艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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5日目―全体練習の幕開け―

 今朝はいつにも増して起きるのが億劫に感じられた。

 長門は既に身支度を済ましてテレビのチャンネルを回す陸奥を眺めながら、いまだ起きる気になれずにいた。

 この任務についてから、寝覚めは悪くなる一方だ。

 倦怠感による睡魔に負けそうになり、再び目が閉じそうになったとき、陸奥と目が合った。

「もう、起きてるなら何か言いなさいよ」

「今目が覚めたところだ」

 二度寝のタイミングを失い、仕方なく長門はベッドから降りる。

 首を回せばコキコキという小気味良い音が鳴った。身体の疲れも完全には取れていないようだ。

「はやく支度してね。今日は全体練習なんだから」

「あぁ」

 陸奥は『全体練習』の部分をやけに強調して言う。

 その言葉に顔をしかめながらも、顔にかけた冷水で表情筋を引き締める。

「髪、跳ねてるわよ」

「ん、本当だ」

「動かないで」

 鏡越しに陸奥の姿が映る。

 陸奥は少し呆れながらも、手際よく長門の髪をすくい始めた。

 さすが姉妹艦と言うのか、長門が顔を洗い終わる頃には、長門の髪はいつも通りの美しさを取り戻していた。陸奥に礼を述べ、長門は制服に着替える。

「そう言えば、長門が寝ている間に大嵐さんが来たわ」

「私に何か用か?」

「ううん、艦娘全員にオーケストラ用の服を注文するから、今日の夜サイズを測るっていうのを伝えに来ただけ」

「そうか、てっきり制服で演奏するのかと思っていた」

「まぁ島風ちゃんみたいな子もいるし……」

 確かに、オーケストラでの演奏に島風のような際どい制服は似合わない、というかふさわしくないのかもしれない。

「分かった。晩御飯は食べ過ぎないようにしなくてはな」

 長門の冗談に陸奥はクスクス笑って返す。

 陸奥は久しぶりに長門の冗談を聞いた気がして、少し安堵した。

 すっかり身支度も整い、二人は食堂に向かった。

 全体練習だからなのか、食堂には自然とほとんどの艦娘が揃っていた。いないのは島風と善吉、そしてアイオワだけだ。

 朝食を受け取り、空いてるテーブルを探すために周囲を見渡していると、武蔵がこちらに手を振っているのが見えた。大和も同席している。

「こっちだ、さぁさぁ」

 武蔵たちのテーブルに向かうと、ニヤリと笑う武蔵が二人を迎えた。

 食堂の空気が一瞬にして凍り付く。

 武蔵の周囲のテーブルに座る駆逐艦娘達は話を止め聞き耳を立てる。

 不幸にも一番近い位置に座ってしまった秋津洲は隣に座る雪風に半泣きの視線をぶつけるが気づいてもらえず、ついには石化してしまったように動かなくなった。

「おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「こら武蔵」

 何か意味ありげに言う武蔵を大和が窘めた。

 しかし、その悪態が武蔵と長門にとって曖昧になっていた喧嘩を終わりにするために発せられたものだと長門は気づき、ニヤリと笑い返して応えた。

「まぁまぁだ。おかげさまでな」

「あっはっはっは。それは良かった」

 二人の会話を聞いた陸奥と大和は、一瞬ポカンとした後、ホッとしたような、呆れたような、そんな溜息を漏らし、それからニコリとほほ笑みを浮かべる。

「この調子なら、昨日よりも綺麗に合わせられそうね」

「そうですね」

「それに美味しいご飯がさらに美味しく食べられるわ」

 その言葉は周囲で聞き耳を立てていた艦娘に向けられたもので、その言葉をきっかけに食堂に再び喧騒が戻る。秋津洲も動き始めた。

「皆さん、おはようございます」

 食堂の入り口からの声に目を向けると、大嵐が立っていた。どうやら善吉に頼まれ様子を見に来たらしい。

「善吉君は先にホールに向かっています。アイオワさんも一緒です。――島風さんがどちらに行かれたかご存知の方はいらっしゃいますか?」

「島風ならさっき楽器を持ってどこかに行ってましたよ。たぶん時間には戻ってくるかと」

「それなら問題ありません。では皆さん、今日も頑張ってください」

 それだけ言うと、大嵐はその場から立ち去ろうと背を向けた。その背に照月が声をかける。

「大嵐さん! 良かったら今日の練習見ていってくれませんか。大嵐さんに聴いて欲しいんです」

「…………」

 大嵐は顔をしかめ、少し考え込んだ。

 そして顔をあげる。そこにはぎこちない笑顔が浮かんでいる。

「分かりました。聴かせてもらいます」

「ありがとうございます!」

 照月に頷きかけ、大嵐は再び食堂を去った。

「よかったね。照月」

「うん、姉さん! 頑張らないと!」

「そうだね、姉さん」

 照月と初月の意気込みに後押しされ、同じ木管楽器組の時津風と天津風の二人に熱いまなざしを送った。

「私達も頑張りましょう!」

「言われなくても、当たり前よ」

「まぁそうだよねー」

「もちろん頑張るかも!」

 隣のテーブルに座っていた秋津洲も影響されたのか、隣に座る雪風に言う。

「そうですね、頑張りましょう!」

 ワイワイと騒ぎ出す駆逐艦娘たちを横目に、戦艦達は静かにお茶をすすっていた。

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