艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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1日目―圧し掛かる悪夢―

「くそっ」

 食事を早々に切り上げた長門は、陸奥との相部屋である自室で一人険しい顔をしていた。

 武蔵との衝突、頭を冷やせと言われたにも関わらずそれができず、食事の場を盛り下げてしまった自分を情けなく思った。極め付けは先ほどのエレベーターでの武蔵との会話だ。

 

****

 

 エレベーターを待っていると、武蔵が歩いてきた。エレベーターの扉が開き、乗り込んでも武蔵は口を開くことはなかった。そのままエレベーター内で長門の隣に立ち、無言のまま立ち尽くしていると思えば、不意に呆れたような溜息を被せる。

「まだ苛立ちが出ているぞ」

「……分かっている。しかし、どうしようもない」

 拗ねたような長門に、武蔵は鼻と鼻がくっつきそうな距離で顔を突き合わせてきた。

 長門自身もかなり背が高い方だが、武蔵の方が少し高い。その分、その行為は威圧的に感じられた。

「今のお前はまるで子供のようだぞ」

「……! うるさいっ!」

 食ってかかる長門の後ろの壁に、武蔵は勢いよく右手の平を叩きつけた。エレベーターがぐらぐらと揺れたが、幸いにも止まるようなことはなかった。

「――何をする」

 長門は後ずさろうとしたが、後ろは壁である。仕方なく、敵意を含めた視線を武蔵に向ける。武蔵はそんなものは全く意に介していない飄々とした雰囲気で会話を続けた。

「貴様は日本艦、日本艦と騒ぎ立てているが、その実貴様が縛られているのは歴史であろう」

「それがなんだ」

「貴様は確かに日本の戦艦だ。しかし貴様を日本艦足らしめているのはその反吐の出るような運命だけなのか、と言っているのだ」

「――どういう意味だ」

「貴様で考えろ。日本艦、いや艦娘としての矜持を」

 武蔵がそう告げると、丁度エレベーターは五階に到着した。武蔵はそれ以上何も言わずその場から去っていった。

 残された長門は、苦しい表情でその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 

****

 

 部屋に帰ってきてからも、武蔵の残した言葉がグルグルと頭を渦巻いている。

「こんなことになるのなら来るのではなかった……」

 今回の仕事について全容を詳細に訊かなかった自分にも落ち度があるとはいえ、細かいことを言わなかった提督にも腹が立った。その怒りがお門違いだという自覚も少なからずあったが、そう思わずにはいられなかった。

 しかし、一度受けた仕事を投げ出すという考えは長門にはない。

 ただ明日からの練習を思い胃が痛くなるだけであった。

 枕に顔をうずめる。そうするとストレスが少しは和らぐような気がした。そのままウトウトと意識が遠のき、暗い世界に意識が飲み込まれていく。

 浅い眠りに落ちてからどれほど時間が立っただろうか、外の世界からの声が聞こえてきた。

(廊下……か?)

 部屋の外から聞き慣れた声が微かに聞こえる。それは陸奥と大和のものだ。

「明日からの練習どうするのかしら」

「本当ですね。武蔵も長門さんも気まずくて練習にならないと思うんです」

(そんな気遣いは無用だ……任務に私情を挟む私ではない)

 そう思いながらも、身体が動くことはなく、ただぼんやりとした意識で話を聞いていた。

「練習になれば問題ないと思うんだけど、雰囲気は悪くなる一方よね。いっそのこと明日は個人練習にでもする?」

「でも五日目の合同練習もありますし、合わせた方が良くないですか?」

「まだ時間はあるわ。善吉君の考えている予定なら明後日からが本来パート合同練習の予定でしょ? 私達はパート練習に関しては今日でほとんど終わりが見えたし、明々後日までには流石に終わらせられるわよ。それに今日の個人練習なんて全員すぐに吹けるようになったからパート練習にしたけど、まだ各々見直すところはあると思うの」

「そうですけど……」

「じゃあ、私と長門、大和と武蔵で分けましょう。その間に私たちで二人を説得するの」

 大和の言葉が詰まる。何か考え込んでいるようだ。

「――それでもかまいませんけど、説得する、というのは無理だと思います」

「やっぱり?」

 陸奥も同様に考えていたようで、呆れ笑いが廊下から聞こえる。声が重なって聞こえるので、おそらく二人とも笑っているのだろう。

「とりあえず明日の練習は別れてやりましょう。もう遅いわ。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

 その少しあと、部屋の扉がガチャリと開いた。既に意識が半覚醒していた長門は慌てて枕に顔をうずめ陸奥に見られないように隠した。

 陸奥は眠っている長門に気づいたのか、足音を忍ばせた。陸奥が次にどんな行動をとるのか、必死に想像を働かせていた長門は、唐突にぽすんとベッドが沈んだことに驚き、身体が動きそうになったがなんとか抑えた。内心で安堵の溜息をつくと、長門の頬に暖かい手が触れる。

「長門、アイオワも練習を頑張ってるって。秋津洲ちゃんが皆に精一杯アピールしてたわ。今朝集まった時は誰とも話さなかった秋津洲ちゃんよ? あなたも分かってるんでしょ」

(――分かっているつもりだ)

「はやくなんとかしないと、あなたが居づらくなるわ」

(それも、分かってる)

「頑張ってね」

(……頑張る)

 陸奥は独り言を言いすっきりしたのか、シャワーを浴びに離れたようだ。シャワールームから水滴が壁に当たる音が聞こえる。

 不規則なようで規則性を感じるその音は、長門を再び眠りに誘う。

(分かっているさ、もちろん)

 心で呟いたその言葉が頭で何重にも重なる音となって響く。その言葉の間に身を滑り込ませ、長門は再び眠りについた。




今日も11時にもう一本投稿します。
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