運命についても事情は知っているつもりだ」
「武蔵、止めなさいって」
「大和、これだけは言わせてくれ」
遮ろうとした大和を押しのけ、武蔵は長門に忠告というなの最後通告をする。
「もし、お前がその私情で今回のオーケストラを台無しにしたなら、私は許さないぞ」
武蔵にとって特別に思い入れがある任務というわけではなかった。
それでも、かつての仲間の情けない姿を何度も見るのは気分が悪かった。
それだけ言って、武蔵はコントラバスを部屋の隅に置き、部屋を出て行った。
「ちょっと武蔵、どこいくの」
「今日はもうやめておこう。私も含め、少し頭を冷やすべきだ」
時計の針は午後五時を指している。晩御飯は七時だと善吉が言っていたが、武蔵はそれまで練習するつもりはないようだ。
「もう……武蔵ってば。待ってよ」
武蔵に続いて大和も部屋を出る。二人を見送り、陸奥はどうするべきか、暗い顔の長門を見つめながら考えていた。
「陸奥」
「何かしら」
「私は、間違っているのだろうか」
長門の深刻そうな顔を見ると、陸奥も同じように苦しくなる。
同時に、長門が周りをきちんと見えているようで安心もした。
長門は矛盾した感情に苛まれているのだ。
作戦を遂行するべきという感情と、己の存在を護るための感情。
それはある意味、戦いにも似た問いだった。
その問いには、きっと答えなんてものはないのだろう。
「分からないわ。この問題を解決できるのはたぶん貴女とアイオワだけよ」
「解決か……」
まるで算数の問題のように言われ、長門は呆れたように笑う。
この問いがもし方程式のように、何かを入れることで答えがでるのなら、どれだけ良かっただろうか。しかし、それが叶うことはない。
なぜなら、感情と記憶、それも1人の少女の肩を押しつぶすほどの、悪夢のような事実が、長門の前に横たわっているのだから。
ちょっと短いので今日は11時にもう一話投稿します。