「はいお疲れさん。初めてにしては良い演奏だった。まだ少し音がぶれてるところもあるけど、それは追々って感じだな」
気持ちの良い疲労感に、善吉は大きく伸びをした。
「すごいかも! すごいかも! 今までで一番良かったかも!」
「イエース! 最高にグッドでしたヨ!」
「すごい良い演奏でした。秋津洲さんのティンパニがすごく元気で、それで――」
「雪風さんこそ! 金管のみんながすごく楽しそうに演奏してるの見てたら、すごく良いリズムが出せたかも! すごいかも!」
秋津洲は嬉しそうに飛び跳ね、雪風に抱き付く。戸惑う雪風だが、まんざらでもなく嬉しそうに抱き付き返す。
秋津洲は島風、照月、初月全員に同じように抱き付き、喜びを伝えた。
それを可笑しそうにクスクスと笑いながら善吉とアイオワは眺めていた。
「いやぁほんとに凄かったかも! 善吉の言った通り、初めてなのにすごく……初めて……初めて?」
そこで秋津洲は、自分がほぼ初対面であった四人に似合わない激しいスキンシップを取ったことをゆっくりと理解し、恥ずかしさのあまり再びアイオワの後ろに隠れてしまう。
「うぅ……アイオワさんのスキンシップ癖がうつったかも……」
「でもMeは今のアキーツの方が素直で好きですヨ」
悪戯っぽいウインクを送り秋津洲をからかう。
アイオワの計画通り、雪風達が秋津洲に大切なことを教えてくれたことが、そのきっかけをくれたことが、とても嬉しく思えた。
「秋津洲さん、すごく良かったです。またお願いできますか?」
初月の言葉に、秋津洲は頷く。それだけで十分だった。
「『ミニ』オーケストラって感じだな」
善吉もまた、秋津洲の成長を嬉しく思い、これから先の演奏が楽しみになった。
「ではOne more time。もう一回やりますカ?」
「そうするかも!」
秋津洲の言葉に呼応するように、グーという音が室内に響いた。
「おいおい秋津洲。素直になったのは性格だけじゃないようだな」
「あっ、いやっ、これは違くて……」
顔を真っ赤にする秋津洲を見て、善吉は憚ることなく大声で笑った。
「そういえばMe達まだお昼食べてないネ」
「雪風達もおやつ食べに行く途中でした!」
「じゃあみんなで食べに行きましょうカ」
「そうするかも……」
恥ずかしさで俯く秋津洲の手を、誰かが取った。それは秋津洲より小さく、細い。
「はやくー。行こ」
島風が秋津洲を引っ張り、秋津洲はそれに引きずられるように進む。
「島風さん! 引っ張ったらダメですよ! 焦らなくてもおやつは逃げませんから」
もう片方の手を雪風が取り、秋津洲の隣を歩く。その後ろに照月と初月が続く。
「これも計画通りか?」
「No No。嬉しい誤算ってやつデース。Kidsのああいう素直なところ、すごくいいと思いマース」
善吉とアイオワが落ち着かない足取りの秋津洲を温かい目で眺める。
子の成長を見守る親のそれと相違ない。
「アイオワさーん。はやく行くかもー」
「off course!」
照れながらはにかむ秋津洲に呼ばれ、アイオワは扉に進む。
「ゼンキチはどうですカ?」
「俺にはまだやんなきゃいけないことが残ってるんでな。んじゃまたな」
「……sorry」
「あのことだけじゃないし、気にすんなって。お前も一人で背負い込むのやめろよ。そういえば、地下の防音室にもう一台ピアノがあるんだった。そっちも好きに使っていいからな」
誰にも聞かれたくない演奏するんならな、と小さく付け足し、善吉は手を振った。
アイオワは少し悲しい顔をした後、また笑い手を振り返した。