艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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6日目―『秘密兵器』―

「皆、良い演奏だった」

 善吉の言葉が、休憩の合図となった。

 そして善吉は電話で誰かに連絡を取った。少しするとホールの扉が開き、そこから大きな荷物を抱えた筋骨隆々のガードマンと、少し疲れた表情の大嵐が現れた。

「善吉君、これが頼まれたものです。なんとも珍しいというか、注文されるまでこんなものがあるとは知らなかったですよ」

「開発されたのは数年前、世間ではまだ未発表の商品、知る人ぞ知るというやつです。俺も前に安心院さんが話していたのを辛うじて覚えていたんです。今回はこいつがキーになります」

 ガードマンはピアノの天蓋を開き、そこに重ねるように網戸のようなものを被せる。そして天蓋に電動ドリルで小さな穴を作った。

「ちょっと、何してるかも!」

 慌てて暴挙を止めようとする秋津洲をアイオワが宥めた。

「アキーツ、いいんです」

 苦笑いを浮かべるガードマンは作業を続ける。

 開けられた穴に天蓋に被せた網戸のようなものから伸びるコードを入れる。

 大きさはぴったりで、コードを入れてしまえばそこには穴が無かったと思えるほどだった。

 そして天蓋は閉じられ、短いコードの先がチラリと外に飛び出ているのみだ。

 そのコードは、小さな置物に繋がれた。

「……フクロウ?」

「あぁ。本当はハクトウワシが良かったんだが、用意できなかった」

 善吉は置かれた置物を撫でる。その大きさは善吉の手の平を同じくらいで、コードが繋がれていること以外は普通の置物だ。

「善吉、これはなんなのかも?」

「こいつは最新鋭のピアノマイク、というよりはどちらかというとアンプの働きに近い『マイクネット』っていうマイクだ。網状の集音機器を使って、音を電子データに変換、出力する装置だ。ただのピアノマイクと違って、見目が良いし、元の音色に限りなく近い音を出せる。そしてこのフクロウの置物が出力された音を響かせる。結果的にピアノの音を増幅させる働きをする」

 フクロウの爪の一本がスイッチとなっており、善吉はそれを押しアイオワに頷きかける。

 アイオワは鍵盤をゆっくりと押し込む。

 響いた低い音は、ホールに染み込むように広がった。先ほどとは比べものにならない、力強い低音だった。

 その音に休憩に入っていた艦娘達も一斉に振り向く。

「うん、イイネ」

 感慨深く頷く。

 そのままアイオワは即興で演奏を続けた。

 それはまるで、晩春の森を歩くような、未来への希望を確かに掴みかけている、そんな音色だ。

 アイオワの演奏が終わる頃には、周囲に艦娘が集まっていた。

「なんというか、迫力があるな。今までの音色も美しかったが、ここまで力強くはなかった」

 長門は関心した様子で頷く。

「まぁ、そうだろうな。お前たちの音色に埋もれていることが多かったし」

「だが善吉よ、確かに聞きやすくなったが、これが秘密兵器なのか? 私には、特別必要なものだとは思えないのだが……」

 武蔵の言い分も最もだ。

 確かにこれがあってもなくても、演奏は出来るだろう。

 しかし――。

「それじゃ駄目だ。誰の音も、誰一人として埋もれさせない。皆が主人公で、皆が主役。そういうオーケストラを作りたかったんだ。それに――」

 その先の言葉は、アイオワに譲るとした。

「……本番のhallはここよりかなり広いらしいデース。Meの音色が全体に届くには、皆を調律するには、少し音量が足りない。それを補うというのも理由の一つネ」

 アイオワは先ほどから何も言わない秋津洲に気づき、そっと近づく。

「アキーツ、どうでしたか? Meの演奏、しっかり届きそうデース。ようやく戦艦らしい音色が――」

「?? 別に何も変わってないかも」

 その言葉に、周囲は首を傾げる。

「えー。すっごく変わったよー。前は消えそうな音色を必死に耳で拾ってたもん。まぁ調律としてはそれが正解なのかも知れないけどさ」

 時津風は思ったことをペラペラと口に出す。

 アイオワは苦笑いを浮かべるが、秋津洲は真剣な表情を崩さない。

「変わらないかも、じゃなくて、変わってない、よ。アイオワさんの演奏は、最初からあったかくて、優しくて、凄いもん。あたしはずっと聞いてた、かも」

「アキーツ、それって……」

 その言葉には、確かな重みがあった。

 それは、二人っきりで練習していた秋津洲だから、ずっとアイオワの傍にいた秋津洲だから、分かることだった。

「でも、アイオワさんの本当の演奏が、ちゃんと皆に伝わって、嬉しいかも!」

 ニッコリと笑う秋津洲をアイオワが強く抱きしめる。

「ありがとう、アキーツ。アキーツがいなかったらMeはきっと……」

「アイオワさん、苦しいかも!」

 その頬に熱い涙が流れていること、それを秋津洲が優しく受け止めたこと。

 善吉の胸も熱くなり、歯を食いしばることで涙をこらえた。。

 本当にこの一週間、秋津洲には驚かされてばかりだ。

 最初は孤立し、周囲に敵意に似た警戒心を向けていた彼女が、今では皆の中心と言っても過言ではない立ち位置にいる。

 でもそれが、本来の秋津洲なのかもしれない。

 仲間を想いやり、その理解者として、隣に立つ。

 臆病だけれど、優しい。

 善吉は無性に、箱庭学園の仲間たちに会いたくなった。

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