艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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2日目―希望と望む朝食―

「おはようございます善吉君、もう皆さん朝食を済ませて練習を始めてますよ」

 和洋中の料理が並ぶラウンジで、大嵐はニコニコと笑顔で善吉たちを迎えた。

 その笑顔の裏には、皆が既に練習を始めているのにお前はなにをしているんだ? という意味が含まれていそうで、善吉は少し怯えていた。

「おはようございます、朝食をとったらすぐに練習に移りますんで……」

 粛々と挨拶をすませ、テーブルに向かう。雪風たちも一緒だ。

「わーたくさんある! 何にしよっかなぁ」

「あと数日食べる機会はあるんだから、あわてんなよ」

「わーかってるぅ」

 そう言いながら、時津風は雪風の手を引いて料理の群れに飛び込んでいった。

「天津風は行かないのか?」

「和食……洋食……中華……」

「――考え過ぎんなよ」

 ぶつぶつと呟きながら鋭い視線を料理に向け、何かを計算している様子だ。善吉は大きな炊飯器からご飯と、味噌汁、焼き魚等をトレイに載せテーブルに戻る。

 常日頃から朝はご飯と決めているので、こういう時悩まずに済むのは楽だった。

「朝から中華というのは少し……、ご飯かパン。どっちが正解?」

 さっさと朝食をテーブルに並べていると、隣に微動だにしない天津風の姿がうかがえる。

 誰に答えを求めているわけでもなく呟く姿に、善吉は心配になった。

「まだ考えてんのか」

「はい、天津風の分のご飯とってきたよぉ」

 時津風は小さな体で器用にトレイを二枚持ち、一つを天津風の前に置く。そのトレイにはご飯とクロワッサンが並べられ、端にひっそりと立つ野菜ジュースの三原色が目に痛い。

「おかずがねぇな……」

「バランス……」

 善吉と天津風が顔を青くしている一方、雪風と時津風は朝食をガツガツとかきこんでいる。

「ちょっと時津風! なんで私がパンとご飯の炭水化物コンビであんたがクロワッサンにヨーグルト、エッグタルト、ポテサラのバランス良い朝食なのよ!」

「好きかなって」

「好きだけど!」

 不憫に思った善吉が味噌汁を天津風のトレイに載せる。それを見ていた雪風が自分のフルーツヨーグルトを天津風のトレイに載せる。

「あ、ありがとう」

「別に朝食を取ってくるぐらいでそんな、大げさだよぉ」

「あんたには言ってない!」

 時津風と天津風がギャーギャーと騒ぐ隣で、善吉と雪風は黙々と食事を進める。

「そういえば善吉、秋月さんは今どうしてるんですか?」

「あっ忘れてた。自主練してると思うけど、早く行かないとなぁ」

「島風と照月たちも仲良くやれてればいいんですけど」

「島風に仲良くっていう考えはないと思うなぁ」

 時津風が口をもぎゅもぎゅとさせながら呑気に話す。

「そうね、島風が勝手に先走ってそれに皆がついていく、いつもそんな感じよ」

 天津風はクロワッサンに手を伸ばしてきた時津風の手をぴしゃりと制止し、味噌汁をすする。渋々時津風はクロワッサンのおかわりを取りに行った。

「へぇ、島風について詳しいんだな。付き合いが長いのか?」

「まぁね。今は違うけど昔は同じ鎮守府だったし、出逢って2年以上経つわ。昔のことも考えたら、島風は私をもとに作られたみたいなものだから、姉妹艦じゃないけど親戚みたいなものよ」

「姪っ子みたいな?」

「私が叔母さんってことになるけど……まぁそんな感じかしら」

 天津風が神妙な顔をしている。叔母さんという表現が気に食わないらしい。

「改めて艦娘っていう存在に驚くぜ。昔の軍艦の記憶を引き継いでいるとか、よくあるライトノベルのファンタジー物みたいだ」

「ファンタジー……ね。そんなに可愛いものでもないけど」

 天津風の苦い顔から、善吉はあの艦娘と苦い会話を思い出した。

「お前たちもアイオワのことが……嫌い、なのか?」

「私はそうでもないけど、やっぱり苦手な子がいるのも当然よ。というか、こういう話をするなら私は雪風の話が聞きたいわ」

「ゆ、雪風にですか!?」

 朝食を頬に詰め込んでいた雪風は、話の矛先が自分に向くと考えていなかったのか、慌てて野菜ジュースで頬に貯めていたものを流し込み、会話できる体勢を整える。

「なんで雪風なんだ?」

「雪風は数少ない大戦を生き抜いた艦だから、そういう話の説得力があるのよ」

「そいつは……すごいな」

 雪風は照れているような、上手く言葉を紡げないような困った表情を見せる。

「ちなみに長門さんもね」

 善吉はそれをアイオワから聞いていた。その後の話も。

「雪風は、アイオワさんのこと、嫌いじゃないです」

 絞ったような声は、しかしはっきりとした意志を持っている。

「雪風は当時、多くの戦闘に参加しました。同時に多くの仲間が……沈んでいくのを見ました」

 時津風はまだ戻ってこない。

「あの頃は、ほんとに目まぐるしくて、気が付けば陽炎型は私一人、他の仲間もいなくなっていた、という気がします。でもそれはアイオワさん達も同じだと思います。戦争にあるのは『勝ち負け』だけじゃなくて、『生き死に』も同時にあって、むしろその方が私には大きかったです。戦争の『勝ち負け』で言えば日本は負けましたが、『生き死に』では戦争に参加した国全部の負けです。アイオワさんも、大切な仲間を失っているはずです。痛み分け、というわけじゃないですけど、せっかくこの身体を手に入れたんです。雪風は全ての人、艦娘が仲良くなればいいな、と思ってます」

 雪風の話に善吉と天津風が聞き入っていると、時津風が足早に戻ってきた。トレイにはあふれだしそうなほどの料理が載っている。

「こらぁ! 雪風いじめたらダメ!」

「苛めてないわよ。あ、そのフレンチトースト美味しそう。貰うわよ」

 ひょいっと時津風の皿から自分の口に運び、にんまりと笑みを浮かべる。

「ちょっと! それ私の!」

「まだ1枚あるじゃない」

「これは雪風の分なの! もう」

 時津風は頬を膨らましながらも、トレイの上のフレンチトーストを雪風の口に押し込む。雪風はもごもご言いながら抵抗するが、すぐに抵抗を止め、固まっていた表情に柔らかさが戻ってくる。

「美味しいわね、雪風」

「はい、本当に。美味しいです」

 天津風の言葉に、雪風はゆっくりと頷く。それを見た時津風は悔しそうに地団太を踏み、再びテーブルを離れた。

「もう一回取ってくる! 善吉は?」

「おう、頼む」

 パタパタと慌ただしく動き回る時津風を眺めながら、雪風がぽろりと零す。

「長門さんとアイオワさんが険悪にしてると、あの頃を思い出しそうになります――だから、二人には仲良くしてほしいです」

「……まったくだ」

 善吉がニヤリと笑い、それを見た雪風と天津風も微笑みを浮かべる。

 状況を理解できない時津風だけが、1枚の皿にフレンチトーストを4枚載せたまま首を傾げていた。

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