艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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謎の発熱(40℃)により更新が滞っておりました。
その分投稿回数を少し多めにします。


2日目―金管楽器組―

 大嵐は金管楽器組の練習を監督していた。彼の前には2人の少女が座り、楽譜を眺めながら音色を奏でている。その音色は昨日と比べると大分美しいものになっていた。

 二人が演奏している間に、大嵐は気が付けば、2人の少女うちの1人、照月に視線がいっていた。決していやらしい意味ではなく、照月の性格や容姿が、大嵐の胸に引っかかる何かがあったのだ。

「大嵐さん?」

 照月の言葉に、大嵐はハッと我を取り戻す。

「あ、あぁ。とりあえず楽譜通りに吹けるようにはなったね。飲み込みが早くて助かるよ」

「いや、これも大嵐さんの指導のおかげです。ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げるもう一人は初月。照月の妹であり、礼儀が正しく切れ長のまつげは凛々しさを漂わす。

「それはどうも。お昼を食べたら雪風さんたちと合流して練習しましょう」

「はい……」

 大嵐の言葉に2人の顔は曇る。二人は自分の演奏にまだ自信が持てないようだった。

「そんなに暗い顔をしないでください。きっと雪風さんも島風さんも驚きますよ。昨日と比べたらすごく上手ですし」

 なんとか二人のモチベーションを上げようとするが、二人は暗いままだ。暗い顔の照月を見ていると、大嵐の脳裏に、涼香の言葉が蘇ってきた。

「演奏に重要なのは技術だけじゃなく、相手を楽しませる気持ち、そして自分も楽しむ余裕、です」

「そう、なんですか?」

「らしいですよ。昔、妹が言ってました」

 妹、という単語に照月は目を輝かせる。同時に大嵐はしまった、と思ったが一度口にしてしまったもので、変に訂正することもできない。仕方なくそのまま会話を続ける。

「妹がいるんですか? どんな子ですか!?」

「あはは、照月さんに似て明るい子で同じくチューバをやってました。僕につられて始めたのに、いつの間にか僕より上手くなってたり、可愛くて憎らしい妹で」

 それより大嵐は照月が妹という言葉にやけに強い反応を見せることを疑問に思った。

 大嵐が困った顔をしていると、初月が助け船を出した。

「姉さんは、僕の方が大人びてるとか文句ばっかり言ってるんです。要は本当に妹みたいな存在が欲しいって、昨日の夜もそのことを遅くまで話してましたよ……」

 呆れた表情の初月に、照月が眉を顰める。

「そうやって大人な対応して。ほんとに妹なの?」

「姉さんが子供っぽいだけじゃないか……」

「なにか言った?」

「何でもないです」

 そんな会話をする二人に、大嵐は笑いを堪えられなかった。

「大嵐さんまでそんなに笑って。酷いです」

「いや、僕の妹にそっくりだなって。小さなことに一生懸命で、すごく明るいところとか」

「明るい? ま、まぁその通りですけど」

 一瞬で機嫌が良くなる照月に、大嵐は特徴にこっそりと単純なところも付け足しておいた。

「妹さんのお名前は?」

「涼香、って言います。涼しい香りと書いて、すずかです」

「うわぁ! 私のもう一人の妹の名前と似てます! 涼月って言うんです。涼しい月ですずつき。私のもう一人の妹で、初月のもう一人の姉なんです」

 照月は秋月型駆逐艦の二番艦、初月は四番艦だ。その間の三番艦が涼月、ということらしい。

「涼月さんは今回の任務にはいないんですか?」

「えっと、実は『いない』んです。艦娘になってない、というか」

 初月が暗い顔をする。まるで聞いてはいけないことだったように。

 慌てて大嵐は話題も変えようとした。しかし、それが大きな過ちだった。

「そうなんだ。『涼香と同じだね』」

 言った後、大嵐は頬を強張らせた。大きな過ちを犯したことが明白だった。

「涼香さんもなんですか。 いつになったら会えるんですかね?」

 照月は何も考えず、明るい声で返す。

 しかし、初月は違和感を感じ、その違和感に気づいた時、背筋が凍りそうになる。

「それは……」

「いつか会えると思うんですけど、タイミングとかは分からなくて――」

「照月姉さん!」

 初月の悲痛な呼び声に、照月は肩を竦める。

「ちょっと初月、いきなり大声出さないでよ」

「いいから姉さん」

 会話が断ち切られた瞬間、大嵐はドアに向かって足早に向かっていった。後ろを振り返ることなく、ただまっすぐに歩を進める。

「あれ、大嵐さんどこに」

「午前の練習は終了だよ。お昼食べたら雪風さん達と一緒に練習してね。暇があったらまた見に行くから」

 二人の返事も聞かず、大嵐は姿を消した。

 残された部屋には、気持ちの悪い空気が流れていた。

「ど、どうしたんだろね。大嵐さん」

 不安げな表情で初月に尋ねた照月は、複雑な表情で俯く妹の姿に、自分がとんでもないことをしでかしてしまった事を察した。

「姉さん、僕たちは艦娘で、今は会えなくても、きっとこれから涼月姉さんに出会うだろう。だけど大嵐さんの妹の涼香さんは人間で、それが今いないってことは――」

 そこまで話が進み、照月も話を察する。それがこの気持ちの悪い空気を作っていることにも気づく。

 『まだ』いない、と、『もう』いない、では大きく意味が異なる。

「――涼香さんは既に『亡くなっている』?」

 照月の呟きは、広い部屋で不自然なほど大きく響いた。

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