艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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5日目―新しい道―

「長門、どうするの?」

 陸奥の言葉に、長門は返事することができなかった。

 何も考えることができず、ただ項垂れて虚空を見つめる。

 部屋に戻ってから、かれこれ一時間はこのままだ。

 目を一瞬でも離したら、長門が消えてしまいそうで、陸奥は長門から目を離すことができなかった。

 長門を見つめながら、椅子に腰かけ頬杖をつく。

 しかし、そんな不安定な状態がいつまでも続くわけもなく、陸奥はいつのまにか意識を失っていた。

「……ん」

 カタリと小さな物音が陸奥の意識を再び覚醒させた。

 窓からは月光が差し込み、時計の針は九時を指していた。

 ハッと先ほどまで長門がいた位置に目をやるが、そこには誰もいない。

「長門っ!」

 部屋を見渡し、長門の荷物を確認しホッと一息つく。

 耳を澄ませば、シャワーの流れる音が聞こえてきた。

 少しすると、濡れた髪をタオルで拭きながら、長門がシャワールームから出てきた。相変わらず表情は暗いが、その姿を見ただけでも陸奥は安心した。

「あぁ陸奥、起きたのか」

 抑揚の低い声で長門が応える。おもむろに制服に着替え、荷物を纏め始めた。

「ちょうど良かった。起きなかったら置手紙を残していくつもりだったんだが、起きたなら直接言える」

「長門、あなた……」

「あぁ。私はこの島から出て行く。善吉や皆には悪いが、今回の任務から下りる」

 長門は決意を固めた表情で頷いた。

「そんなのおかしいわよ」

「いや、私がいなければきっとうまくいくだろう。今日だって、私がいなければ――」

「それは……! そうだとしても……」

「いいんだ。私という艦娘は、そういう存在なんだと、今回の任務で常々感じた。今まで自分という存在に、ある種の誇りというものを感じていたが、実に矮小なものだと気付かされた」

 長門の表情はひどく暗い。このまま長門を返してはいけない。

 しかし、長門にかける言葉が見当たらない。ただ無言が部屋に満ちていった。

「じゃあ、行く。皆に、上手く言っておいてくれ」

 長門が荷物を抱え、部屋を出て行こうとする。ドアノブに手をかけたところで、ようやく陸奥は想いを口にした。

「それが、長門の『答え』なの? それでいいの?」

 ピタリと、長門の動きが止まる。ゆっくりと振り返り、悔しそうな笑みを浮かべる。それで、陸奥には長門の心情が垣間見えた。

『答え』は出した。

 しかし、間違えていた。結果として、事態は最悪な状況に転がり落ちていった。

 それが悔しくて、悲しくて、耐え難いのだ。

 長門は再び陸奥に背を向けた。ドアノブに手をかけ、開こうとしたその時。

 トントン、とドアがノックされた。長門は驚いた様子で、ドアから一歩遠のく。

「長門さん、陸奥さん、いますか?」

 それは大和の声だった。

「――あぁ。丁度、島を出ようと思っていたところだ」

「!? ……間に合って良かったです。ちょっと来ていただけますか?」

 陸奥は大和の声にホッとした。

 よかった、間に合った、と。心の底から安堵した。

 善吉からホールで耳打ちされていたのだ。

『夜、俺か誰かが長門とお前を呼びに行くから、それまで長門が島を出て行ったりしないように見ていてくれ』と。それが最後の希望だった。

 それがなんの為なのかは言わなかったが、何か策があるのは確かだった。

 それに賭ける他、陸奥にはなかった。

「いや、お前や武蔵には悪いが私はもうこの任務から――」

「待ってください」

 長門の言葉を大和が遮る。扉越しに大和の優しい声が届く。

「長門さんなりの『答え』を、今朝見ました。それはある意味、間違いではなかったと、私は思います」

「いや間違いだった。そもそもこの問題に『答え』なんて……意味なんて」

「意味はありました。今まで、互いに平行線を貫いていた二人が、今朝、一瞬だけでも重なった。私はそう思います」

「重なった、だと? その結果、私はアイツを、アイオワや秋津洲を傷つけた。皆を困らせた。そんな結果になるなら、一生平行線でよかった!」

 長門の怒声は、フロア中に響きそうな、力強い慟哭だった。

「ほんの少しのきっかけで、人は前に進めます。進んだり、戻ったり。そうやって、人は生きていくのだと思います。かつて軍艦だった私たちにとって、それは慣れないことでしょう。それでも今、こうやって話せる。だったら、最後には皆笑える。そういう結末があるはずです」

 ドアは開かれ、そこには聖母のように優しい笑みを浮かべた大和がいた。大和は長門の手を取り、部屋の外に引っ張り出す。躓きかけた長門を、陸奥が支えた。

「さぁ、行きましょう」

 大和は長門の手を引き先導する。陸奥もその後ろに続いた。

「いったいどこに連れて行くつもりだ」

「きっと別の答えが見えるはずです」

 そして三人は無言のまま、エレベーターに乗り込む。

 大和がボタンを押した。

 行先は『B1F』。

 地下一階である。

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