「僕の村を襲ったのが深海凄艦で、僕を救ってくれたのが艦娘だった、という話です。だから、その恩返しではないですけど、艦娘の皆さんに関わりたいと思ったのです。あわよくば助けてくれた艦娘にお礼を言いたいんです。それが誰なのか、どうにもこの事件は海軍内でも機密性が高いものの一つに入るみたいで、調べてみても分からないんですけどね。唯一分かってる夕雲さんには今回会えそうにないですし」
「そんなことが、あったんですね」
「だから善吉君の疑問の一つ、『詳しすぎるんじゃないか』という疑問には、『詳しすぎる』としか答えられない。当然です。命の恩人ですからね、調べました。そこに貼ってある切り抜きは、海軍関係者のみに配られる新聞の切り抜きです」
「それってある意味機密情報なんじゃ……」
「黒神グループの力を使えばこれくらいはできます」
ようやく本来の笑顔を取り戻し始めた大嵐は、切り抜きの一枚を手渡す。
「これが僕の島が襲われた時の記事です」
その見出しには、生存者一名、村一つが壊滅、という衝撃的な文言が載っていた。その下には細かい記事が続いていたが、艦娘らしい名前はやはり書いていなかった。
「この記事、事件については書かれていますけど艦娘については何も書かれていない気がします」
「はい。その頃はまだ艦娘が海軍内でも上層部含む関係者のみ知る機密扱いだったみたいです。逆に言えば、この事件をきっかけにそれ以外の海軍、そして大衆に公表されるようになりました」
さらさらと記事を読む。その中でも善吉は一枚の写真に目が奪われた。
遠目からなのか少しぼやけているが、その禍々しさは十分に伝わってくる。
どうやらその敵艦隊のボスで、新種の深海凄艦のようだ。
善吉は禍々しさを感じると共に、小さな既視感を得る。
どこかで見たような、そんな違和感を抱えながら、記事の一文、その新種の深海凄艦の名前が印象に残った。
「そんなこんなで、少し艦娘の皆さんとの距離感が難しくて。明日からは気を付けます。照月さんにも謝らないとですね」
大嵐が眠そうに欠伸をしたのが見え、善吉は新聞を返す。
時計を見ると、既に十二時近い。窓の外は黒一色だ。
「すいません。こんな遅くまで。俺も色々すっきりしました。明日からもあらためてよろしくお願いします」
「はい、こちらこそすいませんでした。話を聞いてもらって少し楽になりました。よろしくお願いします」
互いにペコペコと頭を下げあい、善吉は部屋を出て行った。
善吉が部屋を出て行ってからしばらくの間、大嵐は記事をジッと見ていた。
記事というよりは、一枚の写真を。
「――防空棲姫」
呟いた言葉は、善吉に不思議な印象を与えた名前だった。
大嵐は記事を壁に再び貼り、大きなため息をつく。
抑えきれない憎悪が、それに含まれているようだった。